福田昭のセミコン業界最前線
開発が本格化する次世代EUV露光技術、3nm以降の微細化を主導
2019年1月22日 06:00
EUV露光が微細化を10年先まで牽引する
最先端の半導体ロジックやDRAMなどの微細化と高密度化を牽引する、次世代のEUV(Extreme Ultra-Violet : 極端紫外線)露光技術の開発が本格化つつある。開発が順調に進めば、2020年代後半には最先端の半導体で量産を担うことになる。
本コラムでご報告したように、EUV露光技術は7nm世代の半導体ロジックから、量産への導入がはじまった(EUV露光による先端ロジックと先端DRAMの量産がついにはじまる参照)。そして将来の5nm世代と3nm世代の半導体ロジックまでは、7nm世代で量産適用された「現行世代」のEUV露光技術を改良することによって、微細化を継続する見通しが立ちつつある(見えてきた7nm以降の量産用EUV露光技術参照)。
一方、「現行世代」のEUV露光技術では3nm世代の半導体ロジックが、微細化の限界になると見られている。3nm世代から2nm世代、さらにはその先の1.4nm世代は、「次世代」のEUV露光技術が牽引することになる。
次世代EUV露光では開口率を1.67倍に高める
「現行世代」のEUV露光技術と「次世代」のEUV露光技術では、光学系の開口率(NA)が大きく違う。現行世代のNAは0.33である。これに対して次世代のNAは0.55と高い。このため次世代のEUV露光技術は、「High-NA(高NA)」あるいは「HiNA」などと呼ばれることが多い。
半導体露光技術における解像度(ハーフピッチ)(R)は、露光の波長(λ)に比例し、光学系のNAに反比例する。NAを高くすると、ハーフピッチが短くなる。すなわち微細化が進む。「High-NA」の0.55という開口数は、現行世代の0.33に比べて1.67倍と高い。言い換えると、ハーフピッチは0.6倍に短くなる。この違いはきわめて大きい。
この違いがどれほどのものなのか。少し細かく見ていこう。たとえば5nm/3nmの技術ノードに対応する12nmのハーフピッチを解像するためには、現行世代のEUV露光技術だとマルチパターニング(多重露光)技術、具体的にはトリプル露光(LELELE)技術が必要になる。トリプル露光はシングル露光に比べると、スループットが著しく低い。このため、パターンの加工に必要なコストがシングル露光に比べると大きく増大する。
これに対して次世代の「High-NA」EUV露光技術では、シングル露光でハーフピッチが12nmのパターンを解像できる。両者のスループットには、4倍の開きが生じる。1層のパターン加工に必要な製造コストで比べるとNAが0.55のシングル露光では、NAが0.33のトリプル露光に比べてコストが2.5分の1前後に下がる。
次世代EUV露光装置の試作機は2021年末までに出荷へ
次世代の「高NA」EUV露光を実現する露光装置(スキャナ)の開発を主導しているのは、唯一のEUV露光装置メーカーでもある、ASMLである。そのASMLによると、NAが0.55のEUV露光装置の最初の試作システムは、2021年末までに出荷を予定する。
この研究開発用試作システムは、昨年(2018年)第1四半期の段階で3者の顧客から、4台の受注を得ている。顧客の3者には研究開発機関のimecと、最大手シリコンファウンダリのTSMCが含まれると見られる。なおimecはASMLとは次世代EUV露光技術の開発でパートナーの関係にある。imecが、実際のパターニングにおける評価を担う。
また量産用システムの出荷は、2024年にはじめる計画である。この量産用システムについても、昨年(2018年)第1四半期の段階で8台分の予約が入っている。量産初期の技術ノードは、3nm世代となる見込みだ。
高NA化で光学系が大きく、重くなる
EUV露光装置でNAを0.33から0.55に高めようとすると、最初に大きく変更しなければならないのは、光学系である。光学系は、光源からマスク(レチクル)にいたるまでの前半部分に相当する「照明光学系」と、マスクで反射したパターンをウェハに転写するまでの後半部分に相当する「投影光学系」に分かれる。
マスクのパターンは縮小してウェハに投影されるので、マスクのNAは「ウェハのNA/縮小率(4倍)」となり、もともと非常に小さい。このため、照明光学系はそれほど大きくは変更されないとみられる(光源の出力向上による対応は考慮していない)。
これに対して投影光学系は、非常に大掛かりな変更が必要となる。粗くまとめてしまうと、光学系の寸法が高く、広くなり、反射レンズが巨大になる。もっとも巨大な反射レンズはウェハに対面する対物レンズで、レンズ本体の重量は数100kg、枠組みを含めると総重量は1tに達するとされる。
なお光学系は従来から、半導体製造用精密光学部品メーカーのCarl Zeiss SMTがEUVスキャナの共同開発パートナーとして開発を担ってきた。NAが0.55の光学系も、同社が開発を担当している。
投影光学系は大きく、重くなるにも関わらず、光学系に要求される精度は緩和されない。むしろ厳しくなる。そもそも、NAの大きな対物レンズを製造することが自体が難しい。なおかつ、波面収差はNAが0.33の光学系に比べて小さく抑える必要がある。そして投影光学系における光の散乱はより小さく、コントラストはより高くしなければならない。
縮小率を高めてパターンのコントラストを維持
NAが0.55の投影光学系ではもう1つ、大きな変更がある。縮小率が変わる。
