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これで失敗しない、USB PD充電器選び(解説編)
2019年1月16日 11:00
USB Type-Cの普及とともに注目を集めつつあるのが、USB PD(USB Power Delivery)と呼ばれる急速充電の仕組みだ。昨今のノートPCの中には、専用ACアダプタを使わずにUSB Type-Cケーブルを用いた充電に対応する製品があるが、それはこのUSB PDという規格に基づいたものだ。
USB PDの利点は充電スピードが速いこと、またノートPCのほかスマホ、タブレット、一部ゲーム機までもカバーする互換性の高さだ。すでに対応製品を所有し、USB PDのメリットを日々実感している人もいるだろうし、また手持ちのデバイスを早期にUSB PD対応製品に統一すべく、情報収集に励んでいる人もいることだろう。
今回は、編集部で用意したUSB PDアダプタ約10製品を用いて、実際にUSB PD対応のノートPCやスマホ、タブレット、ゲーム機などと組み合わせつつ、その挙動を検証する。本稿はその前段階として、USB PDの特徴にざっと触れつつ、製品選びで陥りやすいポイントなどを紹介する。
そもそもUSB PDとは
従来のUSBは、規格上は最大5V×0.5A(2.5W)までしか供給できないが、これではノートPCのように数十Wの電力が必要とするデバイスを充電できない。そのため、電圧(V)と電流(A)を上げることでより多くの電力(W)を供給しようと、いくつかの追加規格や、さまざまなメーカー独自の急速充電規格が登場してきた。
そんななか、USB関連の仕様策定を行なう標準化団体USB-IF(USBインプリメンターズ・フォーラム)が取りまとめた国際標準規格がUSB PDだ。USB PDでは、「5V/9V/15V/20V」という4段階の電圧を基本に、最大5Aの電流を掛け合わせることで、最大100Wの電力供給を実現している。これならば、数十Wが必要なノートPCの充電も問題なく行なえるというわけだ。電圧が5V固定でなく可変なのがキモということになる。
USB PDでは必須となるUSB Type-Cの普及につれて、このUSB PDをサポートするデバイスも急激に増えつつある。ノートPCはもちろん、スマホについてもこの1年余りで対応製品が一気に増え、独自の急速充電規格は(徐々にではあるが)姿を消しつつある。
また、従来のLightningに代えてUSB Type-C(Appleの表記ではUSB-C)を搭載したことで話題になった「iPad Pro」も、USB PD準拠の高速充電をサポートするほか、ゲーム機の「Nintendo Switch」も、一部に規格外の仕様はあるものの、USB PDと同じ仕組みで急速充電が行なえる。
さて、USB PDでは、接続時にUSB PDアダプタがデバイスに対して「この電圧/電流の組み合わせに対応していますよ」と通知し、デバイスがそのなかから「じゃあもっとも効率のよい組み合わせであるコレを使います」と回答することで、充電が開始される仕組みになっている。ユーザーが任意に切り替えられるわけではない。
つまり(大雑把な考え方であって例外もあるが)、仮にデバイスが60W対応でUSB PDアダプタ側が30W対応であれば、それはおそらく30Wで充電されるだろうし、デバイスが45W対応でUSB PDアダプタ側が60W対応であれば、45Wで充電される、ということになる。
ただしデバイスが求める電力に対し、USB PDアダプタの出力があまりに小さすぎると充電が拒否される場合もあり、これらの挙動はデバイス側の設計に依存する。後述するが、両者をつなぐUSB Type-Cケーブルがボトルネックになり、十分な速度が出ない場合もある。
ちなみにUSB PDの初期の仕様(USB PD 1.0)では電圧が9Vと15Vに分かれておらず「5V/12V/20V」の3段階だったため、現行のUSB PDアダプタはこれらをミックスして「5V/9V/12V/15V/20V」という5段階に対応した製品が多い(明記されていないだけでこっそり12Vに対応している製品もある)。ちなみに12Vに対応したデバイスとしては、最近ではGPD Pocketが挙げられる。
USB PDアダプタは「大は小を兼ねる」
このように、USB PDアダプタは電圧と電流の組み合わせパターンを複数持っており、また低い電圧にも対応することが必須要件であるため、なるべく高出力なUSB PDアダプタを購入しておいたほうが、さまざまなデバイスへの充電に使い回せて重宝することになる。文字通り「大は小を兼ねる」というわけだ。
しかし大容量のUSB PDアダプタともなると、サイズが大きく、重く、かつ値段も高価なことがほとんどだ。スマホを充電するためだけに、スマホの数倍はある巨大な筐体で、かつ割高なUSB PDアダプタを購入するのは、あまり現実的ではない。電源が使えるカフェや出張先、旅行先などに持参することを考えているのであればなおさらだ。
