特集
複数の規格が入り交じるUSB Type-C。その挙動を探る【PC給電編】
~MacBookとThinkPadで各社のケーブルをチェック
2017年9月12日 11:00
前回の記事「ケーブル選びに失敗しないための「USB Type-C」基礎知識」は多数の反響を頂戴した。ご感想の大半は「なるほどわからん」という主旨だったように思うが、コネクタ形状が統一されるメリットばかりが喧伝されるUSB Type-Cにおいて、実際はデメリットも多いことを初めて知ったという方は多かったようだ。これからますます普及するであろうType-Cを本格的に使っていくにあたり、頭に留めておくべき問題点の数々は認識いただけたのではないかと思う。
今回は、USB Type-Cが今後普及するにつれて多くの人が直面するであろう、USB Type-Cケーブルが複数本ある場合の見分け方を紹介したのち、USB Type-Cの機能の1つであるUSB PD(USB Power Delivery)を使ったPCへの給電において、スペックを満たさないアダプタやケーブルを使った場合にPC側がどのような挙動となるのか、実機を使ったテストの結果を紹介する。
USB Type-Cケーブルの違いを見分ける方法は?
見た目のコネクタ形状は同じに見えるUSB Type-Cケーブルであっても、実際にはさまざまな種類があることは前回紹介したとおりだ。ケーブル自体の規格はUSB 3.1の場合もあればUSB 2.0の場合もあるし、最大100WでPCなどへの給電が行なえるUSB PDに対応する場合もあればしない場合もある。さらにThunderbolt 3対応をうたった製品もあるなどキリがない。
これら主な技術仕様はたいていの場合パッケージにアイコンなどで記されているため、必要な仕様が分かっていれば適合するケーブルを手に入れることは比較的容易だが、ではそれらをいったんパッケージから取り出したのち、外見から見分ける方法はあるのだろうか。
結論から言ってしまうと、いったんパッケージから取り出してしまうと、ケーブルのスペックを確実に見分ける方法はない。そのためユーザーとしては、メーカーの型番もしくは具体的な仕様を記したラベルなりシールを、購入後に自前で貼るなどの対策を行なっておかなければ、複数のUSB Type-Cケーブルが手元に存在したさいに見わけがつかなくなる。規格を策定する側の事情はいろいろあるのだろうが、ユーザー目線で見るとなぜこうした不便さを予測できなかったのか、不思議極まりない。
ただしケーブルメーカーの側はこうした問題は少なからず認識しており、独自の工夫をしている場合がある。例えば前回紹介したエレコムの場合、認証を取得したType-Cケーブルに関しては、コネクタに仕様を表すモールドが印字されている。
詳細は以下の写真をご覧いただきたいが、例えばUSB 3.1 Gen 2に対応した「USB3-CC5P05NBK」は「SuperSpeed+」を表す「SS」と「10」のモールドが、USB 3.1 Gen 1に対応した「MPA-CC13A05NBK」は「SuperSpeed」を表す「SS」のモールドが印字されている。USB 2.0対応の「U2C-CC5P05NBK」はUSBマーク以外のモールドはない。
同社に確認したところ、認証を取得した正規品についてはこのモールドが入っており(前述のMPA-CC13A05NBKは認証品ではないが例外のようだ)、今後も同様の方針とのこと。それぞれのモールドの意味を確認するための一覧ページは存在していないそうで、それはかえって不思議なのだが(「SS」「10」がUSB 3.1 Gen 2を示すと言われて普通は理解できないだろう)、それは今後に期待するとして、こうした取り組みを行なっているメーカーのケーブルで手持ちを統一しておけば、複数本が混在しても判別が容易になるだろう。
そもそもケーブルは使ったあとパッケージに戻す類の製品ではないので、パッケージにのみ仕様がこと細かに書かれていても、開封後は意味がない。量販店店頭でほかメーカーのUSB Type-Cケーブルをチェックした限り、同様の取り組みを行なっているメーカーは確認できなかったが、上記のエレコムのような取り組みも含めて、USB Type-Cケーブルの仕様を外見から識別できる仕組みを用意するケーブルメーカーが国内外ともに増えてくれれば、ユーザーにとってもありがたい。
これとはまったく別の方法として、チェッカーを用意しておく方法もある。例えばPlugableが販売している「USB-C 電圧・電流チェッカー」は、USB Type-Cの機器とケーブルの間に挟み込むことで、電流および電圧を測定できる。どちらの方向に流れているかも矢印で表示されるのでわかりやすい。他社からも同様の製品が複数販売されており、価格はいずれもケーブル1本分程度なので、手元にあると心強い。なおUSB PDに対応する製品としない製品があるので、対応する製品を選んだほうが、幅広く使えてよいだろう。
