Hothotレビュー

今回のiPad Airはかなり“Pro”に近い。旧モデルユーザーは買い替え価値高し
2025年3月24日 06:24
Apple M3を採用する11インチおよび13インチの「iPad Air」が3月12日に発売された。価格は前モデルから据え置きで、11インチ版が9万8,800円から、13インチ版は12万8,800円からだ。
今回のモデルはiPad Airとして7世代目。第5世代は10.9インチ版だけだったものの、前世代のApple M2チップ搭載機から11インチと13インチの2機種展開になるという大きな変化があった。しかし2025年モデルでは、プロセッサ以外はハードウェアスペック的に変更がない。
ここではiPad Airの基本スペックや使い勝手を解説した上で、Apple M3採用によりどのぐらいパフォーマンスが向上したのかレビューしていこう。
【お詫びと訂正】初出時に、11インチ版のiPad Airとしてレビューが書かれていましたが、実際には13インチ版を使用していました。お詫びして訂正させていただきます。
大容量モデルは高価なので適切なストレージ容量を選ぼう
iPad Air 2025年モデルは、前世代と同様に11インチ(10.86インチ)と13インチ(12.9インチ)の2サイズを用意。またWi-Fi版と、Wi-Fi+Cellular版(以下Cellular版)が存在。ストレージは128GB、256GB、512GB、1TBから選択できる。
さらにブルー、パープル、スターライト、スペースグレイの4色がラインナップされているので、合計で64通りのモデルから選べるわけだ。
直販価格は、Cellular版はWi-Fi版に2万6,000円上乗せ。容量は128GB版を基準にすると、256GB版は1万6,000円、512GB版は5万2,000円、1TB版は8万8,000円上乗せとなる。一般的なM.2 SSDの価格から考えると、正直ストレージは割高だ。
個人的には普通の用途であれば256GBもあれば十分だと考えている。最初から自分にとって適切なストレージ容量を選ぶのは難しいが、せめて買い換えの際には、現在自分が使っているストレージ使用量を確認し、適切なモデルを選んでほしい。
Wi-Fi | Wi-Fi+Cellular | |
---|---|---|
11インチ/128GB | 9万8,800円 | 12万4,800円 |
11インチ/256GB | 11万4,800円 | 14万800円 |
11インチ/512GB | 15万800円 | 17万6,800円 |
11インチ/1TB | 18万6,800円 | 21万2,800円 |
13インチ/128GB | 12万8,800円 | 15万4,800円 |
13インチ/256GB | 14万4,800円 | 17万800円 |
13インチ/512GB | 18万800円 | 20万6,800円 |
13インチ/1TB | 21万6,800円 | 24万2,800円 |
それでは基本スペックを解説していこう。今回のiPad Airは、SoCにApple M3、OSにiPadOS 18を採用。メモリは8GB、ストレージは128GB/256GB/512GB/1TBを搭載する。
M3は、高性能コア×4+高効率コア×4を搭載した8コアCPU、9コアGPU、16コアNeural Engineを内蔵。メモリ帯域幅は100GB/sが確保されている。M3の性能の目安としては、プレスリリースに下記のように記載されている。「Apple M2チップ」との性能差は言及されていないので、後でベンチマークの章でご覧いただこう。
- M1搭載のiPad Airよりも2倍近く高速
- A14 Bionic搭載のiPad Airよりも最大3.5倍高速
- マルチスレッドのCPUワークフローがM1搭載のiPad Airよりも最大35%高速
- グラフィックス性能がM1よりも最大40パーセント高速
- グラフィックスを駆使するレンダリングワークフローのために、M3搭載のiPad AirはM1搭載のiPad Airより最大4倍高速なパフォーマンスを提供
- M1と比べて、M3のNeural EngineはAIベースの作業が最大60%高速
ディスプレイは11インチIPS液晶(10.86インチ、2,360×1,640ドット)、13インチIPS液晶(12.9インチ、2,732×2,048ドット)。264ppiの画素密度、P3の色域については同じだが、輝度は11インチが500cd/平方m、13インチが600cd/平方mとなっている。しかし最大輝度で両機種を並べても、数値ほどの明るさの差は感じない。画面サイズだけで選んで問題ない。
