福田昭のセミコン業界最前線
見えてきた7nm以降の量産用EUV露光技術
2019年1月15日 12:45
先端ロジック半導体の量産に向けた、EUV(Extreme Ultra-Violet : 極端紫外線)露光技術の将来像が見えてきた。7nm世代の技術ノードから量産が今年(2019年)にはじまり、2年~3年の間隔で次世代の技術ノードへと移行する。
すなわち5nm世代の量産開始は2021年、3nm世代の量産開始が2023年というのが、EUV露光技術の開発が比較的順調に進んだときのスケジュールとなる。さらに次の世代である2nm世代の技術ノードについては、やや曖昧だ。量産開始時期は早くても2026年になるとみられる。
解像度(ハーフピッチ)を決めるのは波長と開口数、プロセス係数
技術ノードの移行は、半導体露光技術の解像度(ハーフピッチ)の向上が牽引する。ArF液浸露光技術やEUV露光技術などにおける解像度(R)は、露光の波長(λ)に比例し、光学系の開口数(NA)に反比例する。すなわち解像度を高めるには、波長を短くするとともに、開口数を大きくすることが必要である。
実際には、「プロセス係数(k1)」と呼ばれる定数にも、解像度は比例する。このプロセス係数を低くすると解像度が上がる。ただしプロセス係数の最小限界値は0.25で、これ以下にすることはできない。
ArF液浸露光技術やEUV露光技術などでは、光源の波長は固定であり、動かせない。ちなみにArF液浸露光の波長は193nm、EUV露光の波長は13.5nmである。両者には10倍を超える開きがあり、単純計算ではEUV露光が圧倒的に有利であることがわかる。
ArF露光技術までのいわゆる光リソグラフィ(露光)技術では、開口数を高めることが解像度向上の有力な手段となってきた。具体的には露光装置であるステッパやスキャナなどの光学系を改良することで、開口数を上昇させてきた。
これに対してEUV露光技術では、開口数はあまり動かせない。X線の反射光学系を使うEUV露光技術では、光学系がきわめて複雑な構造になっており、光学系の変更は多大な開発投資を伴う。このため、EUV露光装置で開口数が変更されたことは、過去に一度しかない。初期のEUVスキャナの開口数は0.25であり、現行機種の開口数は0.33である。いずれもArFドライ露光の最高値である0.93に比べると、かなり低い。
本コラムで昨年(2018年)12月にご報告(EUV露光による先端ロジックと先端DRAMの量産がついにはじまる)したように、7nm世代の最先端ロジックの量産に使うEUVスキャナ「NXE:3400B」は、開口数が0.33の光学系を内蔵する。
そして今後数年は、開口数が0.33のEUVスキャナを使いながら、解像度を高めていく。言い換えると同じ開口数の露光装置でハーフピッチを微細化していくことになる。
プロセス係数を段階的に下げて解像度を高める
このため、微細化の手法はかなりかぎられている。波長と開口数が固定されているので、残りはプロセス係数しかない。光学的には、プロセス係数を小さくすることで、解像度を向上させることになる。さらにはArF液浸露光技術と同様に、マルチパターニング技術と組み合わせることで、プロセス係数を実質的に下げる手法が使われる。そして機械的には、露光装置における重ね合わせ誤差を小さくする必要がある。
EUV露光装置メーカーのASMLは、EUV露光技術における今後の微細化を、4つの技術世代に分けて論じている。現行世代が第1世代で、7nmロジックの量産に適用される世代でもある。プロセス係数は0.45前後となる。
続く第2世代では、プロセス係数を0.40未満に下げる。露光技術のハードウェア(光学系)とソフトウェア(レジスト)を改良することで、実現する。基本的な考え方は、現行技術の改良である。
そして第3世代では、プロセス係数を0.30以下に下げる。実現には現行技術の改良だけでは難しく、マルチパターニング技術や新しい材料のマスク、新しい材料のレジストといった要素技術の導入が必要だとする。さらに第4世代では、プロセス係数が下げられないことから、開口数を0.55に高めた光学系を開発する。
ASMLが公表した技術世代の資料では、プロセス係数の値が具体的には述べられていない。そこで仮の値を入力することで、解像度がどの程度にまで向上するかを計算してみた。現行世代(第1世代)のプロセス係数は0.46だと言われている。対応する解像度(ハーフピッチ)は19nmとなる。
