福田昭のセミコン業界最前線
SSD市場が台数と金額でHDD市場を史上はじめて追い抜く
~日本HDD協会2020年1月セミナーレポート(SSD市場編)
2020年2月12日 06:00
ハードディスク装置(HDD)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、今年(2020年)の1月24日に「2020ストレージの最新動向と今後の展望」と題するセミナーを東京で開催した。
日本HDD協会は毎年1月あるいは2月に、HDDを中心とするストレージの業界動向や技術動向、市場動向に関するセミナーを主催してきた。このセミナーの恒例となっており、非常に高く評価されている講演が、市場調査会社テクノ・システム・リサーチによるストレージ市場の分析である。
今年は「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook 2020」と題してストレージ市場を解説してくれた。講演者は同社でアナリストをつとめる楠本一博氏である。本レポートでは講演からSSD(Solid State Drive)市場に関する部分をご紹介する。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
SSDの出荷台数はわずか2年で2倍近くに急増
講演では、SSD市場(世界市場)を2015年~2024年まで概観したスライドを示していた。2018年までは実績、2019年は推定(2019年第3四半期までは実績、同年第4四半期は推定)、2020年以降は予測。項目は「出荷台数」、「出荷金額」、「1台当たりの販売価格(平均販売価格:ASP)」、「総出荷記憶容量」、「1台当たりの記憶容量(平均記憶容量)」、「GB当たりの価格(GB単価)」である。
まずは一昨年(2018年)と昨年、今年の概況を見ていこう。2018年のSSD出荷台数は、前年比39%増の1億6,918万台である。これが2019年には同38%増の2億3,396万台になったと推定した。2年連続で40%近くと高い成長率を記録した。
この結果、2017年の1億2,182万台から、わずか2年で出荷台数は2倍近くに急増した。2020年の出荷台数は前年比19%増の2億7,930万台になると予測した。史上はじめて2億台を超える。
昨年(2019年)のSSD出荷金額は28%成長の190億ドル
次は「出荷金額(世界市場)」と「ASP」である。
出荷台数が急速に拡大しているのに伴い、出荷金額も急激に増加しつつある。2018年のSSD出荷金額は、前年比30%増の194億3,230万ドルに拡大した。2019年はSSD価格の大幅な値下がりが響き、出荷金額はあまり伸びない。同5.4%増の204億8,820万ドルと推定した。2020年は再び2桁成長に戻る。前年比28%増の262億7,680万ドルと予測する。
ASPは緩やかな下降が続く。もちろん細かな変動はある。2017年はNANDフラッシュメモリの供給不足と値上がりが響き、ASPが上昇した。2018年は反動で値下がりし、2016年とほぼ同じ水準となった。2018年のASPは114.86ドルである。2019年はNANDフラッシュメモリの需給緩和による大幅な値下がりが響き、SSDのASPは87.57ドルと大きく低下した。前年に比べると30ドル近い値下がりである。2020年は反動でASPは上昇する。94.08ドルと予測する。
続いて「GB単価」を見ていこう。GB単価は一貫して下がっており、今後も下がり続ける。2018年のGB単価は0.238ドルである。前年(2017年)の0.316ドルから大きく下げている。2019年のGB単価は0.163ドルと推定した。これも前年に比べると大幅な下降である。2020年のGB単価は0.153ドルと予測する。2018年~2019年に比べると低下ペースは緩やかになる。
台数では「PC」、金額では「エンタープライズ」が大きい
SSD市場(世界市場)を2015年~2024年まで概観したスライドは、製品分類別の数値も掲載している。「エンタープライズ」、「PC」、「アドオン」、「産業用その他」の4品目がある。