NAが0.33のEUVスキャナでは、縮小率が4倍だった。これはマスク(レチクル)の露光領域の寸法が、ウェハの露光領域の寸法の4倍になるという意味だ。ウェハ表面で1回のスキャンによって露光する領域(フルフィールド)は幅26mm×長さ(スキャン方向)33mmであり、面積では858平方mmとなる。対応するマスクの露光領域は幅104mm×長さ(スキャン)132mmである。
これらの露光領域はArF露光装置(ArFスキャナ)と同じ寸法であり、EUV露光装置とArF露光装置を適切に組み合わせることが前提の半導体製造プロセスでは、都合が良い。言い換えると、ArFスキャナで設計されている露光工程の一部にEUVスキャナを容易に組み込むために、同じ寸法のフルフィールドにしてある。
しかしNAを0.55に高めた次世代のEUVスキャナでは、重大な不都合が生じた。マスクで入反射する光ビームの角度が広がるために、パターンのコントラストが許容できない水準にまで、低下する。単純な対策としてはマスクの材料や構造などの見直しが挙げられるものの、現状では見通しが立たない。
そこで考え出されたのが、縮小率の拡大である。たとえば縮小率を8倍にすると、マスクにおける光ビームの角度が小さくなる。マスクで反射されるパターンのコントラストが向上する。ただし、マスクが同じ寸法のままで縮小率を8倍(従来の2倍)にすると、ウェハにおける露光領域の面積が従来の4分の1と大幅に小さくなってしまう。
露光領域の面積を従来どおりに維持するためにはマスクの面積を従来の4倍に拡大しなければならないが、マスクそのものはもちろんのこと、照明光学系も大幅な変更、すなわち基本からの技術開発が必要となる。これは現実的ではない。
折衷案となったのが、スキャンの幅方向の縮小率は従来と同じ、4倍のままとすることである。スキャンの幅方向は寸法が短いので、コントラストの低下が許容できる水準に収まっていた。一方、スキャン方向(スキャンの長さ)は寸法が長く、コントラストの低下が許容しにくい。そこでスキャン方向だけ、縮小率を8倍としてコントラストの低下を防いだ。
この結果、ウェハにおける露光領域の面積は従来に比べ、半分(ハーフフィールド)となった。寸法は幅方向が26mm、スキャン方向(長さ方向)が16.5mmである。現在はこのハーフフィールドを採用して実用化を進めている。
スループットを大幅に高めた次世代EUVスキャナの野心的な仕様
露光領域の面積が従来のハーフフィールドになるということは、ウェハ当たりのショット数(露光回数)が2倍に増えるということを意味する。すなわち、スループット(単位時間あたりのウェハ処理枚数)が低下する。
スループットを維持するために、高NAのEUVスキャナではマスクステージの速度を従来の4倍に、ウェハステージの速度を従来の2倍に高める。さらに、光源の出力を向上させることで、スループットを1時間当たりで185枚(目標仕様)と、NAが0.33の現行機種「NXE:3400」の145枚~155枚(目標仕様)よりも大幅に向上させようとしている。
半分の露光領域でも高いスループットを維持するオプション
ASMLは、この185枚/hという高いスループットを前提にすれば、ハーフフィールド(26mm×16.5mm、あるいは429平方mm)を超えないシリコンダイを扱うかぎり、現行世代の目標仕様である145枚/hよりも高いスループットを実現できるとしている。
たとえばフルフィールド(26mm×33mm)に9枚のシリコンダイを収容する場合を想定しよう。シリコンダイの寸法は11.0mm×8.66mm(95.26平方mm)である。単純にハーフフィールドで分割すると2枚のマスクが必要となり、スループットは25%ほど下がる。すなわち138枚/hとなり、現行世代の目標仕様である145枚/hよりも低くなってしまう。
そこでマスク1枚でフルフィールドのスキャンを完了させることを考える。たとえば、3分の1のフィールドを3回スキャンする。この場合はスループットの低下は15%に抑えられる。すなわち157枚/hとなり、現行世代を上回る。
さらに、シリコンダイの寸法を微調整してハーフフィールドに最適化することを考える。たとえばシリコンダイの寸法を11.55mm×8.25mm(95.29平方mm)に変更する。するとハーフフィールドに4枚のシリコンダイが、かなりきれいに収まる。スループットの低下はわずか5%で済む。175枚/hのスループットを得られる。
心臓部である光学系から開発が本格化
最後に、次世代の「高NA」EUV露光を実現する露光装置(スキャナ)の開発拠点をご紹介しよう。露光装置全体の開発を担うASMLの拠点と、光学系の開発を担うCarl Zeiss SMTの拠点がある。
ASMLの開発拠点はおもに3つ。米国コネチカット州のウィルトン(Wilton)工場(トップモジュールの担当)と、オランダのフェルドホーヘン(Veldhoven)工場(最終組み立ての担当)、それから米国カリフォルニア州のサンディエゴ(San Diego)工場(光源の担当)である。Carl Zeiss SMTの開発拠点はおもに1つ。ドイツのオーバーコッヘン(Oberkochen)工場(光学系の担当)である。いずれも新しい建屋を建設したり、既存の建屋を拡張したりといった対応を進めている。
これら4つの開発拠点のなかでも目立った動きをしているのが、Carl Zeiss SMTのオーバーコッヘン工場だろう。一昨年(2017年)から昨年(2018年)にかけての活動実績が公表されている。建設中の新しい建屋や、EUVの光学系を開発するための巨大な真空容器(ベッセル)、重量が数100kgに達するレンズを扱うためのロボットクレーンなどの画像である。
NAが0.55の次世代EUV露光技術の開発は、「10年先」を見据えた技術開発である。最初の量産対応機種の出荷が5年後。改良した機種の出荷はさらに先になる。今後の開発の進展を、見守っていきたい。