大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
本気の日本人向けノート。899gの「ASUS Zenbook SORA」誕生秘話が興味深い
2025年2月4日 16:00
ASUS JAPANが、14型軽量ノートPC「ASUS Zenbook SORA」を、日本市場に投入した。重量は899g、最薄部で13.4mmを実現。ASUSが開発した新素材「セラルミナム」を採用しており、外出して利用する際にも安心できる堅牢性を持った製品だ。
ASUS JAPANのアルヴィン・チェン社長は、「日本市場のために作り上げたノートPC」と位置づける。SORAという製品名は、日本でのみ使用されるものであり、そこにも日本市場にかけるこだわりが感じられる。
ASUS JAPANのチェン社長と、同社コンシューマービジネス事業部統括部長のデイヴィッド・チュウ氏に、「ASUS Zenbook SORA」を中心とした同社のPC事業戦略について話を聞いた。
13型クラスのノートが他国よりも売れる日本
――ASUS Zenbook SORAは、どんな経緯で生まれた製品ですか?
チェン氏(以下敬称略) ASUS Zenbook SORAは、日本のユーザーの声を反映し、日本の市場に向けて作り上げたモバイルノートです。
何年もかけて日本市場を調査し、通勤や通学での持ち運びの様子、日本の文化や日本固有のニーズを捉えて開発しました。製品名を、日本語の「空(SORA)」としたのも、日本市場に向けて開発したモバイルノートであることを裏づけています。重力に逆らい、空に舞うような軽さをイメージし、日本のユーザーに使ってもらうための最適のPCであることを訴求していきます。
日本の市場は、13型クラスのノートPCの出荷比率が40%を占めています。これは中国や米国の市場構成比とは異なり、日本固有と言えるものです。その市場に入っていくには、日本での日常の使い方を理解する必要があり、それに併せてモノづくりを変えていかなくてはならないと考えました。
実は、5年前に初めて日本に来たときに、メディアの製品レビュー記事を見て驚いたことがありました。日本では、モバイルノートの評価を行なう際に、本体の重量だけでなく、アダプタの重さまでを対象にしていたのです。
日本では、軽量化といった場合に、ここまで注目していることが分かりました。これが、今回の製品づくりのきっかけになっています。アダプタの件は、すぐに本社の開発部門に伝えましたよ(笑)。
――本社の開発部門は、すぐに日本市場向けの製品を作ると言ってくれたのですか?
チェン いや、すぐにというわけにはいきません。ただ、ちょうど本社側では、軽量・薄型の新たなノートPCの開発に着手しているときでした。それが、すでに発売されているExpertBook B9で、870gという軽量化を実現し、発売後、市場からは高い評価を得ることができました。
しかし、フィードバックの中には、ビジネス用途に特化しすぎているといった声や、一般ユーザーが購入するには高価であるという声もありました。
では、次世代モデルの開発のポイントはどこに置くか……。その検討が始まった時点から、本社開発部門に対して、日本市場の要求を伝えるための対話が始まりました。870gのExpertBook B9が、世界の中で最も売れた市場が日本であったことも、開発部門が日本市場のニーズに着目する理由の1つになりました。
20万円切りで900g以下を目指す
――具体的にはどんな要望をしたのですか。
チェン まずは、日本で販売されているモバイルノートを購入し、本社に送りました。これらの製品を実際に見ながら、単に軽量化するだけでなく、高い性能を持ちながら、長時間のバッテリ駆動時間が必要であること、耐久性が必要であること、そして、最適な価格帯はどこかといったことも検討しました。
何度も議論を繰り返した結果、軽さを重視しながらも、耐久性と価格のバランスを取ることが重要だと考えました。軽量化を徹底的に追求したフラグシップと言える製品を作ることはできますが、ASUSが目指したのは、多くのユーザーが購入できる価格帯です。目安は20万円を切ること。そして、重量は900g以下という目標を立て、その上で、性能とバッテリ駆動時間にもこだわり、日本のユーザーが満足できる耐久性も実現することを目指しました。
コンパクトさを求める日本固有のニーズが判明
――日本の市場調査によって、どんなことが分かりましたか?
