買い物山脈

3年を経てAMDからIntelに買い替え。性能よりも「省電力化」重視にしたPCを見てくれ

製品名
Intel Core Ultra 265他
購入価格
14万1,956円
購入時期
2025年3月10日
使用期間
10日間
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです

 6年前の2019年から、筆者は仕事用のメインPCにAMD CPUの自作デスクトップを使ってきた。振り返ると、最初はRyzen 5 2600Xを選び、3年前の2022年にはRyzen 7 5800Xへと換装。それからちょうど3年経ったことに気付き、じゃあ次なる3年に向けて新しくしなくっちゃね!と不意に謎の使命感(物欲とも言う)が湧き上がってきた。

 そこで選択肢に挙がったのが、最近発売されたIntel Core Ultra 7 265、いわゆる無印265だ。Ryzen 7というミドルクラスCPUから、同じミドルクラス(世代的にはいくつか進むが)のCore Ultra 7への移行ってどんなものなのだろう、という興味がまず1つ。それと、省電力化による節電ができるかもしれない、とも思った。

 これはぜひ自腹購入して確かめてみないといけない。移行にかかるコストなりのメリットが得られるのか……というのは建前としてありつつも、結局のところ自己満足の世界なのでコスト度外視、赤字上等である。そんなわけで、実行に移してみることに。

移行にあたり買いそろえたパーツたち

Intelプラットフォームに移行してみたかったプラスアルファの理由

 CPUという主要パーツを換装する大きめのアップグレードだが、今回、主目的が省電力化でもあるので、処理性能のアップにはあまりこだわらないことにした。というのも、6年の間にゲーミングPC的な性能を求めてきたところもあったけれど、「やっぱりゲームはそんなにしない(やる時間がない)なあ」ということに今さらながらやっと気付いたからだ。

メインマシンのデスクトップPC。これをIntelマシンに変える。ちなみにガラスのフィルムは剥がす勇気が出ないため、ずっとそのまま

 9割9分は記事執筆、写真の現像や加工、Webブラウジングやオフィス文書の編集、趣味のプログラミングなど、重すぎない作業ばかりに費やしている。なのでそこそこの処理性能があればよく、無駄に電力を消費するマシンはもったいない。だったらノートPCとかミニPCとかを使えばいいんじゃないの?という話にもなるが、それはまた別で考えるとする。

 後は最新世代の、特にIntelプラットフォームへの移行により、各種インターフェイスが進化することも重要なポイントだと思った。Thunderbolt 4に対応し(AMDでも同等のUSB4が使えるけれども)、場合によってはThunderbolt 5まで見据えることができる。ネットワークについてもWi-Fi 7などの最新規格が利用できるはずだ(対応ルーターが必要になるが)。

 今回選んだミドルレンジのゲーミング向けマザーボード「MSI MAG Z890 TOMAHAWK WIFI」は、それこそThunderbolt 4ポートを2基装備しており、基板上にはThunderbolt 5拡張ボード用の端子まで設けられていて、これだけでも移行する価値があると思う。ネットワークはWi-Fi 7と最大5Gbpsの有線LANで、今後数年は間違いなく戦える。

マザーボードは「MSI MAG Z890 TOMAHAWK WIFI」
2基のThunderbolt 4ポートに5GbpsのLANポートなど、充実のインターフェイス
とか言いつつ10Gbps×2ポートのPCIeカードがすでにあるのでこれを使うのだが

 そして、近年はPC組み立てを容易にするマザーボード上のギミックにも各社が本腰を入れてきており、このトレンドもちゃんとキャッチアップしておきたい。

 たとえばMSIの場合は「EZ DIY」という仕組みを盛り込んでいる。PCIeスロットのロックを離れた位置にあるボタンから簡単にオン/オフできる機能(EZ PCIe Release)、工具を使わずにM.2 SSDやヒートシンクを脱着できる機能(EZ M.2 Clip II、EZ M.2 Shield Frozr II)などが使えるのだ。

PCIe 5.0 x16スロットは「EZ PCIe Release」により、離れたところにあるボタンを使ってロックのオン/オフができる
ボタンをプッシュするだけの簡単操作。カギマークでオン/オフの状態が分かる
M.2 SSDのヒートシンクは3箇所あるうち2箇所がワンタッチで着脱できる「EZ M.2 Shield Frozr II」
M.2 SSD自体も「EZ M.2 Clip II」と「EZ M.2 Clip」により工具なしで簡単にインストール
なにげにWi-Fiのアンテナ端子もネジ式ではなく差し込むだけのタイプに変わっている