もっとも上記のような製品は、実機にケーブルをつないで初めて測定できる仕組みなので、規格外の疑いがあるケーブルは使用が少々ためらわれる。こうした場合は実機を使わずにチェック可能なテスターがおすすめだ。以下の検証でも使用しているLimePulseの「USBケーブルチェッカー」は、個人が制作、販売している品だが、機器本体に接続することなくケーブルの結線や抵抗値、E Markerの有無などをチェックできる。価格も数万円もする専用機器と違って4,000円と手頃なので、単なる電流電圧の測定にとどまらず、もう少し専門的にケーブルの仕様を確認したい人にはおすすめしておきたい。
MacBook Pro 15インチとThinkPad X1 CarbonでUSB PDの挙動をチェック
さて前置きが長くなったが、今回の記事はここからが本番だ。USB Type-Cを用いてPC本体を充電できるUSB PDでは、最大100W(20V×5A)という大容量での充電が可能だ。しかしこれは本体機器(PC)、給電アダプタ、ケーブルがそれぞれUSB PDに対応していることが前提で、これらがフルに性能を発揮して、初めて最大効率での充電が行なえる。
では仮にその中に足を引っ張る要素があった場合、低速であっても充電が行なえるのか、それともまったく充電ができないのか、そしてそれらがどんな要因で決定されるのかは、利用者としても気になるところ。今回はUSB PDに対応した2台のPCを用意し、アダプタおよびケーブルを取り替えながらその挙動をチェックしていく。
用意したのはAppleの「MacBook Pro 15インチ(2017)」と、レノボの「ThinkPad X1 Carbon(2017)」の2台。前者は単品でも販売されている「87W USB-C電源アダプタ」が付属しており、同梱のUSB-Cケーブルで給電が行なえる。後者は付属の電源アダプタの先端がUSB Type-Cコネクタになっており、本体に「MAX 45W」という表記がある。
検証に使用するアダプタは、MacBook Pro 15インチ標準添付の「87W USB-C電源アダプタ」に加え、前回も紹介したAnkerの「PowerPort+ 5 USB-C USB Power Delivery」(最大30W)も使用する。この製品、とある条件下では45Wまでの出力に対応していることが知られているが、今回の実験ではその影響は見られず、個体によって仕様が異なる可能性もあるため、公称値のとおり最大30Wの製品として話をすすめる。
ケーブルは以下の表の通りで、前回紹介しているエレコムの5製品のほか、Amazonでの流通量が多いとみられるAnkerのUSB 2.0対応Type-Cケーブル「PowerLine+(AK-A8187091)」、Amazon BasicのUSB 3.1 Gen 1対応Type-Cケーブル「L6LUC017-CS-R」、さらにThunderbolt 3(40Gbps)にも対応したUSB 3.1 Gen 2ケーブルとしてCable Mattersの「107002-BLK-0.5m」、また百均(セリア)で入手可能な丸七のUSB 2.0対応Type-Cケーブル「VM-07」も対象に加えた。詳細なスペックは下記の表の通りで、本文中では冒頭につけた【AB】【AK】【E1】などの略称で表記する。
略称 | メーカー(ブランド) | 品番(リンク先は製品情報) | 長さ | 規格 | 最大電流 | USB PD | USB IF認証 | その他 | Amazonで購入 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AB | AmazonBasics | AKL6LUC017-CS-R | 0.9m | USB 3.1 Gen 1 | 表示なし | 表示なし | - | - | リンク | |
AK | Anker | PowerLine+(AK-A8187091) | 1.8m | USB 2.0 | 表示なし | ○ | - | PowerIQ対応 | リンク | |
C | Cable Matters | 107002-BLK-0.5m | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 表示なし | 表示なし | ○ | Thunderbolt 3 (40 Gbps) | リンク | |
E1 | エレコム | USB3-CC5P05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 5A | ○ | ○ | - | リンク | |
E2 | エレコム | USB3-CCP05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 3A | ○ | ○ | - | リンク | |
