山田祥平のRe:config.sys
理想のマルチポートPDチャージャーを考える人間のわがまま
2019年5月24日 06:00
USB Type-Cコネクタを持つPD(Power Delivery)対応デバイスが増えてきてうれしいかぎりだ。日常的に持ち歩くデバイスも、その多くが充電をType-C端子のPDに依存するようになってきている。iPhone用にも純正より多少廉価で付加価値のあるサードパーティ製のType-C-Lightning急速充電ケーブルが出てきているし、ベルキンなどの著名メーカーも、BOOST↑CHARGE USB充電器(27W USB-C)などの出荷を開始した。
スマートフォンに代表されるガジェット類とモバイルノートPCでチャージャーを統一できるようになっただけでもうれしいが、こうなると1台のチャージャーで複数のデバイスを同時に充電したいと欲が出てくる。
容量の異なる2つのチャージャーを1つの筐体に2in1
Komatech(発売元 株式会社エムエスシー)からFreedyブランドのUSB PDに対応したマルチポートチャージャーEA1707が発売された。60Wと30WのPDP(Power Delivery Power)に対応する2つのType-Cポートと、Quick Charge 3.0対応のType-Aポートを2つ、計4つの充電ポートを装備したマルチポートチャージャーだ。
2つのType-Cポートは60Wと30W。明確に分かれているのがミソで、接続したデバイスごとの制御振る舞いがわかりやすい。だが、その反面、どっちになにを接続しても願いどおりの充電ができるという簡単さはない。言ってみれば2つのPDチャージャーが1つの筐体に収まっているようなものだ。とはいえ合計出力は4ポート合計で90Wに制限される。当たり前だが、その采配の背景がいま1つわからないのがモヤモヤする。
本体は薄型のほぼ正方形でメガネタイプの電源ケーブルを使ってACを供給する。手に持つと、ちょっとしたズッシリ感がある。ちなみに本体重量は270gだ。手元で使っている30WのAnker PowerPort Atom PD 1は57g、Anker PowerPort Speed 1 PD 60は157gなので両方で214gだが、別途電源ケーブルの重さも目方に合算する必要があるものの、マルチチャージャーでQC 3.0対応ポートが2つおまけについてくると思えば、60gの追加でレガシーデバイスを2つ充電できるのはなにかと便利だ。Bluetoothガジェット類は、まだType-C対応できていないものもあるからだ。
日常的に持ち歩いているのはPCとスマートフォンを1台ずつ。スマートフォンは18WのPDアダプタがあれば十分だし、どちらかと言うとACチャージャーよりもモバイルバッテリを携行したほうが融通がきく。この辺の使い勝手は、最近発売されたcheero Power Plus 5 10000mAh with Power Delivery 18W(Metallic)や、cheero DANBOARD 13400mAh PD18Wのような軽量でコンパクトな製品のほうが使い勝手がいい。日常的な外出は、夜になれば、自宅に戻ることが保証されているので10,000mA(36Wh)程度の容量があれば、スマートフォンを丸2回フル充電できるので十分だと言える。
だが、モバイルPCはそうはいかない。今、日常的に携行しているPCは長いもので正味10時間程度、短いもので5時間程度のバッテリ駆動時間を確保できる。たいていの外出はその駆動時間内で用が足りるが、丸1日のカンファレンスなど、その日の用事によっては、ちょっと心許ないケースもある。
30W程度のPDPがあるチャージャーやモバイルバッテリがあればノートPCの充電は不可能ではなく、緊急用としては心強いが、やはりノートPC用には充電しながら運用もできることを想定した45~60WのPDPがほしい。理想的にはもっと大きなPDPでノートPCを急速充電できるモバイルバッテリがあればいいとも思うのだが、きっと重くて外出に持ち出す気になれないだろう。
宿泊を伴う出張となると、持ち出すデバイスも増える。スマートフォンが2台になったり、タブレットを携行したり、場合によってはモバイルバッテリを追加充電する必要が出てくる可能性もある。デバイスごとに最適のPDPを持つチャージャーを持ち出せばいいのだが、複数を持てばかさばるし、重量も増える。そんな不便を解消する1つの解がマルチポートチャージャーだ。
勝手な人間の願いをアルゴリズムは解決できるか
