西川和久の不定期コラム

余ったマシンで無償Chromium OSをお試し! Neverwareの「CloudReady」

「HP ProBook 430 G3」でCloudReadyを起動

 夏休みもそろそろ終わりだが、今回は普段と少し趣向を変えて、「新しいPCを買って余った古いマシン」、「安く入手した中古PC」などの用途として、Chrome OSと同じChromium OSベースのCloudReadyをインストールして遊んでみたい。

CloudReadyとは

 OSと言えば、Windows、macOS、Linuxがポピュラーだが、第4番目としてChrome OSがあげられる。最近、いろいろ新機種が出ているので気になっている人も多いのではないだろうか。ただ(ボックスタイプもあるが)多くはChromebookへインストールしたかたちになるため、試したくても実機を購入しないと試せない。

 Chrome OS自体は、オープンソースの「Chromium OS」をベースにしており(その気になればビルドもできる)、ほかにも兄弟分的なものが存在し、その1つが今回ご紹介するneverwareの「CloudReady」だ。Home、Education、Enterpriseと3つのエディションがあり、Homeは個人用途であればFree。とくにアカウントを作る必要もなく、そのままダウンロードできる。PCだけでなく、Macや(Intel版)Chromebookにも対応している。Mojave以前のバージョンにしか対応していない古いMacで動かすのも面白そうだ。

neverwareのWebサイト
CloudReady / Homeのダウンロード

 今回用意したマシンは「HP ProBook 430 G3」。仕様や簡単なベンチマークテスト結果は表をご覧頂きたいが、第6世代SkylakeのCore i5-6200U、メモリ8GB、ストレージ240GB SSD(元々は500GB HDD)、13.3型HD(1,366×768ドット)のノートPCだ。最近リース落ちもタイミング的に第5/第6世代が安価に出回りだしており、中古を買うならこのあたりの世代が狙い目だ。

 個人的にこの世代はまだ十分現役で使えると思っているのだが、逆にChromebookは新型でもCeleron/PentiumクラスでeMMCが多く(Core iクラスもあるにはあるが普通にWindowsマシンが買える価格)、Core iクラス+SSDだとどうなるか、興味のあるところ。

HP「ProBook 430 G3」
デスクトップ
デバイスマネージャー
HP「ProBook 430 G3」(1RR74PA#ABJ)の仕様
プロセッサCore i5-6200U(2コア4スレッド/2.3GHz~2.8GHz/キャッシュ3MB/TDP 15W)
メモリ8GB/SO-DIMM DDR3L-1600 PC3L-12800(2スロット/最大16GB)
ストレージSSD 240GB(もともとは2.5インチベイにHDD 500GB)
OSWindows 10 Pro(64bit)
ディスプレイ13.3型1,366×768ドット、非光沢
グラフィックスIntel HD Graphics 520/ミニD-sub15ピン、HDMI
ネットワークGigabit Ethernet、Wi-Fi 11ac対応、Bluetooth 4.2
インターフェイスUSB 3.0×2、USB2.0×1(Powered)、SDカードスロット、約92万画素Webカメラ、音声入出力
バッテリ駆動時間最大9時間
サイズ/重量約326×234×21mm(幅×奥行き×高さ)/約1.5kg(4セルバッテリ時)
【表】ベンチマーク結果
Google Octane 2.025,634
PCMark 10 v2.1.2177
PCMark 10 Score2,792
Essentials6,424
App Start-up Score7,354
Video Conferencing Score6,033
Web Browsing Score5,976
Productivity4,296
Spreadsheets Score5,006
Writing Score3,688
Digital Content Creation2,142
Photo Editing Score2,671
Rendering and Visualization Score1,380
Video Editting Score2,669

 このHP「ProBook 430 G3」、当時としてはなにも特色のない一般的なビジネス向けノートPCで、「パネルがHDでTN」、「タッチパッドの2本指を使ったスクロールの反応が鈍い」……など、それなりに欠点もある。ただ1点、写真からもわかるように、ネジ1本で裏パネルが外れ、M.2スロット、2.5インチHDDベイ、メモリスロットにアクセスでき、「非常にメンテしやすい」という利点がある。

 CloudReadyをインストールする時の注意点として、パーティションを切った複数OSへの対応はしておらず、ストレージを丸ごとフォーマットしてしまうため(同社によるといらぬトラブルを避けるためらしい)、この手の構造になっている人は要注意。またせっかく最新Windows Updateを適応している環境が消えるのも惜しいので、今回はM.2 SSD 128GBを別途用意した。

ネジ1本で裏パネルが外れ、M.2スロット、2.5インチHDDベイ、メモリスロットへアクセス可能。2.5インチSSD 240GBを外してM.2 SSD 128GBを新たにセット

