特集

そのモニター、そろそろ替え時かも?モニターの寿命を知る方法、長持ちさせるコツをEIZOに聞いた

2003年(左)および2023年(右)登場のモニターを最大輝度にしてグレーグラデーションを表示。左の旧モニターのほうは明らかに輝度が落ちており、色味もくすんでいる

 パソコンに不可欠なモニター。もう何年も使っているけれど、不調はないから買い換える必要性が感じられない、という人は多いのではないだろうか?映像が表示されない、映りが明らかに不自然、といった症状が出ない限り、お金をかけて買い換えるきっかけにはなりにくいものだ。

 しかし、 長く使い続けたモニターは新品とは異なる変化が確実に進んでいる。毎日のように向き合っていると目が慣れてしまい、それになかなか気付けなかったりするものだ。 そうであるなら、どうやってモニターの買い換えタイミングを知ればいいのか?また、モニターをより長く使い続けられる方法もあったりするのだろうか?

 モニターについていろいろと疑問が膨らんできたので、専門家の意見を聞いてみることにした。モニターと言えば日本の老舗メーカーである「EIZO」。というわけで、話を伺うために石川県のEIZO本社を訪ねた。

モニターについての疑問を解消するため、石川県にあるEIZOの本社へ

モニターの「寿命」、液晶パネルの「経年変化」とは

 そもそもモニターの「寿命」とは何なのだろう。多くのメーカーでは2年や3年、EIZOはより長い5年を標準的なメーカー保証期間として設定している。しかしEIZOの場合、この保証期間はモニターの寿命を意味しているのではなく、あくまでも「通常の使い方で製品が想定通りに動作することをメーカーが保証する、サポート期間」だ。

今回、モニターの寿命や劣化、仕組みそのものについても語っていただいたEIZO株式会社 企画部 商品技術課長の家永篤氏

 そのため 「保証期間の5年を過ぎればすぐに壊れてもおかしくない」というわけでもない。EIZOによれば「保証期間後も経年変化は進みながらも、モニターとしては実用上大きな問題なく使える」 ようだ。その意味では、完全に故障してしまう、あるいは保証期間経過後の経年変化に対してユーザーが耐えられなくなったタイミングが「寿命」と言えるだろう。

 では、“経年変化”とは具体的に何を指すのか。同社いわく 「液晶パネルにおいては、たとえばバックライトの明るさが少しずつ低下していく、もしくは色味がずれていく」というのが、メーカーや液晶の方式(IPS/VA/TNなど)を問わず発生する経年変化 だという。

液晶モニターの構造
LEDバックライトを採用している液晶モニターの大まかな構造。バックライトを液晶素子からカラーフィルタへと当てることで、画面が表示されている

 ただし 「バックライトの明るさ」については、実はLEDバックライトが主流になって以降、長期に渡って使い続けても実用上問題になるような明るさに低下することはかなり減っている のだとか。

 一方で、それよりも前の CCFL(冷陰極蛍光灯)をバックライトに採用したモニターでは、長期使用で顕著に明るさが低下してしまう ようだ。現代のLEDバックライトのモニターであれば、明るさの低下より前に、別の部分の経年変化が目立ってくるものと思われる。

2万時間以上稼働したモニターの劣化具合
冒頭の写真で載せていた新旧モニター。左はCCFL(冷陰極蛍光灯)を採用した2003年製のEIZO「L985EX」(使用時間2万4,434時間[約1,018日])で、右はLEDを採用した2023年製のEIZO「S2134」(同13時間)
グレーのグラデーション画像を表示させた。2003年製はCCFLということもあり、明るさが大幅に低下し色味も変わっている

 ほかには、 液晶パネルユニットの内部に使用されている部材の経年変化も考えられる。たとえばパネルのわずかな変形や変色といったことによって「シミやムラなど、見た目の色の変化が起きてしまうことがある」 そうだ。

 または 「液晶の画素をコントロールしている回路が壊れることで、黒点(点灯しなくなる)や輝点(点灯しっぱなしになる)といった画素欠点(ドット欠け)の症状が現れ、その数が増えていくことがある」 とのこと。

稼働時間は10倍の差、一見違いは分からないが……
両製品とも比較的新しい機種の「EV2795」。左はライフ試験で約2万時間(約833日)稼働させたもの、右は約2千時間(約83日)稼働したもの。パッと見で違いはないが……
よく見ると輝度ムラが発生
白画像を全体表示してみると、2万時間稼働したものは画面右上隅にシミのようなものが見える。経年変化による劣化はこのようにさりげなく起こりうるというわけだ
開発試作機でのサンプル症状であり、すべての個体がこのように劣化するわけではない
実は後からドット欠けも発生
今度は黒画像を表示。2万時間稼働したものは輝点がいくつか発生していることも分かる

