山田祥平のRe:config.sys

GoToレスなモビリティ

 かつては移動に伴う時間を有効に活かすことがモビリティのめざす要素のひとつだったが、移動の回避が求められる現状では、そのファンクションを再考する必要がある。新型コロナ可視化のためにさまざまなアプローチが進行中だが、それが一定の成果を見せるまでは、身の回りのあらゆるものにコロナがついていると思って行動することが必要だ。

PCを清潔に保つ

 現状では、スーパーでの買い物をして、陳列棚から取り出した商品をカゴにいれ、レジでスキャン後、別のカゴに移動させた上で精算する。これだけの行為のなかに、いったいどれだけの感染リスクが潜在しているのか。商品やカゴに感染者の飛沫がこびりついている可能性もあれば、クレジットカードやスマホなどで非接触キャッシュレス決済をしたとしても、機器へのわずかな接触や受け取るレシート、有償のレジ袋にコロナが皆無とは限らない。

 とにかく心配なので、購入した商品を自宅に持ち帰ったら、とにかく洗えるものはすべて洗剤で洗う。そのあとさらにハンドソープで手を洗う。あるいは3日間をめどに放置する。これは、リアル店舗での買い物だけではなく、通販で購入した荷物や郵便物が宅配便で届いたときも同様だ。

 そういう意味では、いつも持ち歩いているモバイル機器においても、丸洗いができればどんなに安心か。スマホなどのデバイスは防水のものが少なくない。今のところは外出から戻ったところでアルコールを含ませた不織布などでぬぐうようにしているが、アルコールは使いすぎるとディスプレイ表面のコーティングにダメージを与える可能性があるので、本当は中性洗剤で洗いたい。ただ、石けんやボディソープの多くはアルカリ性なので、台所用の中性洗剤を使うのがよさそうなものだが、防水とはいえ洗剤には対応していないものがほとんどだから注意が必要だ。

 仕事の相棒としてのノートPCはどうか考える。オンライン会議でしゃべれば画面に自分の飛沫が飛ぶ可能性がある。自分しか使わないことを徹底しよう。また、キーボードやスライドパッドを指先で操作すれば、どこかで拾ったウィルスが往来するかもしれない。とにかくPCを操作する前後には必ず手を洗うようにするといった対策も必要だ。また、外装をはじめ、キーボードやスライドパッド、マウスといったHIDをこまめにクリーニングするなども有効そうだ。仮に、自分しか使わないことが保証されているPCであっても、念には念を入れたほうがいい。

 コンピュータウィルスの防止には、PCの使用前後によく手を洗えばOKという笑い話があったが、それが笑い話ではなくなりつつある感じだ。

 それほど念入りに対策していても、ウィルスが目に見えない以上、どのような経路で感染が起こるのかは予測不可能だし、防御も難しい。とにかく見えない相手と遭遇する確率を限りなくゼロに近づけられるように努力するしかない。

 そんなにめんどうなら、たとえ移動したとしても、外ではモバイル機器を使わないというのが安心という本末転倒な世界にぼくらは住んでいる。

モバイルノートの再定義

 新しい当たり前の世界観のもと、モバイルノートPCに求められる要素も少しずつ変化がはじまっているようだ。以前からその気配が皆無だったわけではないが、比較的大きなディスプレイを持つノートが求められている。

 スペースの都合でデスクを設置するのもままならない在宅勤務では、外部ディスプレイを使うのも難しいケースもある。ならば、いったんは13.3型にシフトしつつあったノートのディスプレイを14型や15.6型に、場合によっては17型のものなどが歓迎されるようになる。どうせ持ち運ぶ機会は激減したのだから、重量がかさんだとしてもあまり負担にはならないという計算もある。

 また、モバイルノートは薄軽設計のために、熱処理がたいへんで、搭載プロセッサ本来の実力を最大限に発揮できない宿命を持っている。PCが高性能であることを求めるなら、スクリーンの大型化は、熱設計にも有利に働くだろうから一石二鳥でもある。

