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ハイエンドChromebookは何もかもが軽快! 「HP Chromebook x360 13c」レビュー
2021年1月5日 06:55
ラインナップが少なくなり、元気がないどころか今や風前の灯火のようになっているAndroidタブレットに代わって、じょじょに存在感を増しているのがChromebookだ。ノートパソコンスタイルのハードウェアながら、多くのAndroidアプリが動作するようになったことで用途が広がり、ニッチ層向けから一般向けへと大きく脱皮した。
そんななかでHPが、ガツンとインパクトのあるモデルを投入してきた。「HP Chromebook x360 13c」(以下、x360 13c)がそれだ。13型クラスのクラムシェルという、普通のノートパソコンらしい外観に、中身も言わば普通のWindowsノートのよう。最上位の「スイートモデル」は第10世代(Comet Lake)のCore i7を採用し、メモリやストレージも充実した、Chromebookとしては「もったいない」くらいにハイスペックな機種となっている。
今回は、このスイートモデルのx360 13cをお借りすることができたので、さっそく使い勝手をチェックしてみたい。
高速CPU、大容量メモリとストレージに、LTE対応かつWi-Fi 6も
本製品の一番の特長は、やはり高いハードウェアスペックだろう。Core i7-10510U(4コア/8スレッド、1.8~4.9GHz、キャッシュ8MB)に、メモリは16GB、ストレージはNVMe SSDの256GBを搭載しており、もしこれがWindowsノートパソコンだったとしても、現時点で比較的「高性能」に分類される構成だ。
ディスプレイはタッチ対応の13.5型IPS液晶で、解像度はWUXGA+(1,920×1,280ドット)。フルHD解像度より縦に200ドット分広いことで、縦スクロールするWebページやアプリを効率よく表示できる。ディスプレイ部は360度回転するコンバーチブルとなっており、反対側に折りたためばタブレットのようなスタイルで利用可能だ。
ただ、サイズは約295×216.9×16.7mm(幅×奥行き×高さ)と、13型クラスのノートパソコンと同程度。重量も約1.36kgとなっており、ずっしり感がある。タブレット的に気軽に手で持ちながら扱う、ということは難しいかもしれない。
インターフェイスはUSB 3.0のType-C×2とType-A×1の計3ポート。2つのType-CポートはいずれもUSB PDとDisplayPort Alt Mode対応だ。そのほか、microSDXCカードスロット、ヘッドセット用の3.5mmオーディオ端子が用意されている。
Nano SIMスロットを標準搭載し、単体でLTE通信が可能。さらに無線LANはWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)にも対応する。アンテナ数は2×2、160MHz幅に対応とのことなので、最大約2.4Gbpsの転送速度になるだろう。Bluetoothのバージョンは5.1で、ワイヤレス通信周りの充実度も高い。
バッテリ持続時間は最大約12時間という十分なスタミナを持つ。約92万画素のWebカメラとデュアルマイク、音響機器メーカーBang & Olufsenとコラボしたステレオスピーカーを内蔵し、オンライン会議から動画・音楽コンテンツの再生まで、隙はない。
ビジネス系アプリのあまりの軽快さに驚愕
従来のChromebookの多くは、CPUの処理性能だけでなくメモリやストレージの容量も最小限に抑えられ、クラウドサービス/ストレージを積極的に連携、同期させて使うのが前提となっていた。場合によってはリモートデスクトップでほかのパソコンに接続し、いわばシンクライアントのように扱っていた人もいるかもしれない。
が、ハイスペックなx360 13cではそうした「制約」は取り払われ、ビジネスシーンでの活躍の幅が明らかに広がっている。256GBあるストレージのおかげで、大量のアプリをインストールしても、仕事用のファイルをローカル保存しておいても、よほど大容量の写真や動画を扱わないかぎりは容量不足に悩まされることはない。アーカイブしておきたいものをクラウドに逃がす、というような普通のパソコンらしい使い方もできる。
Webブラウザでページにアクセスしたときの表示速度は爆速。文書ファイルを開いたり、編集したりするときも、あるいは写真を編集/加工したりするような場面でも、ローカルのアプリ上で驚くほど軽快に動作してくれる。まるで最新パソコンで2世代前のOSを動かしたときのような感覚……というたとえ方は伝わりにくいかもしれないが、とにかく何をするにしても軽い。
キーボードについては、最上段が各種システムキーとなっていてファンクションキーの印字がないところを除けば、ごくシンプルな配列。ほどよい深さのストロークと反発力があり、気持ちよくタイプしていける(システムキーはOS側の設定でファンクションキーに入れ替えることが可能。その場合は検索マークのキーがFnキー代わりになる)。
今やMicrosoft Word、Excel、PowerPointといったOffice系のAndroidアプリでは、パソコンと同等の編集機能を持ち、パソコンで作成した文書の再現性に関わる問題もほとんどなくなっている。キーボードの使いやすさと合わせれば、x360 13cで何ら問題なくこれらのアプリで日常の文書作成業務をこなせるだろう。Googleドライブ上のスプレッドシートやプレゼンテーションなど、クラウドベースのツールについては言わずもがなだ。
ビジネス用途で言うと、2つのUSB Type-Cポートで、本体を含め3台までのマルチディスプレイ環境(1画面最大3,840×2,160ドット)を簡単に構築できるのもメリットだ。もちろん各ディスプレイに複数のOfficeアプリを同時に開いておくマルチタスクな使い方もできるため、デスクトップスペースの狭さに悩まされることもない。