 一方、液晶ではなく有機ELを採用したモニターについては、同社によると「液晶とは原理がまったく異なるので、変化の傾向や変化しやすい部分も変わってくる」とのこと。たとえば同一パターンを表示し続けたときに残像のように見えてしまう「焼き付き」が発生しやすいことはよく知られており、それもいわば経年変化の1つ。

 さらに有機ELの設計によっては「RGB各色の発光体が別になっている場合、発光体ごとに寿命が異なるために、特定の色だけ経年変化が進んでカラーバランスが崩れてしまうことがある」という。

 ただし、液晶であっても 「同じような表示状態を長時間続けていると、液晶の電荷の偏りなどにより、シミやムラ、焼き付きなどが生じる可能性がある」 のだとか。とはいえ、 「1日数時間程度であれば同じ表示を続けても問題ない。監視用途などで1日24時間、同じような画面を表示し続ける場合に電荷の偏りが発生しやすくなる」 とのことなので、有機ELモニターほど過敏になる必要はなさそうだ。

液晶以外にも起こる経年変化。高性能/ゲーミングモニターの寿命は短い?

 経年変化は映像表示部以外にも発生する。たとえばフレームレス(狭額縁)のモニターは、一般的に液晶パネルをバックライトユニットに専用の両面テープで貼り付ける構造となっており、経年に伴ってその両面テープが弱り液晶パネルごと剥がれるという症状も起きうる。

  「コロナ禍では画面を消毒液で頻繁に拭いていたために、それが両面テープに影響して剥がれやすくなることがあった」 とのことで、 頻繁ではなくても消毒液などを使用したり、画面を下方向に傾けて使用していると同じようなトラブルが発生する可能性がある ため、モニターの手入れや設置方法には気を付けたい。

フレームレスの意外な弱み
没入感の高いフレームレスモニターだが、構造上、特に下方向に傾けて設置していると、内部の液晶パネルが剥がれやすくなる可能性があることも頭に入れておきたい

 もう1つ、気になるのはモニターの性能の高さが経年変化に影響しないかということ。近年はゲーミングPCの流行もあって、4Kなどの高解像度、120Hzを超える高リフレッシュレート、高輝度・高コントラストのHDRなど性能を追求しているモニターが増えてきている。性能が高い分、寿命も短くなったりはしないのだろうか?

 これについてEIZOは 「性能と経年変化の傾向にはほぼ関係はない」 という見解。ただし、 「強いて言えば、その高性能を実現するために回路の発熱量が多く、熱を逃がす設計が不十分な場合に、熱による変化が進行してしまう可能性はある」 という。

 熱がこもりやすい状況ほど変化が進行しやすく、「しっかり熱設計しているかどうかが大事」になってくるため、高性能なモニターを選ぶときには、室温込みでそのあたりも気にしたほうが良さそうだ。

 ちなみに高解像度になるほど画素数が増えることから、画素欠点が現れる確率は高くなるはずだ。高解像度モニターは、画素レベルでの故障率や経年変化という点では低解像度モニターに比べて大きくなると言えるのでは、という疑問を口にしたところ、意外な回答が返ってきた。

  「高解像度だと肉眼で画素を視認しにくくなるので、画素欠点があっても気付けないことが多い」 ため、問い合せにつながりにくいのだそう。むしろ解像度の低いモニターのほうが画素欠点に気付きやすいため、長く使いたいなら高解像度のモニターを選ぶ、というのも1つの考え方かもしれない。

モニターの経年変化を知る方法

 今使っているモニターが経年変化によって何か問題が発生していないか、あるいはすでに替え時になっていないか、簡単に確認できる方法も教えていただいた。

 まず、 経年変化を知るための一番分かりやすい判断材料となるのがモニターの稼働時間。EIZOでは5年かつ稼働時間3万時間が保証の範囲内としていることから、それを超えているかどうかが基準になる (メーカーや機種によって製品の保証時間は異なるため、その機種の保証時間を当てはめる)。

 EIZO製品では、本体の設定メニューで使用時間を表示できるので、すぐに確認可能。そういった機能がない機種であれば、1日の平均的な使用時間からざっくりとした稼働時間を算出するのが良いだろう。仮に1日平均7時間使っているようなら1年で2,555時間。単純計算で8年使って2万時間を、12年使って3万時間をそれぞれ超えることになる。

合計使用時間は重要な判断材料
EIZO製品では設定メニューでトータルの使用時間を確認できる

  シミやムラについては、画面全体をグレーや白1色で表示することで目立ちやすくなる。特に画面隅などにそうした症状が現れていないかチェックしたい。

 画素欠点は「黒点(非点灯状態)」か「輝点(常時点灯状態)」かで方法は異なる。 黒点の場合は画面全体を赤・緑・青に順次切り替えながら確認していく。黒点は画素全体が非点灯になることもあれば、RGBのうちどれかのサブピクセルだけが非点灯になっていることもある からだ。一方、 輝点の場合は画面を黒1色にする。もし輝点があれば、夜空の星のように見える だろう。

