福田昭のセミコン業界最前線
2019年のHDD出荷台数は3億1,673万台で5年連続のマイナス成長
~日本HDD協会2020年1月セミナーレポート(HDD市場編)
2020年2月10日 11:00
ハードディスク装置(HDD)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、今年(2020年)の1月24日に「2020ストレージの最新動向と今後の展望」と題するセミナーを東京で開催した。
日本HDD協会は毎年1月あるいは2月に、HDDを中心とするストレージの業界動向や技術動向、市場動向に関するセミナーを主催してきた。このセミナーの恒例となっており、非常に高く評価されている講演が、市場調査会社テクノ・システム・リサーチによるストレージ市場の分析である。
今年は「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook 2020」と題してストレージ市場を解説してくれた。講演者は同社でアナリストをつとめる楠本一博氏である。本レポートでは講演からHDD市場に関する部分をご紹介する。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
HDD出荷台数は昨年15.6%減、今年13.5%減と2桁減が続く
講演でははじめに、一昨年(2018年)と昨年(2019)、今年(2020年)のHDD市場(世界全体)を概観した。2018年は実績、2019年は推定(第1四半期~第3四半期は実績、第4四半期は推定)、2020年は予測である。
市場の状況を示す項目は「出荷台数」、「出荷金額」、「平均販売価格(ASP)」、「1台当たりの記憶容量(平均記憶容量)」、「総出荷記憶容量」である。はじめは出荷台数の推移を見ていこう。
一昨年のHDD出荷台数は前年比6.9%減の3億7,535万台である。続く昨年は、同15.6%減の3億1,673万台になると推定した。2015年以降、5年連続のマイナス成長となる。
出荷台数の減少は今年も止まらない。前年比13.5%減の2億7,400万台になると予測した。予測の範囲としては、2億6,000万台~2億8,000万台になると楠本氏は講演で述べていた。
昨年の出荷金額は2桁のマイナス成長
次に、出荷金額の推移を見ていこう。一昨年の出荷金額は前年比0.8%増の247億1,800万ドルである。2012年以来、6年振りのプラス成長となった。出荷台数が減少しているにもかかわらず金額が増えたのは、平均販売価格が上昇したからである。平均販売価格については後述する。
昨年の出荷金額は前年比11.2%減の219億5,200万ドルと推定した。出荷台数が2桁減となったことが響いた。今年も出荷金額の減少が続く。前年比6.3%減の205億8,000万ドルになると予測した。
1台当たりの販売価格と記憶容量は上昇と拡大が続く
次は平均販売価格(ASP:1台当たりの販売価格)である。一昨年に平均販売価格は前年比8.3%増の65.9ドルだった。記憶容量がより大きくて高価な品種へと、販売の主役が移行しつつあることが大きい。昨年の平均販売価格は同5.2%増の69.3ドルと推定した。今年の平均販売価格は同8.4%増の75.1ドルへとさらに上昇すると予測している。
1台当たりの記憶容量(平均記憶容量)は、前年比で20%を超える大幅な拡大が続く。一昨年の平均記憶容量は前年比27.4%増の2,278.8GBだった。昨年の平均記憶容量は同24.4%増の2,834.6GBと推定した。そして今年(2020年)の平均記憶容量は同31.6%増の3,730.5GBになると予測する。1台当たりの記憶容量は3TBを超え、4TBに近づこうとしている。
最後は総出荷記憶容量である。一昨年に総出荷記憶容量は前年比18.7%増の855.3EB(エクサバイト)に達した。昨年の総出荷記憶容量は同5.0%増の897.8EBと推定した。出荷台数が2桁減となったことが、昨年の増加ペースを鈍らせた。今年(2020年)の総出荷記憶容量は同13.8%増の1,022.2EBに達すると予測する。1,024EBは1ZB(ゼタバイト)と等しい。HDDの総出荷容量は「エクサバイト時代」から「ゼタバイト時代」に突入する。
2019年の市況は前半が低調、後半に弱い回復
ここからは、HDD市場における近年の状況を四半期ごとの推移で見ていく。講演では、HDDの出荷台数と製品分類別の出荷台数、そしてHDD全体の出荷金額を四半期ごとにまとめたスライドを見せていた。四半期の期間は、2016年第1四半期から2020年第2四半期までの4年半にわたる。製品の分類は、「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」、「ニアライン(NL)」、「3.5インチATA」、「2.5インチモバイル」の4品種である。