カメラはリアに1,200万画素広角(F1.8)、フロントに1,200万画素センターフレームカメラ(F2.0)を搭載。iPhoneやiPad ProのようにLEDフラッシュは内蔵されていない。とはいえ昨今のスマホ、タブレット用のイメージセンサーは感度が高く、画像処理エンジンも進化している。LEDフラッシュがないことは大きなマイナスではないと考える。
ワイヤレス通信機能はWi-Fi 6EとBluetooth 5.3をサポート。Cellular版は5G(Sub6)対応だが、物理的なSIMカードではなく、eSIMのみが利用できる。
本体サイズ/重量は11インチ版が178.5×247.6×6.1mm/460g、13インチ版が214.9×280.6×6.1mm/616g(Wi-Fi版)・617g(Cellular版)。
バッテリは11インチ版が28.93Wh、13インチ版が36.59Whのリチウムポリマーバッテリを内蔵しており、バッテリ駆動時間はどちらもWi-Fiでネット利用/ビデオ再生時に最大10時間、モバイルデータ通信でネット利用時に最大9時間と謳われている。
「13インチiPad Pro(M4)」との違いについて触れておこう。主な違いとしては、Apple M4、タンデムOLED(最大120Hz)、4スピーカーオーディオ、LEDフラッシュ、LiDARスキャナ、Face ID(顔認証)、Thunderbolt端子などの上位機能が搭載されており、価格は21万8,800円スタートだ。最小ストレージが256GBなので、同じく256GB版の「13インチiPad Air(M3)」との価格差は7万4,000円となる。両者の機能差、価格差を踏まえて、最適なモデルを選んでほしい。
11インチ iPad Air | 13インチ iPad Air | |
---|---|---|
OS | iPadOS 18 | |
CPU | Apple M3(高性能コア×4+高効率コア×4を搭載した8コアCPU、9コアGPU、16コアNeural Engine、100GB/sのメモリ帯域幅) | |
メモリ | 8GB | |
ストレージ | 128GB、256GB、512GB、1TB | |
ディスプレイ | 11インチLiquid Retinaディスプレイ(IPS液晶、10.86インチ、2,360×1,640ドット、264ppi、P3、500cd/平方m、耐指紋性撥油、反射防止、Apple Pencil Pro/Apple Pencil(USB-C)対応) | 13インチLiquid Retinaディスプレイ(IPS液晶、12.9インチ、2,732×2,048ドット、264ppi、P3、600cd/平方m、耐指紋性撥油、反射防止、Apple Pencil Pro/Apple Pencil(USB-C)対応) |
サウンド | ステレオスピーカー(横向き)、デュアルマイク | |
通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.3 | |
WWAN | 5G(eSIM) | |
インターフェイス | USB-C(充電、DisplayPort、USB 3[最大10Gb/s])、1台の外部ディスプレイで最大6K解像度/60Hz | |
カメラ | 1,200万画素広角(F1.8、5枚構成のレンズ、最大5倍のデジタルズーム、Focus Pixelsを使ったオートフォーカス)、1,200万画素センターフレームカメラ(横向き、F2.0) | |
センサー | 3軸ジャイロ、加速度センサー、環境光センサー、気圧計 | |
バッテリ容量 | 28.93Wh(リチウムポリマーバッテリ) | 36.59Wh(リチウムポリマーバッテリ) |
バッテリ駆動時間 | Wi-Fiでネット利用/ビデオ再生:最大10時間、モバイルデータ通信でネット利用:最大9時間 | |
本体サイズ | 178.5×247.6×6.1mm | 214.9×280.6×6.1mm |
重量 | 460g | Wi-Fiモデル : 616g Wi-Fi + Cellularモデル : 617g |
セキュリティ | Touch ID(指紋認証) | |
同梱品 | USB-C充電ケーブル(1m)、20W USB-C電源アダプタ | |