近年の傾向を見ていこう。出荷台数がもっとも多いのは「PC」である。ついで「アドオン」、「エンタープライズ」、「産業用その他」となる。この傾向は今後も変わらない。2019年(推定値)に「PC」用SSDの出荷台数は前年比42%増の1億3,610万台で、SSD全体の58%を占める。PCのストレージでは、HDDからSSDへの置き換えが進んでいることがうかがえる。
2019年(推定値)の「アドオン」用SSDの出荷台数は前年比47%増の6,370万台である。SSD全体の27%を占める。「エンタープライズ」用SSDの出荷台数は同14%増の2,830万台である。2018年の成長率は56%だった。データセンター向け投資の冷え込みを反映していることがうかがえる。全体に占める割合は12%である。「産業用その他」の出荷台数は前年比8.9%増の586万台とかなり少ない。
製品分類別で出荷金額がもっとも多いのは「エンタープライズ」である。ついで「PC」、「アドオン」、「産業用その他」と続く。2019年(推定値)の「エンタープライズ」用SSDの出荷金額は前年比5%増の104億7,100万ドルである。2018年の伸び率は40%だったので、成長率が大幅に鈍化した。
PC用SSDの出荷金額は2019年(推定値)に前年比1.2%減の55億8,010万ドルである。出荷台数が同42%増と大幅に伸びているにもかかわらず、金額が微減という事態には、かなり驚いた。ちなみに2018年の出荷金額は前年比23%増である。2019年はSSDの価格が大幅に値下がりしたことが響いた。PC用SSDのASPは2018年が59ドルだったのに対し、2019年は41ドルに低下した。30%と大幅に値下がりしたことになる。
アドオン用SSDの出荷金額は2019年(推定値)に前年比18%増の36億9,460万ドルである。2018年の成長率はPCとほぼ同じ22%だったので、PC用に比べると2019年の傷はずっと浅い。
2018年第4四半期からの値下がりで出荷台数が急増
講演では、2016年~2019年の四半期別出荷台数も製品分類別に示していた。全体としては第1四半期が弱く、第4四半期が強い。前年の第4四半期に比べて次年の第1四半期は台数が減少し、第2四半期から第4四半期に向かって増加していく。この傾向は2016年~2018年で変わらない。
ただし2019年だけは、やや様相が異なる。2019年第1四半期の出荷台数は5,810万台で、前四半期(2018年第4四半期)の5,568万台を上回った。NANDフラッシュメモリとSSDの価格が2018年第4四半期から急速に下がりはじめたため、一時的に需要が強まったと見られる。反動で2019年第2四半期の出荷台数は5,767万台と前四半期比で微減となった。同年第3四半期は再び出荷台数が伸びて5,879万台となり、同年第4四半期(予測)はさらに伸びて5,940万台に達したと見られる。
講演スライドでは、2019年第3四半期におけるSSDベンダー別のシェア(出荷台数ベース)も見せていた。トップはSamsung Electronicsで33.3%を占める。2位は11.4%のWesternDigital(HGSTとSanDiskのブランドを含む)である。そして3位にIntelが10.4%、4位に東芝メモリ(OCZのブランドを含む)が7.7%、5位にSK Hynixが7.3%、6位にMicron Technology(Crucialブランドを含む)が6.0%で続く。ここまではすべて、NANDフラッシュメモリのメーカーでもある。
以下、7位はKingston Technologyで5.6%、8位はLite-On Technology(Pextorブランドを含む)で3.7%、9位はADATA Technologyで2.3%、10位はTranscend Informationで1.0%となっている。なおLite-On TechnologyのSSD事業は、東芝メモリホールディングス(キオクシアホールディングス)に買収されることが2019年9月に決まった(東芝メモリ、LITE-ONのSSD事業を買収参照)。
大容量化のペースではHDDがSSDを上回る