チェン 約2年前に、新たなモバイルノートの開発が決定したことを受けて、2024年3月から4月にかけて、本社から調査チームが派遣され、日本のコンシューマユーザーやモバイルワーカーのPCの使い方を調査しました。カフェでの使い方や、新幹線車内での使い方、持ち運び方など、さまざまな角度から、日本での日常の使い方を深掘りしていったのです。その結果、さまざまなことが理解できました。
たとえば、日本人の多くは1つのバッグで荷物を運んでいることが分かりました。ほかの国では、通常のバッグのほかに、ノートPC用のバッグを持っていることが多いのですが、日本では、ほかの持ち物と一緒にノートPCもバッグの中に入れて持ち運んでいます。また、バッテリが満充電であっても、必ずアダプタを携行する人が多いことも分かりました。
1つのバッグの中に、ノートPCやアダプタなども、すべてを入れてしまい、しかも通勤には1時間も2時間かけて、その間、座席に座れないという状況が起きています。ほかの国では、自動車やオートバイで通勤する人が多い。
それに対して、通勤や日中の移動が、電車が主流になっている日本では、海外と就業時間や通勤時間は同じだったとしても、毎日、バッグを持ち歩くことによる負荷のかかり方がまったく違います。その結果、PCでも、スマホでも、自ずとコンパクトな製品が求められているのです。これは日本固有のニーズだと言えます。
30色以上から選ばれた日本好みの2色
――ASUS JAPANのチームは、Zenbook SORAの開発にはどう関与していますか?
チェン 日本での市場調査においては、質問事項の設定を日本のチームが行ないました。Zenbook SORAの本体カラーを決める際にも、本社からは30色以上のサンプルが送られてきたのですが、それを絞り込む作業で、日本のチームの意見が反映されています。
素材の採用についても、日本からも意見を出しています。実際に本体を触ってもらうと分かるのですが、セラミックとアルミニウムを融合したASUS独自の新素材「セラルミナム」を、今回は天板だけでなく、キーボード面やボトムケースにも採用し、軽さと質感の高さを両立しています。
――本体カラーは2色を用意していますね。
チェン ザブリスキーベージュとアイスランドグレーの2色です。日本でも、20~50歳代の社員から幅広く意見を集め、それを反映してもらっています。
グレーは多くの世代に受け入れられやすい色ですし、ベージュは、PCには見えなかったり、ファッションの一部として持ち歩けたりといったことを意識しています。これも、日本での利用スタイルを意識して選んだカラーだと言えます。
――「SORA」というネーミングは、ASUS JAPANからの提案ですか。
チェン 本社と日本のチームが、日本で市場調査を実施しているときに、「SORA」という名称が出てきて、これを日本で使おうということになりました。
ローカル市場において、独自の製品名を使うということは極めて珍しいことです。ここからも、強い意思を持って、日本市場に投入した製品であることが分かってもらえるでしょう。
日本市場固有のユニークさと、日本の市場の潜在性を捉えた製品になります。日本市場に向けて特別なブランドをローンチするわけですから、ASUS JAPANとして、これからも多くの努力をしていきます。
――ASUS JAPANにとっては、失敗ができない製品ですね(笑)
チェン プロジェクトの成否よりも、日本のお客様のニーズにあったものを、しっかりと提供することを重視した製品です。それが重要です。
Zenbook SORAはどんなノートPCか?
――CES 2025で正式に発表し、日本では2月4日に公開したわけですが、発表後の手応えはどうですか?
チェン 2024年6月のCOMPUTEX TAIPEIでコンセプトを発表し、サンプルを公開したところ、軽くて、薄くて、長時間駆動することに対しては、とても高い評価を得ました。そのフィードバックを得て、さらに軽く、より良く進化させ、日本市場に適した製品へと進化させてきました。CES 2025でも高い評価を得ていますし、いい手応えを感じています。
――日本で先行している他社の軽量薄型のノートPCに対しては、どんな点で差別化していますか?
