福田昭のセミコン業界最前線
2,000名近い参加者と過去最高の投稿件数を集めた国際電子デバイス会議(IEDM)
2023年12月16日 09:46
半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting、通常の呼称は「アイイーディーエム」、日本語の通称は「国際電子デバイス会議」)」が、今年(2023年)も米国カリフォルニア州サンフランシスコで始まった。技術カンファレンスの初日である12月11日には、実行委員会(エグゼクティブコミッティ)が報道機関向けの昼食会とプレスブリーフィングを開催し、「IEDM 2023」(IEDMは西暦年を付けて開催年度を区別する)の見どころを解説した。
なお本誌のコラム「福田昭のセミコン業界最前線」では11月にIEDM 2023のプレビューを2度にわたって掲載してきた。そこで本レポートでは、プレスブリーフィングで得られた新しい情報を報告するとともに、実行委員会が推す注目講演(「ハイライト講演」あるいは「ハイライト論文」と呼称)を紹介する。
1,800名近い参加者で会議場フロアが溢れかえる
繰り返しになるがIEDM 2023の概要は、広報担当チェアがスライドを使いながら口頭で説明した。2枚目のスライドである「ハイライト」では、参加登録者数が現時点で1,919名に達したこと、その中で会場参加登録(リアル参加)が1,742名と大半を占めることが判明した。リアル参加の割合は91%に上る。
実感としては、この人数は筆者が前回にリアル参加した2019年と比べ、かなり多い。プレイベントであるショートコース(別料金の技術講座)が前日の12月10日に開催されたのだが、休憩時間はかなりの混雑で通り抜けに神経を使わなければならないほどだった。しかも開催前にショートコースの座席は完売していたようだ。当日にショートコースの座席を求めて訪れた参加希望者が受け付けで完売を知らされ、気落ちして離れる姿を筆者は数回ほど見かけた。
技術カンファレンス初日の11日は当然ながら、前日よりも会議場フロアの人数が大幅に増えていた。午後の一般講演セッションでは、休憩時間になるともっとも近くの男性用トイレで順番待ちの列が入口からはみ出し、廊下に達していた。
投稿論文の件数は過去最高を記録
続く3枚目のスライドでは、IEDMでの発表を求めて投稿された論文の数(投稿件数)が過去最高を記録したことが示された。投稿論文の件数は684件で、前年に比べて117件(21%)増加した。IEDMの投稿件数はCOVID-19の影響でバーチャル開催となった2020年と2021年でも、「コロナ前」とも呼ばれる2019年に比べて落ち込みは弱かった。むしろ投稿件数の漸減傾向が続いた2010年代前半の方が、先行きが心配された。それが2017年の503件で底を打ち、2019年には613件まで回復していた。
採択件数は228件で過去とほぼ変わらない。採択件数と投稿件数の地域別比率をみると、アジア太平洋地域が採択55%、投稿66%でいずれももっとも多い。米州地域が採択27%、投稿19%、欧州地域が採択18%、投稿15%となっている。発表機関別では、大学(アカデミア)が採択53%、投稿73%でいずれももっとも多い。企業は採択41%、投稿23%、政府関係が採択6%、投稿4%である。
投稿件数の増加は、2023年6月に京都で開催された半導体技術の国際学会「VLSIシンポジウム」でも見られた傾向だ。2年連続で投稿件数が増加したことと、過去は少ない傾向があった京都開催で前年のハワイ開催よりも投稿が増えたことが、これまでと違う。VLSIシンポジウムはハワイと京都の交互開催であり、投稿件数ではハワイが京都よりも多い傾向が続いていた。
12月12日夜のパネル討論会ではAIと半導体の関係を議論
プレビュー記事でもお伝えしたように、技術カンファレンス2日目である12日の夜には恒例のパネル討論会(イブニングパネル)が開催される。急速に進化する人工知能(AI)が半導体に与える影響をさまざまな角度から議論する。
フォーカスセッションは生成AIや地球温暖化など4つのテーマを設定