近年、HDDの年間出荷台数は減少を続けている。2016年の出荷台数は4億2,390万台だったが、2017年には4億308万台、2018年は3億7,535万台、2019年(推定)は3億1,673万台へと減ってきた。一昨年の2018年を四半期ごとに見ていくと、2018年第2四半期と第3四半期は前期比で出荷台数を増やしており、復調傾向が見られた。四半期ごとの出荷台数は2018年第3四半期に9,741万台となった。
しかし続く2018年第4四半期の出荷台数は8,806万台と前の四半期と比べて大きく減少した。半導体メモリとSSDの市況が急速に悪化した時期と重なる。データセンター向けの投資が停滞しはじめた時期でもある。2019年第1四半期の出荷台数は7,776万台となり、さらに減少した。
ここからは回復がはじまった。2019年第2四半期の出荷台数は7,843万台、同年第3四半期の出荷台数は8,314万台と前期比で増加が続いた。しかし同年第4四半期の出荷台数(推定)は7,740万台で前期比で再び減少する。回復の勢いは弱い。
四半期ごとの出荷台数を製品別にみていくと、2018年第4四半期の落ち込みは「ニアライン」と「2.5インチモバイル」の減少が引き起こしていることがわかる。HDDの製品分類別では唯一、出荷台数の増加基調が続いてきたのが「ニアライン」である。それが2018年第4四半期には前期(2018年第3四半期)の1,300万台から、1,070万台へと減少した。減少幅は230万台である。「2.5インチモバイル」の減少幅はさらに大きい。2018年第3四半期の4,901万台から、同年第4四半期は4,351万台へと減少した。減少幅は550万台におよぶ。
これに対して2019年第4四半期の落ち込みは、「2.5インチモバイル」がおもに引き起こしている。同年第3四半期の出荷台数が3,790万台だったのに対し、同年第4四半期の出荷台数(推定)は2,990万台と800万台も減少した。一方、「ニアライン」は2019年第3四半期に1,483万台を出荷して四半期ベースでは過去最大を更新した後、同年第4四半期(推定)は1,490万台と前期比で微増となっている。「エンタープライズ」と「3.5インチATA」も2019年第4四半期の出荷台数(推定)は前の四半期に比べて増加ししており、「2.5インチモバイル」の不調さが目立つ。
「ニアライン」が2019年後半に復調してきたことで、四半期ベースのHDD出荷金額は2019年の前半に比べると後半が高く推移した。四半期ベースの出荷金額を2018年第3四半期から見ていこう。同期は64億5,500万ドルでピークを迎える。続く同年第4四半期は56億ドルと落ち込み、2019年第1四半期は51億5,800万ドルとさらに低下した。同年第2四半期は52億9,300万ドルでわずかに増加し、続く同年第3四半期は58億6,100万ドルとさらに増えた。同年第4四半期(推定)は56億4,000万ドルと微減にとどまる。単価の低い「2.5インチモバイル」の減少を、単価の高い「ニアライン」が補てんしていることがうかがえる。
2023年の出荷台数は2017年の半分に減少へ
ここからは、年間ベースで市場の概要を製品分類別に振り返る。講演では2015年~2024年の出荷台数、出荷金額、平均販売価格(ASP)、総出荷記憶容量、平均記憶容量(1台当たりの記憶容量)、GB当たりの単価(GB単価)を製品別に分析したスライドを示していた。なお2015年~2018年は実績、2019年は推定、2020年以降は予測である。
すでに述べたように年間出荷台数は2015年以降、5年連続で減少してきた。2020年以降も短くとも2024年までの5年間は、出荷台数の漸減が続く。2017年には4億308万台だった出荷台数は、2023年にはおよそ半分の2億350万台にまで減ると予測する。2024年には1億9,350万台と、2億台を割り込む。
製品分類別に2017年(3年前)と2023年(3年後)を比較していこう。「エンタープライズ」が2017年の2,259万台から2023年は650万台へと約3割に激減する。「ニアライン」は2017年の4,240万台から、2023年は7,200万台へと7割ほど増加する。なお出荷台数が増えるのは「ニアライン」だけである。「3.5インチATA」は2017年の1億3,542万台から、2023年は6,400万台とおよそ半分に減る。「2.5インチモバイル」は2017年の2億268万台から、2023年は6,100万台と2017年の約3割に急減する。
