福田昭のセミコン業界最前線

次世代マイコンへの搭載を狙う長寿命の抵抗変化メモリがIMW 2022に続出

IMW 2022の閉会を告げる最初のスライド。チェアパーソンによる閉会挨拶から

参加登録者数は前回の欧州開催を超える

 半導体メモリ技術の研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(2022 IEEE 14th International Memory Workshop(IMW 2022)」が、2022年5月15日~18日にドイツ連邦共和国の南東部に位置する都市ドレスデンで開催された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行によって昨年(2021年)と一昨年(2020年)の国際メモリワークショップ(IMW)はオンラインによる「バーチャルイベント」として開催されており、3年ぶりに「リアルイベント」として開かれた。

 さらにCOVID-19の影響で現地を訪れづらい参加希望者のために、イベントをオンデマンドで視聴できるバーチャル登録枠を設けた。リアルとバーチャルのいわゆる「ハイブリッド」開催である。筆者もバーチャル登録によってイベントに参加した。

 開会挨拶で発表された投稿論文や採択論文などの概要と、トピックスである3D NANDフラッシュメモリの講演ハイライトは、最近の本コラムでご報告した。今回は、5月18日に実施された閉会挨拶の概要と、もう1つのトピックスである埋め込み抵抗変化メモリの講演ハイライトをご紹介する。

 閉会挨拶では、参加登録者が200名を超えたことが明らかになった。2年前の192名、欧州では前回となるパリ開催(2016年)の200名を上回ることができた。

参加登録者数の推移(2014年~2022年)。チェアパーソンによる閉会挨拶から

 閉会挨拶では、次回の開催場所とチェアパーソンを公表することが恒例となっている。過去、国際メモリワークショップは初回(2009年)の米国(カリフォルニア州モントレー)から、アジア、米国、欧州、米国、アジア、米国という順番で開催されてきた。隔年で米国開催、隔年でアジアまたは欧州で開催、という順序である。今年(2022年)は欧州開催だったので、次回(2023年)は米国開催となる。

次回の予告とチェアパーソンの一覧。次回(2023年)の国際メモリワークショップは、米国カリフォルニア州モントレーで開催される。チェアパーソンによる閉会挨拶から
国際メモリワークショップの開催地一覧(2009年~2023年)。2022年までは実績、2023年は予定。過去の資料を基に筆者がまとめた

 カリフォルニア州モントレーは、米国開催では恒例の場所だ。日程は公表されなかったが、例年通りだと2023年の5月中旬になると予想する。前回のモントレー開催は2019年なので、4年ぶりの開催だ。

2019年のIMWで会場となったリゾートホテル「Hyatt Regency Monterey」のカンファレンスセンター。2019年5月12日に筆者が撮影した。2023年も同じ会場が使われると予想する

埋め込みフラッシュメモリを埋め込み抵抗変化メモリで置き換える

 本コラムで過去にご報告したように、埋め込みフラッシュメモリの微細化は40nmロジック~28nmロジックでほぼ限界に達しつつある。理由は主に2つ。データの書き込み(プログラム)と消去(イレーズ)に高い電圧を必要とするため、メモリセルをあまり小さくできないこと。それからロジックのトランジスタが22nmノード以降はFinFETに代表される立体的な構造となったことで、従来のプレーナー型MOS FETと類似のトランジスタをメモリセルとする埋め込みフラッシュではロジック用トランジスタの構造変化に追随できないこと。

 このため、28nm世代以降のマイクロコントローラ(マイコン)やSoC(System on a Chip)などではプログラム格納用のオンチップ不揮発性メモリに、これまで使われてきた埋め込みフラッシュメモリを採用しにくくなっていた。その代替用不揮発性メモリとして想定されているのが、磁気メモリ(MRAM)と抵抗変化メモリ(ReRAMあるいはRRAM)である。

低コストだが短めの書き換え寿命が課題

 埋め込み用のMRAMとReRAMはいずれも、多層配線工程の途中に記憶素子(可変抵抗素子)を作り込めるという特徴を備える。メモリセルは通常、1個のトランジスタ(T)と1個の記憶素子で構成する。記憶素子は抵抗素子(R)なので「1T1Rセル」とも呼ぶ。ロジックの微細化によってトランジスタ(FET)の構造が変化しても、原理的には容易に追随できる。FinFETはもちろんのこと、ナノシートFETになっても対応可能だ。

 MRAMとReRAMの大きな違いは、製造の複雑さと性能の高低にある。MRAMは記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)が極めて薄い膜を何十層も重ねた複雑な構造であることから、記憶素子の製造工数が多くなってしまう。ReRAMの抵抗素子膜はMTJに比べると厚くて層数は3層以下と少ない。

 逆に性能は、一般的にMRAMが高い。書き込み時間は短く、書き込み電圧は低く、書き換えサイクル寿命は100万サイクル以上と長い。ReRAMはMRAMに比べて書き込み時間はやや長く、書き込み電圧はやや高く、書き換えサイクル寿命は1万サイクル以下とやや短い。特に書き換えサイクル寿命は、もう少し伸ばしたいところだ。

