福田昭のセミコン業界最前線
VLSIシンポジウムがリアルとバーチャルの融合による新しいイベント体験を提供
2022年6月22日 06:23
すでにレポート記事でお知らせしたように、半導体の研究開発コミュティにおける夏の恒例イベント「VLSIシンポジウム」はリアル参加とバーチャル参加が混在する「ハイブリッドイベント」として開催された。
リアル開催は2022年6月12日夕方(以降米国ハワイ時間)に始まり、6月17日午後には閉幕した。17日には、ほとんどの講演ビデオを全ての参加者(リアル参加とバーチャル参加の両方)が視聴できるようになった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、2020年と2021年はほとんどの国際学会がバーチャルだけのイベントに変貌した。2021年の末以降、ようやくリアル開催が復活してきた。そして今回、リアルとバーチャルが融合した「ハイブリッドイベント」に筆者は初めてリアル参加できた。リアル参加により、従来のリアル開催ともバーチャル開催とも異なる、新しい形のイベントを体験した。その具体的な姿を以下にご報告したい。
従来のリアル開催との違いは、現地の受付業務にも現れた。事前登録済みの参加者が受け取る物品が大幅に減少した。紙の論文集、紙のプログラム、紙の広告チラシ、そしてこれらの紙を入れる袋が消えた。受け取ったのは「参加者バッチ」、「バンケット(ディナー)のチケット」、「領収書(紙)」だけになった。
論文集(Proceedings)は、専用サイトからのダウンロードで受け取る。参加者バッチの裏面にリンク(URL)が印刷してあるほか、参加登録に使用した電子メールアドレスにも、論文集のダウンロード用リンクが届く。なお、VLSIシンポジウムの公式Webサイトには論文集をダウンロードするためのメニューがない。
PCとスマートフォンで共通のアプリが参加者を強力にサポート
そしてリアル開催の参加者を強力にサポートするのが、イベント管理アプリケーション「Whova」である。リアルとバーチャルを問わず、全ての参加登録者は「Whova」の利用(スマートフォンの場合はインストール)を求められる。この利用案内は、参加登録者に電子メールで届く。
Whovaはスマートフォンとタブレットではアプリとして動き、PCではWebアプリとして動く。Whovaのグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)は全てのハードウェアで似ており、使い始めはGUIの違いに少し戸惑うものの、すぐに慣れてくる。また、たとえばPCのWhovaで設定を変更した結果は、即座にスマートフォンとタブレットのWhovaにも反映される(当然ながら逆も自動的に実行される)。
なお筆者の調べでは、Whovaは国際学会に限らず、数多くのイベント(国際見本市や企業のイベントなど)で「コロナ前」から採用されていた。北米ではかなり有名なイベント支援ツールであるようだ。
スケジュール管理と講演スライド閲覧の機能が聴講を容易に
Whovaにはいくつもの機能が用意されていた。機能が多すぎて使い切れないほどだ。大半は国際学会の聴講とは関連の低い、サブツール(参加者一覧、メッセージング、撮影写真の共有、コミュニティなど)である。最も重要なのは、スケジュール管理機能(Agenda)と講演スライド(PDF形式)の閲覧機能だろう。
Agendaは、全体のスケジュールを日付別に表示する。たとえば6月14日だと当日のセッションやサブイベントなどの予定時間とチェックボタン(My Agenda)が表示される。また講演セッションでは、講演タイトルごとに概要とMy Agendaのチェックボタンが示される。
なお時間表示は、開催地であるハワイ時間と、ハードウェア(スマートフォンやPCなど)が存在するローカル時間を切り換えられる。ローカル時間に設定するとスケジュールの表示時間が全てローカル時間に切り換わるので、バーチャル参加あるいはリモート参加のときに重宝する。
Agenda表示には全てのセッションと講演、サブイベントなどを表示する「Full Agenda」のタブと、参加者がチェックしたイベントだけを表示する「My Agenda」のタブがある。参加者はMy Agendaのタブに切り換えることで、自分が参加する、あるいは興味を持ったセッションや講演などをいつでも閲覧できる。