なので、ある程度、デバイスに見合った製品を選ぶことになるが、あまりギリギリだとUSB PDアダプタの出力が足りずに充電のオン/オフを繰り返したり、接続しているのにバッテリの残量が減っていくケースもある。アイコンが「充電中」になっているので安心して就寝したところ、翌朝にはバッテリがほぼ空になっていることも起こりうるわけだ。
なにより困りものなのが、何W以下なら充電できないといった情報はもちろん、そもそも何W対応なのかすら公開していなかったり、仕様に書かれていないデバイスが多いことだ。それゆえユーザーが自ら実験して、ようやく対応W数が判明するケースも多い。このほか、デバイスやUSB PDアダプタ自体が規格に沿っておらず、トラブルを起こすケースも少なくない。
よって、現実的にはそれらデバイスとアダプタの組み合わせによって充電がきちんと行なえるかどうか、メーカーの動作検証をチェックしたり、あるいは自らこれら機器の検証を行なっている国内外のブログサイト、さらには口コミ情報を参照せざるを得ない。もっともご存知のように、昨今の口コミはやらせが蔓延しており、「充電できました」という情報を鵜呑みにできないのが厄介だ。
USB PDアダプタ選びでひっかかりやすいポイント
といったわけで、次回は実際にUSB PDアダプタと各種デバイスとを組み合わせて検証を行なっていくのだが、その前段階として、ここではUSB PDアダプタの購入にあたって陥りがちな“現実的な”ミスについて、何点か紹介しておこう。
1つはケーブルの問題だ。USB PDによる充電を行なう場合は、ケーブルもUSB PD対応品であることが条件となる(建前上。詳しくは後述)。ケーブルとセットで販売されているUSB PDアダプタを選べばまず確実なのだが、価格が上がることを嫌ってか、そうした品はごくわずかだ。とくに海外製のモデルは、ほとんどがケーブルを添付しない単品売りである。
それゆえユーザーは、USB PDアダプタとは別にケーブルを購入しなくてはいけないわけだが、USB PD対応のケーブルには3A対応と5A対応とがあり、おもに60Wを超えるケースでは、5Aのケーブルを使う必要がある(USB PDでの電圧は最大20Vなので、20V×3A=60Wを超えて出力できない)。出力が大きなUSB PDアダプタに買い替えたが思ったより速度が遅い場合、ケーブルがボトルネックになっている可能性があるわけだ。
ちなみに「建前上は」と書いたのは、実際にはUSB PDでの充電に使えるものの、メーカーが検証しておらず非対応扱いにしている製品が少なくないからだ。実際にはノーブランド品でもUSB PDでの充電が行なえる場合があるが、言うまでもなく自己責任であり、また高い電力を供給することを考えると危険ゆえおすすめはできない。
また5A対応ケーブルはE-Markerと呼ばれるチップの搭載が必須であるため、わざわざチップのコストを掛けて製造しながらそれを表示せずに販売することは、実質的に考えにくいといっていいだろう。
もう1つ、地味にひっかかりやすいのが、Webページなどにおける最大出力の表記だ。AmazonなどでUSB PDアダプタを探すと、製品名の横に「最大出力60W」といった具合に、アダプタの最大出力が記載されていることが多い。ところが実際には、USB PDの最大出力はこの値を下回っている場合がある。
これはそのアダプタが、USB PDに使うType-Cポート以外のUSBポートを搭載しており、それらの合計を、最大出力として記載している場合があるからだ。つまりUSB PDは30Wであるにもかかわらず、ほかのUSBポートが15Wの電力を供給できるために、見出しには30+15=45Wが最大出力と記載しているわけだ。
説明を見ると確かにポートごとの内訳が書いてあったりするが、見出しだけを見て候補の製品を絞り込もうとすると、引っかかることもしばしばだ。このあたりはメーカーの良識次第で、現状は紛らわしい表記がじつに多い。複数ポートを搭載した製品を選ぶ時は、注意したほうがよいだろう。
ちなみにUSB PDは、USB Type-Cでしか使えない。例外としては、iPhoneでUSB PDによる急速充電を行なうための「USB-C - Lightningケーブル」をAppleが販売しているが、これはかなり特殊なケースだ。
なので例えば、片側がUSB Type-A、もう片側がUSB Type-Cのケーブルを使って、USB PDによる充電は行なえない。それらケーブルの裏面には「本製品はUSB Power Delivery非対応です」とわざわざ注意書きがあるケースがあるが、これは当然だ。やや的外れに見えるが、認知度が低い現状では致し方ないだろう。