福田昭のセミコン業界最前線
来年6月開催のVLSIシンポジウム、その概要がなぜかIEDM 2023で判明
2023年12月18日 06:17
半導体の研究開発コミュニティでは、冬に2つの大きな国際学会があり、初夏にもう1つ、大きな国際学会があることを前提に、研究開発を進めていることが少なくない。冬の学会とは、12月に開催される国際電子デバイス会議(IEDM)と、2月に開催される国際固体回路会議(ISSCC)を指す。IEDMはデバイス・プロセス技術、ISSCCは回路技術を主なテーマとしており、研究開発でもカバー範囲が違う。言い換えると棲み分けができている。
そして初夏の学会とは、6月に開催されるVLSIシンポジウム(VLSI)を指す。同シンポジウムは最近まで、デバイス・プロセス技術をカバーするVLSI技術シンポジウムと、回路技術をカバーするVLSI回路シンポジウムに分かれていた。最近ではデバイス・プロセス技術と回路技術の相互作用が強くなっていることから、2022年に1つのシンポジウムに統合した(この辺りの経緯は参考記事に詳しい)。
VLSIシンポジウムは西暦の偶数年に米国ハワイ州のホノルル(「ハワイ開催」とも呼ぶ)、西暦の奇数年に京都府京都市(「京都開催」とも呼ぶ)で交互に開催することを通例としてきた。同シンポジウムの実行委員会には米国側と日本側のメンバーがおり、開催地に合わせて地元のメンバーがさまざまな事柄を差配してきた。
VLSIシンポジウムの広報にIEDM取材のプレスを活用
その一環としてハワイ開催のときは、前年12月のIEDMでVLSIシンポジウムの委員会(主に米国側チェア)がこっそり(?)、翌年6月の開催概要を報道機関向けに説明するというインフォーマルなプレスブリーフィングが実施されてきた。最初の「隠れブリーフィング(?)」は2017年12月のIEDMで、ブリーフィングの場所はプレスルームだった。プレスブリーフィングの開催は、IEDMの取材登録をしていたプレスメンバーだけに事前に知らされた。
2年後の2019年12月にも、IEDMのプレスルームでVLSIシンポジウムの「隠れブリーフィング」は実施された。ただし残念ながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行により、2020年のVLSIシンポジウムはバーチャル開催となっている。12月のブリーフィングではもちろん、リアル開催を前提に概要が説明されていた。
さらに2年後の2021年12月は、IEDMがバーチャル開催となってしまい、「隠れブリーフィング」は実施されなかった。翌2022年6月はVLSIシンポジウムのリアル開催がハワイで復活した。このハワイ開催では、日本からの参加者は出国前と現地で日本の厚生労働省が規定した方式のPCR検査を受けて陰性証明書を提出しなければならず、かなりの不便さと出費を強いられた。
投稿論文の締め切りは2024年2月5日でまだ先
IEDMも2022年にリアル開催が復活した。ただしCOVID-19による渡航制限が残っている地域を考慮し、バーチャル参加枠を残したハイブリッド開催となった。そして2024年6月にVLSIシンポジウムのハワイ開催を控えた今年(2023年)、IEDM 2023のプレスルームで3回目の「隠れブリーフィング」が実施された。ただし今年は米国側だけでなく、日本側の委員会メンバーも2名が参加していた。
VLSIシンポジウムの投稿論文締め切り日は2024年2月5日である。従って一般講演の論文は、現時点では1件も決まっていない。スケジュールでは2024年3月に審査が実施され、採択の可否が投稿者に通知される。レートニュース(速報論文)の投稿締切日は2024年4月1日である。
そしてレートニュースを含めた一般講演全体の詳細が決定した後に、東京を含めたアジア各地と米国でVLSIシンポジウムの正式な記者説明会が開催される。東京における説明会の開催時期は4月が多い。開催形式はオンライン、あるいは対面である。
「2024 VLSI」の基本スケジュールが初めて明らかに
