福田昭のセミコン業界最前線
2018年のHDD出荷台数、約2,380万台減の4年連続マイナス成長
~日本HDD協会2019年1月セミナーレポート(HDD市場編)
2019年2月4日 12:13
ハードディスク装置(HDD : Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は今年(2019年)の1月25日に「2019年ストレージの最新動向と今後の展望」と題するセミナーを開催した。
日本HDD協会はこれまで毎年1月あるいは2月に、業界動向や技術動向、市場動向に関するセミナーを主催してきた。この恒例のセミナーで非常に高く評価されているのが、市場調査会社テクノ・システム・リサーチによるストレージ市場分析である。
今年は「Updated Storage(HDD and SSD)Market Outlook」と題する講演があった。講演者は同社のアシスタントディレクターをつとめる楠本一博氏である。楠本氏は、HDD市場とSSD市場、ストレージの応用市場などを分析した結果をわかりやすく解説していた。本レポートでは、講演のなかからHDD市場に関する部分をご紹介する。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
昨年のHDD出荷台数は前年比5.9%減の3億7,929万台と推定
講演では最初に、一昨年(2017年)と昨年、今年のHDD世界市場をまとめた数字を示していた。2017年は実績、2018年は第1四半期から第3四半期までが実績で第4四半期が推定、2019年は予測である。
項目は出荷台数、出荷金額、平均販売価格(ASP)、総出荷記憶容量、1台当たりの平均記憶容量である。はじめは出荷台数の推移を見ていこう。
2017年のHDD出荷台数は前年比4.9%減の4億308万台である。これが2018年には、前年比5.9%減の3億7,929万台になると推定した。ただし2018年第4四半期の推定値は今後に下方修正される可能性が高く、2018年の実績値は3億7,500万台前後になりそうだとの見通しを楠本氏は述べていた。いずれにせよ2015年以降、出荷台数は4年連続のマイナス成長となる。
2019年もHDDの出荷台数は伸びない。5年連続のマイナス成長になると予測した。予測値は、前年比10.3%減の3億4,040万台である。マイナス成長の割合は昨年よりも大きく、2桁減となる。
また講演の時点(2019年1月25日時点)では業界のマインドがさらに冷え込んでおり、予測値は下方修正される可能性が少なくない。2019年の予測値は今後の修正によっては3億3,000万台~3億4,000万台になりそうだと、講演では説明していた。
昨年(2018年)の出荷金額は6年振りにプラス成長となる
次に、出荷金額の推移を見ていこう。2017年の出荷金額は前年比2.9%減の245億1,600万ドルである。2013年以降、5年連続のマイナス成長となった。
2018年の出荷金額は前年比2.5%増の251億2,800万ドルになると推定した。2012年以来、6年振りにプラス成長となった。出荷数量は減少したものの、1台当たりの平均価格(平均販売価格)が上昇したことが、全体としては金額のプラス成長に結びついた。
2019年の出荷金額は前年比7.5%減の232億4,000万ドルになると予測した。平均販売価格の上昇は続くものの、出荷台数の2桁におよぶマイナス成長が響き、出荷金額も再びマイナス成長へと転じる。
1台当たりの販売価格と記憶容量は上昇が続く
次は平均販売価格(ASP : 1台当たりの平均価格)である。2017年に平均販売価格は前年比2.1%増の60.8ドルだった。2018年の平均販売価格は同8.9%増の66.3ドルと推定した。平均販売価格の上昇トレンドは、今後も続く。
2019年の平均販売価格は同3.1%増の68.3ドルになると予測した。平均販売価格の押し上げ要因となっているのは、HDDの記憶容量の拡大である。1台当たりの記憶容量の推移については後述する。
続いて総出荷記憶容量である。2017年に総出荷記憶容量は前年比15.9%増の720.7EB(エクサバイト)に達した。2018年の総出荷記憶容量は同21.3%増と、前年を上回る伸び率になると推定する。推定値は873.9EBである。