講演スライドの閲覧機能は、リアル開催の参加者にとっては非常に有り難い機能だ。スマートフォンのアプリWhovaあるいはPCのWebアプリWhovaで講演スライド(PDF形式)を閲覧しながら、講演を聴講できる。講演スライドをダウンロードして保存することも可能だ。
筆者は当初、スマートフォンでは画面が小さいので講演スライド(PDF)の閲覧は、難しいと考えていた。ところが講演スライドを表示させると、スマートフォンの拡大機能を必要に応じて使うことで、ほぼ問題なく閲覧できることが分かった。実際、スマートフォンあるいはタブレットでスライドを見ながら講演を聴講している参加者が、会場では少なくなかった。
完全復活とはいかないリアル開催をバーチャルが補完
そしてリアル開催自体も、バーチャルによる補完がまだまだ必要であることを実感した。なぜならば技術講演の一部は、あらかじめ録画したビデオの再生によって実施されたからだ。新型コロナウイルス感染症による渡航制限などにより、講演者が現地を訪問できなかったためである。
ビデオ講演の場合は参加者と講演者による質疑応答ができない。講演セッションのチェアパーソンは一様に「質疑応答は来週のライブセッションで実施する」と述べていた。
従ってライブセッションには、バーチャル参加者に質疑応答の機会を与えるという目的のほか、リアル参加者にビデオ講演の講演者との質疑応答の機会を与えるという重要な目的が存在する。ハイブリッド開催では、ライブセッションは欠かせない。
ハイブリッド開催によって参加登録者の全体数が大幅に増加
続いてリアル開催の状況について述べよう。6月13日のショートコース(技術講座)に参加して初めに感じたのは、「(2018年のハワイ開催に比べて)参加者の人数が少ない」ことだ。ショートコースの会場には空席が目立ち、マスク着用を推奨されているにも関わらず、十分なソーシャルディスタンスを確保して着席できるほどだ。このため、マスクを外して聴講する参加者が少なくなかった。
夜にはテーブルトップ展示によるデモセッション(デモンストレーションセッション)とレセプションが同じ会場で開催された。ここでも来場した人数は前回(2018年のハワイ開催)に比べてかなり少ないように感じた。
翌日の14日になると、会場の人数はかなり増えた。当然ながら、メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)が始まったからだ。休憩時間にはいつものように、ロビーが人であふれた。とはいうものの、前回を超えるような人数には見えなかった。
VLSIシンポジウムの参加登録者は、2022年6月8日の時点でリアル(インパーソン)が631名、バーチャルが583名、ショートコースが608名だった。リアルとバーチャルの割合は6対4である。これが6月12日になると、リアルが646名、バーチャルが647名に増え、リアルとバーチャルの比率は5対5になった。リアル参加者の646名は、全員がリアル参加だった前回の868名よりもかなり低い。会場の人数が少なく感じられたのも、当然だと言えよう。
先ほどご説明したアプリWhovaには、参加登録者をリアルタイムで表示する機能がある。筆者がアプリをチェックした結果では、最終的な参加登録者の総数は1,519名で、フルバーチャルの開催だった2020年の1,402名を超えた。内訳はリアル参加が847名、バーチャル参加が672名である。リアル参加の847名は、前回の868名にかなり近い。
来年のVLSIシンポジウムは2023年6月に日本の京都で開催へ
6月14日の午後には、次回のVLSIシンポジウム(2023 VLSI)のスケジュールが告知された。2023年6月11日~16日(日本時間)の会期で、京都のリーガロイヤルホテルで開催される。リーガロイヤルホテルは、2019年まで京都開催で利用されてきた会場だ。ハワイ会場に比べると狭いものの、交通の便利さでは群を抜く。新幹線の京都駅から徒歩15分に立地しており、京都観光はもちろん、奈良・大和路観光の拠点にもなる。
京都開催も2019年以来、4年ぶりになる。ハイブリッド開催は運営が複雑で、学会の実行委員会にとっては負担が大きい。一方で参加希望者にとってはありがたい仕組みだ。ハイブリッド開催の継続と、海外から日本への渡航制限のさらなる緩和を期待したい。