笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、今年後半に8コアのCoffee Lake Refresh、2019年にComet Lakeを投入へ

~Xプロセッサの28コアはBasin Falls Refreshに

 IntelのCPUロードマップは相変わらず混沌の中にある。これがCOMPUTEX TAIPEIを取材して回った筆者の実感だ。

 Intelは公式にWhiskey Lake-U、Amber Lake-Yの2製品を今年の秋に第8世代Coreプロセッサの新エディションとして投入すると発表(記事:Intel、次期Core Xとなる28コアCPUをデモ。Whiskey Lake-UとAmber Lake-Yは今秋投入参照)したが、それと同時に28コアの次期Xプロセッサのデモを行なった。

 この28コアのXプロセッサ、当初はIntelが次世代Xプロセッサとして開発していると見られていたCascade Lake-Xだと見られていたが、実際には「Basin Falls Refresh」と呼ばれる現行Xプロセッサのリフレッシュ版だとその後の取材で判明した。

 また、Intelの10nmプロセスルール製品は依然として大規模出荷につながっておらず、GPUを無効にしたCore i3-8121Uを出荷したものの、別途GPUを搭載するゲーミングPCなどで採用されるにとどまっており、大規模な出荷とは言えない状況だ。

 その原因は、以前の記事でもお伝えした通り、10nmで内蔵GPUの歩留まりが上がってこない、そこに原因がありそうだ。このため、Intelはロードマップの大幅変更を強いられている。

18年はWhiskey LakeとAmber Lakeを、19年にはComet Lakeを投入

 今回のCOMPUTEX TAIPEIでIntelはいくつかの重要な発表を行なった。1つ目は今年の秋に、Whiskey Lake-U、Amber Lake-Yを第8世代Coreプロセッサの新エディションとして投入すると明らかにしたことだ。

Intelはこの秋のWhiskey Lake-U、Amber Lake-Yを投入すると発表

 まず、Whiskey Lake-Uだが、これは現在第8世代CoreのUプロセッサとして販売されているKaby Lake-Rを置き換える製品になる。Kaby Lake-Rと同じクアッドコアのCPUを備えているが、プロセッサに内蔵されているPCHが、Cannon Lakeと同じ14nmプロセスで製造される“CNL-PCH”と業界で呼ばれている新しいPCHに切り替わる。

【表1】PCHの世代(ICL-PCHは筆者予想)
KBL-PCH(Union Point)CNL-PCHICL-PCH
製造プロセスルール22nm14nm14nm
USBコントローラUSB 3.1 Gen1USB 3.1 Gen2USB 3.1 Gen2
TBコントローラ--統合
デスクトップ製品のブランドIntel 200シリーズ・チップセット/Intel 300シリーズ・チップセット(Z370/H310のみ)Intel 300シリーズ・チップセット(Z370/H310を除く)未定

 以前は、PCHにも開発コードネームがついていたのだが、最近はPCHにはコードネームは用意されておらず、そのPCHがどのCPUをターゲットにして開発されたかで区別されるようになっている。

 現在のKaby Lake世代の多くのCPUに組み合わされているPCHが、当初のコードネームでは「Union Point」、今は「KBL-PCH」と呼ばれる22nmプロセスルールで製造されるPCH。これは、デスクトップ向け製品名としては「Intel 200シリーズ・チップセット」と呼ばれるPCHで、Intel 300シリーズでも、「Z370」と「H310」だけは、このKBL-PCHベースになっている。

 これに対して、10nmの最初の製品となるCannon Lake向けに開発されたPCHが通称CNL-PCHだ。CNL-PCHは14nmに微細化されており、USB 3.1 Gen2(10Gbps)に対応していることが最大の特徴となる。

 このCNL-PCHは、Z370とH310以外のIntel 300シリーズ・チップセットとしてデスクトップ向けにリリースされているほか、Coffee Lake-Hのコードネームで知られる第8世代CoreのHプロセッサ向けのPCHとしても利用されている。

 Whiskey Lake-UとAmber Lake-Yには、このCNL-PCHが採用される。これにより、薄型ノートPCでも標準的にUSB 3.1 Gen2(10Gbps)を実装することが可能になる。

