福田昭のセミコン業界最前線
SSDがストレージ市場の主役に、台数と金額ともHDDを上回る
~国際ディスクフォーラムレポート
2020年11月19日 06:55
ハードディスク装置(HDD : Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は10月に、ストレージとその応用に関する講演会「国際ディスクフォーラム(DISKCONJAPAN2020)」を開催した。
過去には毎年5月~8月に2日間にわたって東京都大田区の産業プラザで開催されてきた。しかし今年(2020年)はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大により、オンライン開催に変更された。具体的には、10月の毎週木曜日(1日、8日、15日、22日、29日)に1件(22日のみ2件)の発表をオンラインで開催した。聴講人数は100名限定とし、はじめての試みなので聴講料はIDEMA JAPANの非会員を含めて無料とした。
合計では、6件の講演が実施された。そのなかから、市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(TSR)によるストレージ市場を展望した講演「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook」が興味深かったので、講演の概要をご紹介したい。講演者はTSRでアナリストをつとめる楠本一博氏である。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
2020年は2.5億台のHDDと3.1億台のSSDを出荷へ
2020年のストレージ市場における最大のトピックスは、年間の出荷台数と出荷金額でSSD(Solid State Drive)が史上はじめて、HDDを上回るのが確実になったことだろう。近年、SSDの台数と金額が増加傾向にあるのに対し、HDDの台数と金額は減少傾向にある。SSDが台数と金額でHDDを超えた後は、SSDの市場はさらに拡大し、HDDの市場はさらに縮小する。
2020年のストレージ出荷台数(世界市場)は、HDDが2億5,501万台、SSDが3億1,255万台になると予測する。HDDは前年比19.7%減と約2割の減少、SSDは前年比32.4%増と3割強の大幅増である。
出荷金額(世界市場)はHDDが205億1,000万ドル、SSDが282億8,700万ドルと予測する。HDDの前年比は7.4%減で、台数ほどには減少しない。平均単価が2019年の69.70ドルから2020年は80.43ドルと大きく上昇することが、金額の大幅な低下を食い止める。SSDの前年比は36.4%増と急激に伸びている。平均単価は90.50ドルで、2019年の87.86ドルから2.64ドル上昇する。
出荷ベースの記憶容量ではHDDがSSDを圧倒
ただし出荷ベースの記憶容量の合計値(総出荷記憶容量)で見ると、HDDはSSDに対してまだまだ圧倒的な優位に立つ。総出荷記憶容量(世界市場)はHDDが1,020.99EB(エクサバイト)であるのに対し、SSDは190.68EBとHDDの5分の1弱に過ぎない。世のなかにあふれるデータの大半は、HDDが格納する。
総出荷記憶容量の大きな違いは、ドライブ1台当たりの記憶容量(平均記憶容量)が大きく違うことに由来する。平均記憶容量ではHDDが4,003.7GBと大きく、SSDは610.1GBとHDDの6.5分の1にとどまる。平均記憶容量の大きな差異が生じる理由は、記憶容量(GB)当たりの価格差にある。GB当たりの価格ではHDDが0.020ドル、SSDが0.148ドルであり、SSDがHDDの7.4倍と高い。
四半期の出荷台数では2020年第2四半期にSSDがHDDを逆転
楠本氏の講演によると四半期ごとの市場分析では2020年の前半までが実績ベースで明らかになっている。2020年第2四半期までが実績であり、同年第3四半期と同年第4四半期が予測あるいは推定となる。
そして同年第1四半期はHDDの出荷台数が6,756万台、SSDの出荷台数が5,576万台でHDDが上回っていたのに対し、同年第2四半期にはHDDが5,875万台、SSDが7,540万台となり、SSDがHDDをはじめて追い抜いた。
ノートパソコンは2018年、デスクトップパソコンは2019年にSSDが半数を超える
HDDからSSDへの主役交代が実現した大きな理由は、パソコンのストレージがHDDからSSDへと急速に置き換わっていることにある。
