特集
5万円以下のChromebookは仕事に使えるのか?
~Chromebook活用術【ビジネス編】
2020年8月11日 06:55
毎年のようにハイスペックかつ多種多様な端末がリリースされるスマートフォンに比べ、近年大きな動きを見せていないのがタブレット。とくにAndroidタブレットは、マイナーチェンジに近いながらもハイスペックな端末がリリースされるiPadに比べると、低価格でスペックを抑えた新端末がラインナップの中心となっている。
そんなAndroidタブレットのラインナップがおとなしい一方で、昨今注目を集めているのがChromebookだ。フルブラウザとしてChromeを搭載、PCと遜色ないブラウザ体験が可能なほか、Androidアプリをインストールすることでタブレット的に使うこともできる。
6月に発売されたレノボの「IdeaPad Duet Chromebook」は、そんなChromebookのブームを代表するような存在だ。5万円以内の価格帯ながらキーボードやスタンドカバーを標準で同梱し、タッチ操作対応のためAndroidタブレットのように使うこともできる。機能とコストパフォーマンスの良さから、発売直後は売り切れが続出するほど人気を集めた。
本端末のレビューはすでに掲載しているが(5万円を切る10.1型2in1「IdeaPad Duet Chromebook」を仕事とエンタメに使ってみた参照)、今回はより広いChromebook全体をテーマとして「ビジネス」と「エンタメ」に特化し、それぞれの観点でレビューをお届けする。
ビジネス編についてはこの記事を、エンタメ編については「5万円以下のChromebookでAndroidタブレットの代わりに遊べるか?」を参照されたい。
PCとほぼ変わらない感覚で使えるChromeブラウザ
今回のレビューにあたり、試用期間中は基本的にIdeaPad Duet Chromebookのみで仕事をしてみたのだが、Chromeブラウザの使い勝手は、ほぼPCと変わらない。筆者の場合、1日の仕事でタブを10から20近く開くのだが、その間もブラウザが落ちたり止まったりすることはなく、普段PCと同じ感覚で作業できた。
ファイルのダウンロードやアップロードもPCと同じ感覚で扱える。ダウンロードしたファイルは「ダウンロード」フォルダに保存され、標準で用意されている「ファイル」アプリからアクセスできる。スマートフォンやタブレットのアプリではドキュメントファイルがアップロードできないことも多いが、ChrombookならChromeブラウザからアップロードが可能だ。
Firefoxなど別ブラウザアプリのインストールも可能だが、これらブラウザは当然ながらPCブラウザではなくAndroidアプリとして動作するため、Chromeブラウザに比べると画面がスマートフォン/タブレット向けになっている、Ctrl+クリックなどのキー操作が動作しないなど使い勝手は劣る。
また、ブラウザアプリをインストールすると、リンクをクリックするたびにどのブラウザを開くか確認が表示されるため、これを毎回操作するのも手間だ。Chromebookを使うからにはChromeブラウザのみを使うことをおすすめする。
なお、Chromeブラウザは複数ウィンドウを開くことも可能だが、複数のウィンドウを開いた場合も画面下部のシェルフにはChromeアイコン1つにまとめられる。Windowsで言う「タスクバーボタンを結合」した状態で、筆者のように複数ウィンドウを個別にシェルフ表示したい派には細かいながらやや使いにくいところだ。
ファイル周りは若干のクセあり。クラウドストレージ連携がおすすめ
ブラウザに関してはほぼPC感覚で利用できるChromebookだが、ブラウザ以外の細かな点ではPCと挙動が異なる部分も多い。Chromebookを利用するさいにもっとも気になるのは、この「PCと異なる」点だろう。本稿ではビジネス利用を主眼に置きつつ、ChromebookとPCの違いを細かく見ていこう。
まずはファイルの扱いだ。Chromeブラウザでファイルをローカルに保存できるのは、「ダウンロード」フォルダに限定されており、そのほかのフォルダには保存できない。
Chromeブラウザ以外のアプリでは任意のフォルダにファイルを保存できるが、「ダウンロード」フォルダ以外にファイルを保存すると、「ファイル」アプリからアクセスできない。Chromebookでのファイル取り扱いは「ダウンロード」フォルダを前提とするのがいいだろう。