E3 | エレコム | MPA-CC13A05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 1 | 3A | ○ | - | - | リンク | |
E4 | エレコム | U2C-CC5P05NBK | 0.5m | USB 2.0 | 5A | ○ | ○ | - | リンク | |
E5 | エレコム | U2C-CC05BK | 0.5m | USB 2.0 | 3A | × | - | - | リンク | |
M | 丸七 | VM-07 | 0.5m | USB 2.0 | 3A | × | - | - | - |
チェッカーによる電流電圧の測定にあたっては、ケーブルを接続した直後は値が激しく変動するため、数十秒ほど待ってから測定を行なっている。なおノートPCのバッテリの残容量を完全に揃えるのは難しいため、充電速度が安定しているバッテリ残量25~80%の範囲でテストを行なっている。
どの組み合わせでも充電が可能なMacBook Pro 15インチ
まずはMacBook Pro 15インチ(2017)(以下MacBook)から見ていこう。結果は以下の通りで、アダプタとケーブル、すべての組み合わせにおいてUSB PDによる給電が行なえた。電圧はどのケーブルの場合も、USB PDの上限である20Vに近い19.3~19.7Vの間を行ったり来たりしているため、以下では各ケーブルごとの電流(A)の値のみ記載する。
略称 | メーカー(ブランド) | 品番 | 長さ | 規格 | 最大電流 | USB PD | USB IF認証 | MacBookアダプタ利用時 | Ankerアダプタ利用時 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AB | AmazonBasics | L6LUC017-CS-R | 0.9m | USB 3.1 Gen 1 | 表示なし | 表示なし | - | 2.9A | 1.4~1.5A |
AK | Anker | PowerLine+(AK-A8187091) | 1.8m | USB 2.0 | 表示なし | ○ | - | 2.9A | 1.4~1.5A |
C | Cable Matters | 107002-BLK-0.5m | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 表示なし | 表示なし | ○ | 3.8~4.2A | 1.4~1.5A |
E1 | エレコム | USB3-CC5P05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 5A | ○ | ○ | 3.8~4.2A | 1.4~1.5A |
E2 | エレコム | USB3-CCP05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 3A | ○ | ○ | 2.9A | 1.4~1.5A |
E3 | エレコム | MPA-CC13A05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 1 | 3A | ○ | - | 2.9A | 1.4~1.5A |
E4 | エレコム | U2C-CC5P05NBK | 0.5m | USB 2.0 | 5A | ○ | ○ | 3.8~4.2A | 1.4~1.5A |
E5 | エレコム | U2C-CC05BK | 0.5m | USB 2.0 | 3A | × | - | 2.9A | 1.4~1.5A |
M | 丸七 | VM-07 | 0.5m | USB 2.0 | 3A | × | - | 2.9A | 1.4~1.5A |
MacBookのアダプタを使った場合だが、上の結果を見ると大きく2つのグループに分かれることに気づく。具体的にはケーブル【C】、【E1】、【E4】を使った時に、ほかより高い3.8~4.2Aの範囲で電流が流れている。表にはないが純正ケーブルを使った時も同様で、ワット数に直すと約72~84Wが供給できていることになる。もう1つのグループは2.9Aにとどまっており、ワット数に直すと約55~58Wということになる。
仕様が部分的にしか公開されていない【C】と純正ケーブルはさておき、【E1】、【E4】のケーブルがほかと違う点はどこだろうか。【E1】はUSB 3.1 Gen 2対応、【E4】はUSB 2.0対応だが、両者に共通し、なおかつほかと違うのは「5A対応」であることだ。【C】と純正ケーブルも、おそらく同様だと考えられる。それ以外、2.9Aしか出ないケーブルは最大電流値が不明な【AB】、【AK】を除き、すべて3A対応だ。
つまりケーブルが5A対応か3A対応かで供給される電力が決定されており、MacBookのアダプタにおいては5A対応のケーブルと組み合わせることで高速な充電が行なえる、ということになる。USB PDの出力にまつわる仕様(パワールールと呼ばれる)では、60Wまでは3A、それ以上の場合のみ5Aで出力すると定められているので、この結果とも一致する。
