山田祥平のRe:config.sys
世界中の電源プラグをUSB Type-Cに置き換えるサイプレスの野望
2019年1月18日 06:00
世のなかにある多くの団子型ACアダプタがなくなったらどんなにスッキリするか。誰もが待ち望んでいるその世界をもたらすのが、USB Type-CとUSB Power Deliveryだ。CESのサイプレスブースで、その将来をきいてきた。
機器ごとのオリジナル団子を撲滅
世のなかの家庭電化製品には2種類ある。ACケーブルが直づけか端子に差し込んだケーブルから交流(AC)を供給すれば稼働するものと、ACアダプタを使って低い電圧に変換した直流(DC)で駆動するものだ。
冷蔵庫や洗濯機、TV、AV機器などは前者がほとんどだが、シェーバーやLEDランプスタンド、電動ノコギリやドライバ、留守番電話、電気時計などのガジェット的なもののほとんどは後者だ。最近流行のスマートスピーカーなども後者、つまりACアダプタ外付けのものが多い。
ACアダプタにはACコンセントに差しこむためのコンセントが装備され、反対側からは直づけでケーブルが生えている。ACケーブルが直づけのものもある。直流側ケーブルの先にはバレルコネクタと呼ばれる2極の円筒型プラグがついている。内側がプラスで外側がマイナスであることが多いが、口径もまちまちなら電圧も異なるし、流す電流も違う。早い話が電化製品の数だけACアダプタがあると考えていい。
ノートPCも後者だった。「だった」というのは、専用ACアダプタを使って電力を供給しなければならないのは過去の話になりつつあり、今なお、端子は残っている製品はあるにせよ、USB Power Delivery(以下USB PD)規格で充電できるものが増えている。
これによって、ACアダプタは専用から汎用となり、メーカーや機種に関係なく、同じアダプタとケーブル、端子で電力を供給できるようになった。AppleのiPadだってUSB Type-CでのUSB PD充電をサポートし、同じアダプタで急速充電できるようになった。
スマートフォンは、ほかの機器よりも一足先に、USB Type-C端子を装備するようになったが、ちょっと早すぎた。その影響で状況はまだ混乱していて、USB Type-C端子をもちながらもUSB PD以外の規格での充電をサポートするものが散見される。たとえばQuickChargeや、高電流の独自急速充電規格が並行して使われている。
サイプレスは、セミコンダクターとして、USB PD用のコントローラチップを提供するベンダーだ。年初のCESではブースをかまえての出展はないものの、例年どおり、ホール奥にプライベートのミーティングスペースをかまえ、訪問する顧客に対して対応していた。
そこで見せられたのが、バレルコネクタからUSB Type-Cへの置換プランだ。
理想のUSB Type-C - USB PDタップ
ACアダプタをAC電源に接続するには、テーブルタップなどがかかせない。ACプラグを差し込める口が並ぶおなじみのものだが、まちまちなACアダプタサイズは、隣通しで干渉し、口を無駄にせずにうまく差し込めない。
さらにはケーブルごとに異なる口径のバレルコネクタが装備されている。アダプタそのものが黒い団子状で区別もしにくく、どれがどの製品のアダプタなのかもわかりにくかったりする。
もし、そのテーブルタップがUSB PDのアダプタで、並ぶ端子がUSB Type-C端子だったらどんなに便利か。エンドユーザーは機器ごとにケーブルの種別を気にすることなく電力を供給できる。100Wなどの大電力を供給しなければならない機器でなければ、すべての機器で共通化するのは難しくない。サイプレスによれば、9Vと15Vの切り替えをサポートすれば、6割を超える機器への電源供給が可能だという。
そのUSB Type-C端子装備のUSB PDテーブルタップは、どのような振る舞いをしてくれれば便利なのだろうか。昨今は、供給された電力をそのまま使わず、いったん内蔵バッテリに充電してから使う機器も増えている。
USB PDでは、ACアダプタ全体で供給できる電力をPower Delivery Power(PDP)と呼び、そのアダプタが全体でどれだけの電力を供給する能力を持っているかを示す。たとえば、最大20V/3Aをサポートするなら、PDPは60Wとなる。
余談になるがここで注意したいのはPDP 45Wだ。PDP 45W以下と、PDP 45W超は、規格の境目になっていて、45Wアダプタは20Vをサポートしなくてもいい。