最近(2018年)の出荷台数と出荷金額(実績)を見直してみる。2018年の実績でみると、製品分類別で出荷台数がもっとも多いのは「2.5インチモバイル」である。HDD全体の出荷台数が3億7,535万台であるのに対し、「2.5インチモバイル」は1億8,202万台と半分近くを占める。ついで多いのが「3.5インチATA」の1億2,051万台である。それから「ニアライン(NL)」が5,132万台、「エンタープライズ」が2,150万台と続く。
台数ではなく、金額ベースでは製品分類別の順位はかなり違う。2018年の実績でみると、製品別で出荷金額がもっとも多いのは「ニアライン(NL)」である。HDD全体の出荷金額は247億1,800万ドル。「ニアライン」の出荷金額は82億2,900万ドルで全体の33%、すなわち3分の1を占める。ついで多いのが「2.5インチモバイル」である。出荷金額は76億3,500万ドルで全体の31%を占める。それから「3.5インチATA」が60億8,300万ドルで続く。「エンタープライズ」の出荷金額は27億7,100万ドルと全体のおよそ1割(11%)にとどまる。
総出荷記憶容量は今後も拡大が続く
講演では、製品分類別の総出荷記憶容量と平均記憶容量(1台当たりの記憶容量)の年間推移に注目した分析結果も、合わせて示していた。
出荷台数の減少が最近はもとより、近い将来も続くのに対し、総出荷記憶容量は拡大が続いている。過去をみると、2015年に533.74EBだったのが2018年には855.34EBと6割ほど増加した。2020年には1,022.16EB、2023年には1,585.93EBへ増えると予測する。
製品分類別にみると総出荷記憶容量の拡大を牽引しているには「ニアライン(NL)」である。2018年の総出荷記憶容量は396.52EBで、全体の半分近く(46%)を占めた。「ニアライン」の総出荷記憶容量は2015年には140.18EBだったので、3年で2.8倍に急増したことになる。ちなみに2015年に製品別で総出荷記憶容量が最大だったのは「3.5インチATA」である。記憶容量は193.29EBだった。
2019年以降の予測では、製品分類別で総出荷記憶容量が増加するのは「ニアライン」だけになる。2015年~2018年の総出荷記憶容量は「エンタープライズ」が横ばい、「3.5インチATA」と「2.5インチモバイル」が増大だった。しかしこれら3品目はいずれも、2020年以降は前年比で総出荷記憶容量を減らしていく。
一方、2018年の総出荷記憶容量が396.52EBだった「ニアライン」は、5年後の2023年には1,028.6EBと2.6倍に増えると予測する。同年にHDD全体の総出荷記憶容量は1,583.93EBなので、「ニアライン」が全体に占める割合は81%に達する。
「ニアライン」の総出荷記憶容量を2020年以降も押し上げるのは、1台当たりの記憶容量(平均記憶容量)の拡大である。2018年に「ニアライン」の平均記憶容量は7,726.3GB(約7.5TB)だった。それが2020年には10,700GB(約10.4TB)、2023年には17,800GB(約17.4TB)へと大きく増えていく。逆に5年前の2015年は3,769.3GB(約3.7TB)だった。1台当たりの記憶容量は2015年から3年で2倍強、5年で3倍弱に増加することになる。
HDD市場はメーカー3社、4つの製品ブランドに寡占化
台数と金額とも縮小が続くHDD市場は、3つのHDDメーカーと4つの製品ブランドに寡占化している。Seagate Technology(Seagate)、Western Digital(WD)、東芝の3社である。製品ブランドではWDがHGSTの別ブランドでもHDD製品を販売している。
出荷台数ベースのシェアは直近の実績である2019年第3四半期だと、Seagateが40.4%、WDが25.7%、HGSTが9.5%、東芝が24.3%を占める。
最近の出荷台数をメーカー別に見ていくと、2017年はSeagateが1億4,766万台、WD(HGST含む)が1億6,292万台、東芝が9,251万台、2018年はSeagateが1億5,000万台、WD(HGST含む)が1億3,970万台、東芝が8,565万台だった。2019年はそれぞれ1億3,025万台、1億1,200万台、7,448万台と推定した。
次回は講演のなかから、SSD市場に関する部分をご紹介する予定である。