 消費電力を下げて節電しつつ、世代的に新しくなることで最新の装備や仕組みを利用できるようにしたい。でもって処理性能がわずかでも上がってワットパフォーマンスがさらに良くなればいいなあ……なんていう淡い期待を抱きながらの移行だ。

Core Ultra 7 265を選んだ理由と移行にかかったコスト

 ところで「省電力」と言えば、改めて言うがIntel Core Ultra 7 265である。Processor Base Powerが65Wということで、以前のRyzen 7 5800X(TDP 105W)との単純比較で40W低い。

Intel Core Ultra 7 265

 同じCore Ultra 7でも、高性能かつ無印に比べて割安な265Kなどもあるし、その電力リミットを65Wとかに設定すればいいという考え方もあるから、わざわざ無印の265を選ぶメリットはあまりないかもしれない。

 が、3月に入って価格が落ち着いてきたことと、(気分的な)安全性・安定性を求めて無印265を選択したのだった。というか、265Kとかにしたら、結局フルパワーで使いたくなる誘惑に抗えないだろうし。

上限が65Wなら65Wで動かすしかないわけで

 さて、AMD CPU(Socket AM4)からIntel CPU(LGA1851)への移行なので、単純にCPUだけ交換すればOKということにはならない。マザーボードは当然新しくしなければならず、メモリもDDR4からDDR5に世代交代となる。なので、CPU以外にマザーボードとメモリの2種類は少なくとも交換が必要だ。

これまで3年間活躍してくれたRyzen 7 5800X
Intel CPUに移行するには、少なくともマザーボードとメモリも交換する必要がある

 今回は性能向上がメインではなかったことと、過去3年の間に細々としたパーツ交換も進めてきたおかげで、それ以外はほぼ既存のものを流用できた。ソケット形状が変わることでCPUクーラーの交換が必要になるかと思われたが、従来の簡易水冷にLGA1700対応のパーツが付属しており、それをLGA1851にも使えるとメーカーの案内にあったので、追加コストは不要となった。

 Core Ultra 7 265のリテールパッケージには空冷CPUクーラーが付属しているので、万一既存のクーラーが対応していなくてもそれを使えばいいのだが。

Core Ultra 7 265のリテールパッケージには空冷CPUクーラーも付属するが……
今回はこの簡易水冷システム「ARCTIC Liquid Freezer II 420」を流用する
LGA1700/1851対応のバックプレートなどが最初から付属していた

 ただ、CPUグリスを切らしていたのと、せっかくなのでCPUの反り防止のプレッシャープレートも試してみようと思い、購入。加えてThunderbolt 4から直接モニターのDisplayPortに接続できる変換ケーブルもあると便利かな、と思ってポチッた。CPU、マザーボード、メモリ(32GB×2)と合わせ、かかった費用はトータル約14万2,000円だ。