ローカルストレージ以外にクラウドストレージも利用可能で、Googleドライブが最初から連携されているほか、DropboxやOneDriveといった他社サービスもフォルダアプリから扱える。クラウドストレージのAndroidアプリからもアクセスできるが、「ファイル」アプリならドラッグ&ドロップでファイルを使えるなど利便性が高い。
ただし、連携したクラウドストレージは「ファイル」アプリやChromeブラウザのアップロードではアクセスできるのだが、Chromeブラウザでダウンロードするさいに指定できるのはGoogleドライブにかぎられ、そのほかのクラウドストレージを指定できない。クラウドストレージにファイルをアップロードするには、いったん「ダウンロード」に保存したファイルを再度アップロードする手間がかかる。
個別のアップロードが面倒という人におすすめなのが「MultCloud」というサービス。これは複数のクラウドストレージを連携できるサービスで、Googleドライブに保存したファイルを自動的にDropboxへ保存できる。同期はリアルタイムではないが、ファイルをアップロードし忘れた、という事態を防ぐには便利だ。
Playストアで好きなAndroidアプリをインストール
冒頭で紹介したとおり、ChromebookはAndroidアプリをインストール可能。Androidタブレットと同様にGoogle Play ストアがプリインストールされており、好きなアプリを端末に追加してカスタマイズできる。
Chromeブラウザを含めたアプリは、画面下から上にスワイプすると一覧が表示できるほか、検索キーを押して表示される検索バーから上矢印をクリック、またはキーボードの上矢印キーを押すと一覧が表示できる。
検索バーからアプリ名を入力して呼び出すことも可能なほか、利用頻度が高いアプリは右クリックからシェルフに固定できる。利用頻度に応じて設定しておくと使いやすい。
なお、アプリの通知についてはスマートフォンのように画面上部に表示されるのではなく画面右下に通知の数だけ表示されるため、通知が多いと画面を埋め尽くしてしまうこともある。通知が多すぎる場合は、画面右下の時刻をクリックして「サイレントモード」を設定すると通知がオフになり、サイレントモードを解除したタイミングで通知をまとめて確認できるようになる。
Gmailはシーンに応じてブラウザとアプリを使い分け
ビジネス利用で利用頻度の高いアプリケーションの1つがメールだろう。Chromebookの場合、Gmailであればブラウザで動作するかぎりPCとほぼ同じ使い勝手で操作できる。キーボードショートカットなども動作するため、キーボード操作になれたユーザーほどPCに近い効率の高さを実現できる。
アプリ版のGmailも標準でインストールされているが、画面表示がPC操作には最適化されていない、機能がブラウザに比べて制限されているなどの理由で、使い勝手はブラウザのほうが上。ブラウザ版はキーボードショートカットにも対応しているので、キーボードを装着して使うならブラウザ版が使いやすい。
一方、アプリ版はタッチ操作に対応しているため、画面のタッチ操作のみで既読やアーカイブなどのコントロールが手軽。タブレットスタイルで利用する場合はアプリを使うなど、用途によって使い分けるのがいいだろう。
Microsoft Officeファイルは利用に制限あり。閲覧中心に使うのがコツ
ビジネスにおいて多くのサービスはブラウザで済ませることができるようになったが、課題となるのがドキュメントファイルの扱いだ。
ドキュメントファイルの代表格とも言えるMicrosoft Officeについては、WordやExcel、PowerPointといったAndroidアプリや、ブラウザから利用できる「Office Online」も用意されているが、PC版と同じ感覚で使うには制限も多い。
その1つはクラウドストレージでの扱いだ。Dropboxなどのクラウドストレージに保存したOfficeファイルは直接開くことができず、一度端末にダウンロードする必要がある。さらにダウンロードした文書ファイルは閲覧限定で、編集するためには別ファイルとして保存しなければならない。PCの場合は編集を許可するだけで同じファイルを扱えるのだが、Chromebookではファイルが2つになるのが二度手間だ。
機能面でも、閲覧を中心とした基本的な操作であれば問題ないものの、PCと完全に同じ感覚で使うのは難しい。すべての機能を試せたわけではないが、Excelではマクロが動作せず、細かなところではネット上の画像を貼りつけた資料は画像が表示できないなどの制限がある。Office文書の操作は閲覧と簡単な編集程度に抑えておくのがいいだろう。