カラー | ブルー、パープル、スターライト、スペースグレイ | |
価格 | 9万8,800円~ | 12万8,800円~ |
上質だが好みが分かれるキーボード、用途で選ぶ2種類のスタイラスペン
別売りのアクセサリとしては、次のものが用意されている。
- 13インチiPad Air(M3)用Magic Keyboard」(直販価格4万9,800円)
- 「Apple Pencil Pro」(直販価格2万1,800円)
- 「Apple Pencil(USB-C)」(直販価格1万3,800円)
Magic Keyboardは非常に上質なタブレット用キーボードだ。日本語配列専用に設計されており、キーピッチは実測19.2mm前後、キーストロークは1mmが確保。MacBookシリーズと変わらない感覚で高速タイピングできる。
圧力感知機能を搭載した「感圧タッチトラックパッド」ではなく、クリックすると沈み込むダイビングボード構造のトラックパッドを採用しているが、ストロークはごく浅く、クリック感は良好。小さいボタンも正確に操作可能だ。
ただし、このMagic Keyboardは、キーボード部を背面に回せないので、装着したままタブレットスタイルで利用できない。iPad単体で利用する際には、Magic Keyboardを取り外す必要がある。もしiPad単体で使う時間のほうが長いのなら、サードパーティ製Bluetoothキーボードとスタンドの購入も検討したほうがいい。
「Apple Pencil Pro」(直販価格2万1,800円)、「Apple Pencil(USB-C)」(直販価格1万3,800円)のどちらを買うかについては、明確な基準がある。イラストを描くなどクリエイティブ用途に使うのであれば「Apple Pencil Pro」のほうがおすすめだ。
「Apple Pencil Pro」には、指で押す「スクイーズ」、回転操作「バレルロール」、振動を発生する「触覚フィードバック」、ディスプレイ上の位置を確認できる「ホバー」など豊富な機能が用意されている。これらはツールをこまめに切り替えたり、細かな作業をする際に非常に重宝する。価格は高いが、それだけの価値はあるデバイスだ。
一方、メモを書いたり、注釈を入れるなどの用途であれば「Apple Pencil(USB-C)」で十分。傾き検知や、画面に手が触れることによる誤操作を防止する「パームリジェクション」は「Apple Pencil(USB-C)」でも利用できる。充電はできないが、マグネットでiPadに取り付けられるので、持ち運びに困ることもない。
HDRコンテンツを鮮やかに表示できるIPS液晶ディスプレイ
ディスプレイは「Liquid Retina」と名付けられたIPS液晶。解像度は2,360×1,640ドット、色域はP3、輝度は500cd/m²で、表面には耐指紋性撥油、反射防止加工が施されている。
IPS液晶だけに視野角は非常に広く、P3の広色域により階調表現も豊かだ。YouTubeやNetflixなどのHDRコンテンツの再生に対応。OLEDやminiLEDバックライトを搭載するiPad Proには締まった黒の表現は及ばないが、色の鮮やかさという点では申しぶんない。映像コンテンツ、ゲームの美しさを堪能できるディスプレイと言える。
ただし、10Hz〜120Hzのアダプティブリフレッシュレートを持つProMotionテクノロジーには非対応。リフレッシュレートは60Hzだ。ハイフレームレートでゲームをプレイしたいのなら、iPad Proがおすすめだ。
カメラはメモ代わりに撮影したり、Web会議用途であれば実用上十分
カメラはリアに1,200万画素広角(F1.8、5枚構成のレンズ、最大5倍のデジタルズーム、Focus Pixelsを使ったオートフォーカス)、フロントに1,200万画素センターフレームカメラ(横向き、F2.0)が搭載されている。どちらも発色はiPhone譲りだが、室内で撮影したり、夜景を撮るとノイズが目立つ。
実際にどのぐらいの画質なのかは下記の写真でご覧いただきたいが、現代の基準で言えば3~5万円のエントリースマホと同等だと感じた。メモ代わりに撮影したり、Web会議用途であれば実用上十分だが、長く残しておきたい写真を撮影するのなら、素直にスマホを使うべきだ。
M1からであれば機種変更に値する性能向上
最後にパフォーマンスをチェックしよう。今回はiPad Air(M3)の比較対象機種として、iPad Air(M2)と、iPad Pro(M1)を使用している。なお、iPad Pro(M1)はメモリを16GB搭載しているので、iPad Air(M1)とはベンチマークスコアが異なる可能性がある点には留意してほしい。
