山田祥平のRe:config.sys

それでもType-C、やっぱりType-C

 PCのPower Delivery(PD)対応が進むなかで、ちょっと不思議な状況が続いているのがスマートフォンだ。スマートフォンの充電に使う端子がType-Cメスになって久しいが、エンドユーザーがどの充電器と組み合わせたときに最高の性能で充電できるのかがわかりにくい。今回は、スマートフォンのPD対応について見ていこう。

乱立するスマホの高速充電器各

 スマートフォンの充電をややこしくしているのは、各社の製品が、複数の高速充電規格に対応していることだ。

 まず、Androidスマートフォンでは歴史的経緯から各社独自の充電規格がある。たとえば、GalaxyならAFC、HuaweiならSuperCharge、OPPOならVOOCといった規格が知られている。また、iPhoneの5V/2.4Aも、ある種の高速充電規格と考えていいだろう。

 これらに加えて、スマートフォンで使われているプロセッサSnapdragonで知られるQualcommが推進してきたQuick Charge(QC)の流れもある。

 Qualcommは、QC 4.0で、いったん過去のQCとの互換性を捨てたのだが、QC 4+で再び後方互換性を確保した。QC対応デバイスについてはQC対応の充電器として振る舞うが、PD対応デバイスについてはPD対応の充電器として振る舞う仕様だ。

 これについて同社広報に問い合わせたところ、次のようなコメントが戻ってきた。ちょっと長いが引用しておこう。

Hi Syohei, thank you for reaching out! We'd like to clarify that Quick Charge 4 and 4+ offer USB Type-C and USB Power Delivery (USB PD) compliance and compatibility, respectively. In doing so, Qualcomm standardizes the capabilities of Quick Charge 4+ adapters, and helps ensure that a single accessory supports multiple charging implementations and mobile devices. Quick Charge 4+ also reduces USB PD fragmentation and corresponding consumer confusion by providing superset functionality. This means that customers and consumers experience consistent performance regardless of charging solution - including 2.0 and 3.0 adapters.

Lastly, Qualcomm Quick Charge is designed to be connector-independent and was commercialized before the USB Type-C specification was issued. It can be implemented with a variety of formats, including USB Type-A, USB micro, USB Type-C, and other proprietary connectors. We have received no reports of user experience or device malfunction issues with or without USB Type-C compliance. Lastly, due to the superset implementation of Quick Charge 4+, all phone charging implementations can be supported, enabling future compatibility.

 要約すると、

  • QC4・QC4+はUSB Type-C/USB PDに準拠・互換
  • クアルコムはQC4+アダプタの機能を標準化し、1つのアクセサリで複数の充電方式・モバイル端末をサポートする
  • QC4+はスーパーセットの機能により、USB PDの断片化とそれによる消費者の混乱をなくし、QC2.0/3.0アダプタを含めた充電方式にかかわらず一貫した性能を享受することが可能
  • QCはコネクタに依存しない設計で、USB Type-C仕様発行前から商品化、USB Type-A/USB micro/USB Type-C/ほかの独自コネクタを含めて対応
  • USB Type-Cかどうかにかかわらず、これまでにデバイスの誤動作等の事例報告はない
  • QC4+のスーパーセットの機能により、全電話機の充電機能がサポートされ、将来にわたる互換性も確保

ということになる。PDの優れたところは認めつつ完全に準拠し、消費者を混乱させないように、古いデバイスでも安心して充電ができるようにすることが、PD登場以前にQC規格を作った同社としての責任であるという解釈をすればよさそうだ。USB-IFの定めたルール違反ではあるが、これはこれで必要悪ということもできる。と言っても、議論もありそうだ。

 こうしたなか、ベルキンが「BOOST↑CHARGE USB充電器(27W USB-C、Quick Charge 4、USB-C to Cケーブル付き)」をリリースした。製品名は4とあるが、実際には4+の対応だ。QC対応の古いものからPD対応の最新のものまで、あらゆるデバイスを高速充電できる充電器として、Qualcommの認証を受けている。

 この製品にかぎらないが、ベルキンでは最大28万円が補償される「条件付き接続機器保証」というサービスを提供している。電子機器が正しく接続されているにもかかわらず、サージ電圧、スパイク、落雷により電子機器に損傷が発生した場合、28万円を上限に修理または交換ができるというもので、万が一の事故のさいにも安心だ。

各社のiPhone対応をチェック

 高速充電の規格が乱立するなかで、エンドユーザーはなにを頼りに製品を選べばいいのだろうか。

 まず、iPhoneから見ていこう。iPhoneは、iPhone 8世代以降でPDに対応したとされている。ただ、AppleがPD対応を明確に表明しているわけではない。仕様を見ると「高速充電に対応」とされ「別売りの18W以上のアダプタを使用」と記載されているだけだ。

 ちなみに米国サイトでの記述は「Fast-charge capable: Up to 50% charge in 30 minutes with 18W adapter or higher (available separately)」となっている。つまり、Fast-chargeが同社の公式用語として使われている。

 それならと同社純正の18W USB-C電源アダプタを見ても、「iPhone 8以降のモデルとの組み合わせでも、高速充電機能に対応します」と書かれているだけで、どういう規格なのかはわからない。また、充電ケーブルは別売りなので、やはり同社純正の「USB-C - Lightningケーブル(1m)」の仕様を見ても、「高速充電機能を活かすこともできます」と書かれているだけだ。

 iPhone用には各サードパーティからAppleに許可を受けた証であるMFi認証取得のさまざまな機器が販売されているが、高速充電対応についても豊富に製品が出てきている。ベルキン、Cheero、Ankerといった著名なベンダーのType-C to Lightningケーブルを見ると、