また、Officeアプリは一定時間使わないとファイルが再読み込みされる。自動保存がオンになっているのでデータは残るものの、調べ物をしながら並行して文書を作成する、というときにはやや手間だ。
Chromebookで文書を新規に作成するのであればいいが、仕事相手から受け取った資料がうまく表示できない、という可能性はゼロではない。Office文書を多用する業務の場合、こうした可能性があることは理解しておく必要があるだろう。
PDF文書についてはChromeブラウザでの表示はもちろん、AndroidのPDFアプリでも表示が可能。こちらも編集については機能が制限されるものの、基本的に閲覧が中心となるPDF文書はOffice文書に比べると問題になることは少ないだろう。
テキストファイルはChromeの拡張機能「TEXT」が標準でインストールされている。ただしSJISのテキストが文字化けするほか、UTF-8でもファイルが空になって表示されないなど動作にやや不安な部分がある。テキストエディタを本格的に活用したいのであれば、Androidアプリの「Jota+」などを併用するといいだろう。
ZIPの圧縮・解凍はOS標準でサポート。画像の編集機能も搭載
ビジネスファイルの送受信で使われやすいファイル圧縮は、OS標準でZIP形式をサポート。パスワード設定されたZIPファイルの解凍はもちろん圧縮も対応しており、複数ファイルをまとめてZIPファイルに圧縮することも可能だ。ZIP以外の圧縮方式も、Androidアプリをインストールすることで利用できる。
画像の編集はビューワを標準で搭載しており、指定した比率でのクロップやサイズ変更、回転、輝度・コントラストの変更といった編集がローカルで行なえる。写真を本格的に編集するには向いていないが、文書に添付する画像程度の編集なら十分だ。
バッテリの持ちはいい。フル充電から1日ずっと在宅作業に使っていたが、バッテリが切れることなく1日作業を終えることができた。食事や休憩の間はスリープにしておいたということもあるが、PCと比べてもバッテリの持ちは非常に高い。フル充電で持ち歩けば外出中にバッテリが切れて困るということはなさそうだ。
リモートワークで利用頻度の増えてきたビデオ会議も、ZoomはChrome拡張をインストールすることで利用可能。そのほかのビデオ会議もブラウザで利用できるものが多く、Chromeブラウザを使えば利用自体は問題ない。
ただし、端末スペックによってはビデオ会議と並行してブラウジングや文書作成を行なおうとすると動作がもたつく場合もある。とくにGoogleドキュメントなどの作業は負荷が高いため、場合によってはビデオ会議をスマートフォンで行ない、資料の閲覧や作業はChromebookで行なう、という使い分けが効率的だ。
文字入力は標準で用意されているIMEに加えてATOKなどほかのIMEをインストールできる。ただしキーボード接続時は標準IMEしか使えないほか、キーボード接続状態からタブレットとして使おうとすると標準以外のIMEが出てこないなど動作は不安定。標準IMEはフリックに対応していないため、タブレットではほかのIMEを使いたくなるが、そのさいは端末を再起動する必要があるなど手間がかかるのが難点だ。
ブラウザやファイルはPC並みの体験。課題はOffice文書の扱い
おもにビジネスで利用する機能やアプリ、操作を中心に見てきたが、Chromebookの特徴であるChromeブラウザを中心に使う分にはPCとほぼ遜色ない。ファイル周りも多少のクセはあるものの、慣れれば十分に使いこなせる。
最大の課題は繰り返しになるが、Microsoft Officeの扱いだ。閲覧程度であれば基本的に問題はないものの、それでも外出先で受け取ったファイルが正しく表示できない可能性は考慮しておく必要がある。
ビジネス用途だけで考えるのであれば、自分の業務のなかでどれだけOffice文書を扱うかが鍵だろう。Googleドキュメントであれば当然ながら問題なく扱えるし、Chromebookは外出先のメールチェックや文書作成に使い、Office文書を扱うのはオフィスのPC、という使い分けもできる。
また、Chromebookの魅力はビジネス用途だけではなく、タブレット感覚でエンタメ用途でも活用できる点にある。後編ではエンタメ利用を中心にChromebookの使い方を紹介する。