 拡張性はどうかというと、クラウド依存が高まるなかで、もうそんなにType-AのUSB端子はいらないんじゃないかという声もよくきこえてくる。それよりも同じ仕様のThunderbolt 3端子が両脇に1こずつというのがいい。こうなっていれば左右どちら側からでも電源を供給できるし、外部ディスプレイに接続する場合を含め、ケーブルの取り回しで位置関係に束縛されずラクチンだ。

 USB Type-C端子を複数持つノートPCでも、端子ごとに仕様が異なるのは使いにくい。1つはThunderbolt 3対応で、もう1つは非対応だったりするのでは困る。外部ディスプレイに出力したら、電源を確保できなくなったりするのもやっかいだ。

 ちなみに、昨今では、Thunderboltドッキング周辺が賑やかだが、複数のType-Cポートを持つドッキングの多くはUSB PDパススルーに対応していても、DP Altモードに対応していないために、外部ディスプレイへのType-C出力ができないことが多い。電源の確保とDP AltモードのDP出力を両立させるためには、やはりPC本体に複数のType-Cポートが同じ仕様で装備されているのが望ましい。

 先日、パナソニックの技術者とオンラインで話をする機会があったのだが、レッツノートでは当面、バレルコネクタの撤廃は考えていないということだった。PCの性能を維持するためには、どうしても大きな電力が必要だし、バッテリを安全に高速に、そして効率よく充電するためにもそのほうがいいからだそうだ。そこがスマートフォンのようなデバイスとノートPCのようなデバイスとの違いである。

 PDの仕様は、今のところ20V/5A、すなわちPDP 100Wまでしか決まっていない。だが、GPUを含めたPCの統合環境で、最高性能を求める場合には、とても100Wでは足りない。誰もが動画編集などの高負荷な作業をするわけではないが、そんなニーズが高まっているのも事実だ。USB PDも将来のことを考えて、20V/15A、つまり300Wくらいまでは定義しておいてもよかったんじゃないだろうか。

 先日、IntelからThunderbolt 4についての発表があったが、USB4を包含する規格であれば、扱える電力についても考慮するべきだったと思う。こんなことではいつまでたっても機器ごとに異なる口径の、やっかいなバレルコネクタを撲滅することができない。PDの定着のためにも思い切った取り組みが欲しいところだ。

内蔵バッテリに依存しない電源確保

 今、必要なのは、バッテリを内蔵しないノートPCかもしれない。とにかく電源を確保できない場所でPCを使う場面が少なくなりつつあるのだから、PCの陳腐化を加速するバッテリは、着脱式に戻すなり、最初から搭載しないでおくなりしてもいいんじゃないか。多くのエンドユーザーにとって、消耗品としての内蔵バッテリ劣化は、時間にしてもカネにしても、交換コストを考えれば、PCそのもののライフサイクルの終了を意味するというのはしのびない。

 うちの生活空間では、各部屋のいたるところのコンセントに60W程度のPDアダプタを装着し、2m程度のType-Cケーブルを引き出しておいて電源を確保できるようにしてある。スマホもタブレットも、ノートPCも、あらゆるデバイス(iPhone以外)がそのケーブルで電源を確保できる。

 バッテリが内蔵されていないと、数mの移動にもスリープができず、シャットダウンや休止状態に移行というのは使いにくいかもしれないが、今のUSBメモリみたいな形状のチビバッテリをType-C端子に装着すれば5分間だけ稼働とか、1時間はモダンスタンバイOKというようなことでもよさそうだ。Type-C端子に直に装着できるPD対応ナノバッテリなら交換も容易だ。そういうデバイスが欲しい。そして、そんな使い方のためにも複数のポートがPD対応していてほしい。

 各PCベンダーは今、2年後くらいの環境を想定して製品企画を進めているはずだ。そのころ、コロナ禍が終息しているのかどうかはわからない。新しい当たり前が浸透し、働き方も変わっているのなら、モバイルノートPCの正統進化は、従来考えられていたものとはちょっと違う方向性を持たされていることもありえる。そこで誕生するであろう新しい当たり前に基づく新たなフォームファクタ。各社の賢察を期待したい。