福田昭のセミコン業界最前線

22nm世代のロジックに埋め込むReRAMとMRAMをIntelが開発中

フラッシュメモリ(埋め込みフラッシュ)内蔵マイコンの基本構成

 最先端SoC(System on a Chip)や大規模マイクロコントローラ(大規模マイコン)などへの内蔵を目指した、ロジック埋め込み用不揮発性メモリ(「埋め込み不揮発性メモリ」)の開発が活発である。これまでプロセッサコアのプログラムコードは主に、SoCやマイコンなどが内蔵するロジック埋め込み用フラッシュメモリ(「埋め込みフラッシュ」)が格納してきた。しかし埋め込みフラッシュは最近になって、CMOSロジックの微細化に追随できなくなりつつある。

 埋め込みフラッシュの微細化限界は、CMOSロジックの技術ノードで40nm世代~28nm世代だとされている。28nm世代以降のCMOSロジックで「埋め込みフラッシュ」の役割を担うと期待されているのが、「埋め込み不揮発性メモリ」である。

 埋め込みフラッシュが微細化の技術的な限界に達した大きな理由は、埋め込みフラッシュのメモリセルがトランジスタ(セル選択と記憶を兼ねるトランジスタ)であることによる。トランジスタ技術なので、CMOSロジックのトランジスタ技術と互換性を維持しなけばならない。ところがCMOSロジックのトランジスタは世代ごとに変更を重ねてきた。歪みシリコン技術やHKMG技術、FinFET技術などだ。こういった相次ぐ変化を、埋め込みフラッシュはフォローすることが困難になっている。

 これに対して埋め込み不揮発性メモリは、トランジスタではなく、2端子の可変抵抗素子がデータの記憶を担う。可変抵抗素子の記憶原理の違いにより、大別すると3つの技術が存在する。抵抗変化メモリ(ReRAM)、磁気抵抗メモリ(MRAM)、相変化メモリ(PCM)である。

 これらの技術に共通するのは、ロジックのトランジスタ技術とは半ば独立に、あるいは完全に独立に、記憶用の可変抵抗素子を形成できることだ。微細化によってロジックのトランジスタ技術は、今後も大きく変化すると見込まれる。トランジスタ技術である埋め込みフラッシュでは事実上、ロジックと整合する開発ロードマップの作成が不可能になりつつある。これに対して埋め込み不揮発性メモリは、ロジックの微細化を例えば5nm以降に進めていったとしても、問題なく微細化に追従できる。将来性が十分な技術なのである。

 このほか埋め込み不揮発性メモリには埋め込みフラッシュに比べると、書き込みが比較的速い、電源電圧が比較的低い、CMOSロジック製造に追加するマスクの枚数が3枚前後(埋め込みフラッシュは10枚前後)と少ない、といった利点がある。このため大手のシリコンファウンダリや大手のマイコンベンダーなどが、埋め込み不揮発性メモリの開発に積極的に取り組んでいる。

不揮発性メモリ(埋め込み不揮発性メモリ)内蔵マイコンの基本構成
埋め込みフラッシュを埋め込み不揮発性メモリで置き換える利点
埋め込み不揮発性メモリの実現技術。大別すると、コンタクトに記憶素子を形成する技術と多層配線に記憶素子を形成する技術がある

プラットフォームは22nm世代の低消費FinFET技術

 このようななか、シリコンファウンダリ事業を積極的に手がけつつあるIntelが、ロジック埋め込み用不揮発性メモリ(「埋め込み不揮発性メモリ」)を開発中であることを明らかにしてきた。そして開発成果の一部を、国際学会ISSCCで公表した(講演番号13.2と講演番号13.3)。

 発表した埋め込み不揮発性メモリは2種類。1つは埋め込みReRAM(抵抗変化メモリ)、もう1つは埋め込みMRAM(磁気抵抗メモリ)である。プラットフォームとなるCMOSロジックは同じ。いずれもIntelの「22FFLプロセス(22nm世代の低消費電力版FinFETプロセス)」である。

Intelが開発した埋め込み不揮発性メモリの概要(ISSCC 2019)。Intelの講演スライドと発表論文から筆者がまとめたもの

 開発した埋め込みReRAMの記憶密度は10.1Mbit/平方mm、埋め込みMRAMの記憶密度は10.6Mbit/平方mmである。埋め込みReRAMのメモリセル面積は公表していない。埋め込みMRAMのメモリセル面積は0.0486平方μmである。F2(設計ルールの2乗)換算値は100F2であり、メモリセルはそれほど小さくはない。試作したマクロの記憶容量は、埋め込みReRAMのマクロが3.6Mbit、埋め込みMRAMのマクロが7Mbitである。