壁紙でシミ・ムラ・画素欠点を判別できる
シミやムラ、画素欠点の有無をチェックしたいなら単色壁紙を設定して確認するのが手っ取り早い

モニターを長持ちさせるコツと設定方法

 経年変化の中身や原因が分かれば、モニターを長持ちさせる使い方もある程度は想像できそうだ。EIZOとしても「不必要に明るくしないこと」を第1に挙げる。 「バックライトをフルパワーにし続けていると変化も早く進む。今時のモニターは明るさ最大だと眩しいほどで、きちんと見やすい明るさに落として使えばそれだけでも変化は低減できる」 とのこと。

輝度は適度に抑えたい
明るさを100%にすると大抵は眩しすぎる。見やすい明るさに抑えて使うのがおすすめ

 EIZOのモニター製品の中には照度センサーを搭載し、周囲の明るさに応じて自動で明るさを調整してくれる機能を持つ機種も存在する。その時々で最適な輝度に手動でいちいち調整するのは面倒だが、そういった自動調整機能があると手間をかけずに製品寿命も延ばせるだろう。

輝度の自動調整機能があればラク
EIZO製品では「Auto EcoView」と「EcoView Optimizer 2」を利用することで、モニターに内蔵した照度センサーにより最適な明るさに自動調整する

 また、 モニターやPCが備えるパワーセーブ(自動画面オフ)機能を活用するのも有効だ。 席を長時間離れている間もずっと点灯し続けるのは、経年変化だけでなく無駄な電力消費にもつながる。一定時間のアイドル後に自動消灯するように設定することで経年変化を抑えられ、節電効果も得られるはずだ。

  画面の汚れが気になってきた時のクリーニング方法についても注意点がある。 一般的にも良く言われるように、市販の液晶モニター用クリーナー(OAクリーナー)を使用するのは大前提。 アルコール濃度の高い液体や次亜塩素酸ナトリウム(EIZOによれば、これが最も攻撃力が高いとのこと)の使用は厳禁だ。

 さらに、 OAクリーナーを使う際には「直接モニターに吹きかけるのではなく、クロスに吹きかけてからそれで拭くように」することも大事。 直接画面に吹きかけてしまうと、部材の隙間から液体が内部に侵入し故障の原因になってしまうことがある。

画面の汚れは専用クリーナーで
液晶モニターには必ず液晶対応のOAクリーナーを使用し、クロスに吹きかけて拭くこと。写真はEIZOが販売している「ScreenCleaner」。モニターメーカー自らが手掛けているとあって安心感は高い。拭き取り用の専用クロスも付属する

 しかしそれでも、モニターは長く使えば使うほど経年変化はしていくもの。もしくは、すでに経年変化が進んでしまって買い換えるしかない、という状況になっていたりするかもしれない。これをなんとかして修復するような方法はないのだろうか?

 EIZOは 「バックライトが弱くなってしまったものを復活させる方法は正直なところない」 という。ただ、 焼き付きについては「短期のものであれば、電源を切ってしばらく放置しておくか、動画を流しておくことで解消する場合もある」 とのこと。

 また、 「色味のズレは色温度の設定を変えることで改善できる場合がある」 という。たとえば全体的に赤っぽくなっているようなら色温度設定で青寄りにすることで正しい色味に近づけられるようだ。

色味の変化は色温度で調整可能
色味が変わってしまった場合、色温度を調整することで本来の色味に近づけられることも

 しかしながら「何が正しい色味なのか」というのは、経年変化後の表示に見慣れたユーザーには判断がつきにくいだろう。そのため、もし厳密に調整したいのであれば「キャリブレーション」するのがおすすめだ。専用のキャリブレーション機材を使うか、キャリブレーション機能を内蔵したモニターであれば、正しい色味にきっちり修正できる。

 もちろん、キャリブレーション用の機材は数万円するうえに、キャリブレーション対応のモニター製品でなければ正しく修正できないというハードルもある。そうしたことを考えると、最初の購入時にキャリブレーション対応のモニターを選ぶのも長く使えるようにするコツと言える。

モニターを新調するなら何に気を付けるべき?

 いずれにしろ経年変化はしてしまうものとして、モニターを新しく購入するときに考慮に入れておくと良さそうなポイントはあるだろうか?