一方、機器側では45Wを要求するとともに20Vを必要とするものがあり、45Wでいけるはずなのに充電できないというケースがある。PDP 45Wのアダプタを購入するさいには20Vのサポートの有無に気をつけよう。こんな具合に、USB PDもまた、混乱していてややこしい。
さて、USB Type-Cの口が1つだけなら、仕様上のPDPはすべてそのポートで独占的に使えるので話は簡単だ。問題はテーブルタップのように、複数のポートを持つ場合だ。PDPが60Wだとして、2ポートの場合はどのようにそのPDPを分け合えばいいのだろうか。
電力の供給を受ける機器は機器で、要求する電力は異なる。また、電力を満たしていればそれでよいというわけではなく、先の例のように特定の電圧を要求するものもある。これらの機器を混在させて接続した場合も、エンドユーザーがなにも考えないで、まさにプラグ&プレイで電力を使えるようになっているのが理想だ。
サイプレスのコントローラを使い、ポートごとにコントローラを置き、それらがマスター、スレーブの関係でコミュニケーションすることで、こうした制御が簡単にできるのだという。
たとえば、60W PDPのアダプタに45Wが必要なPCと18Wが必要なスマートフォンを接続したとする。合計が63Wなので、両方をフルパワーで充電することはできない。その場合、PCに45W、スマートフォンに15Wといった割り振りが必要になる。コントローラ同士がコミュニケーションすることで、こうしたロードバランシングが可能になる。
そのままPCが満充電になると、その通知を受け取ったコントローラはスマートフォン側への供給を18Wに上げるといったこともできる。時間が経って、満充電状態が遷移したPCが再び電力を要求すると、状況を見ながらロードバランスをとりなおす。
航空機内のエンターテイメントシステムでは、すでにUSB Type-Aメス端子が、充電などのために装備されているのは当たり前になってきている。サイプレスによれば、航空会社のなかには、すでにUSB Type-Aに加えてType-C端子を装備したエンターテイメントシステム搭載の機材を使っているものがあるという。
USB Type-Aは5V固定だが、Type-Cについてはうまく制御されているらしい。なにしろ何百席もある航空機の座席だ。一席で大電力を要求して占有してしまうと全体の利用に支障が出てきてしまう。そこで、その数百席を集中的に制御してロードバランシングする仕組みが実現されているのだそうだ。実際にはまだ体験していないが、ぜひ、機会を作って使ってみたいものだ。
プログラマブルだからこそのリスクもある
プログラマブルなUSB PDコントローラを持つUSB Type-Cアダプタは便利で、ユーザーアプリからの設定も可能だという。だが、危険な面があることもわかっていなければならない。
たとえば、マルウェアに感染したPCにアダプタをUSB Type-C接続すると、マルウェアがアダプタのプログラムを書き換える危険性も出てくる。マルチロールが可能なUSB Type-Cならではのリスクだ。そして、そのアダプタで充電したほかの機器が次々に感染していくといったことも起こりうる。
こうした脅威を回避するために、USB-IF(Implementers Forum)では、Type-Cデバイス同士が接続されたときに、所定の方法での認証を行なうような対処を提案している。
認証できない場合は高電圧での充電は行なわないとか、データ通信を許可しないといったふるまいをして機器を守るわけだ。だが、ここまで普及してしまった以上、ガチガチのセキュリティで守らなければならない企業用PC以外ではなかなか採用は難しそうだ。
となれば、コントローラ側で、不正な書き換えが行なわれないように対処する必要がある。こうした面まで含めた統合的なソリューションとしてUSB PD対応は行なわれているし、サイプレスはそれを可能にしている。
メーカー側としても、製品をUSB PD対応させれば、その分のコストはかかるが、機器ごとにACアダプタを同梱する必要がなくなる。もちろんそのためには粗悪なUSB PDアダプタがつながることを想定し、それによる機器の破損を回避する仕組みも取り入れなければならない。
こうした脅威への対応を含め、当初はそれなりのコストがかかるに違いない。リーズナブルな仕様の5ポート、10ポートを備えたUSB PDテーブルタップが商品化されるまで、まだ少し時間はかかるだろうが、世界中のACアダプタをUSB Type-Cに置き換えようとしているサイプレスの野望はきっとかなうだろう。単なるガジェットの世界から、大きくそのフィールドを拡げようとしているUSB PD。その将来が楽しみだ。