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次世代トランジスタと次世代3D NANDを実現するデバイス・プロセス技術【VLSIシンポジウム前日レポート】

6月12日にはプレイベントの「ショートコース」(技術講座)が開催された。同日午前8時30分頃に筆者が撮影した「ショートコース1」の会場風景

 半導体デバイス・プロセス技術と半導体回路技術に関する最先端の研究開発成果を披露する国際学会「VLSIシンポジウム(2023 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits)」が、2023年6月11日に京都市のホテルリーガロイヤルホテル京都で始まった。イベントの略称は「2023 VLSIシンポジウム」あるいは「2023 VLSI」である。

 「2023 VLSIシンポジウム」の全体概要については本誌のコラム「福田昭のセミコン業界最前線」ですでにご報告した。本レポートでは、メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)の概要を、もう少し詳しく述べる。

 具体的には、シンポジウムを構成する2つの分野、「デバイス・プロセス分野(「テクノロジー」分野あるいは「技術」分野と呼ぶことが多い)」と、「回路分野(「サーキット」分野あるいは「回路」分野と呼ぶことが多い)」に分けて説明する。なお、2023年4月25日にオンラインで日本の報道機関・記者向けの説明会が事前に開催されており、この時に配布されたスライドと公式Webサイトに掲載されたプログラムなどの情報を参考にした。

 今回は、「デバイス・プロセス分野」に関する技術講演の概要をまずご報告する。便宜上、「テクノロジー分野」と呼ぶことにする。過去にはVLSI技術シンポジウムとして開催されてきた分野でもある。

6月12日午前8時15分ころに筆者が撮影した参加登録者(ショートコースおよび技術講演会)の受け付けカウンター。プレイベント日なのでカウンターは空いていた。技術講演会が始まる13日は、かなりの混雑が予想される

投稿論文の件数は過去10年で最多に

 始めは技術講演会での発表を目指して研究者や技術者などが投稿した論文と、発表の機会を得た論文(採択論文)について述べる。投稿件数は273件で過去10年では最も多かった。近年の京都開催では200件を割り込んでいただけに、想定外の盛況ぶりだ。特に前年のハワイ開催における投稿件数232件を超えてきたのには、個人的にはかなり驚いた。近年は投稿件数では常にハワイ開催が京都開催を上回ってきたからだ。

 採択論文の件数は89件である。採択率は33%と過去10年では最も低くなった。発表枠はほとんど動かせないので、投稿数が増えると採択率は低下する傾向にある。それでも過去10年で最も採択数が多かった2020年の86件を上回り、最多の採択数となった。

「テクノロジー」分野の投稿件数と採択件数、採択率の推移(2014年~2023年)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から

投稿数は中国、採択数は韓国の増加が目立つ

 投稿論文数を地域別に見ていくと、北米の減少と日本を含むアジアの増加が目立つ。特に中国と韓国の増加が著しい。日本は一時低迷したものの、2023年は前年の約2倍と復活の兆しが見える。

「テクノロジー」分野の地域別投稿件数推移(2014年~2023年)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から

 次に採択論文数を地域別に見ていくと、韓国の増加が非常に際立つ。2020年以前は1桁だったのが2021年と2022年はともに11件で2桁に載せた。2023年は20件と地域別ではトップに立った。中国は投稿件数ほどには伸びていないものの、採択件数を少しずつ増やしている。ここ3年では5件~8件と上昇した。日本は増減を繰り返している。北米は漸減傾向が見て取れる。

「テクノロジー」分野の地域別採択件数推移(2014年~2023年)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から

分野別ではメモリ技術の投稿と採択が4分の1強を占める

 続いて分野別の投稿件数と採択件数である。投稿件数が最も多い技術分野はメモリ分野(機械学習とコンピューティングインメモリは除く)で、73件に達する。全体の27%を占める。次いで信頼性が38件、先端プロセスが37件、機械学習が34件、先端CMOSが30件と続く。

 採択件数が最も多い分野もメモリで、25件に達する。全体の28%を占める。次いで先端CMOSが19件、先端プロセスが17件と続く。そのほかの分野は10件以下と少ない。

「テクノロジー」分野の技術分野別投稿件数と採択件数(2023年)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から

投稿数は大学優位が続く

 投稿論文数を大学と企業(研究機関を含む)で分けると、2025年以降は大学の投稿数が多い。特に最近は、大学の投稿数が増加傾向にある。企業の投稿数は増減を繰り返しながらも40%を超える割合を維持してきた。

企業(産業界)の投稿数と大学の投稿数の推移(2014年~2023年)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から

採択数では研究機関imecがトップを維持、アジア勢が台頭

 採択件数を組織別にみると、欧州を代表する半導体研究機関であるベルギーのimecが11件と最も多い、ここ10年ほどはimecが採択数でずっとトップクラスを占めており、欧州を超えて「世界」を代表する半導体研究機関の地位を固めている。

 コンスタントに10件前後の採択数を維持してきたimecに対し、最近になって急速に採択数を増やしてきたのがシンガポール国立大学(NUS:National Univ. of Singapore)である。2023年はimecとわずか1件差の10件という多くの論文が採択された。

 全体の3位、企業ではトップに付けたのが韓国のSamsung Electronicsである。採択数は8件で前年の2倍に増えた。

 4位はいずれも5件で、国立台湾大学(National Taiwan Univ.)と台湾TSMCが付けた。6位には韓国の国立大学KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)が4件で入った。

組織別の採択件数ランキング。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から

 注目すべきは2位から6位までがすべて、アジアの大学と企業であることだろう。合計は32件で全体の36%を占める。

11件のハイライト論文(注目論文)を選択

 VLSIシンポジウムの実行委員会は、「テクノロジー」分野で11件のハイライト論文(注目論文)を選択した。以下にはハイライト論文の概要を説明したスライドを示す。

テクノロジー分野のハイライト。このスライドには記述されていないが、スタンフォード大学などの研究グループによる強誘電体キャパシタの研究成果もハイライト論文に選ばれている。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
Samsung Electronicsが開発したGAAトランジスタによる3nmノードのファウンダリ向け製造プラットフォーム(番号T1-2)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
imecが開発したモノリシック製造の相補型FET(CFET)(番号T1-3)。ゲートピッチは48nm。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
TSMCなどの共同研究グループが開発した2次元材料トランジスタ向け低抵抗コンタクト技術(番号T1-4)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
Applied MaterialsとIBM Semiconductor Technology Researchが共同開発した非プレーナトランジスタ(FinFETやGAAトランジスタなど)向けの低抵抗コンタクト技術(番号T1-5)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
Macronix Internationalが開発した3D NANDフラッシュベースの高速3値連想メモリ(番号T15-1)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
キオクシアとWestern Digitalが共同開発した、300層以上の3D NANDフラッシュメモリに向けたメモリチャンネルホールの横方向Si単結晶成長技術(番号T7-1)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
東京エレクトロン宮城が開発した、400層以上の3D NANDフラッシュメモリに向けたメモリチャンネルホール超高速エッチング技術(番号T3-2)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
SK hynixが開発したQLC(4bit/セル)方式強誘電体3D NANDフラッシュ技術(番号T7-2)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
Stanford Univ.などの共同研究グループが開発した超高分極の酸化ハフニウム強誘電体キャパシタ(番号T7-3)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
ソニー半導体グループが開発したノンドープFinFET積層型低雑音CMOSイメージセンサ(番号T7-4)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から
KAISTなどの共同研究グループが開発した3次元積層InGaAs HEMTとNb超伝導体による極低温超高周波トランジスタ(番号T7-5)。2023年4月25日に開催された記者会見の資料から