ちなみにMacBookでは、「このMacについて」の「システムレポート」→「電源」を見ると電源アダプタを何Wと認識しているかを見ることができるが、【C】、【E1】、【E4】および純正ケーブルで接続した場合は、いずれも86Wのアダプタとして認識しており、それ以外の場合は60Wのアダプタと認識されている。つまり電源アダプタのワット数をMacBookが正しく認識するには5A対応のケーブルが必要で、3A対応のケーブルを使った場合はそこがボトルネックになり、供給電力が下がってしまうことになる。
ここまでの結果だけを見ると、MacBookで高速に充電したければ、5A対応のケーブルは必須……と言いたいのだが、いかなる環境でもこれが当てはまるとは言えない。というのも、もう1つの実験、Ankerのアダプタを使った場合は、どのケーブルを使っても、電流は1.4~1.5Aの範囲に留まるからだ。ワット数に直すと約27~29.5Wだ。
MacBook側の情報を見ると、電源アダプタはどの場合も30Wと認識されており、つまりこちらはケーブル云々とは無関係に、最大30Wというアダプタの出力がボトルネックになっていることが分かる。
もちろん5A対応ケーブルを使っても充電を行なうのに何ら支障はないのだが、この組み合わせにおいては宝の持ち腐れということになる。現在国内で入手可能なUSB PD対応の電源アダプタで、前述のMacBookのアダプタのように30W以上を供給できる製品は数少ないため、ほとんどの環境では3A対応ケーブルで十分ということになる。
これ以外に結果から読み取れるのは、USBの規格、すなわちUSB 3.1かUSB 2.0かは、USB PDの給電能力にまったく関係ないことだ。USBの規格の違いは主にデータ転送速度にまつわるものなので当然なのだが、店頭で両者が並んでいればUSB 3.1のほうがあらゆる点で上位互換だと思ってしまう人は少なくないはずで、USB PDの給電能力とは無関係であることは頭に留めておいたほうがよいだろう。
また【E5】、【M】のようにUSB PDに非対応と明言しているケーブルでも、実際には使えてしまう場合がある。規格的にはクリアしていてもサポートはしないという意味でメーカーが「非対応」とすることはよくあるので、そのようなニュアンスだと理解しておいてよいだろう。ただしUSB PDで確実に使えるケーブルを入手するのであれば、対応を明言しているケーブルを選んだほうが安心であることは言うまでもない。
余談だがこのMacBookは、このあと紹介するThinkPad X1 Carbon(2017)添付の電源アダプタでも、充電が行なえてしまう。この電源アダプタは出力45Wなので充電できて何ら不思議ではないのだが、「ThinkPadの電源アダプタでMacBookが充電できる」と書くとなかなか新鮮だ。かつてUSBが登場した頃、WindowsとMacで同じマウスが使えることにカルチャーショックを覚えたものだが、その感覚に近いものがある。
組み合わせによってはまったく給電できないThinkPad X1 Carbon
さて、MacBookでは充電できない組み合わせは存在しなかったが、ThinkPad X1 Carbon(2017)(以下ThinkPad)はどうだろうか。結論はというと、こちらはMacBookと違って波乱含みの結果となった。以下がその詳細となる。
略称 | メーカー(ブランド) | 品番 | 長さ | 規格 | 最大電流 | USB PD | USB IF認証 | MacBookアダプタ利用時 | Ankerアダプタ利用時 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AB | AmazonBasics | L6LUC017-CS-R | 0.9m | USB 3.1 Gen 1 | 表示なし | 表示なし | - | 2.3~2.5A | 0.03A |
AK | Anker | PowerLine+(AK-A8187091) | 1.8m | USB 2.0 | 表示なし | ○ | - | 2.3~2.5A | 0.03A |
C | Cable Matters | 107002-BLK-0.5m | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 表示なし | 表示なし | ○ | 2.3~2.5A | 0.03A |
E1 | エレコム | USB3-CC5P05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 5A | ○ | ○ | 2.3~2.5A | 0.03A |
E2 | エレコム | USB3-CCP05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 2 | 3A | ○ | ○ | 2.3~2.5A | 0.03A |