チュウ氏(以下敬称略) チェンからもお話ししたように、Zenbook SORAは、2年前から本社とやり取りをしながら、軽量で、バッテリ駆動時間が長く、最適な価格帯を目指して開発してきました。
日本のPC市場は、APACでは2番目に入る市場規模であり、ポテンシャルが大きく、特にモバイルノートへのニーズが高い。それでいながら、日本の市場には、ほかの国とは違う使い方があるということを理解した上で開発しました。
もう1つ、Copilot+PCとして投入できるタイミングにあった点もよかったと考えています。Zenbook SORA は、Copilot+PCとして、最も軽量なゾーンの製品の1つであり、そこに、薄くて、購入しやすい競争力があるPCを投入できたと思っています。
2024年はAI PC元年であり、2025年は、Copilot+PC などを通じて、より多くの人がAIを使うことができる年になります。そのためには、AIを使える環境を、もっと手軽に入手できるようにしなくてはなりません。
それを実現するのがZenbook SORAです。Copilot+PCでありながら、価格は20万円以下に設定しました。その点では、日本のPCメーカーの軽量モバイルノートとは、製品コンセプトが異なります。
Zenbook SORAではSnapdragonを採用しています。これによって、Copilot+PCのフル機能を生かしながら、狭額縁化した14型のディスプレイを搭載し、広いタッチパッドを採用しながら、可能な限り軽量化しました。
それでいて、耐久性を犠牲にせず、バッテリ寿命を最大化し、980gのモデルにはOLEDを採用し、21時間の駆動時間を実現。899gのモデルでは、液晶ディスプレイを採用し、最長17時間のバッテリ駆動が可能です。
また、1万8,000回以上同じ場所をこすっても摩耗せず、指紋や汚れが付きにくい素材を天板などに使用しています。これはプレミアムモデルで採用している素材ですが、それでいて購入しやすい価格帯を実現しています。多くのユーザーに、日常的に使ってもらうためのCopilot+PCとして、ベストチョイスの製品になるという自信があります。
チェン Zenbook SORAは、設計の工夫、アイデアの出し方、モノづくりの考え方を大きく変えて、それを製品の中に反映させています。その点でも他社とはまったく異なるモバイルノートを作ることができたと思っています。
想定された3種類のユーザー
――どんなユーザーに使ってほしいですか?
チェン Zenbook SORAのユーザーターゲットは3つです。1つ目は大学生です。授業やサークルなどに参加するため、1時間30分ごとに、場所を変えながら、使用するといったユーザーです。
2つ目は営業部門を始めとして、外で仕事をするビジネスマンです。顧客先を訪問したり、移動の途中にカフェで仕事をしたり、会社に戻って仕事をしたりといったように、1~2時間ごとに場所を変えて、PCを使う人たちです。
そして3つ目が、1時間から1時間半かけて、長時間通勤をしている人たちです。駅のホームや駅の近くのカフェ、帰りの電車の中で仕事をするといった人たちに対して、訴求をしていきます。
このように、日本ならではの使い方をするユーザー層に対して提案していく製品になります。今回はアダプタもかなり小型化していますから、その点でも持ち運びにも便利ですよ(笑)。「ASUSがかなり変えてきたぞ」ということを認識してもらえると思います。
Zenbook SORAは、プレミアムセグメントの軽量ノートPCではなく、Copilot+PCでありながら、すべての人に使ってもらうことができる軽量ノートPCです。
「SORA」の知名度を広げたい
――Zenbook SORAが成功したと判断する指標は、どこに置きますか?
チェン もちろん、社内では日本での販売目標はあります。ただ、私としては、量販店などの店舗を訪れたお客様に対して、店員が「ゲーミングPCであればASUSがおすすめですよ」と言ってもらえているのと同じように、モバイルノートやCopilot+PCであれば、SORAを勧めてくれたり、SORAの性能や価格、デザインに対するコメントがポジティブであり、それをもとに購入していただける状況ができたりするといいと思っています。
Zenbook SORAは、最も軽量なモバイルノートではありませんし、最も性能が高い製品でありません。
しかし、日本のユーザーに最もフィットした製品になったという自負はあります。使ってみて、そのバランスの良さや使いやすさを知り、誰かに伝えてみたくなるという流れが生まれる製品に育てていきたいですね。
チュウ Zenbook SORAが、日本市場向けモバイルノートであることが知られ、街を歩く人に、「SORAという名前のPCを知っている?」と聞いたら、「知っているよ」と答えてもらえるシーンが増えるといいですね。まずは、ASUSを知っているすべての人が、SORAを知っている、というところから始めたいと思っています(笑)。
――Zenbook SORAによって、日本におけるASUSのブランドイメージは変化しますか?