  • 「高速充電「USB Power Delivery(以下PD)」に対応しており、PD対応USB充電器とともに使用することで、iPhone (8シリーズ以降に発売された機種にのみ対応)を30分で最大50%まで急速充電ができます。」(ベルキン)
  • 「Power Delivery 対応で、Lightning端子搭載のApple機器へ超急速充電が可能です。iPhoneXなら、45分間で74%まで充電可能です。(※ただし、超急速充電にはPower Delivery対応のデバイスとUSB ACアダプタが必要です。)」(Cheero)
  • 「Power Delivery対応のUSB-C急速充電器と一緒に使用することで、iPhone XS、XS Max、XRを含む最新のiPhoneへフルスピード充電が可能です」(Anker)

などなど、iPhoneがPD対応していることは間違いなさそうだ。とはいえ、いったい何WのPDP(Power Delivery Power)に対応しているのかは明確に記載されていない。大きなPDPをもつPD充電器なら、より高速に充電できるのかどうかはわからないのだ。Appleの記述を信じて、18W以上であれば同じと想像するしかない。

Androidは暗黙のPD

 続いてAndroidスマートフォンについて見ていこう。日本ではキャリア各社の扱いとなることが多いので、まずは、そこからチェックしてみよう。

 例年であれば9月には各社から最新製品の発売が発表されるだろうから、状況が変わる可能性もあるが、6月の新製品としてXperia 1の説明を読んでみる。

  • 「充電時間 TypeC 共通 ACアダプタ 01 : 約170分 TypeC 共通 ACアダプタ 02 : 約130分」(au)
  • 「Quick Charge対応 -(なし) Power Delivery対応 Revision3.0」(ドコモ)
  • 「充電時間 約130分(USB Type-C PD対応 ACアダプタ)」(ソフトバンク)

となっている。

 auの純正アダプタは、「TypeC 共通 ACアダプタ 01」が「Type-C対応&Quick ChargeTM3.0対応の共通ACアダプタ」、「同02」が「急速充電USB Power Deliveryに対応したUSB Type-C対応の共通ACアダプタ」と記載されている。

 ドコモのサイトには各種純正アダプタでの充電時間が記載されいているが、そのなかで「ACアダプタ07」がもっとも短く135分、その次に「ACアダプタ06」で140分、それ以外は変換アダプタ経由で170分となっている。

 「ACアダプタ07」については「USB Type-C端子に対応したACアダプタです。USB Power Deliveryの規格に準拠しています。」とある。取扱説明書によると「DC5.0V 3.0A / DC7.0V 3.0A / DC9.0V 3.0A/ DC12.0V 2.25A」となっているし、手元にある製品に記載されたものと合致する。この値から逆算するとPDPは27Wだが、相手となるスマートフォン側の仕様がわからない。

 「同06」についてはページが見つからず、取扱説明書のPDFを発見したが、そこには規格については言及されていなかった。

 また、ソフトバンクは注として、「ソフトバンクが指定するACアダプタで計測したもので、あくまでも目安となります。」と追記してある。そして、その指定するACアダプタについての言及はない。

 参考に、ドコモの他製品をチェックしてみると、Galaxy S10 SC-03Lが「Power Delivery対応 Revision2.0」、AQUOS R3 SH-04Lは対応しているがリビジョン表記なしだ。

事実上の標準を探せ

 Android本家とも言えるGoogleでは、どのような説明をしているのか、Pixel 3aについて調べてみた。

 スペック表では「18W急速充電」とされ、「USB-C 18 W アダプタ、USB-PD 2.0 対応」での充電ができると読める。また、このアダプタは同梱オプションとして、ケーブルとともに製品パッケージに含まれる。アダプタのページを探して調べてみると、「18 W 電源出力 USB Power Delivery 2.0」となっている。

 いろいろとややこしいが、こうしていろいろ調べてみると、デファクトスタンダード、いわゆる事実上の標準は、

  • iPhoneを含め、スマートフォンの多くはPD対応をはたしている
  • 対応PDPは18Wまで

ということになるのだろうか。PDについてリビジョン2.0と3.0対応に分かれている。2.0は後方互換性のためにType-A/Bコネクタをサポートしているといった歴史的経緯もあるが、今となってはアリバイのようなものだ。

 USB-IFが、Type-Cについて複数の規格を認めない方針であることからか、スマートフォン本体はその充電規格を明確にしない状況が続いている。これはエンドユーザーに明らかに不親切だ。

 以前、LTEの対応について周波数のみならず、バンド番号の記載を求めたことがある(iPhoneは世界の共通語(だったのに)参照)。それが2016年の今頃だ。

 最近のスペック表にはきちんとバンド番号が記載されるようになってきたのは喜ばしいかぎりだが、充電の規格についても、対応している規格をきちんと明記してほしいし、その要求PDPやパワールールのPDO(Power DATA Object)なども記載してほしい。

 純正のアダプタが同梱されず、別売りのオプションや、サードパーティ製品のなかから選ぶしかない状況のなかで、エンドユーザーが安心/安全にスマートな充電ができるような情報を提供する配慮が求められているのではないか。