特集
【特集】これで失敗しない、USB PD充電器選び(タブレット/スマホ/ゲーム機編)
~iPad ProとPixel 3、Nintendo Switchで検証
2019年1月22日 11:00
前回は「ノートPC編」として、レノボ「ThinkPad X1 Carbon(2018年モデル) 」、Apple「MacBook Pro 13インチ(2017)」の2製品について、各社のUSB PDアダプタとの総当たり検証を行なった。今回は「タブレット/スマホ/ゲーム機編」として、3製品の検証結果を紹介する。対象となるUSB PDアダプタ8製品の詳細情報、およびテスタなどの詳細は、前回の記事をご覧いただきたい。
12.9インチiPad Pro(第3世代)
Lightningに代えてUSB Type-Cを採用した、12.9インチiPad Proの第3世代モデル。ホームボタンの廃止などにより、画面サイズはそのままに、筐体サイズが従来モデルよりもコンパクトになっている。付属のアダプタはType-Cケーブルを用いて接続する仕様で、最大18Wまで対応する。なおAppleではUSB Type-Cを「USB-C」と表記しているが、本稿では前者の表記に統一している。
総評
従来のLightnigに代えてUSB Type-Cを採用した新型iPad Proは、USB PDによる高速充電に対応している。この12.9インチモデルに関しては、最大30Wでの充電に対応するとされている。
ところが標準添付のアダプタは最大18Wしかなく、実際にテスタで測定しても、9V/2Aをギリギリまで使うかたちで充電を行なっている。アダプタがボトルネックになっているのは明らかで、出力の大きいUSB PDアダプタに交換することで、それだけ高速な充電が可能になる。
「なるほど、最大30Wなので最大出力30Wのアダプタを使えばいいんだな」と考えるのは早計で、実測値は若干低くなることを考慮しなくてはいけない。実際に測定すると、最大30Wのアダプタでは29W前後(15V/1.9A)程度、最大45Wのアダプタでは35W前後(15V/2.3A)程度となり、後者のほうが約2割高速だ。PDO(Power Data Object)を見ると、後者は15V/3Aが選択されている。
30Wを多少超えているとは言え、この程度の負荷は問題ないはずで(ダメならiPad側で低いPDOを選択するだろうからだ)、新規にUSB PDアダプタを買うなら最大45W以上のモデルがよいだろう。それ以上はiPad側がボトルネックになるので、わざわざ60W以上のアダプタを選ぶ意味はない。ケーブルも5A対応ではなく、3A対応で十分だ。
参考までに、バッテリ残量30%の状態から1時間でどれだけ充電できるか、標準アダプタと45W対応アダプタとを比べてみたところ、前者は60%までしか回復しないのに対して、後者だと85%まで回復した。外出直前になって充電を忘れていたことに気づき、限られた時間でできるだけバッテリを回復させるようなケースでは、45W以上のアダプタは確実に重宝するはずだ。
Google Pixel 3
Androidのリファレンスとなる5.5型のGoogle製スマートフォン。最新のAndroid 9 Pieを搭載し、コネクタにはUSB Type-Cを採用している。付属のアダプタは付属のType-Cケーブルを用いて接続する仕様で、最大18Wまで対応する。Qi規格のワイヤレス充電にも対応。キャリア版のほか、GoogleからSIMロックフリー版も販売されている。
総評
Pixel 3が採用するプロセッサ「Snapdragon 845」は、クアルコムの急速充電規格「Quick Charge3.0」のサポート対象に入っているが、本製品ではQuick Chargeは(おそらく意図的に)利用できなくなっている。それゆえ、急速充電を行なうのであれば、USB PDを利用することになる。
ただしUSB PDを使っても、最大18W止まり、実測値では10W前後(9V/1.1A)程度と、値はかなり控えめだ。ログを見るとどの製品も9V/3Aで接続されており、30W以上のアダプタともなると実測値は完全に横並びとなっている。
機器付属の18Wアダプタを使った場合は、9V/2Aとわずかに電流値が低いのだが、こちらも実測では10W前後(9V/1.1A)と差はなく、本体側がボトルネックになっていることがうかがえる。USB PDとしてはかなり控えめな値だ。
USB PDを使わず、通常のUSBポートから充電した場合と比べると、Satechi「ST-MCTCAM」に付属するQuick Charge 3.0対応のUSBポート経由で充電した場合は4.9V/1.4Aで6.9W程度。同じくSatechi「ST-MCTCAM」の標準USBポート経由で充電した場合は5V/1.4Aで7.1Wということで、USB PDの6~7割といったところだ。
このほか、Anker「PowerPort ll PD(A2321)」のPowerIQ 2.0対応のUSBポート経由だと5W前後(4.7V/1.1A)、AUKEY「PA-Y12」のAiPower対応USBポート経由だと7W前後(5V/1.4A)と、こちらもUSB PDには及ばない。