ここからはSSD市場とHDD市場を比較していこう。昨年の時点では、出荷台数と出荷金額ともに、HDDがSSDを上回っている。「HDD/SSD」で計算すると、HDDの出荷台数はSSDの1.35倍、出荷金額は1.07倍である。一昨年はそれぞれ2.22倍、1.27倍だったので両者の差はかなり縮まってきた。
出荷金額の差が出荷台数の差に比べると小さいのは、ASPの違いによる。ASPを「HDD/SSD」で計算すると0.79となり、HDDのASPはSSDの約8割である。一昨年にASPの「HDD/SSD」は0.57だったので、両者の価格差は急激に縮まってきたことがわかる。
HDDとSSDの総出荷記憶容量には、大きな差がある。「HDD/SSD」は7.1倍である。総出荷記憶容量の大きな違いには、出荷台数の違いよりも、平均記憶容量(1台当たりの記憶容量)の違いが大きく影響している。平均記憶容量の「HDD/SSD」は5.3倍で、1台当たりの記憶容量はHDDがSSDよりもはるかに大きい。一昨年には平均記憶容量の「HDD/SSD」は4.7倍であり、記憶容量の差は拡大している。
記憶容量当たりの価格(GB当たりのコスト)は、「HDD/SSD」でみると0.147である。わかりにくいので「SSD/HDD」に変換すると、6.79倍である。SSDの記憶容量当たりの価格は、HDDの約7倍とまだ高い。この価格差が、SSDの大容量化を阻んでいる。
2020年にはSSDが台数と金額の両方でHDDを追い抜く
講演ではHDD市場とSSD市場を2015年から2023年まで比較したスライドも示していた。比較対象は「出荷台数」、「出荷金額」、「ASP」、「総出荷記憶容量」、「平均記憶容量」、「GB単価」の6項目。2015年~2018年までは実績、2019年は推定、2020年~2023年は予測である。
出荷台数と出荷金額のトレンドはHDDが減少、SSDが増加である。出荷台数と出荷金額の数値は、2019年まではHDDが多い。2020年にはいずれもSSDがHDDを追い抜くと予測する。出荷台数はSSDが2億7,930万台、HDDが2億7,400万台、出荷金額はSSDが262億7,700万ドル、HDDが205億8,000万ドルである。3年後の2023年には、両者の差がさらに拡大する。出荷台数はSSDが3億3,180万台、HDDが2億350万台、出荷金額はSSDが267億3,500万ドル、HDDが187億300万ドルと予測する。
ASPのトレンドは、HDDが上昇、SSDが下降である。ASPそのものはSSDが高い。2020年のASPはSSDが94.08ドル、HDDが75.1ドルと予測する。2年後の2022年には両者のASPが逆転する。SSDが83.35ドルに下がり、HDDが85.6ドルに上がると予測する。
総出荷記憶容量のトレンドはHDDとSSDともに増加である。記憶容量そのものはHDDがSSDよりもはるかに大きい。2020年にHDDは1,022.16EB(エクサバイト)、SSDは171.64EBと予測する。「HDD/SSD」は6.96倍である。3年後の2023年には、HDDが1,585.93EB、SSDが295.23EBに達すると予測する。「HDD/SSD」は5.37倍と差は開いたままである。
平均記憶容量のトレンドはHDDとSSDともに増加である。2020年にHDDは3730.5GB、SSDは614.5GBと予測する。「HDD/SSD」は6.07倍である。3年後の2023年には、HDDが7793.2GB、SSDが889.8GBに増加すると予測する。「HDD/SSD」は8.76倍で、平均記憶容量の差はさらに広がる。
SSDのGB単価は現在と3年後もHDDの7倍を超える
そしてGB単価のトレンドは、HDDとSSDともに下降である。2020年のGB単価はSSDが0.153ドル、HDDが0.020ドルと予測する。SSDのGB単価はHDDの7.65倍である。これが3年後の2023年には、SSDが0.091ドル、HDDが0.012ドルへと下がる。SSDのGB単価はHDDの7.58倍で、2020年とほとんど変わらない。GB単価でSSDがHDDに近づくことは、当面はかなり難しい。