置き換えはノートパソコンが先行した。暦年別の搭載率を見ると、2016年の時点でSSDが4割、HDDが6割という比率になっていた。これが2018年には、SSDが6割、HDDが4割と比率が逆転した。2019年にはSSDが7割、HDDが3割と置き換えがさらに進み、ノートパソコンのストレージはSSDが主流となった。2020年の搭載率はSSDがさらに伸びて8割に増え、HDDが2割に減ると予測する。
ノートパソコンに続いてデスクトップパソコンでも置き換えが進んだ。2016年の時点ではSSDが1割、HDDが9割という搭載率になっていた。これが2018年にはSSDが3割、HDDが7割と変化する。続く2019年にはSSDが5割強、HDDが4割強となり、ノートパソコンに1年遅れて比率が逆転した。2020年の搭載率はSSDが7割、HDDが3割と予測する。デスクトップパソコンでもストレージはSSDが主流となる。
コロナ禍に揺れた2020年前半のストレージ市場とパソコン市場
2020年1月以降、中国からアジア、そして全世界に拡大したCOVID-19は、2020年第1四半期(1月~3月期)と同年第2四半期(4月~6月期)のストレージ生産とパソコン生産に多大な影響を与えた。
楠本氏の講演によると、アジアを中心に生産工場の稼働率が低下して3月~4月には軒並み、30%を割り込んだ。4月から5月、6月にかけて稼働率は上昇し、7月~8月にはおおむね、COVID-19以前の状態に回復したとする。
四半期ベースの出荷台数をHDD、SSD、パソコンの順番で見ていこう。HDDの出荷台数は漸減傾向にある。2019年の四半期出荷台数は7,700万台~8,300万台の間で推移した。ところが2020年第1四半期は前期比(前四半期比)14%減の6,756万台に減少し、続く同年第2四半期は同13%減の5,875万台とさらに落ち込む。HDDの組み立てライン、HDDの部品製造ラインなどがコロナ禍によって止まったためだ。
工場の生産ラインが稼働を再開した第3四半期以降は、出荷台数が前期比で増加に転じると予測する。第3四半期の出荷台数は前期比8%増の6,350万台、第4四半期の出荷台数は同3%増の6,520万台と回復する。
SSDの出荷台数は、2019年第4四半期まではほとんどの四半期で前期(前四半期)に比べて増加してきた。ところが2020年第1四半期はコロナ禍により、前期比9.3%減と大きく落ち込んだ。続く2020年第2四半期は前期比35.2%増と急激に回復した。第1四半期の出荷台数は5,576万台、第2四半期の出荷台数は7,540万台である。第3四半期と第4四半期は9,000万台前後とさらに高い水準に達すると予測する。
2年連続でパソコンの出荷台数は前年を超える
パソコンの出荷台数は近年、漸減傾向にある。しかし2019年は第2四半期から第4四半期まで前期比(前四半期比)の出荷台数が増加し、通年でも前年(2018年)をわずかに上回るという異例の年だった。
Windows 7のサポート終了が2020年1月14日に予定されていたことから、Windows 7マシンをWindows 10マシンで置き換える動きが急速に進んだ。2019年第4四半期の出荷台数は前期比2.5%増の7,087万台、2019年通年の出荷台数は前年比4.0%増の2億6,170万台である。
しかし2020年第1四半期はコロナ禍により、前期比25.0%減の5,318万台に落ち込んだ。それでも同年第2四半期は、同35.4%増の7,198万台と急速に回復した。とくにノートパソコンは同57.7%増と急激に戻している。
ここまでが実績である。ノートパソコンの急激な伸長は、コロナ禍からの回復だけでなく、Windows 7マシンの置き換えとリモートワークの普及によるものだと見られる。
2020年第3四半期と同年第4四半期はそれぞれ、同4.1%増の7,492万台と同0.7%減の7,440万台になると予測する。2019年に比べると高い水準の出荷が続く。通年では前年比4.9%増の2億7,448万台に達すると予測する。2年連続で前年を上回ることになる。
2020年にパソコン市場を牽引するのはノートパソコンだ。通年の出荷台数は前年比14.8増の1億8,870万台と予測する。一方、デスクトップパソコンは前年比11.9%減の8,578万台になると見込む。2019年はノートパソコンとデスクトップパソコンの両方で出荷台数が伸びた。
今年は様相がかなり異なっている。リモートワークやオンライン学習などの新たに生じた需要がノートパソコンの出荷台数を増やし、さらにはSSDの出荷台数を伸ばしている。そしてSSDには、新世代のゲーム機器という別の新たな需要が加わる。
それではパソコン市場でHDDはなくなってしまうのか。出荷台数の減少は続くものの、ある程度の需要は残る、と楠本氏は予測する。記憶容量当たりの価格の安さと、SSDを超える大容量品の存在がHDDの強みである。たとえば外付けの大容量ストレージでは、HDDには十分な競争力がありそうだ。