E3 | エレコム | MPA-CC13A05NBK | 0.5m | USB 3.1 Gen 1 | 3A | ○ | - | 2.3~2.5A | 0.03A |
E4 | エレコム | U2C-CC5P05NBK | 0.5m | USB 2.0 | 5A | ○ | ○ | 2.3~2.5A | 0.03A |
E5 | エレコム | U2C-CC05BK | 0.5m | USB 2.0 | 3A | × | - | 2.3~2.5A | 0.03A |
M | 丸七 | VM-07 | 0.5m | USB 2.0 | 3A | × | - | 2.3~2.5A | 0.03A |
まずMacBookのアダプタと組み合わせた場合だが、こちらはどのケーブルを使った場合でも電流は2.3~2.5A、ワット数に直すと約44~50Wが供給されている。ThinkPad純正のアダプタ(最大45W)を使った場合は2.0~2.2A、ワット数に直すと約38~44Wなので、ごくわずかではあるものの、MacBookアダプタを使ったほうが高速に充電できることになる。
上の結果を見る限り、ケーブルは5A対応でも3A対応でも違いはない……と言いたいところだが、利用シーンによっては違いが出る場合がある。ThinkPadはバッテリ残量が低下すると急速充電を行おうとするのだが、この際に5A対応ケーブルでは電流が瞬間的に3.3A前後まで上がるのに対して、3A対応ケーブルでは2.9Aで頭打ちになってしまう。つまり環境はかなり限定されるものの、5A対応のケーブルを選んでおけば恩恵を享受できる場合もあるというわけだ。
なお、ThinkPadではユーティリティ「Lenovo Settings」に含まれる「電源状況」で、接続されているアダプタを何ワットとみなしているか確認できるが、5A対応ケーブルでは87W、3A対応ケーブルでは60Wとして認識される。これはさきほどMacBookのシステムレポートで表示された値と一致しており、正しく認識されていると見てよさそうだ。
そしてもう1つ、Ankerのアダプタを使った場合だが、ケーブルの種類を問わず、充電は行なえなかった。文字通りの「全滅」である。具体的な挙動としては、Windows側で「間違ったACアダプターが挿さりました」というアラートが表示されるほか、ユーティリティの表示も「放電中」のままで「充電中」にならない。チェッカーの値はほぼゼロにあたる「0.03A」を示したまま動かない。
ちなみにAnkerのこのアダプタは、現時点で入手可能なUSB PD対応のアダプタとしては候補の最右翼に上がる製品だが、Amazonのレビューを見ていくと、特定のWindows PCで動作しないという情報がかなり寄せられている。これは不具合というより、一定の電力を得られないアダプタは受け付けない仕様のPCが多数存在しており、それに引っかかっているものと考えられる。今回の例で言うと、ThinkPadが求める最低限のワット数(おそらく45W)に、Ankerのアダプタの出力(30W)が届いていないものと考えられる。
USB PD対応PCにみる設計思想の違い
以上見てきたが、MacBook Pro 15インチとThinkPad X1 Carbonは、USB PDまわりの設計において、まったく思想が異なっているのが面白い。前者はたとえ低速であっても充電を行なう設計で、ユーザーにとって利便性が高い。一方のThinkPad X1 Carbonは定められた電力を下回るアダプタは切り捨てるという設計で、機器の安全性を考えればこうしたアプローチもあって当然だろう。Windows PCでは今回のThinkPadと同様の製品が多いようで、設計思想の違いを感じる。
今回の結果を踏まえて考えると、USB PD対応のアダプタは、とにかく大容量のものほどつぶしが利く……という結論になるが、そもそもUSB PDに対応したアダプタ自体、現状ではまともに使える製品が少ない。とくに大容量のアダプタともなると、今回紹介したAppleの87W対応製品以外に選択肢がほぼ皆無で、しかもこの製品は実測で296gもの重量があるので、荷物の軽量化を目的とする場合は不向きだ。このあたり、まだまだ黎明期という印象が強い。
ちなみに業界団体であるUSB-IFは、USB PD対応の充電器を対象とした認証プログラム「Certified USB Charger Program」を2016年8月に発表しており、それにパスした製品は「45W」などワット数を含んだロゴの表示が行なえるようになる。対応製品はホームページでも公開されており、いまのところ日本で流通している製品は見当たらないが、今後対応製品が増え、国内でも流通するようになれば、現状のわかりにくさが緩和されるかもしれない。
次回はスマートフォン編として、Type-Cコネクタを搭載したスマートフォンにまつわる検証をお届けする。