CPUグリス(1,120円)
プレッシャープレート(1,799円)
本当にCPUが反ることがあるのか、これが効果的なのかは分からないが、取り付けたらいい雰囲気ではある
Type-C to DisplayPortケーブル(3,299円)
AMD CPUの旧構成とIntel CPUの新構成。見た目はほとんど変わらないので家族にバレない
【表1】基本スペック(新旧比較)
新構成(Intel)旧構成(AMD)
OSWindows 11 ProWindows 11 Pro
CPUCore Ultra 7 265
(20コア20スレッド、最大5.3GHz、65W)
Ryzen 7 5800X
(8コア16スレッド、最大4.7GHz、105W)
内蔵GPUIntel Graphics
(CPU内蔵、最大1.95GHz)
-
外部GPUGeForce RTX 4070
NPUあり-
マザーボードMAG Z890 TOMAHAWK WIFIMSI MEG X570 UNIFY
メモリTeam 64GB
(32GB×2、DDR5-6400)
CORSAIR 64GB
(32GB×2、DDR4-3200)
ストレージ1Samsung 990 PRO 4TB(NVMe/M.2、PCIe 4.0 x4)
ストレージ2Samsung 990 PRO 2TB(NVMe/M.2、PCIe 4.0 x4)
ストレージ3Samsung 990 PRO 2TB(NVMe/M.2、PCIe 4.0 x4)
モニター34型3440×1440ドット(120Hz)
CPUクーラーARCTIC Liquid Freezer II 420
その他拡張カードIntel X550 10GbE×2ポート
AVerMedia Live Gamer HD 2
電源SilverStone ST75F-GS(750W)
PCケースFractal Design Meshify 2 XL
【表2】マザーボードスペック(新旧比較)
MAG Z890 TOMAHAWK WIFIMSI MEG X570 UNIFY
チップセットIntel Z890AMD X570
フォームファクターATXATX
メモリ規格DDR5DDR4
M.2スロットPCIe 5.0 x4 1スロット
PCIe 4.0 x4 3スロット
PCIe 4.0 x4 3スロット
PCIeスロットPCIe 5.0 x16 1スロット
PCIe 4.0 x4 2スロット
PCIe 4.0 x16 3スロット
PCIe 4.0 x1 2スロット
背面インターフェースThunderbolt 4 2基
USB 10Gbps(Type-C) 1基
USB 10Gbps(Type-A) 3基
USB 5Gbps(Type-A) 4基
USB 10Gbps(Type-C) 1基
USB 10Gbps(Type-A) 3基
USB 5Gbps(Type-A) 2基
USB 2.0 2基
PS/2 1基
内部(前面)インターフェースThunderbolt 5拡張カード用端子 1基
USB 20Gbps(Type-C) 1基
USB 5Gbps(Type-A) 2基
USB 2.0 4基
USB 10Gbps(Type-C) 1基
USB 5Gbps(Type-A) 4基
USB 2.0 4基
ワイヤレス通信Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4Wi-Fi 6、Bluetooth 5.1
有線LAN5Gbps2.5Gbps

処理性能は変わったのか、ベンチマークでチェック

 では、CPU移行で実際のパフォーマンスはどう変わったのか、ベンチマークテストで比べてみよう。おなじみの「Cinebench 2024」「PCMark 10」「3DMark」と、重めのゲームのベンチマークを走らせてみた。

システム性能

「Cinebench 2024」の結果
「PCMark 10」の結果
「PCMark 10 Applications」の結果

 Cinebench 2024のマルチコアのスコアは、Ryzen 7 5800Xのなんと2倍近くを叩き出した。シングルコアも40%アップと、割合にすればかなりのパフォーマンスアップを果たしている。実務アプリケーションの性能を測ることができるPCMark 10についても、結果は軒並みプラス。ほとんどが1割前後のアップなので劇的とまではいかないが、確実に性能は底上げされている。

グラフィックス性能

「3DMark」の結果
「サイバーパンク 2027」のベンチマークの結果
「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」の結果(スコア)
「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」の結果(平均フレームレート)

 3DMarkはGPUの与える影響が大きいためか、Time SpyやFire Strikeを除けば横並び。それでも、「サイバーパンク 2027」と「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」の結果を見てみるとCPU(とおそらくメモリ)だけの違いで有意な差があることが分かる。

 とりわけDLSSフレーム生成をオフにした場合はCPU性能による後押しが大きい。さほどゲームはしないとはいえ諸々の検証でプレーすることもあるので、いざというときのゲーミング性能がきっちり担保してくれているっぽいのはよかった。

ストレージ性能

「CrystalDiskMark」の結果

 ついでに「CrystalDiskMark」でNVMe M.2 SSDの速度も念のため計測してみたところ、なぜかシーケンシャルリードは若干低下しながらも、ランダムアクセスが無視できないレベルで高速化していた。SSDは同じものを流用しているし、PCIe 4.0 x4での接続も変わらないはずなので、これは予想外の結果ではある。

システム全体の消費電力、ワットパフォーマンスはどうか

 ともかく、少なからずパフォーマンスアップができているのはありがたいところだが、当初の目的にもあったように肝心なのは具体的にどれくらい消費電力が減っているのか。なので、各種ベンチマークを走らせながらコンセントに接続するワットチェッカーを使ってシステム全体の電力を計測してみた。

PCMark 10実行時の消費電力
「PCMark 10 Applications」実行時の消費電力推移(旧構成)
「PCMark 10 Applications」実行時の消費電力推移(新構成)
モンハンワイルズベンチ実行時の消費電力
「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」実行時の消費電力推移(旧構成)
「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」実行時の消費電力推移(新構成)
アイドル時込みの消費電力
「Windows起動~アイドル」も含めた平均消費電力比較まとめ