総合性能
まず、総合ベンチマーク「AnTuTu Benchmark V10」の総合スコアでは、iPad Air(M3)はiPad Air(M2)の109%相当、iPad Pro(M1)の120%相当のスコアを記録した。iPad Air(M3)とiPad Air(M2)のCPUスコアが逆転しているが、両機種で計測した際のOS、ベンチマークソフトのバージョンが異なるので、なんらかの影響が出ている可能性がある。
しかし、総合、GPU、MEM、UXについては順当にスコアが向上している。iPad Air(M3)の総合性能が向上していることは間違いない。
CPU/GPU性能
次にCPU/GPUベンチマーク「Geekbench 6」では、iPad Air(M3)はiPad Air(M2)に対してSingle-Core Scoreは116%相当、Multi-Core Scoreは116%相当、GPU Metal Scoreは110%相当、iPad Pro(M1)に対してSingle-Core Scoreは129%相当、Multi-Core Scoreは137%相当、GPU Metal Scoreは135%相当のスコアを記録している。
Appleのプレスリリースによれば、「マルチスレッドのCPUワークフローがM1搭載のiPad Airよりも最大35%高速」、「グラフィックス性能がM1よりも最大40パーセント高速」と記載されている。Multi-Core Scoreについては公式発表の値を超えており、GPU Metal Scoreについても限りなく近いパフォーマンスを発揮している。M1搭載機からであれば、機種変更に値するだけCPU、GPU性能が向上していると言えよう。
3D性能
3Dグラフィックスベンチマーク「3DMark Steel Nomad Light」の総合スコアでは、iPad Air(M3)はiPad Air(M2)に対して総合スコアで107%相当、平均フレームレートで107%相当、iPad Pro(M1)に対して総合スコアで133%相当、平均フレームレートで132%相当のスコアを記録している。
3DMarkにおいても「グラフィックス性能がM1よりも最大40パーセント高速」というAppleの公式発表の値に迫る結果。実際の3Dゲームでもフレームレートの向上の恩恵を受けられるわけだ。
AI性能
AIベンチマークについては計測ソフトを「Geekbench ML」から「Geekbench AI」に変更したため、iPad Air(M3)のスコアのみをお伝えするが、Single Precision Scoreは4140、Half Precision Scoreは7007、Quantized Scoreは5648となった。AIベンチマークについては、今後新しいiPadがリリースされた際に言及させていただく。
ストレージ性能
ストレージベンチマーク「Jazz Disk」では、iPad Air(M3)とiPad Air(M2)はほぼ同等だが、iPad Pro(M1)のみシーケンシャルリード、シーケンシャルライトのスコアが飛び抜けて高い。実際に体感できるかどうかは別にして、AirとProではストレージ速度が大幅に異なる可能性が高い。
プロレベルのクリエイティブワークもこなせるスタンダードタブレットだ
「11インチiPad Air (M3)」、「13インチiPad Air (M3)」はSoCの変更に伴い、処理性能の向上だけでなく、ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシングや、ハードウェアアクセラレーテッド8K HEVC、4K H.264、ProRes、ProRes RAW、ProResエンコード/デコードエンジン、AV1デコードなどのメディアエンジンが利用可能となっている。ゲームなどでの映像表現が豊かとなり、また動画の再生・編集が高速・高品質化されているわけだ。
Appleのタブレットには、エントリーの「iPad」、小型モデルの「iPad mini」、スタンダードの「iPad Air」、プロモデルの「iPad Pro」が存在するが、今回の「iPad Air」は従来のプロモデルにグッと近づいている。
価格据え置きで最新SoCを搭載した2025年モデルは、プロレベルのクリエイティブワークもこなせるスタンダードタブレットに進化したと言えよう。