山田祥平のRe:config.sys
ビジュアルよりもサウンド
2025年2月22日 06:21
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オーディオサウンドは、ときにビジュアルよりもずっと重要で、その臨場感を引き立てる。ほんの少しの投資でびっくりするような仕上がりになる。もちろん、その逆に巨額を投じてもそのクオリティが前より落ちたりもする。今回は既存製品から大幅にアップグレードされたSonosのサウンドバー「Sonos Arc Ultra」を試す機会をいただいた。しかしこれは脱帽だ……。
5年ぶりにリニューアルしたスマートサウンドバー
Sonosというのは本当にユニークなメーカーだと思う。米国の家電企業で2002年の創業だから、そろそろ23年目となるメーカーだが、スマートという言葉がデバイスの賢さを指すために使われるようになる以前から、スマートスピーカーを独自に開発してきた。家中に散在する複数のスピーカーを1カ所からネットワーク越しにコントロールするような仕掛け作りはスマートスピーカーのメーカーならではだ。
今回試したSonos Arc Ultraは、従来製品のSonos Arc後継機として、2025年1月に、サブウーハーの「Sonos Sub 4」と同時に発売されたばかりの新製品だ。先代のArc無印は2020年の発売だったので、約5年ぶりの刷新となる。
最初にショールームで新旧機を比較試聴させてももらったのだが、5年経つと、こんなに変わるのかというほどの成長ぶりが頼もしく感じられた。成長というか、市場のトレンドをしっかりとらえ、今風のサウンドに仕上げている。もちろんDolby Atmosの9.1.4オーディオなど、各種の空間オーディオにも対応する。
ノイキャンヘッドフォンの「Sonos Ace」との組み合わせで、ヘッドフォンを頭に装着したとたんWi-Fi Directに切り替わって視聴中コンテンツに接続するTV音声スワップができるなど、目新しいオーディオ体験をいろいろと装備する。
15ものデジタルアンプを実装し、7つのツイーターが高音域を、6つのミッドウーファが中音粋を担う。そして、Sound Motionと呼ばれるモーター駆動の音響構造を実装し、低音を担うウーファがそのテクノロジーで前世代機の2倍の低音出力を実現している。
限られたスペースしかない筐体内でハードウェアサイズを超えたサウンドを奏でることを可能にするのがSound Motionテクノロジーで、可動パーツが空気を振動させて音を出すスピーカーというデバイスの古い当たり前としての基本原理をアップデートしていることが分かる。
特筆すべきは75×1,178×110.6mmというサイズ感だ。87×1,142×116mmだった先代機よりも高さを5mm低くしている。最近のTV画面の大型化によるフットベースの高さが低くなっているのに対応したものだという。このおかげで、台面に対してかなり接近して低い位置にあるTVの前に置いても画面がけられにくい。
リッチなサウンドとPC
今回は、このサウンドバーをPCと組み合わせても使ってみた。Sonos Arc Ultraに音声信号を入力するには複数の方法が用意されている。もっとも基本的な方法が付属のHDMIケーブルで接続する方法で、TVならeARC/ARC対応のHDMIポートを使えばいい。
ARCはAudio Return Channelの頭文字をとったもので、eARCは利用できるコーデックの種類が多い拡張版だ。通常は映像の入力に使うTV側のHDMIポートを、そのとき別のポートに入力されて映っている映像に含まれる音声の出力に使う仕組みだ。入力された映像から音声を抜き取って戻すからリターンチャンネルと呼ぶ。オーディオ趣味をサボっているうちにこんな便利な規格ができたのかと感心する。でも、調べてみると2009年の規格でそれほど新しいわけでもない。ただの勉強不足だ……。
それでも今なお、PC用のモニターにそんな気の利いた端子を装備したモデルは少ない。ただ、近頃流行っているチューナレスTVは当たり前のように対応ポートを装備している。そんなモニターをPC用のモニターに使っているなら話が早い。大型チューナレスTVは価格もこなれてきていてPC用モニターとしても十分に実用的だ。
