イベントレポート

Intel、複数の小型ロボットが連携して遭難者を捜索するシステムを開発

複数の小型ロボットが相互に無線通信しながら、自律的に遭難者を探索するイメージ。Intelの講演スライドから

 Intelは、複数の小型ロボットが連携して自律的に地上を移動し、人間を探索するシステムを開発した。災害現場や事故現場などで遭難者や行方不明者を捜索し、救助する活動を支援する。システムの概要と、システムの中核であり、新たに開発したSoCの詳細を国際学会「ISSCC 2019」で発表した(講演番号2.4)。

 システムの特徴は、人間(救助本部や捜索本部など)がまったく手助けすることなしに、複数の小型ロボットが互いに無線で通信して連携を取りながら、周囲の状況を観測して自律的に移動し、遭難者(あるいは行方不明者)を探索することにある。ある小型ロボットが遭難者を発見した段階で初めて、小型ロボットは無線通信によって人間のいる本部の無線局(基地局)に発見を通報する。

小型ロボットが遭難者を発見したときのイメージ。基地局(人間のいる本部)に無線によって通報する。Intelの講演スライドから
試作した小型ロボットによるテストの様子。左は探索区域のモデル。右は小型ロボット。4台のロボットが障害物を自動的に回避しながら、探索経路を自律的に生成し、移動する。Intelの講演スライドから

 小型ロボットは、センサー群と情報処理回路、制御回路、通信回路、移動用アクチュエータ、電源ユニットで構成される。これらのなかで開発したロボット用SoCは、情報処理回路と制御回路、通信回路をまとめて搭載している。SoCを除く各ユニットを以下に説明しよう。

 センサー群は大きく2つに分かれる。1つは遭難者(人間)を発見するためのセンサー群である。具体的には、マイクとグリッドカメラだ。マイクで収集した音声信号から、音声認識によって人間の声を探す。グリッドカメラで撮影した映像からも、人間を探索する。

 もう1つは、小型ロボットの周囲環境を把握し、移動する経路をあらかじめ決定し、実際に動いた距離から現在地を再確認するためのセンサー群である。具体的にはLiDAR(レーザーライダー)、レンジセンサー、移動用車輪のエンコーダ、慣性計測センサー(IMU)などがある。

 移動用アクチュエータは大別すると2つ。前後左右に移動するためのモーターと車輪、ジャンプ(跳躍)すためのモーターとローター(回転翼)である。電源ユニットはバッテリ(電池)と電源管理IC(PMIC)で構成される。

試作した小型ロボットの構成。左がセンサー群、中央がロボット用SoC、右がアクチュエータ群。Intelの講演スライドから

センサー群の情報から探索経路を決定しつつ移動を繰り返す

 小型ロボットの制御フローは以下のようになる。センサー群で得た情報と、ほかの小型ロボットの位置情報から、次に進むべき経路をあらかじめ決める。この自律的に進行経路を決める機能を「パスプランニング」と呼んでいる。センサー群のなかではLiDARによる、障害物の位置と形状の情報が重要である。障害物を回避しながら、進行経路を決定するためだ。

 「パスプラニング」によって決めた進行経路のデータにより、ロボット用SoCのモーションコントローラを通じてアクチュエータに信号を送り、モーターを動かす。実際に移動した距離と方向はセンサー群が把握し、位置情報へとフィードバックする。

小型ロボットの制御フロー。左の黄色部分がセンサー群と動的モデル。中央の灰色部分がロボット用SoCで、センサー情報の処理と探索経路の決定(パスプランナー)、探索区域全体のナビゲーション、通信制御、移動制御(モーションコントローラ)などを担う。右の青色部分がアクチュエータと移動の動作。Intelの講演スライドから

3つの異なるプロセッサコアと2つのハードウェアアクセラレータをSoCに搭載

 開発したロボット用SoCはおもに、3つの異なるプロセッサコアと、2つのハードウェアアクセラレータ回路ユニットで構成される。

 プロセセッサコアには、センサー情報の収集と信号の前処理をリアルタイムで実行するするx86プロセッサコア、位置情報や障害物情報、ロボット間連携情報などの処理を実行するTensilica DSPコア、対象物の検出と認識を担うx86プロセッサ(アプリケーションプロセッサ)コアがある。

 ハードウェアアクセラレータ回路には、進行経路決定(パスプランニング)用アクセラレータと、移動制御(モーションコントロール)用アクセラレータがある。

 ロボット用SoCシリコンダイの製造には、Intelの22nm世代FinFETプロセスを用いた。シリコンダイの寸法は4mm角。ロジックゲート数は483万ゲートである。メモリとしてはレジスタファイル(RF)、ROM、SRAMを内蔵する。動作周波数は80MHz~365MHzである。

開発したロボット用SoCの内部ブロック図。Intelの講演スライドから
試作したロボット用SoCのシリコンダイ写真(左)と概要(右)。Intelの講演スライドから

 試作したロボット用SoCを動作させたときの、平均的な消費電力は約37mWとかなり低い。動作条件はコア電圧が0.65V、動作周波数が100MHz、動作温度が25℃である。

 また試作したロボットに容量が520mAhの3Sバッテリを載せ、地上における移動が95%、ジャンプが5%の割合で探索作業をテストしたところ、約2時間にわたって連続して稼働したとする。

ISSCC 2019のデモンストレーション会場で、試作した小型ロボットが披露された。大きさの比較のために、人物およびノートPCとともに撮影したもの。画面の中央下部にあるのが試作した小型ロボット。筆者が撮影
障害物の手前で小型ロボットが静止しているところ。移動中の速度はかなりゆっくりとしていた。ISSCC 2019のデモンストレーション会場で筆者が撮影