プレスブリーフィングでは「フォーカスセッション」の概要を積極的にアピールしていた。「フォーカスセッション」とは特定のテーマに絞って招待講演を中心に構成したセッションである。特定のテーマについて効率的に技術トレンドを把握するのに適したセッションだ。IEDMでは毎年、4つ前後のテーマでフォーカスセッションを実施してきた。
今年のフォーカスセッションは4つある。セッション7の「スマートセンサー向けニューロモルフィックコンピューティング」、セッション15の「将来の生成AIに向けたロジックとメモリ、パッケージとシステムの技術」、セッション19の「ウェハ貼り合わせとその関連技術による次世代ロジックと次世代メモリの3次元スタッキング」、セッション28(水曜午前)の「半導体デバイス技術と半導体製造の永続性」となっている。
7項目で構成される一般講演のハイライト
ここからは一般講演のハイライトを紹介したい。ハイライト講演の選択はコミッティによるものなので、以前に本誌で筆者が独断で選んだ「注目講演(注目論文)」とは当然ながら、違いがある。ハイライトのテーマを以下に示す。
「3次元スタックと2次元材料」、「メモリ技術」、「ニューロモルフィック/インメモリコンピューティング/AI」、「2.5/3次元集積、パッケージとデバイスの相互作用、熱管理」、「量子コンピューティングデバイス」、「RF、5G/6G、THz、ミリ波を扱うデバイス」、「先進のパワーデバイス、パワーモジュール、パワーシステム」の全部で7つの項目を挙げていた。IEDMは半導体の製造工程で見ると前半(前工程)を対象とする学会だったが、最近では製造工程の後半(後工程)も一部、取り込んでいる。
トランジスタレベルの3次元積層でCMOSを構成
「3次元スタックと2次元材料」はCMOSデバイスのスケーリングを1nm世代以降も継続させるための要素技術である。3次元スタックではIntel(論文番号29.2)とTSMC(同29.6)がそれぞれ、注目すべき研究成果を発表する。いずれもpチャンネルFETの上にnチャンネルFETを積層してCMOS回路を構成する。「コンプリメンタリFET(CFET)」と呼ぶ。
2次元材料チャンネルの極薄プレーナー型トランジスタ
2次元材料では、代表的な2次元導電材料である遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)を使ったnチャンネルFETとpチャンネルFETによるCMOS回路をTSMCが試作した(論文番号10.1)。
DRAMの微細化限界を超える縦型トランジスタ
「メモリ技術」では、DRAMの微細化限界を超える技術と、不揮発性メモリの大容量化技術がハイライト講演として紹介された。DRAMの微細化限界を超える技術はSamsung Electronics(以降はSamsungと表記)が、不揮発性メモリの大容量化技術はMicron Technology(以降はMicronと表記)とTSMCがそれぞれ発表する。
興味深いのは、SamsungとMicronが開発したメモリ技術はいずれも、周辺回路層の上にメモリセルアレイ層を載せることで記憶密度を稼いでいることだ。両社は3D NANDフラッシュメモリで同様の技術(CMOSアンダーアレイ)による量産実績を有する。研究開発では、フラッシュ以外の高密度メモリに広がる兆しが見える。
不揮発性メモリ技術を活用した機械学習システム
「ニューロモルフィック/インメモリコンピューティング/AI」では、GPUシステムよりも消費電力が低く、推論に要する時間が短い機械学習システムを実現しようとする不揮発性メモリ技術の研究成果がハイライトとして紹介された。Tsinghua UniversityとUniversity of California, Santa Barbaraがそれぞれに開発した技術である。
GaNパワーデバイスとSi CMOSを300mmウェハに集積
「先進のパワーデバイス、パワーモジュール、パワーシステム」では、窒化ガリウム(GaN)のパワートランジスタとシリコン(Si)のCMOS回路をシリコン基板(300mmウェハ)に集積したIntelの開発成果(論文番号9.7)がハイライトとして紹介された。ドライバ回路のnチャンネルMOS FETにGaN、pチャンネルMOS FETにSiを使うことでCMOSのドライバを実現した。