2019年の総出荷記憶容量は前年比8.7%増と成長率は鈍化する。出荷台数が2桁減となることが足を引っ張る。予測値は950.4EBである。
最後は、1台当たりの記憶容量(平均記憶容量)である。2017年の平均記憶容量は前年比21.8%増の1,788.1GBだった。2018年の平均記憶容量は同28.9%増の2,304.1GBと推定した。1台当たりの記憶容量は2TB(2,048GB)を超えた。
2019年の平均記憶容量は前年比21.2%増の2,792.0GBに達すると予測する。いずれも2割を超える高い割合で、HDDの記憶容量は拡大を続けることがわかる。
2018年の市況は前半が好調、後半に減速
HDD市場における最近の状況を四半期ごとの推移で見ていこう。講演では、HDDの出荷台数と製品分類別の出荷台数、そしてHDD全体の出荷金額を四半期ごとにまとめたスライドを見せていた。四半期の期間は、2015年第1四半期から2019年第2四半期までの4年半にわたる。そして製品の分類は、「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」、「ニアライン」、「3.5インチ」、「2.5インチおよびモバイル」の4種類である。
すでに述べたように、HDDの出荷台数は減少傾向にある。HDD全体の出荷台数は2015年に4億6,883万台だったのが、2017年には4億308万台にまで減少した。2015年から2017年までに出荷台数を四半期ごとに見ていくと、季節要因があることがわかる。
クリスマス商戦に向けた第3四半期が最大であり、ついで第4四半期が多く、その次が第1四半期の順になっていることが多い。第2四半期は出荷台数がもっとも少なく、いわゆる「ボトム(底)」の四半期となる。
例年のこういった傾向に比べると、2018年の実績はかなり違っていた。2018年は前半が好調で、とくに第2四半期が良かった。第2四半期の出荷台数は9,621万台で、前の四半期(第1四半期)の9,367万台を上回った。
製品分類別では2018年前半は「ニアライン」向け製品が好調で、第1四半期と第2四半期の出荷台数はいずれも、2017年の第3四半期および第4四半期よりも伸びている。
逆に2018年は第4四半期に、急速にブレーキがかかった。第4四半期におけるHDD全体の出荷台数(推定値)は9,200万台で、第2四半期よりも低い。2015年~2017年にはこのようなことはなく、いずれも第4四半期の出荷台数が第2四半期よりも多かった。しかもこの9,200万台という第4四半期の推定値は、最終的にはさらに下がりそうだという。
第4四半期の変調はおもに、NANDフラッシュメモリの供給過剰によるSSDの値下がりと、Intelによるマイクロプロセッサの供給不足が引き起こした。これらの原因によってHDDが供給過剰となり、価格が低下するとともに出荷が停滞した。
製品分類別でとくに大きな影響を受けたのは「ニアライン」向け製品である。2018年第4四半期の出荷台数(推定値)は、同年の第2四半期はもちろんのこと、2017年の第4四半期よりも低い水準にまで落ち込んだ。製品分類別では「ニアライン」は唯一、出荷台数が増加傾向にあるだけに、この状況はかなり異常であることがうかがえる。
出荷台数は「2.5インチ」が多く、出荷容量は「ニアライン」が多い
ここからはHDDの出荷台数と総出荷記憶容量を、製品分類別に見ていこう。製品分類別で出荷台数がもっとも多いのは「2.5インチおよびモバイル」で、2018年の出荷台数は前年比9.7%減の1億8,301万台と推定した。ついで多いのが「3.5インチ」で、昨年の出荷台数は前年比9.7%減の1億2,224万台と見込んだ。上記2品種はおもにPC向けであり、出荷台数は漸減しつつある。
HDDの製品分類で唯一、出荷台数が増加傾向にあるのは「ニアライン」向けだ。2018年の出荷台数は前年比23.9%増の5,252万台と推定した。残りは「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」向けである。2018年の出荷台数は前年比4.7%減の2,152万台になると見込んだ。