マイコンやSoCなどが内蔵する、プログラムコード格納用不揮発性メモリ(埋め込み不揮発性メモリ)の比較。書き換えサイクル回数とデータ保存時間は製品の仕様(筆者による推定を含む)

 今回のIMW 2022では、10万サイクル以上という長い書き換えサイクル寿命を実現したReRAM技術の研究成果が相次いで発表された。ReRAMの弱点を緩和する、重要な成果だと言える。

800KBのReRAMを内蔵したスマートカード用SoCを試作

 Infineon Technologies(以下Infineon)は、800KB(6.4Mbit)と比較的大きな記憶容量のReRAMを搭載したスマートカード用SoCを試作した(論文番号6.3)。製造技術は28nm世代のCMOSロジックプロセスである。試作したSoCダイはReRAMのほか、32KBのSRAMや32bit CPUコア「ARM Cortex-M0」などを内蔵する。一方で評価用シリコンダイのため、セキュリティ機能は搭載しなかった。

 メモリセルは1個のMOS FET(T)と1個の抵抗変化素子(R)で構成する「1T1R方式」である。シリコンダイの面積は1.6平方mmとかなり小さい。

800KBのReRAMを内蔵したスマートカード用SoCのレイアウト。Infineon TechnologiesがIMW 2022で発表した論文(論文番号6.3)から

 テスト装置を使用した書き換えサイクル寿命の測定では、10万サイクルの書き換え後も余裕を持ってデータを読み出すことができた。高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)では、書き換えを重ねるとHRSのリーク電流が増加する傾向が見られた。LRSは安定だった。

 データ保持期間については高温放置試験から、温度85℃で15年以上のデータ保持期間を備えると推定した。また、パッケージングとハンダ付けの高温処理も、大きな問題にはならないと説明した。

書き換えサイクル数と読み出し電流の関係。横軸はメモリセル電流(相対値)、縦軸は累積確率(対数目盛り)。横軸の中央にある縦線は読み出しのしきい値。Infineon TechnologiesがIMW 2022で発表した論文(論文番号6.3)から

 Infineonは48KBのReRAMマクロを28nm技術で作り込んだウェハの製造歩留まりも公表した。ウェハ面内で99%を超える歩留まりを得たという。なおウェハの寸法とReRAMマクロのシリコン面積は不明である。

48KBのReRAMマクロを28nm技術で作り込んだウェハのテスト結果。緑色は良品であることを示す。Infineon TechnologiesがIMW 2022で発表した論文(論文番号6.3)から

10万サイクルの書き換えと9回のハンダ付け高温処理に耐える

 ReRAM技術の開発ベンチャーであるWeebit Nanoは、28nm世代のCMOSロジック製造技術と互換の埋め込みReRAMマクロを開発し、高い信頼性を確認した(論文番号2.1)。記憶容量が16Kbitと1Mbitのマクロを試作し、書き換えサイクルと高温保存(データ保持期間の試験)、高温処理(ハンダ付けを想定)によるストレスを与えた。メモリセルは1T1R方式である。可変抵抗素子(記憶素子)は多層配線工程に作り込んだ。

 書き換えサイクルの試験では、書き込み後に検証(ベリファイ)せずにデータを読み出してマージンを評価した。10万サイクルまでは目立った劣化はみられなかった。

書き換えサイクル試験の結果。上のグラフは読み出し電流の変化。横軸がサイクル数(対数目盛り)、縦軸が電流値。下のグラフは電流分布の変化。横軸が電流値、縦軸が累積確率。Weebit NanoがIMW 2022で発表した論文(論文番号2.1)から

 高温保存(ベーキング)の試験では、1万回の書き換えサイクルを経たメモリセルを210℃の高温下で放置した。15時間まで放置したところ、読み出しマージンの劣化は見られるものの、実用的には差し支えのない水準のマージンを確保した。10年間のデータ保持を維持する温度の推定値は、通常の書き込みモードで220℃、書き込み電流を低くしたモードで130℃である。実用的には十分な温度だと言える。

1万回の書き換えサイクルを経たメモリセルを210℃の高温で保存した結果。上のグラフは放置時間(ベーキング時間)と電流分布の変化。下のグラフは10年間のデータ保持期間を維持する温度の推定結果。Weebit NanoがIMW 2022で発表した論文(論文番号2.1)から

 ハンダ付け工程を想定した高温処理の試験では、表面実装工程(リフローハンダ付け)に相当する温度プロファイルの高温処理を最大で9回繰り返した。1回目の高温処理では読み出し電流の劣化が見られたものの、2回~9回と処理を繰り返しても劣化はほとんど進行しなかった。

表面実装工程(リフローハンダ付け)に相当する温度プロファイルに高温処理による読み出し電流の変化。Weebit NanoがIMW 2022で発表した論文(論文番号2.1)から

 また1Mbitの評価チップで書き込みと検証を繰り返すサイクル試験を実施した。大半のセルは1回の書き込みでサイクルが完了するものの、数十個のセルは再書き込みを必要とした。900サイクルの試験では、不良ビットは1つも発生しなかったとする。

 今後は22nm世代のFD SOI CMOSプロセスでマルチメガビット級のReRAMマクロを開発してく予定である。