HDMI接続が難しい場合はPC側のUSBポート経由でアダプタを介して光ケーブルで接続するか、Bluetoothで接続する方法を使う。きっと次世代のTVやサウンドバーはUSB Type-Cポートを装備するんだろうと思ったりもするが、あと何年かかるか。
専用アプリの対応サービスを音源にしてサウンドバーにストリーミングして再生するだけでいいならWi-Fiや有線LANポートを使ってネットワーク経由での再生ができる。ただ、PCで再生しているNetflixやPrive Video、YouTubeのサウンドを良質な音質で聴きたいという用途には使えない。あとは、AppleのAirPlayにも対応しているので、それを使う方法もある。Macユーザーならそれもいい。
部屋の特性とサウンドを最適化するQuick Tuneと呼ばれる仕組みも用意されている。スマホアプリを使ってチューニングを開始する。1分間くらいの時間を使って電子音を奏で、壁から反射してもどってきた音を内蔵されているマイクが拾い、内部のイコライザを調整して、サウンドを最適化することができる。
正直なところ、最初に製品のサウンドを体験した試聴室での第一印象は、それほどよくなかったのだが、レビューのために届いた製品でQuick Tuneを実行して自室に最適化したところ、まるで別の製品のような印象をもった。自宅でのサウンドの聞こえ方の方がずっとよかったわけで、これだからオーディオは大変だということを痛感した。
好きな音と良い音の交差点
サウンドバーの長さは約118cmで自室の55型のTVの横幅とほぼ同じだった。だから、本当は大画面TVにつないで使ってほしい。というか、大型TVにPCやスマホをつなぐのは簡単だということを覚えておいてほしい。春が来て進学や就職などで一人暮らしを始めるとか、単身赴任で新しい部屋での新しい生活になるような時には、部屋の備品をあれこれ揃えなければならない。そんなとき、TVが必需品かどうかには議論が必要だが、もし必要ならその視聴スタイルを想定して考えて選んだ方がいい。そして多少大きいと思っても50型近いものを選んでおけば、いろいろな意味でつぶしがきく。
悪いことは言わない。暮らしのハブにするには50型くらいのTVは決して大きすぎることはない。PCのモニターとしても機能させることを想定すれば、大きなモニターを持つノートPCはいらないかもしれず、可搬性を優先してPCを選ぶことができるかもしれない。
後付けの付加価値としてサウンドを考えるのだ。
オマケ程度のオーディオ性能しかないモバイルノートPCでも、Sonos Arc Ultraのような製品と大型TVを併用することができれば、内蔵スピーカーのサウンドとは比較にならないリッチな音が楽しめる。TV内蔵スピーカーで十分だと思うかもしれない。でも、最近のTV製品は薄型化と狭額縁化で、まともなスピーカーを実装するのが難しくなっている。だから、そのサウンドにはあまり大きな期待ができない。比べないからそのことに気づきにくいのだ。
ひょっとしたら数千円で変えるベーシックなスピーカーをつなぐだけでもサウンドが様変わりするかもしれないのだが、Sonos Arc Ultraのようなリッチなサウンドバーを追加すれば、その部屋での暮らしのクオリティも格段に向上する。ビジュアルではなく、オーディオなのだ。
オーディオに興味がなくても、豊かなサウンドに包まれた空間では心に余裕がもてるというものだ。映画やドラマ、音楽などのコンテンツはもちろん、普段はやかましいとさえ感じるバラエティやニュースの類も別のコンテンツのように感じられる。スマホとイヤフォンでのAVコンテンツ消化だけでは得られないリッチさだ。
個人的にオーディオの趣味はそれなりに長く楽しんできたが、音の違いというのは良い音と良くない音という比べ方ではなく、好きな音と好きじゃない音という比べ方をすればいいと気がついた時点で、いろんなことがスッと腑に落ちるようになった。でも、Sonos Arc Ultraには好きとか嫌いといった次元では語れないなんらかの跳躍した空間があるようにも思う。そんな高みを一度は経験しておけたのはラッキーだった。