ここからは12月11日夕方に開催された「(インフォーマルな)プレスブリーフィング」から2024年6月に開催されるVLSIシンポジウム(略称は「2024 VLSI」の概要を説明していく。最初に説明があった共通テーマは、すでに公式サイトのトップページ中央に掲載されており、特に目新しくはなかった。
次のスライドが基本スケジュールである(なぜかスライドのタイトルは「カンファレンスフォーマット」となっていた)。個人的にはこれがもっとも重要な情報だった。筆者はVLSIシンポジウムの公式サイトを週に少なくとも1回は閲覧しているのだが、開催日程である6月16日~6月20日は載っているものの、肝心の基本スケジュールがどこを探しても見つからないのだ。
スライドは英文だったので、和訳かつ補完した基本スケジュールを以下に述べよう。6月16日から6月20日までの内訳は、日曜と月曜がプレイベント、火曜から木曜がメインイベントとなる。16日はワークショップを予定する。4件~5件のテーマを並行して進める。17日はショートコース(共通のテーマに基づく複数の技術講座)を実施する。
17日の夜は「デモセッション」を予定する。技術講演会で発表予定の研究成果から、一部をテーブルトップ形式で論文著者が展示するものだ。このデモセッションには技術講演会の参加登録者が入場できる。またスライドには記述していないが、デモセッションとレセプション(軽食による歓迎会)を併催することがVLSIシンポジウムでは恒例となっている。
18日~20日がメインイベントである技術講演会となる。なお前年まで金曜に開催されていたポストイベント「金曜フォーラム」は、実施しない。代わりにプレイベントのワークショップを充実させていく。以下は技術講演会の基本スケジュールである。
18日は基調講演で始まる。その後が一般講演のセッションとなる。夜にはパネル討論会を予定する。なおスケジュールにある「WIE(Women in Engineering)」はフォーラムとしての実施を計画中だとする。
19日も基調講演で始まる。その後が一般講演のセッションとなる。夜は晩餐会を予定する。
20日は午前から一般講演セッションを始める。午前と午後のセッションの間には、昼食会が新たに設けられた。
チップレットのオープンソース設計などをワークショップで掘り下げる
ここからはもう少し詳しく説明しよう。始めはプレイベントのワークショップとショートコースの概要を紹介する。ワークショップは、テーマを絞って講演と質疑応答、討論により理解を深めることを目指す。タイムスロット(時間割)としては単独のテーマ(スタンディングワークショップ)と、同時並列に進めるテーマがある。
単独進行のテーマは「EDA(電子設計ツール)とチップレットを含めたオープンソースの設計」。同時並列進行のテーマには「バイオロジーのインタフェースチップ」、「バッテリ駆動およびバッテリレスの超低消費電力回路設計技術」、「高周波とアナログの3次元集積とその課題」、などを予定する。
次世代のコンピューティングを担うVLSI技術を学ぶ
技術講座は共通のテーマに基づく複数の講演で構成する。デバイス・プロセス技術分野のショートコース(SC1)は「次世代のコンピューティングに向けた先進VLSI技術」を共通テーマとし、トランジスタのスケーリングやメモリ技術の革新、裏面給電ネットワーク(BSPDN)、多層配線工程(BEOL)、先進パッケージングに関する講演を予定する。
回路技術分野のショートコース(SC2)は構築中だ。異種デバイスの集積技術やチップレットのダイ間インターフェイスなどの講演が検討されている。
基調講演ではセンシング、移動体、光電融合、モビリティの講演を予定
ここからは技術講演会の概要説明に入ろう。すでに述べたように、18日と19日は基調講演で始まる。合計で4件の基調講演(すべて招待講演)がある。前年までの通例だと、火曜と水曜に2件ずつとなるはずだ。4件のテーマは「センシング技術」、「移動体通信技術の将来」、「フォトニクスとエレクトロニクスの融合」、「モビリティ革命」である。なお基調講演に関する情報は公式サイトにはまだ掲載されていない(米国太平洋時間12月14日午前1時の時点)。