埋め込みReRAMのマクロを内蔵した評価用シリコンのダイ写真(左)とメモリサブアレイのレイアウト(右)。Intelの講演スライド(講演番号13.2)から
埋め込みMRAMのマクロを内蔵した評価用シリコンのダイ写真。記憶容量が7MbitのMRAMマクロを8個内蔵している。Intelの講演スライド(講演番号13.3)から。なお、埋め込みReRAM開発用シリコンダイと埋め込みMRAM開発用シリコンダイのレイアウトは、良く見るとかなり似ている。埋め込みReRAMと埋め込みMRAMでは、開発用シリコンダイを共用している可能性がある

読み出しは高速だが書き込みは低速

 開発した埋め込みReRAMのデータ読み出し時間は7ns(電源電圧0.8V、温度範囲はマイナス40℃~プラス125℃)、埋め込みMRAMのデータ読み出し時間は4ns(電源電圧0.9V、温度範囲はマイナス40℃~プラス125℃)と、いずれもかなり短い。一方、データの書き込みはいずれも、それほど速くない。埋め込みReRAMと埋め込みMRAMともに、10μsの書き込み時間を要する。読み出しと書き込みでは、約1,000倍もの違いがある。埋め込みフラッシュと比べても、書き込みがあまり速いとは言いづらい。

開発した埋め込みReRAMのデータ読み出し特性(シュムープロット)。Intelの講演スライド(講演番号13.2)から
開発した埋め込みMRAMのデータ読み出し特性(シュムープロット)。Intelの講演スライド(講演番号13.3)から

製造歩留まりを向上させる書き込み技術と参照セル技術

 Intelが開発した埋め込みReRAM技術と埋め込みMRAM技術では、製造歩留まりを向上させるために共通の要素技術を採用していた。細かな違いはあるものの、基本的には同じ考え方の技術だと見られる。その要素技術は2つある。1つは書き込みに関する技術で、もう1つは読み出しの参照用メモリセルに関する技術である。

 書き込みに関する技術は、「WVW(Write Verfy Write)」とIntelは呼んでいた。1回のデータ書き込みを実行するときに、短時間の書き込み(Write)動作と検証用読み出し(Verify)動作を繰り返す。しきい電圧が目的の値に達したら、動作を完了する。こうすると、メモリセルのしきい値を非常に小さなばらつきで均一な値にそろえられる。

「WVW(Write Verfy Write)」技術による書き込み動作(MRAM)のタイミングチャート。Intelの講演スライド(講演番号13.3)から
「WVW(Write Verfy Write)」技術による書き込み動作(MRAM)の信号波形。Intelの講演スライド(講演番号13.3)から

 参照用メモリセルに関する技術は、参照用セルに通常のセル(1個のトランジスタと1個の抵抗素子で構成するセル)ではなく、高精度の薄膜抵抗素子を使う技術である。技術の名称は特に付与していなかったが、参照用抵抗のことは「TFR(Thin Film precision Resister)」と呼んでほかの抵抗素子とは区別していた。

 この「TFR」と呼ぶ高精度の薄膜抵抗素子は抵抗値が可変で、シリコンダイごとに最適な値になるように抵抗値を細かく調整する。TFRを使うことで、温度変化に対する参照値(抵抗値)の変化が少ない、読み出しの繰り返しによる不良(参照用メモリセルにおける読み出しディスターブ)が起きない、といった利点が生じるという。

埋め込みReRAMの研究開発はまだこれから

 ここからは、埋め込みReRAMと埋め込みMRAMの個別の発表に関する概要をご報告していこう。

 埋め込みReRAMの発表内容から感じ取れる最も重要なことは、研究開発がまだ完成途上にあることだ。長期信頼性のデータ、すなわちデータ書き換え回数とデータ保持期間に関する実験データがまったく公表されなかったことは、研究がまだ基礎段階にとどまっていることを示唆した。また3.6Mbitのマクロに対する読み出し不良率のデータにはかなりのばらつきがあり、このことも、技術的な改良の余地が大きいことを示していた。

開発した埋め込みReRAM技術の概要。Intelの講演スライド(講演番号13.2)から

量産水準まで完成済みの埋め込みMRAM技術

 これに対して埋め込みMRAM技術は、製品に組み込んで量産できる水準にまで開発が完了していることを、Intelはアピールしていた。データ書き換え時間やデータ保持時間などの長期信頼性はもちろんのこと、パッケージにシリコンダイを封止してハンダ付けの高温処理を加えたときの信頼性データも公表していた。

パッケージにシリコンダイを封止してハンダ付けの高温処理を加えたときのデータ保持不良率。7Mbitの埋め込みMRAMマクロに対するテスト結果。Intelの講演スライド(講演番号13.3)から
開発した埋め込みMRAMの概要。Intelの講演スライド(講演番号13.3)から

 MRAMやReRAM、PCMといった次世代不揮発性メモリは、最先端ロジックへの埋め込みメモリとして普及が始まろうとしている。始めは埋め込みフラッシュメモリの役割を担う。埋め込みフラッシュからMRAMあるいはReRAM、PCMへの変更は、すでに確定した。次のシナリオは、埋め込みSRAMの代替である。ハードルは高いものの、夢のある開発課題であることは間違いない。研究開発の進展が楽しみだ。