福田昭のセミコン業界最前線
近未来の社会を支える半導体チップが来年2月の「ISSCC 2019」に大集合
2018年11月28日 11:41
半導体集積回路の研究開発に関する世界最大の国際学会「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」が、来年(2019年)の2月17日~21日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。その開催概要が、このほど報道機関向けに発表された。
ISSCCは、半導体回路技術の研究者にとっては、もっとも格の高い国際学会として知られている。ISSCCで発表することを目指して投稿された数多くの研究成果(論文)のなかで、実際に発表できるのは約3分の1に過ぎない。来年(2019年)2月のISSCC、通称「ISSCC 2019」での発表を目標に投稿された論文(投稿論文)の数は609件である。発表に値すると認められた論文(採択論文)の数は193件。採択率(採択論文件数/投稿論文件数)は31.7%とかなり低い。
「ISSCC 2019」は、以下のようなスケジュールで開催される。2月17日(日曜日)がプレイベント(セミナーなど)、2月18日(月曜日)~20日(水曜日)がメインイベント(採択論文の講演発表など)、2月21日(木曜日)がポストイベント(セミナーなど)である。
2月17日(プレイベント):チュートリアルで最新の技術を学ぶ
ここからはISSCC 2019の概要を、開催日順に説明していこう。はじめは2月17日(日曜日)である。プレイベントとして、テーマ別の技術講座(「チュートリアル」と呼ぶ)と、共通のテーマに基づく複数の講演で構成される1日間の講演会(「フォーラム」と呼ぶ)が予定されている。
「チュートリアル」は午前に6本、午後に4本の技術講座を用意する。テーマは「集積化レーダー」、「電力変換」、「インメモリコンピューティング」、「低電力マイクロコントローラ」、「低雑音データ変換」、「クロックとデータの再生」、「ハードウェアセキュリティ」、「電流検出」、「無線トランシーバの校正」、「低雑音センサーのインターフェイス」である。
「フォーラム」では2つのテーマを用意した。1つは「サブ6GHzの第5世代携帯電話(5G)」、もう1つは「メモリ主導型コンピューティングのIoTおよび人工知能(AI)、機械学習への応用」である。いずれも、研究者と技術者にとって関心の高いテーマだ。
2月18日~20日(メインイベント):29本の講演セッションを2日半で実施
2月18日(月曜日)~20日(水曜日)はメインイベントである、技術講演会(テクニカルカンファレンス)が開催される。初日である18日(月曜日)の午前は、基調講演セッション(セッション1)が予定されている。このセッションでは、4件の招待講演(基調講演)がある。
最初の講演と2番目の講演はいずれも、人工知能(AI)がテーマだ。違いは最初の講演が人工知能技術の現状と今後を展望しているのに対し、2番目の講演では人工知能を半導体チップに搭載する技術を解説していることだ。2つの講演を聴講することで、人工知能技術とその実装に関する知見を深められる。3番目の講演は、フォトニクスとエレクトロニクスの融合がテーマである。最後の講演では、第5世代の携帯電話(5G)システムを展望する。
2月18日の午後からは、採択論文の講演発表がはじまる。2月20日の午後までの2日半で、29本の講演セッションが予定されている。いずれの時間帯も、5本の講演セッションが同時に進行する。すべての講演を聴講することは、もちろん不可能だ。しかも人気の講演セッションは、満席となって立ち見が出るのが恒例となっている。効率良く情報を収集するためには、あらかじめプログラムを通読して聴講の予定を組んでおくべきだろう。
講演セッションのテーマは、プロセッサ、データ変換、パワーアンプ、イメージセンサー、機械学習、不揮発性メモリ、高周波トランシーバ、第5世代携帯電話(5G)、ヘルスケア、DC-DCコンバータ、クロッキング、DRAM、SRAM、セキュリティ、超高速有線通信などである。非常に幅広い分野のテーマに関する半導体の研究成果が発表されることがわかる。
スパコン「Summit」と「Sierra」のハードウェア技術