 なお、このCNL-PCHの後継となるのが、「ICL-PCH」と呼ばれるIce Lake向けに開発されたPCHとなり、Thunderbolt3のコントローラが初めてPCHに統合される。

今年後半に8コアのCoffee Lake Refreshを投入、28コアのXプロセッサはBasin Fall Refreshに

【表2】IntelのCPUのコードネーム(Whiskey Lake-U以降は筆者予想)
開発コードネーム種類用途CPUコア数(最大)PCHリリース時期
Kaby Lake-SSプロセッサデスクトップPC4コア14+nmSKL-PCH(22nm)16年Q3
Kaby Lake-U/YUプロセッサ/Yプロセッサ薄型ノートPC2コア14+nmSKL-PCH(22nm)16年Q3
Kaby Lake-HHプロセッサゲーミングノートPC4コア14+nmSKL-PCH(22nm)17年Q1
Kaby Lake-RUプロセッサ薄型ノートPC4コア14+nmSKL-PCH(22nm)17年Q3
Coffee Lake-SSプロセッサデスクトップPC6コア14++nmSKL-PCH(22nm)/CNL-PCH(14nm)17年Q4
Coffee Lake-HHプロセッサゲーミングノートPC6コア14++nmCNL-PCH(14nm)18年Q2
Coffee Lake-UUプロセッサ薄型ノートPC4コア14++nmCNL-PCH(14nm)18年Q2
Cannon Lake-U/YU/Yプロセッサ薄型ノートPC2コア10nmCNL-PCH(14nm)18年Q2
Whiskey Lake-UUプロセッサ薄型ノートPC4コア14++nmCNL-PCH(14nm)18年後半
Amber Lake-YYプロセッサ薄型ノートPC2コア14++nmCNL-PCH(14nm)18年後半
Coffee Lake Refresh-SSプロセッサデスクトップPC8コア14++nmCNL-PCH(14nm)18年後半
Coffee Lake Refresh-HHプロセッサゲーミングノートPC8コア14++nmCNL-PCH(14nm)19年Q1
Comet LakeUプロセッサ薄型ノートPC4コア14++nmICL-PCH(14nm)?19年Q2
Ice LakeS/H/U/Yすべて?10nmICL-PCH(14nm)19年?

 Intelが2018年中に計画している新プロセッサはWhiskey Lake-UとAmber Lake-Yだけではない。それよりは若干後の時期になるが、Intelは「Coffee Lake Refresh」と呼ばれるCoffee Lakeの改良版の投入を計画している。

 Coffee Lake RefreshはCPUコア数が6コアから8コアに強化される。CPUソケットはLGA1151で、SプロセッサとしてデスクトップPC向けに、HプロセッサとしてゲーミングノートPC向けに投入される。また、同製品はXeon Eとしてシングルソケットのサーバー製品としても活用される。

 さらに、Intelの14nm製品はこのCoffee Lake Refreshで終わらない。2019年にはComet Lake(コメットレイク)と呼ばれる製品が計画されている。現時点では詳細は明らかではないが、14nmで製造され、Uプロセッサとして投入される計画だという。これにより、Uプロセッサだけで数えても、Broadwell、Skylake、Kaby Lake、Kaby Lake Refresh、Coffee Lake、Whiskey Lake、Comet Lakeと6つ目の製品が登場することになる。

28コアのXプロセッサを投入
28コアのXプロセッサでCinebench R15を実行している様子

 もう1つのCOMPUTEXでの発表である28コアのXプロセッサに関しては、いくつかのアップデートがある。

 1つにはCascade Lake-Xだと思われていたこの28コアのXプロセッサだが、実際にはBasin Falls Refreshというコードネームの製品であることが、OEMメーカー筋の情報から明らかになってきた。Cascade Lake-Xは何らかの理由により来年にずれ込んでおり、それを現在Core i9 Xプロセッサーとして販売されているBasin Fallsのリフレッシュ版が今年の末までに投入される。