2019年の出荷台数は、「2.5インチおよびモバイル」が前年比13.2%減の1億5,880万台、「3.5インチ」が同11.6%減の1億800万台、「ニアライン」が同4.0%増の5,460万台、「エンタープライズ」が同11.7%減の1,900万台と予測した。「ニアライン」を除くと、すべて2桁のマイナス成長となる。
一方、製品分類別で総出荷記憶容量がもっとも多いのは「ニアライン」向けである。2018年の総出荷記憶容量(推定値)は409.66EB(エクサバイト)である。2017年に比べて55.7%増と大きく拡大した。それから「3.5インチ」が前年比1.4%増の245.7EB、「2.5インチおよびモバイル」が同1.2%増の198.57EBと続く。「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」向けの総出荷記憶容量は前年比5.3%増の20.01EBである。
2019年の総出荷記憶容量は、「ニアライン」が前年比21.3%増の496.86EB、「3.5インチ」が同1.1%減の243.00EB、「2.5インチおよびモバイル」が同3.6%減の191.35EB、「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」が同4.1%減の19.19EBと予測した。「ニアライン」以外の製品は台数ベースだけでなく、記憶容量ベースでもマイナス成長に転じることになる。
メーカー3社に寡占化しているHDD市場
台数と金額とも縮小が続くHDD市場はすでに、3つのHDDメーカーに寡占化している。Seagate Tecnology(Seagate)、Western Digital(WD)、東芝の3社である。台数ベースのシェアはSeagateとWDがそれぞれ4割弱、東芝が2割強、というのが現在の構図である。もちろん若干の変動はあるものの、大きな変動は現在のところ、発生していない。
2018年の出荷台数をメーカー別に見ていくと、Seagateが1億5,015万台、WDが1億4,350万台(HGSTブランドを含む)、東芝が8,564万台となっている。製品分類別ではSeagateとWDが4品種ともおおむね市場規模に沿った台数を供給してきた。これに対して東芝は、「エンタープライズ」と「ニアライン」の割合が少なく、「3.5インチ」と「2.5インチおよびモバイル」の割合が多い。とくに「2.5インチおよびモバイル」は、上位2社に近い台数を出荷している。
縮小均衡を探るHDD市場の将来
HDDの出荷台数(世界市場)がピークを迎えたのは、2010年のことだ。この年の出荷台数は6億5,136万台に達した。2011年以降は現在にいたるまで、2014年を除くと出荷台数は前年比で減少を続けてきた。
今後も、減少傾向は続くと予測する。2017年に約4億台の出荷台数は、2023年には2億7,000万台前後にまで減少すると見られる。4年後にはピークの4割強にまで、出荷台数が縮小するという厳しい予測だ。
HDDの出荷金額(世界市場)がピークを迎えた年は、出荷台数よりも遅い。2012年のことである。金額は378億4,200万ドルである。ピークが台数よりも遅くなったのは、2012年にHDDの大幅な値上がりがあったためである。2011年9月に発生したタイの大洪水により、HDDの生産がストップして品不足に陥ったことにより、販売価格が急激に上昇した(国際ディスクフォーラム2012レポート参照)。
2012年の出荷台数は5億7,801万台で2010年に比べると少なかった。ただし平均販売価格は65.5ドルで、2010年の51.6ドル、2011年の53.0ドルに比べると一気に10ドル以上も上昇した。このことが、出荷金額の増大を招いた。
もちろん2012年にピークを迎えてからは、HDDの出荷金額は現在にいたるまで、減少傾向が続いてきた。2018年は出荷金額が前年比でプラスになったものの、長期的な減少傾向は変わらない。2017年に245億1,600万ドルだった出荷金額は、2023年には204億ドル前後にまで減少すると見られる。204億ドルというのは、ピークの54%に相当する。ピーク時の半分強にまで、市場規模が縮むということだ。
縮小が続くHDD市場。HDDが近い将来になくなることはあり得ない。問題は市場の縮小がいつ、どの程度で鈍化するかだろう。しばらくは均衡点を探る状態が続きそうだ。