 筆者の普段のPC作業に近いと思われるPCMark 10 Applications実行中の消費電力については、平均で10W余り削減できた。モンスターハンターワイルズ ベンチマークの方は瞬間的なピークこそやや上回ったものの、平均では20Wほど抑えられている。Windowsの起動からアイドル状態の消費電力も平均マイナス20W(アイドル時のみは大体マイナス15~20W)で、確かに省電力化はできているようだ。正直、期待していたほどではないが……。

ワットパフォーマンスの比較
ベンチマーク実行時のワットパフォーマンス

 次に、ベンチマークスコアを平均消費電力で除算したワットパフォーマンスで表してみると、倍率にしてPCMark 10 Applicationsが約1.4倍、モンスターハンターワイルズ ベンチマークが約1.1倍、それぞれCore Ultra 7のほうが高い結果に。ゲームではGPU処理が優位になるのでそこまで差は出ないものの、実務アプリケーションではCPU処理に頼る部分が多いのか、それなりの効果が得られるようで少し安心した。

 なお、消費電力の計測にあたっては簡易水冷システムの設定(CPU温度に応じた冷却ファン等の回転数設定)も新旧で合わせたが、Core Ultra 7ではアイドル中もベンチマーク中も冷却ファンの回転数はほとんど変わらず、ノイズはかなり抑えられていた。65Wという低電力は静音性という面でも生きてくるようだ。

Thunderbolt 4とDPを使った状態での結果

「PCMark 10 Applications」におけるDisplayPort接続とThunderbolt 4接続のスコア比較
「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」におけるDisplayPort接続とThunderbolt 4接続のフレームレート比較

 最後に、Thunderbolt 4(統合GPU)からDisplayPort Alt Modeでモニター出力することでベンチマークスコアに変化があるのかも確かめてみた。結果としては、上記グラフの通り誤差程度の違いに収まった。ディスクリートGPUから統合GPU経由で出力する際のオーバーヘッドみたいなものは、もはや無視していいレベルと思われる。

 Windows 11では動作状況に応じて統合GPUとディスクリートGPUのどちらを使うかを自動で判断したり、ユーザーがあらかじめアプリケーションごとの使用GPUを決めたりもできる。使い方によってはさらなる省電力化につながる可能性もあるので、Thunderbolt 4経由でディスプレイ出力するメリットは意外と大きそうだ(ただし、今回のマザーボードの仕様上、4K 120Hzや8K 60Hzが上限となる)。

統合GPU経由でモニター接続する場合、Windows 11は状況に応じて使用するGPUを自動選択する。あらかじめユーザーが指定することも可能

最新かつ省電力なCPUで高機能化、静音化が可能に

 というわけで、約14万円かけたAMDからIntelへのプラットフォーム変更は、そもそも何世代分かの進化もあって、まあまあ省電力化しつつそこそこのパフォーマンスアップを果たすことができた。

 コストに見合う変化かどうかは人によって判断が分かれるところだろう。省電力化の程度は筆者としても期待していたほどではなかったにせよ、温度上昇を抑えられることによる静音化、各種インターフェイスの拡充なども含めれば個人的には満足できる。よくよく考えてみると、平均100W前後でもこれだけのパフォーマンスを出せるのはすごいことだよなあ、と感じなくもない。

 結果的に3年ごとにアップグレードしているわけだけれども、そうなっている理由の1つは「世代間が空きすぎるとパーツ単位ではなく丸ごと買い換えになる可能性が高くなるから」でもある。スパンが4年や5年などさらに長くなると、おそらくケースや電源、ストレージにGPUなど、ほとんどのパーツが陳腐化してリプレースしないと物理的に装着できないか、不満の多いアップグレードになってしまうと思うのだ。

 なので、自作PCユーザーの筆者としては、これからもトレンドをある程度キャッチアップしながら定期的にハードウェアを見直して、コストパフォーマンスも考慮に入れたほどよいアップグレードを続けていければいいなあ、と考えている。まあ、半年後くらいには「やっぱハイエンドが至高っしょ!」とか言ってもう1台新たに組み上げているかもしれないけれど。