CloudReadyのダウンロード/USBメモリからの起動/SSDへインストールして起動

 前置きはこの程度にして、手順に入る。まず先のURLからOSをダウンロードする。この時、「Download the USB Maker」と「Create a USB installer manually」の2種類あるが、前者はWindows上でUSBメモリにコピーするプログラムでかつ、ダウンローダも含まれているので、こちらの方が一発で済み簡単だ。

 流れは画面キャプチャを参考にして欲しいが、8GB以上のUSBメモリが必要、処理時間は(環境にもよるが)20分ほどとなる。これで準備ができたので、USBメモリから起動するとインストーラ込みのLiveCD的なのが起動する。

CloudReady USB Maker起動
注意書き
USBメモリを指定
ダウンロード中
USBメモリへ展開中
完了

 以降、USBメモリから起動し、Googleアカウントでログイン、SSDへインストールまでを画面キャプチャの関係から、VMware Workstation 15 Playerで行なっている。なお、先のDownloadページに「OVA image」があるため、VMwareへOSを簡単にインポートすることもできる。描画速度もそこそこで、ちょい試しならこれでもいいが、Linuxは動かない。

Welcome!
言語を日本語へ
キーボードを日本語へ
ようこそ! / [続行 >]
ネットワークへの接続(Wi-Fiがあればアクセスポイントの選択/設定)
Anonymous Data Collection
Googleアカウント / 「Chromebook」へのログイン
Googleアカウントのパスワード
設定完了
CloudReady起動直後のデスクトップ

 以降は実機から。Wi-Fi、Bluetooth、Gigabit Ethernet、サウンド……すべて動いているのがわかる。ハードウェア的には、Intel Dual Band Wireless-AC 3165 802.11 a/b/g/n/ac + Bluetooth 4.2、Realtek PCIe GBE Family Controller、Conexant ISST Audio。このあたり、どれか動かないと使い勝手が悪くなるので対応度は気になるところだ。

 さて、この状態でも動くには動くが、USBメモリなので作動は激遅。状態を確認したところで、メインのストレージにインストールするには、コントロール/通知パネルの「install OS」をクリックする。

 じつはUSBメモリから起動した直後、Welcome!の状態でもコントロール/通知パネルを開き「install OS」が可能なのだが、ハードウェア一連のチェックもあり、今回はとりあえずログインした。実績のあるPCならいきなりinstall OSでもいいだろう。

コントロール/通知パネル。ここに本インストールがある
install OSをクリック / CloudReady Installer
ERASE HARD DRIVE & INSTALL CLOUDREADY

 ストレージにOSをインストールし終わるといったん電源が落ちる。USBメモリを外して、電源オンでめでたくCloudReadyがSSDから起動する。あとは再度、言語、キーボード、ネットワークを設定し、Googleアカウントでログインすればデスクトップが表示される。USBメモリ起動とは別次元でサクサク動くので快適だ。

CloudReadyの使用感

 操作系はChrome OSそのもので、Windowsに似ており簡単。下にタスクバー。これは左右にも配置可能で、自動的に隠すこともできる。アプリのピン止めも可能だ。通知パネルは説明の必要はないだろう。アプリメニューは、まず1段階は使用履歴から、上の矢印でインストール済みのアプリ一覧となる。初期起動時は、Chromium、ウェブストア、ファイル、カメラ、Network File Share、設定、VirtualBoxが入っている。

 ブラウザのChromiumはChromeとほぼ同じ。IMEは日本語キーボードの場合、[無変換]キーで半角英数、[変換]キーでIME/ON。macOSに似ている。[半角/全角]キーでも状態がトグルする。ファイルはローカルだけでなくSMB接続のNASにもマウント可能だ。

起動直後のデスクトップ。下にタスクバー
コントロール/通知パネル
アプリメニュー(1段階)
アプリメニュー(2段階1/2)。Chromium、ウェブストア、ファイル、カメラ
アプリメニュー(2段階2/2)。Network File Share、設定、VirtualBox
Chromiumでサイトアクセス。日本語も使える
Google Octaneは24,388
ファイル。NASをマウントできる
NASのURL、表示名、ユーザー/パスワード設定
NASのマウント完了

 ここまでの画面キャプチャはパネルの物理解像度1,366×768ドット。設定/デバイス/ディスプレイ/ディスプレイサイズを極小で、仮想的に解像度を一段階上げることができる。以降この状態=1,518×853ドットの画面キャプチャとなる。タスクバーが少し細くなり、解像度が上がったのがわかる。ただし文字は若干ジャギーだ。