 EIZOからアドバイスがあったのは、1つは日焼けの対策。 外装などの樹脂素材は、直射日光などを浴びるとどうしても日焼けが進んでしまう。モニターに日差しが当たらないか、設置環境には注意したい。

経年変化による黄ばみ
元のカラーはグレーだが、日差しが当たる場所での長期間の使用で、黄ばみが目立ってくる場合がある

 経年変化とは少し異なる話になるが、EIZOとしては「スタンドの高さ調節幅が広いもの」もおすすめ。「いろいろな設置シチュエーションで適切な画面の高さにできるので、ユーザーへの負担を減らすことができる。無理な姿勢で使うと疲れやすく、仕事のパフォーマンスも変わってくる」とのこと。

モニターの高さ調節でストレス軽減
高さの調整幅が広いスタンドやアームを備えたモニターを選びたい

 「買い換え時」という観点では、特に複数台をまとめて入れ替えることの多い法人の場合、消費電力に注目するのも良さそう。EIZOのLEDバックライトになった初期のモデルと最新モデルとを比べた場合でも、同等機能・性能でありながら消費電力がおよそ3分の2になっているケースもある。電気代の削減につながるような機種選びをすることも大切なのだ。

省電力なら電気代に優しい
最新モニターの中にはLED電球1個分相当の電力で動作するものも。写真はわずか6Wで動作するEIZOのFlexScan FLT

 さらに、購入時の製品保証も、用途に合わせて考えておくべきポイントがある。EIZO製品は標準で5年のメーカー保証が付帯しているが、法人ユーザーであればたとえば7年で入れ替えることを想定し、その期間の延長保守契約を結ぶという方法も採れる。そうすることで期間内のメンテナンスコストが一定になり、予算立てもしやすくなるだろう。

 また、個人で購入する場合においても、販売店によってはメーカー保証とは別に初期不良品の交換保証や破損に対する補償などを追加することができる。たとえばEIZOのメーカー保証だと「輝点」は購入後半年以内に発生した場合に無償交換の対象となるが、「黒点」は対象外だ。

 それに対して、 販売店独自の交換保証なら、黒点も含むあらゆる画素欠点について対応してくれる場合がある。さらに、ユーザーの扱い方の問題で衝撃を与えて故障させてしまったようなケースもメーカー保証外。そういったリスクを避けたいのなら、販売店のオプション保証を追加することも検討したい。

 後は先ほど触れた通り、色味をキャリブレーションで補正できるようにして長持ちさせるという意味では、最初からキャリブレーション対応製品を購入するのも1つ。EIZO製品ではカラーマネージメントモニターの「ColorEdge」シリーズがキャリブレーションに対応している。ビジネス向けのFlexScanシリーズより価格帯は上だが、そのぶん長く使い続けられると考えればコストパフォーマンスは決して低くないだろう。

長く使うモニターには、品質の高い信頼できる製品を

 モニターの経年による変化の度合いや具体的な症状は、メーカーや機種によっても変わってくる場合がある。今回はあくまでもEIZOが把握している内容を元にまとめたが、他社製品では場合によってより短期間で品質が変化してしまう可能性もあることを頭に入れておきたい。

 標準で5年という長期のメーカー保証を付帯しているのは、EIZO自身が自社製品の品質に自信を持っていることの表れでもある。たとえば開発拠点を有する石川県にある本社内では、同社現行製品の全機種を対象に、長期間の「ライフ試験」(寿命試験)を行なっている。

 一般消費者向け製品のライフ試験は、標準的な動作温度の上限である室温35度の環境で、24時間365日、液晶パネルにとって最も厳しい条件で点灯し続けるというもの。最低でも2万5千時間は稼働させ、致命的な問題が発生しないことを確認しながら、定期的に表示状態の検査を行なうことにより「稼働してどれくらいでどのような症状が発生するのか」といった記録を取り続けている。

EIZO本社内にあるライフ試験の現場

 このライフ試験で得られたデータは、今後の製品開発はもちろんのこと、ユーザーからの問い合わせに対するサポートにも生かされる。どの機種を何時間稼働すれば何が起きうるかを把握しているため、ユーザーの使用状況などに応じて適切な対応ができるわけだ。

 また、PCなどとの相性によって発生する問題も独自の互換性検証によって把握しており、そこで得られたデータなどを元に、相性問題を解決するための情報をPCメーカーへ提供することもあるとのこと。「おそらくほかのモニターメーカーでは、ここまでの動作検証はしていないはず」と胸を張る。

 「モニターはPCを使う人にとって最も長い時間接する製品の1つなので、ぜひ信頼性の高い製品を選んでいただきたい」とのこと。EIZO製品はその品質や信頼性の分、価格帯は高めだったりもするが、「いいものを長く使うほうが最終的なコストや業務効率の観点でもメリットが大きい」ということを改めて心に刻んでおきたい。

今回お話を伺った家永篤氏(左)と、企画部 マーケティングコミュニケーション課の坂本真哉氏(中)、吉田明日香氏(右)