イベントレポート
【ISSCC 2019直前レポート】次世代コンピューティングや通信、モバイルなどを支える半導体の開発成果を披露
2019年2月18日 13:44
最先端半導体技術に関する世界最大の国際学会「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」が今年(2019年)も、米国カリフォルニア州サンフランシスコではじまる。ISSCC(読み方は「アイエスエスシーシー」)は半導体技術の研究開発コミュニティにとって最大のイベントであるとともに、半導体の研究開発成果のなかで、とくに優れた成果を披露する場として知られている。
ISSCCが注目を集める理由はほかにもある。最新世代あるいは次世代のコンピューティングやコミュニケーション、モバイル、ビデオ、メディカル、センシング、バイオなどを支える幅広い分野の半導体技術が一気に公表されるからだ。
ISSCCの参加者は技術講演を聴講したり、講演論文を閲読したりすることで、人類文明を支えるさまざまな技術とその動向を短期間で把握できる。研究者や技術者などにとっては非常に重要な機会だと言えよう。
今年のISSCCは米国太平洋時間の2月17日(日曜日)から2月21日(木曜日)までの5日間にわたって開催される。メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)は18日~20日の3日間。技術講演会ではプレナリ講演セッション(基調講演セッション)を含め、全体で30本のテーマ別講演セッションを予定する。初日の17日と最終日の21日は、サブイベント(フォーラムやチュートリアルなど)に割り当てられている。
600件を超える投稿から200件近い論文を選ぶ
今年のISSCCで発表することを目指して投稿された研究開発成果(投稿論文)の件数は609件である。前回(2018年)の611件からはわずかに減少した。そのなかから193件の論文(採択論文)が選ばれ、発表の機会を与えられた。採択率(採択論文数/投稿論文数)は31.7%で、例年に比べるとわずかに低い。
地域別の比率では北米優位が続き、欧州が減少
193件の発表論文(採択論文)を地域別(北米、欧州、アジア)に見ると、北米が87件で45%と最大を占める。ここ4年は北米が42%~48%を占めており、最大地域を維持してきた。
ついでアジアが77件で40%を占める。40%という比率はアジアとしてはかなり高く、2015年に40%を占めて以来のことだ。2016年~2018年は33%~39%を占めてきた。
欧州の発表論文数は29件である。比率は15%とあまり高くない。欧州の比率は3年連続で前年から下げており、2014年~2019年ではもっとも低い比率となった。
発表論文の第1著者(論文の著者が複数のときに、最初に記述された氏名)が所属する地域から、地域別の状況をもう少し詳しく見ていこう。
アジアが日本を含めて8カ国・地域、北米が2カ国、欧州が8カ国である。合計すると18カ国・地域となる。合計数は前回と変わらない。前回に比べると、アジアにインドが加わって1カ国増え、欧州からフランスが抜けて1カ国減った。
また最近の傾向としては、米国がトップを変わらずに維持し続けているほか、アジア地域では中国(本土と香港、マカオの合計)の台頭が目立つ。
企業の発表が減少し、大学の発表が増加
発表論文(採択論文)の所属を企業と大学、研究機関に分けると、最近は企業の発表が減少しており、大学の発表が増加している。今年の採択件数に占める比率は、企業が28%、大学が67%、研究機関が4%である。企業の比率は前年に続き、過去最低を更新した。
企業の発表件数を地域別(北米、欧州、アジア)に見ると、アジアが30件でもっとも多い。北米が21件で続く。欧州は4件と少ない。前年はアジアが28件、北米が27件、欧州が8件だったので、北米と欧州の企業による発表が減っていることがわかる。
日本の採択論文数は16件で3年振りに増加
日本の採択論文数を見ていこう。日本の採択論文数は2012年~2016年に25件~30件を維持してきた。しかし前々回の2017年に、採択論文数は14件と急落した。前回の2018年は、採択論文は13件となり、さらに減少した。
今年はどうか。前回に比べると3件増え、採択論文数は16件となった。内訳は東芝がもっとも多く、4件の発表を予定する。ついで東京工業大学が3件と続く。それから日立製作所が、2件の発表を予定する。
発表論文は11個の技術分野を広くカバー
ここからは今年のISSCCにおける発表論文(採択論文)の技術分野別の比率を見ていこう。ISSCCの実行委員会は、技術分野別に11個の技術分科会(サブコミッティ)を設けている。
サブコミッティの名称(技術分野の名称に相当)は「アナログ」、「パワーマネジメント」、「データコンバータ」、「RF」、「無線(ワイヤレス)通信」、「有線(ワイヤライン)通信」、「イメージセンサー/MEMS/医療(メディカル)/ディスプレイ」、「デジタル回路」、「デジタルアーキテクチャとシステム」、「メモリ」、「将来技術(テクノロジディレクション)」である。
発表論文数でみると技術分野別の比率は、偏りが少ない。11個の技術分野すべてが7%~12%の範囲に収まっている。ISSCCが広い範囲をまんべんなくカバーしていることがわかる。
なお最近はアナログ分野のなかでパワーマネジメント技術の投稿論文が急増し、2018年に「アナログ」の技術分科会を「アナログ」と「パワーマネジメント」の2つに分けた。「アナログ」と「パワーマネジメント」の両者を合計した比率は、2018年と2019年ともに、18%となる。
プロセッサとメモリの注目講演
それでは最後に、プロセッサとメモリの注目講演を紹介しよう。
プロセッサでは、IBMグループがスーパーコンピュータ「Summit」と「Sierra」のハードウェア技術を解説する(講演番号2.1、招待講演)。ルネサス エレクトロニクスは、自動車用機能安全規格ISO 26262でもっとも厳しいASIL-Dの技術仕様を満足する、次世代の自動車用マイクロコントローラを発表する(講演番号2.7)。Intelは、複数の小さなロボットが連携して探索・救出の作業を実行する用途に向けた、低消費電力のロボット用SoC(System on a Chip)を開発した(講演番号2.4)。
メモリでは、東芝メモリとWestern Digitalが96層の3D NAND技術とQLC(4bit/セル)方式の多値記憶技術を組み合わせた、記憶容量が1.33Tbitと非常に大きなフラッシュメモリを共同発表する(講演番号13.1)。Samsung Electronicsは、「第6世代」の3D NAND技術「V6」による512Gbitのフラッシュメモリを発表する(講演番号13.4)。Western Digtalと東芝メモリは、128層と超高層化した3D NAND技術によるフラッシュメモリを共同で試作した(講演番号13.5)。Intelは、22nm世代のFinFETロジックに埋め込める抵抗変化メモリ(ReRAM)技術を発表する(講演番号13.2)。
これらのほかにも注目すべき講演が少なくない。順次、レポートしていくのでご期待されたい。