チェン 1つの製品で、ASUSブランドイメージが大きく変化するとは思っていません。ひとつひとつの製品が重なってASUSのブランドイメージが高まっていくことになります。ただ、若い人たちが好むデザインを実現し、若者に歩み寄る姿勢があるブランドであることを知ってもらうきっかけにはしたいですね。
2024年はASUSブランドの認知力が高まった
――ここ数年、日本におけるASUSの存在感が高まっています。2024年は、ASUS JAPANにとって、どんな1年でしたか?
チェン 2023年の実績を上回り、とても良い1年でした。国内のシェアも若干上昇しましたよ(笑)。ファイナルファンタジーとの協業を始めとして、ゲーミングPC領域における強化を図ったほか、コンシューマ向けノートPCのリニューアル、新たなショップ・イン・ショップの出店、東京ゲームショウや教育総合展(EDIX)への出展なども行ないました。
また、2024年9月には、ASUS公式オンラインストアである「ASUS Store」の移転リニューアルも行ないました。さらに、Chromebookは、コンシューマおよびコマーシャルともにシェアがかなり増え、MediaTekを搭載した製品も短期間に投入することができ、製品展示などにも力を注ぎました。
加えて、Copilot+PCでも高い評価を得ることができ、この分野ではナンバーシェアを獲得しています。
――2025年は、ASUS JAPANにとってどんな1年になりますか。
チェン ひとことで言えば、「変化」の1年になります。それぞれの製品領域において、より速い成長を遂げることを目指します。
AI PCにおいては、製品ラインナップを拡張し、さまざまな選択肢を用意することになりますし、特に、Copilot+PCでの新製品投入を推進し、ラインナップを強化していくことになります。
Copilot+PCでは、さらに成長を遂げられるという自信があります。Copilot+PCは、現在15%の比率ですが、これを30%にまで高めていきたいですね。AIのアプリケーションは日々増加し、日々進化していますし、2026年になると、日常業務の中にAIが活用されるということが普通になっていくでしょう。
PCメーカーの立場としては、2025年はCopilot+PCの良さを伝え、市場に対してプッシュしていく必要がありますが、それ以降は、Copilot+PCは一般的なものになり、それを広げていくという役割になっていくのではないでしょうか。
2025年はさらなる成長を目指す
2025年10月には、Windows 10のEOSがあります。エンタープライズ企業はすでに移行が完了していますし、個人ユーザーもWindows 11への移行がかなり進んでいます。課題は中小企業です。情報セキュリティの重要性が高まるとともに、AI機能の活用が増えることで、個人情報の管理がより大切になります。ASUS JAPANは、ここに対しても最適な提案をしてきます。
一方、Chromebookでも新たな製品を投入するとともに、GIGAスクール構想第二期に向けた取り組みを加速します。日本の教育現場では、Windowsよりも、Chromebookがより使われるようになっていくことになります。2024年の年間実績では、GIGAスクール市場におけるASUSのシェアは第3位ですが、あと2ポイント増えれば2位、さらに2ポイント増えれば首位というところにまで迫っています。今後2~3年で、日本の教育市場でトップシェアになることを目指していきます。
2025年はASUS JAPAN全体として、2024年に比べて、さらに大きく成長する1年にしたいですね。
――最後に、PCWatchの読者に対して、ひとことお願いします。
チェン ASUSは、日本のユーザーにとって、品質、信頼性、安心感が、どれだけ重要であるのかを理解しています。また、日本のユーザーのニーズの変化に足並みを揃えながら、より高い基準を満たすように、PCを進化させていくことに対してもコミットをしています。今後も、情報セキュリティへの対応を最優先しながら、より安心して使ってもらえるように進化させたPCを日本市場に届けていきます。これから発売するASUSのPCに期待していてください。