第2世代のプロセス係数は仮に0.39とした。対応する解像度は16nmである。最先端ロジックの技術ノードだと7nm世代から5nm世代の量産に適用できる。第3世代のプロセス係数は仮に0.29とした。対応する解像度は12nmである。最先端ロジックの技術ノードだと、5nm世代から3nm世代の量産に適用できることになる。
そして第4世代では光学系の開口数が大幅に変わるので、プロセス係数は第1世代と同じ、0.46と仮定した。開口数が0.55だと、プロセス係数が0.46と大きくても、対応する解像度は第3世代とほぼ同じ、11.3nmとなる。5nm世代から3nm世代の量産に適用可能な解像度である。
EUV露光技術でもマルチパターニングを導入へ
光学系やレジストなどの露光技術を改良せずに、プロセス係数k1を実質的に下げる有力な手法が、マルチパターニング(多重露光)技術である。ArF液浸露光で広く普及したマルチパターニング技術を、EUV露光技術でも採用することが検討されている。
たとえばダブル露光では、リソグラフィ(L)とエッチング(E)を2回繰り返す、LELE技術を導入する。プロセス係数が0.46のEUV露光技術(開口数は0.33)にLELE技術を導入すると、解像度(ハーフピッチ)は16nmに縮まる。シングル露光でプロセス係数を0.39に下げたのと、同じ効果が得られることになる。
さらにトリプル露光では、リソグラフィ(L)とエッチング(E)を3回繰り返す、LELELE技術を導入する。解像度(ハーフピッチ)はさらに縮まり、12nmとなる。シングル露光でプロセス係数を0.29に下げたのと、同じ効果が得られることになる。
ただしマルチパターニング技術では、スループットが大幅に低下する。シングル露光(SE技術)におけるウェハの処理枚数(1時間当たり)を130枚とすると、ダブル露光(LELE技術)では70枚と半分近くに下がる。トリプル露光(LELELE技術)だと、スループットは40枚とシングル露光の3分の1以下になってしまう。
まとめると、次世代である5nmの技術ノードではシングル露光を維持しながらプロセス係数を0.39に下げる方向と、ダブル露光(LELE技術)の採用によって実質的にプロセス係数を下げる方向がある。いずれも解像度は16nmである。量産の開始時期は2021年と予測する。ダブル露光を採用すれば、2020年と前倒しで量産を開始可能になるだろう。
次々世代である3nmの技術ノードは、もう少し複雑になる。シングル露光でプロセス係数を0.29に下げる方向とダブル露光(LELE技術)とプロセス係数が0.39の露光技術を組み合わせる方向、それからトリプル露光(LELELE技術)を採用する方向がある。いずれも解像度は12nmとなる。量産の開始時期は2023年と予測する。ただしトリプル露光を採用すれば、量産の開始時期は早まる可能性がある。
さらに次の世代である2nmの技術ノードは、開口数が0.33のEUV露光技術では実現が困難だと見られる。開口数を0.55に高めたEUV露光技術の実用化を待たなければならないだろう。
EUV露光装置の重ね合わせ精度と生産性を継続して改良
EUV露光技術の開発で非常に重要なのが、EUV露光装置(EUVスキャナ)の改良である。EUV露光装置メーカーのASMLは、出荷中の7nm世代向け量産用EUVスキャナ「NXE:3400B」に続く、開発ロードマップを公表済みである。
そのロードマップによると、「NXE:3400B」をベースに、重ね合わせ誤差を低減したバージョンをはじめに開発する。次に重ね合わせ誤差を低減したバージョンをベースに、スループット(生産性)を高めたバージョンを開発する。今年(2019年)の前半までに、これらの改良を完了させる。
続いて、これらの改良の成果を取り込んだ新機種「NXE:3400C」を開発し、今年の年末までに出荷をはじめる。「NXE:3400C」は、5nm世代の本格的な量産をになうものとみられる。
そして、重ね合わせ誤差を低減するとともにスループットをさらに高めた「次世代機」の開発を予定している。次世代機の型名は公表していない。出荷の開始予定時期は2021年の後半である。「次世代機」は、3nm世代の量産をになうことになるだろう。
これらのEUV露光装置はいずれも、開口数が0.33の光学系を搭載した機種である。ASMLは並行して、開口数を0.55に高めたEUV露光装置の開発に本格的に取り組んでいる。
「High NA」とASMLが呼ぶ開口数が0.55のEUVスキャナの出荷開始時期は、2023年の後半というのが現在のスケジュールである。最初の試作装置の完成は、2021年の年末を予定する。「High NA」装置の開発状況については、本コラムで稿を改めて述べたい。