 Linuxは標準では組み込まれていないので設定/Linux(ベータ版)からインストールする。と言ってもクリックしてユーザー名を入力すれば後は自動なので簡単だ。ターミナルを起動して、バージョンを確認(cat /etc/debian_version)すると10.4。もちろんsudo apt updateやupgradeもOK。このとき、パスワードは聞かれない。

 仮想デスクトップ/アプリ切り替えにも対応し、[F5]キーで表示する。参考までにCtrl+[F5]キーは画面キャプチャとなる。

設定/デバイス/ディスプレイ/ディスプレイサイズを極小で1,518×853ドットへ
ChromeデバイスにLinux(ベータ版)をセットアップ
ユーザー名を入力
Linuxをインストール中
Linuxを起動。Debian 10.4
[F5]キーで仮想デスクトップとアプリ切り替え

 いかがだろうか。ChromeとLinuxが使え、仮想デスクトップに対応、そしてNASにも接続できる。もちろん複数のGoogleアカウントでユーザーの切り替えも可能。すでに同じアカウントでChrome OSの環境がある場合は、その環境が自動的に引き継がれる。「これが無料なら!」と思った人も多いのではないだろうか。

 設定は、ネットワーク、Bluetooth、接続済みのデバイス、ユーザー、Media Plugins、デバイス、カスタマイズ、検索とアシスタント、アプリ、Linux(ベータ版)、日時、プライバシーとセキュリティ、言語と入力、ファイル、印刷、ユーザー補助機能、About CloudReady……と、Chrome OSとほぼ同じだが、Media Pluginsが増え、アプリにGoogle Playストアの項目がない。

設定(1/7)。ネットワーク、Bluetooth、接続済みのデバイス
設定(2/7)。ユーザー、Media Plugins
設定(3/7)。デバイス、カスタマイズ、検索とアシスタント
設定(4/7)。アプリ、Linux(ベータ版)、日時
設定(5/7)。プライバシーとセキュリティ、言語と入力、ファイル、印刷
設定(6/7)。ユーザー補助機能
設定(7/7)。About CloudReady

 前者は、Adobe Flashやメディア系のコーディックを必要に応じてインストールする。後者は、Google Playストアの項目がない=Androidアプリは使えない。つまりGoogleのChrome OSとCloudReadyの一番の違いはAndroidアプリ対応か非対応かとなる。

 なお、OSのバージョンは83系と、本家の85系と比較して若干古い。この点は残念だが、仕方ないところだろう。

Chrome以外で遊んでみる

 Chromeが動くのでWebサイトはもちろん、FacebookやInstagram、TwitterなどWebサービス、G Suite、Office Onlineなどオフィス系など普通にアクセスできる。Chrome拡張機能も使用可能だ。

 加えてDebian 10系のLinuxが動くのでいろいろなアプリなども使用できる。

 Visual Studio Codeは、

$ curl -L "https://go.microsoft.com/fwlink/?LinkID=760868" > vscode.deb
$ sudo apt install ./vscode.deb
$ sudo apt install fonts-ipafont fonts-ipaexfont

これでインストールできる。3つめは日本語フォント。Visual Studio Codeのアップデートはapt update/upgradeに含まれるようになる。

 日本語入力は、CloudReady側のIMEをLinux側では使えないため(ターミナルアプリはChromeアプリなのでIMEは使えるが)、別途インストールする。wrapperか何かを使って統合化してもらえると便利なのだが……。

$ sudo apt install fcitx-mozc -y
$ sudo vim /etc/systemd/user/cros-garcon.service.d/cros-garcon-override.conf
以下を追加
Environment="GTK_IM_MODULE=fcitx"
Environment="QT_IM_MODULE=fcitx"
Environment="XMODIFIERS=@im=fcitx"

仕上げ

アプリメニューからFcitx起動
fcitx-configtoolでMozcを追加
echo "/usr/bin/fcitx-autostart" >> ~/.sommelierrc (自動起動設定)

 これでCtrl+[Space]によりIMEのオン/オフができる。

 dockerは少し長くなるのでここを参照。試しにportainerを入れたが問題なく作動する。

 なおCloudReadyとLinuxは、ベースOSとコンテナと言う関係でファイルシステムが異なり、そのままでは双方からアクセスできない。これには解決策があり、

ファイルアプリ > (例えば)ダウンロード > 右クリック > Linuxとの共有を管理

 とすれば、Linux側の/mnt/chromeos下にマウントされ、CloudReady側のファイルにアクセスできるようになる。

 以上で各SNSへのアクセス、事務処理やWeb/サーバー系の開発は可能だが、できればクライアント側などで使う画像加工も行ないたい。いろいろ試したところdarktableがよさそうだった。sudo apt installを使うと面倒なのでflatpakを使用した

flatpakのインストール

$ sudo apt-get install flatpak
$ sudo flatpak remote-add --if-not-exists flathub https://dl.flathub.org/repo/flathub.flatpakrepo

darktableのインストール/起動

$ sudo flatpak install flathub org.darktable.Darktable
$ flatpak run org.darktable.Darktable