また、x360 13cはセキュリティ面についても多数の配慮がなされている。指紋センサーによる生体認証機能に加え、キー1つでディスプレイを見えにくくする独自の「HP Sure View」によるプライバシースクリーン機能や、本体側面のスイッチで内蔵Webカメラを無効にする「カメラキルスイッチ」も備える。業務で持ち歩きながら使う場合でも安心できるに違いない。
なお、下記のとおり2種類の簡単なベンチマークも実行してみた。50枚(計約1.4GB)のRAW画像の現像にかかる時間と、外部USBストレージ(USB 3.1 Type-C対応)を使った4GBのファイルのコピー(シーケンシャルリード/ライト)の速度を測定したものだ。
RAW画像をJPEG形式に現像する時間は、Snapdragon 865搭載のスマートフォン「arrows 5G F-51A」と比較して、半分以下の時間で完了する高速さ。外部ストレージのデータ転送速度は100MB/s余りで、インターフェイスが5GbpsのUSB 3.0とは言えあまり高速ではない。が、データの受け渡しやバックアップに使うには十分だろう。
スマートディスプレイ的な使い方が感動的なほどにサクサク
先述したとおり、ディスプレイ部が360度回転し、タブレット的に使うこともできるコンバーチブルタイプのx360 13cだが、やはり約1.36kgもの重量があるため、そのまま手持ちして扱うのは厳しいものがある。どちらかというとテントモードやスタンドモードで使うのがおすすめだ。
キーボードが隠れ、ディスプレイが前面に出て、よりタッチ操作しやすくなるこのテント・スタンドモードでは、オンライン会議や動画視聴にも最適なのだが、もう1つ個人的に推したいのがスマートディスプレイ的な使い方だ。
スマートフォンと同様、x360 13cでは「OK、Google」と話しかけることで音声アシスタント機能を呼び出せるようになっている。ほかのChromebookでも当たり前にできることではあるが、ここでもx360 13cのハイスペックさが存分に活かされる。音声認識し、その結果を表示するまでのスピードが感動的なほどにサクサクなのである。
たとえば「OK、Google。YouTubeで瑛人の香水を再生して」と話しかけたとき、発言が終わってから実際に動画再生がはじまるまでが6秒以内だった。arrows 5G F-51Aではだいたい7秒だったので、それと比べると1秒程度の差でしかないが、わずか1秒速いだけでも体感差は大きい。
スマートスピーカー相手だと「きっとこれは欲しい情報がもらえないだろうな」と思ってなんとなくためらっていたような内容でも、つねにきびきび応答してくれるx360 13c相手なら次々に話しかけてしまう。すぐに結果が返ってくるので、失敗を恐れずにいくらでも試したくなるのだ。まさにこれこそがスマートなディスプレイなのでは、と思ってしまうほど。
ただ、360度回転させた状態のタブレットモードについては、ちょっと扱いが難しいな、と感じてしまう。なぜなら、独自のプライバシースクリーン機能である「HP Sure View」の影響か、この機能がオフの状態でも視野角がかなり狭いのだ。IPS液晶ではあるものの、見え方としてはTN方式やVA方式のようで、少しでも斜めになると暗く見えてしまう。
したがって、寝かせてしまうとほとんど真上からでなければ視認が難しい。プライバシー・セキュリティ保護の面からは助かるが、自由な姿勢で動画や電子書籍などのコンテンツを楽しみたい、といった用途ではややストレスが溜まることになりそうだ。
「無双できる」という全能感に浸れる仕事用兼エンタメマシン
Core i7を搭載するスイートモデルの税別価格は12万4,000円から。少なくともビジネスシーンにおいては一般的なWindowsノートパソコンと同等のことができるとは言え、この価格帯であればそれなりに実用的なWindowsノートパソコンなり、MacBookシリーズなりが手に入ってしまうため、あえて同価格帯のChromebookを選ぶ理由がどこにあるのか、というところが最大の焦点になってくるだろう。
それについての明快な回答はなかなか出しづらいところではあるが、まず1つ挙げるとすれば、やはり「これまでにない軽快さ」という体験価値ではないだろうか。
Chrome OS自体、少ないリソースでも動作する軽量なOSとされてきた。そのため、従来の多くのChromebookが搭載するハードウェアも、それに沿った「そこそこのもの」に落ち着いていた。ところが、軽量OSにこうした高性能ノートパソコンの装備をぶつけることで、明らかに今までにない魅力を放っている。今後数年間は確実に「無双できる」という全能感みたいなものが詰まっているのだ。
そしてもう1つは、スマートディスプレイ的な活用方法が想像以上に役に立つところ。レスポンスの良さもそうだが、13.5型というスマートディスプレイとしてはほどよく「大画面」で、情報やコンテンツの視認性は抜群に高い。
昼間は仕事に使うとしても、朝や夜はテントモードなどにしてリビングやダイニングに置くことで、情報収集したり、動画・音楽を試聴したり、家族でクラウドにある写真を閲覧したり、とさまざまに活躍してくれる。仕事ツールでもあり、お茶の間のエンタメツールにもなるx360 13cは、普通のノートパソコンよりも身近な存在に感じられ、それこそ丸一日、朝から晩までずっと何かしらの用途に使っていられる。
できることに大きな差がなくなり、Windowsにするか、macOSにするか、という論争が今では一段落したように、今度はChrome OSも含め、もはやOSが何であるかは関係ないのだ、という思いはますます強くなる。ただただ、x360 13cという高性能な仕事用兼エンタメマシンがそこにある、というだけなのだ。かつてないほどに軽快に、1日中使っていられるデバイスを選ぶのか、選ばないのか、それのみを基準にすればいい話なのである。