 その中身は何かと言えば、Skylake-SP(発表時の記事はIntel、PurleyことXeonスケーラブル・プラットフォームを発表)の開発コードネームになるXeon用のHCC(Xeon用のSPプロセッサは、コア数が多い順にHCC=28コア、MCC=18コア、LCC=10コアとあり、Basin FallsにはこのうちMCCが利用されていた)となる28コアのダイである。

10nmはひっそりとした船出を強いられ、Ice Lakeの計画はさらに遅延

 Intelのロードマップがこのように複雑怪奇な状況になっており、もはや業界関係者でもすべてを把握するのが難しいぐらいだ。こんな状況になっている最大の要因は、本来であれば大量生産が始まっているはずだった10nmプロセスルールの本格的な立ち上げが全く見えない状況だからだ。

 じつは10nmプロセスルールで製造する製品の生産はすでにはじまっている。開発コードネームCannon Lake-Uで知られる製品で、Core i3-8121Uという製品がひっそりと発表されている(別記事Cannon LakeのCore i3-8121Uがこっそり発表、AVX-512命令対応もGPUは無効か参照)。本来のCannon Lakeは、Kaby Lakeの微細化版として投入されるはずで、新しいプロセスへのマイグレーションのほかは特に難しくない製品のはずだった。だが、Cannon Lakeのリリースは遅れに遅れて、当初の予定より約1年以上遅れてのリリースとなった。

 ところが、通常であれば新しい製品の投入となれば大々的に発表されるはずだが、このCore i3-8121Uは製品リストにひっそりと追加されただけで、新製品であれば大抵は行なわれるプレスリリースなども出されなかった。なぜかと言えば、このCore i3-8121Uは、本来はあるはずの内蔵GPU(iGPU)が無効にされている状態で出荷されているからだ。つまり、大々的に「出荷しましたー(ぱんぱかぱーん)」と言うことが恥ずかしい状態だったので、ひっそり追加したのだと考えることができる。

 このことは、10nmプロセスルールが抱えている問題が、GPUの歩留まりだという以前の情報(別記事第8世代Coreプロセッサの本当のコードネームはどれ?参照)を裏付けているということができるだろう。GPUを無効にすれば、製品として出荷できるのだから、それがプロセスルールの側に問題があるのか、GPUの回路の側に問題があるのか不明だが、iGPUの歩留まりが問題になっていることはほぼ間違いない状況だと言える。

 いずれにせよ、じつは当初は今年(2018年)の末から来年(2019年)の頭とされていた10nmの新アーキテクチャ製品となるIce Lakeは、ずるずると後ろ倒しになっており、今のところのIntelの5四半期分のロードマップからは存在が消えている。つまり、いつIce Lakeがリリースされるのか、わかっている人は業界には誰もいないということだ。そしてひょっとしたら、Intel自身にもわからない事態になっているかもしれない。

今後IntelはGPUなしのIce Lakeを検討するのではないかと業界では噂に

 今業界でまことしやかに言われているのは、IntelがIce LakeのGPUなしバージョンを制作し、KBL-GのようにGPUを別ダイにしてリリースする、ということだ。状況証拠はそろいつつある。IntelがAMDのGPU部隊を率いていたラジャ・コドリ氏を引き抜いたというニュースは業界を震撼させたが、それは単体GPU(dGPU)をIntelが設計している、その証左だとする声は強い。

 そのdGPUが、じつのところKBL-GのようにCPUのインターポーザー上でIce LakeのGPUナシ版と1つに統合される、そういうシナリオはどうだろうか。実際、KBL-GはハイエンドPC向けとしてそれなりの成功を収めており、その技術を応用してIce Lake-Gのような製品を作り上げ、それを投入していく、それが今Intelの中でプランBとして検討されている可能性はかなり高いと筆者は考えている。

 なんだか「屋上屋を架す」という言葉がぴったりくるような話ではあるが、来年には他社がIntelの10nmに相当する7nmの生産を本格化させる。そうした中で、他社と戦っていくと考えると、現実的な線ではないかと思うが、それが現実になるかどうかは、もう少し時間が必要だろう。