Komatechのマルチポートチャージャーは30Wと60Wの2つのPDポートが、ほぼ独立して稼働するようにできている。確かにわかりやすい。だが、エンドユーザーがなにも考えずに、ケーブルを接続するだけで、柔軟な電力制御のもとに最適な充電ができるわけではない。もしケーブルの接続を逆にしてしまったら、もう満充電だろうと思って出がけに確認したら半分しか充電できていなかったというオチも想定される。
それなら、どんな仕様になっていればいいのだろう。
合計90Wの能力を持つ2つのポートがあったとしてノートPCとスマートフォンを同時に充電したいとしよう。ノートPCは60WのPDP、スマートフォンは18WのPDPがあれば、処理性能にもよるものの、一般的には双方を使いながら同時にバッテリの充電が可能だ。
充電のケースとしてはいくつかのパターンがある。
- (A) PC 1台を接続
- (B) スマホ1台を接続
- (C) PCとスマホを接続
- (D) PC2 台を接続
- (E) スマホ2台を接続
A~Cについてはあまり問題はない。持てるPDPをフルにあてがえば済む。Eについても、スマートフォンはたかだか18W程度でしか充電できないので両方にフル供給しても能力的には問題なさそうだ。
Dの場合、60WのPDPがほしいPCを2台となると、合計120WでPDPが足りなくなる。となると、
- (1) 接続した早い者勝ちで大きなPDPをもらい、余った分をもう1台に割り当てる
- (2) 時間が経過し、大きなPDPのおかげで1台目の充電が急速で完了
- (3) いったん独り占めしていたPDPを開放
- (4) もう1台が大きなPDPを得られるようにする
といった制御がいいのだろうか。それとも45Wずつを平等に分け合って充電し、先に充電が完了したほうがPDPを開放して、もう1台のPCの充電速度を加速する制御がいいのだろうか。
ただ、充電がいったん完了しても、デバイスの電源がオンのままなら電力を消費する。ちょっとずつ減っていくバッテリ容量と、充電のために供給される電力のバランスはどうすればいいのか。そしてどのような采配で充電が行なわれているのか人間が知るにはどうすればいいのか。
インテリジェントな制御ができるPDは、アルゴリズムによっていろいろな充電パターンをサポートできるはずだが、そのときに人間が思っている最適な充電ができるようにするには、いっそのこと、エンドユーザーが各ポートの振る舞いをプログラムできるようになっているほうがいいのかもしれない。
そのもっとも簡単なプログラミング作法が、複数のチャージャーを独立して使い分ける人力制御であり、冒頭で紹介した製品のような、ポートごとにPDPが独立しているマルチポートチャージャーだ。コンピュータがPDPを制御するのではなく、人間がPDPを使い分けるのだ。そのくらい人間の願いは勝手だしわがままだ。
AC電源タップでは、こうしたことを考えなくても済む。ACタップの各ポートは、各種スマートデバイスのように比較的低消費電力のデバイスにとって、実用上、無限の電力を供給できるとみなせるからだ。将来的に、家庭にPDポートが整備されるようになるなどすれば考えを改める必要があるだろうが、まだ先の話だ。
だが、DCではそうはいかない。たとえば60WのPDPを持つポートを2個持つチャージャーがあって、どちらのポートに接続しても最適な電力供給を受けたいとすれば、その想定合計電力は平気で100Wを超える。3つなら200W近い。まして個々のポートがPDの最大能力である100Wを要求するなら、合計電力はもっと大きくなる。その対応のためには当然チャージャーは大きく重くなっていく。常置場所での据置ならそれでいいかもしれないが、持ち歩きには実用的ではない。
現段階では、どこかで妥協する必要がある。いずれにしても充電されるデバイスは自分のことしか考えないでPDPを要求する。自分にとって最適最速の電力を要求しようとする。ところが、かぎられた電力しかない場合、それを共有するには協調が必要だ。その協調のアルゴリズムが難しい。それに協調には電力を供給するソースのみならず、電力を受けるシンク側も協力しなければならないからだ。それに人間の都合もあわせて考える必要がある。その人間の勝手さはAIをもってしても永遠に解は見つけられないような気もする。
低いPDPを要求するデバイスを優先して電力を割り当てるのか、平等に分配するのか、高いPDPを要求するデバイスを優先するのか、5分ごとに切り替えるのか。AC電源タップのように、各ポートが最大の100Wを供給できるようなモバイルチャージャーができる日はくるのかどうかはわからないが、その日がくるまでは、PDのインテリジェンスというよりも運用で解決する必要がある。少なくとも、現時点でのマルチポートチャージャーは、そのアルゴリズムを明確なかたちで公開し、どうふるまうのかを明確にして製品化することが求められるだろう。