 また同じ手順でgimpもOKだ。この2つが動けば画像処理は何とかなる。 Flathubには、Skype、Zoom、Microsoft Teams、Spotify、VLC、WSP Officeなど、いろいろアプリがあるので、気になる人は見てほしい。

gimpのインストール/起動

$ sudo flatpak install https://flathub.org/repo/appstream/org.gimp.GIMP.flatpakref
$ flatpak run org.gimp.GIMP
LinuxからVisual Studio Codeを起動
Linuxへdockerをインストールして、portainerを起動
Linuxのflatpakを使ってdarktableを起動
Linuxのflatpakを使ってSkype、Spotifyを起動。ブラウザにはFlathubにあるアプリ一覧
VirtualBoxを使ってWindows 10を起動

 最後は本末転倒だが、CloudReadyでWindows 10を起動する方法だ。CloudReadyはなぜか本家にはないVirtualBoxが入っている。これにWindows 10のISOイメージをダウンロードして、光学ドライブにマッピング、あとは普通に仮想マシンを作ればご覧のように作動する。画面解像度は固定だが数パターン用意されているので、用途に合わせればいいだろう。そこそこ動くので、必要に応じてというところか……。

 ただし、インストール済みのVirtualBoxはバージョンが5.2系、最新は6.1系なのでアップデートするようにとパネルが出るものの、じつはアップデートできない。理由はCloudReady側のLinuxにVirtualBoxが入っているためだ。CloudReady上で起動するLinuxはコンテナ上のものなので、入っている空間が違い上書きできず、さらにコンテナ上では仮想化の仕掛けが使えず動かない。従ってインストール済みの5.2系のまましか使うしか手立てがない。

 また同じ理由(仮想化がぶつかる)でVirtualBoxを動かすと、CloudReady上のLinuxは起動しない。逆もしかり。つまりどちらか一方しか動かなくなる。VirtualBoxを使うのならフルのLinuxをvmへインストールして使うことになる。

 なおこれらの画面キャプチャは、HP「ProBook 430 G3」へ外部キーボード(ThinkPadトラックポイント・キーボード/日本語)と、タッチパッド(ARCHISS AS-PTBT01)をUSBで接続、HDMIへフルHDディスプレイをつないで、ノートPC側のパネルを閉じ、デスクトップPC的に使っている。

USB接続でキーボードとタッチパッド、HDMI出力からフルHDディスプレイをつないで作動中のCloudReady。Visual Studio Code上でIME(Mozc)が作動している

 もともとパネル性能が低く、タッチパッドも2本指のスクロールに難があったので(WindowsでもCloudReadyでも)、不満点が消え、結果的には快適な環境だ。本家としてHP「Chromebook x360 12b」を所有しているものの、こちらはPentium Silver N5000/メモリ4GB/ストレージeMMC 64GBなので、新しい分、ノートPCとしての完成度は上だが、動作速度は比較にならない。

 いずれにしても中古のノートPCだと、筐体、パネル、キーボード、そしてバッテリが痛んでいることが多く、あまり状態が良くない場合は、このように薄型デスクトップPC的に使うのがベターだと個人的には思っている。であれば「Windows 10 Proのままでいいのでは!?」というツッコミはなしで(笑)。


 以上のようにNeverware「CloudReady」は、Chrome OSと同じChromium OSベースのOSだ。Homeエディションは個人用途なら無料。USBメモリで簡単にインストールでき、本家との違いは少しバージョンが古いのと、Google PlayストアがなくAndroidアプリが作動しないことの2点。

 以前にも書いたが、Chrome OS自体はWindowsより軽く、エントリーレベルのプロセッサと少ないメモリでも快適に作動するものの、最近のWebサイトはレンダリングにパワーが必要、さらにタブを多く使うとその分、メモリも食う。従ってミドルレンジ以上のマシンを使った方が快適に操作できる。

 そういった意味では今回ご紹介したような少し前のPCでCloudReadyを使えばCeleron/Pentiumを搭載した最新のChromebookよりハイパフォーマンスなのは明白。手持ちのマシン全てがWindowsでは面白くない、でも(Chrome OSもLinuxの一種なのだが)一般的なLinuxはハードルが高い……というユーザーに試して欲しいOSだ。意外と使えるので驚かれるのではないだろうか!?