ここからは分野別に注目講演をご紹介していこう。最初はプロセッサ分野の講演発表である。IBMグループが、スーパーコンピュータ「Summit」と「Sierra」のハードウェア技術を解説する(講演番号2.1)。たとえば「Summit」は、IBMのPower9 CPUとNIVIDAのVolta GPUを数多く搭載した。Power9チップが9,216個、Voltaチップが27,648個である。演算性能は最大200P(ペタ)FLOPSに達する。
ルネサス エレクトロニクスは、自動車用機能安全規格ISO 26262でもっとも厳しいASIL-Dの技術仕様を満足する、次世代の自動車用マイクロコントローラを発表する(講演番号2.7)。16MB(128Mbit)の大容量フラッシュメモリを内蔵した。動作周波数は600MHzである。Intelは、複数の小さなロボットが連携して探索・救出の作業を実行する用途に向けた、低消費電力のロボット用SoC(System on a Chip)を開発した(講演番号2.4)。ロボットはバッテリで駆動することを想定している。
シングルダイで1.33Tbitの超大容量フラッシュメモリ
続いて不揮発性メモリ分野の注目講演をご紹介する。この分野では、大容量3D NANDフラッシュの発表が目立つ。
東芝メモリとWestern Digitalは、96層の3D NAND技術とQLC(4bit/セル)方式の多値記憶技術を組み合わせた、記憶容量が1.33Tbitと非常に大きなフラッシュメモリを共同発表する(講演番号13.1)。シングルダイの記憶容量としては過去最大を更新した。
Samsung Electronicsは、「第6世代」の3D NAND技術「V6」による512Gbitのフラッシュメモリを発表する(講演番号13.4)。書き込みスループットは82MB/sと高い。
Western Digtalと東芝メモリは、128層と超高層化した3D NAND技術によるフラッシュメモリを共同で試作した(講演番号13.5)。記憶容量は512Gbitである。周辺回路をメモリセルアレイ直下に配置する(Circuit-Under-Array)技術を採用することで、記憶密度を高めた。
不揮発性メモリではこのほか、Intelが22nm世代のFinFETロジックに埋め込める抵抗変化メモリ(ReRAM)技術を発表する(講演番号13.2)。3.2Mbitのマクロを試作した。記憶密度は10.2Mbit/平方mmである。
夜間のイベント:パネル討論会と新設のミニ講演会
技術講演会(テクニカルカンファレンス)と併せて、夜間にもイベントが用意されている。1つは恒例となっているパネル討論会で、著名な研究者と技術者がパネリストとなり、参加者と共通のテーマについて議論する。今回のISSCC 2019では、17日(日曜日)夜に1件、19日(火曜日)夜に2件のパネル討論会を予定している。
もう1つは新設のミニ講演会で、「インダストリショーケース」と呼んでいる。複数の半導体企業による短い講演(ショートプレゼン)とデモンストレーション(デモ)を中心としたイベントだ。2018年11月現在、9社による10件の発表が予定されている。
2月21日(ポストイベント):1日間の技術講座と4本のフォーラム
メインイベント閉幕翌日の12月21日(木曜日)には、ポストイベントが用意されている。連続する4本の講義によって構成する1日間の技術講座(「ショートコース」と呼ぶ)と、プレイベントと同様のフォーラムがある。
「ショートコース」のテーマは、「Integrated Phased Arrays: Theory, Practice, and Implementation for 5G and Beyond(5G以降に向けた集積化フェーズドアレイの理論と実践、具現化)」である。第5世代携帯電話(5G)システムでは必須になるとされる、フェーズドアレイ(位相同期アレイ)型アンテナ技術の基礎から応用までを一気に学べる。
「フォーラム」では4つのテーマを用意した。「最先端の運転支援システムとネットワーク」、「端末における機械学習(推論)処理の効率向上」、「56Gbit/sおよび112Gbit/sを超える有線通信の課題と解決策」、「データ変換器の用途別最適化」である。
メインイベントの技術講演会では上記のほかにも、興味深い発表が少なからず予定されている。詳しくは来年2月の現地レポートで改めて報告したい。