この結果から見るに、USB PDとしては控えめとは言え、同等以上のスピードで充電する方法は現状ほかになく、本製品を少しでも高速に充電したければ、やはりUSB PDの力を借りる必要がある、という結論になりそうだ。
任天堂「Nintendo Switch」
2017年発売の任天堂製ゲーム機。単体での利用に加えて、付属のドックを用いて大画面TVに接続しての利用にも対応する。公式にはUSB PD対応をうたっているわけではないが、本体およびドックのコネクタはいずれもUSB Type-Cを採用しており、USB PDに一部準拠した急速充電に対応することが解析で判明している。付属のACアダプタは本体とドックのどちらにでも接続できる仕様で、最大39Wまで対応する。
総評
Nintendo Switchは、単体での利用に加えて、ドックと組み合わせての外部ディスプレイのへの接続、左右Joy-Conの取りつけなど、機器の組み合わせパターンは多岐にわたる。これらすべての組み合わせに加え、「充電中にドックから本体を抜いた場合の変化」のような、細かい挙動までチェックしていくとキリがない。
よって本稿では、「Switch単体での充電」と「Switchをドックにセットして抜き差ししない状態での充電」(いずれもJoy-Con装着済み)に絞って検証する。
さて、Nintendo Switchについてまず知っておくべきなのは、公式にUSB PDへの対応を表明しているわけではないことだ。よって同社のライセンスのないサードパーティ製アダプタを使ってトラブルが発生しても文句は言えない。そもそもUSB PD対応ではないため、たとえUSB-IFの認証を取得しているサードパーティ製アダプタでも、それが何らかの保証になるわけではない。
「それならばコネクタにUSB Type-Cを使うような紛らわしい設計をすべきではないのでは」と愚痴の1つも言いたくなるが、こうしたことからユーザーがアダプタを追加購入する場合、少なくともUSB PDアダプタのメーカー自身が検証を行なって「動作確認済み」と公式に表明している製品を選ぶべきだろう。
さて今回の検証対象としている8製品のうち、メーカーホームページ、もしくはAmazonの製品説明のなかに「Switch動作確認済み」との記載を見つけられたのは以下の4製品だ。
・ゴッパ「E00650A1CBLKUS」
・Omars「OMWCBK60WPDYX」
・AUKEY「PA-Y12」
・Satechi「ST-MCTCAM」
このほか、Anker「PowerPort+ 5 USB-C Power Delivery(A2053)」は、Amazonの製品ページに明確に「非対応」との表記がある。エレコム「MPA-ACCP01BK」、サンワサプライ「ACA-PD58BK」、Anker「PowerPort ll PD(A2321)」は、Switchへの言及を見つけられなかった。
Switchへの言及のない3製品のうち、エレコム「MPA-ACCP01BK」は、12月発表の新製品「MPA-ACCP02BK」では明確に「Nintendo Switchなどのゲーム機まで幅広く高速充電できます」と記載していることから、今回の「MPA-ACCP01BK」では「対応」をうたえない何らかの事情があるとみられる。こうした製品は見送ったほうがよいだろう。
さてここからが本題だが、「対応」をうたっているUSB PDアダプタ4製品のログを見ると、いずれもPDOは「15V/3A」で接続されている。そもそもSwitch本体の対応電圧は最大15V、純正アダプタの最大出力は15V/2.6Aであるため、Switch側がボトルネックとなり、最大60Wもしくは65Wのアダプタは、そのポテンシャルを発揮できていない。
そればかりか、実測値ベースでは12~15W程度とかなり控えめな値だ。本製品は接続直後は7W前後(14V/0.5A)で充電を開始し、数十秒経過すると14W前後(14V/1A)へとスピードアップする共通の特徴があり、これは純正アダプタを使った場合も、またドック経由で接続した場合も大きくは変わらない。電圧はつねに15V前後を行ったり来たりで、電流値だけが変化するのが特徴だ。
これは3Aに対応していない粗悪なケーブルで接続した場合の事故を防ぐため、電圧の側を上げておくことで、電流は極力低めで済むように設計しているのかもしれない(筆者の推測である)。ともあれ、本製品への対応をうたっているUSB PDアダプタを買う場合、純正ACアダプタの最大出力(39W)をカバーできてさえいれば、あまり大容量にこだわる必要はなさそうだ。
ところで本製品のACアダプタ「HAC-002(JPN)」は、USB PDの規格から外れた特徴がある。それは対応する電圧が「5V」と「15V」で、間にあるはずの「9V」が抜けていることだ。つまり供給電力を決める時の選択肢がほかの製品より少なく、15Vが使えなければ、一気に電圧が5Vにまで下がってしまうことになる。
スマホやタブレットにおけるUSB Type-Cの急速充電では電圧9Vが用いられることが多く(前出のPixel 3がまさにそうだ)、このACアダプタではスマートフォンやタブレットを充電できたとしても、急速充電の恩恵が受けられない可能性がある。というよりも(くどいようだが)このアダプタはUSB PD準拠とは公式にうたわれていないので、ほかのデバイスの充電に利用する場合は自己責任になる。くれぐれも注意してほしい。