福田昭のセミコン業界最前線
Samsung/GF/Intel/東北大学が明らかにしたMRAMの最新技術
2018年12月17日 11:52
SoCやマイクロコントローラ(マイコン)などが内蔵するフラッシュメモリとSRAMの置き換えを目指した、埋め込みMRAM(磁気抵抗メモリ)の開発が進んでいる。この12月上旬に米国サンフランシスコで開催された国際学会IEDM(IEDM 2018)では、研究開発を主導する企業や大学の研究成果が、たて続けに披露された。
埋め込みMRAM技術をIEDM 2018で発表したのは、Samsung Electronics、GLOBALFOUNDRIES(GF)、Intel、東北大学グループ(東北大学と東京エレクトロン、アドバンテストの共同研究グループ)である。
製造技術は22nm世代~40nm世代、試作したMRAMの記憶容量は7.2Mbit~128Mbitであり、いずれも10の6乗回を超える書き換え回数と10年間のデータ保存期間を実験で確認している。フラッシュメモリの置き換えには、十分な性能だ。
以下は、IEDM 2018における各発表の概要をご報告しよう。
Samsung : 量産水準の8Mbitメモリと次世代メモリ
Samsung Electronics(以降はSamsungと表記)が発表したのは、製品としての量産レベルに達している埋め込みMRAM技術である(講演番号および論文番号は8.2)。記憶容量が8Mbit(1MB)のMRAMマクロであり、パッケージに封止した状態で評価した。半導体ユーザーによる品質認証に必要な、各種の信頼性試験に合格している。
開発した埋め込みMRAMの製造技術は28nm世代のFD SOI CMOS技術である。フラッシュメモリの置き換えを想定して開発した。信頼性試験における温度範囲が-40℃~+105℃であることから、民生用、産業用、車載用グレード2(G2)に対応したSoCやマイコンなどに応用可能だと見られる。
講演では、ウェハレベルにおける製造歩留まりのデータを公表した。90%台半ばの歩留まりを比較的安定して得ており、最高では97.5%と高い歩留まりを達成したという。
Samsungはさらに、次世代の埋め込みMRAMに向けた2つの方向性を示すとともに、メモリセルアレイの試作結果を発表した。1つは現在のマイコンが内蔵するROM(フラッシュメモリ)とRAM(SRAM)を1個のメモリに融合させた、「ユニファイドメモリ」である。フラッシュメモリを置き換えるためにはデータ保存期間が10年と長いMRAMが必要であり、SRAMを置き換えるためには、書き換え回数の非常に高いMRAMが必要である。
この両方の特性を兼ね備えた埋め込みMRAMを試作してみせた。記憶容量は不明だが、書き換え回数が10の10乗回と従来よりも4桁多く、データ保存期間は85℃で10年間を確保した。85℃は、民生用には十分な温度条件である。
もう1つはフラッシュメモリの代替を想定した埋め込みMRAMの大容量化である。現在の8Mbit(1MB)に比べ、記憶容量を一気に16倍に拡大した128Mbit(16MB)の埋め込みMRAMマクロを試作してみせた。10の6乗回の書き換え回数と、105℃で10年間のデータ保存期間を実験で確認した。
GLOBALFOUNDRIES : 車載グレード1の高い信頼性要求に対応
GLOBALFOUNDRIESが発表したのは、車載用集積回路(IC)の信頼性規格でグレード1(G1)に対応する高信頼の埋め込みMRAM技術である(講演番号および論文番号は27.1)。G1相当の信頼性とは、-40℃~+125℃と広い温度範囲で動作を保証することだ。発表では、さらに厳しい、-40℃~+150℃の温度条件(グレードゼロ相当)で動作を確認している。
製造技術は22nm世代のFD SOI CMOS技術である。想定する用途は、フラッシュメモリの置き換えだ。記憶容量が40MbitのMRAMマクロを試作してテストを実施した。具体的には-40℃~+150℃の温度範囲で、0.1ppm以下の不良率で書き込み動作を正常に完了できることと、10の6乗回の書き換えを経てもビット不良が発生しないことを実証した。
データ保存期間に関しては220℃と非常に厳しい温度条件で、20年間という長い保存期間を確認できている。自動車という長期間にわたって使われる用途を考えると、このデータは心強い。
GLOBALFOUNDRIESはさらに、製造技術を微細化することで記憶密度を高めることを検討した。現行の22nm世代のFD SOI技術から、製造技術を14nm世代のバルクFinFET技術(14LPP-FFプロセス)に変更する。この変更によってメモリセルの大きさを半分に縮小できるとする。言い換えると、同じシリコン面積で記憶容量を2倍に増やしたMRAMマクロの開発が可能になる。
Intel : 22nmのバルクFinFETで7.2Mbitのマクロを試作
Intelの発表(講演番号および論文番号は18.1)についてはすでに現地レポートでご報告した(Intelが22nm世代のロジックに埋め込むMRAMを開発)。ここではごく簡単にふれておこう。
Intelは22nm世代のバルクFinFET技術(22FFLプロセス)によって埋め込みMRAM技術を開発した。フラッシュメモリの置き換えを想定している。記憶容量が7.2Mbitのマクロを試作した。メモリセルの書き換え回数は10の7乗回、メモリセルのデータ保存期間は210℃で10年間である。
東北大学グループ : 128Mbitと大容量の埋め込みMRAM
最後にご紹介するのは、東北大学グループ(東北大学と東京エレクトロン、アドバンテストの共同研究グループ)による発表(講演番号および論文番号は27.2)である。
東北大学グループは40nmのCMOS技術によって埋め込みMRAM技術を開発した。記憶容量が128Mbit(16MB)と大容量の埋め込みMRAMシリコンダイを試作している。埋め込みMRAMの書き込み動作はかなり高速で、電源電圧が1.2Vのときに書き込み時間は14nsと短い。
メモリセルにおける書き換え可能回数は非常に多く、10の10乗回という値を得ている。フラッシュメモリはもちろん、SRAMの置き換えを狙える書き換え回数である。
要素技術では、磁気トンネル接合(MTJ)に対する損傷の少ない反応性イオンエッチング(RIE)技術を開発した。この結果、直径が37nmと小さなMTJを製造でき、記憶密度を向上できた。製造したMTJにおけるデータ保存期間は85℃で10年間と、従来技術と同等の水準を確保している。
上記にご紹介した発表のなかでSamsungとGLOBALFOUNDRIESが開発したマクロは製品レベルおよび量産レベルにある。Intelが開発したマクロは、来年(2019年)には製品レベルに達するとみられる。埋め込みMRAMを内蔵したSoCやマイコンなどが相次いで製品化されることを来年は期待したい。