笠原一輝のユビキタス情報局

Surface Go(米国版)ファーストインプレッション

~Pentium Gold 4415Yの性能をチェック

Surface Go、オプションのアルカンターラ素材のSignature Type Coverをつけると2-in-1型デバイスとして利用できる

 MicrosoftのSurfaceシリーズの最新製品Surface Goが、8月28日から日本でも販売開始される。それに先だって8月2日(米国時間)からは米国で販売が開始されており、筆者も米国出張の折に、上位モデルのPentium Gold/8GBメモリ/128GB SSDというモデルを購入して、海外出張時にバックアップマシンとして活用している。

 今回はそのファーストインプレッションとしてSurface Goに搭載されているCPUであるIntel Pentium Gold 4415Yの詳細やその性能に迫っていきたい。

シリーズとして久々の10型級デバイスとなるSurface Go

 Microsoftが米国で販売を開始し、8月28日から日本でも販売を開始するSurface Goは、10型の1,800×1,200ドットのディスプレイを搭載したタブレットで、オプションのカバーキーボードを取り付けると2in1になるデバイス。MicrosoftのSurfaceブランドのタブレットとしては、10型級の製品となると2015年に発表・販売された「Surface 3」までさかのぼることになるので、約3年ぶりとなる。

Surface Goのメモリ8GB/ストレージ128GB(SSD)モデル、米国では549ドルで販売されている

 これまでMicrosoftのSurfaceシリーズは、10型級のディスプレイを搭載した無印Surface系、12型級のディスプレイを搭載したSurface Pro系、そして13型のディスプレイを搭載してドッキングキーボードが添付されているSurface Book系という3系統が用意されていたが、Surface ProやSurface Bookがほぼ毎年新しい製品が追加されているのに対して、無印Surface系統はSurface 3を最後にして3年出ていなかったので、Surface Goとブランド名こそ無印Surfaceから変わったものの、「復活」と言っていいだろう。

Surfaceシリーズの進化(筆者作成)

 Surface Go(米国モデル)のスペックは以下のようになっている。日本のモデルとの違いは、既報のとおりで、Office 2016 Home and Businessがバンドルされているかしていないかだ。

【表1】Surface Goのスペック(Microsoftの資料より筆者作成)
上位モデル下位モデル
CPUPentium Gold 4415Y
GPUIntel HD Graphics 615
メモリ8GB4GB
ストレージ128GB(SSD)64GB(eMMC)
ディスプレイ10型(1,800×1,200ドット、217ppi)
ワイヤレスWi-Fi(IEEE 802.11ac)/Bluetooth 4.1
I/OUSB Type-C×1、Surfaceコネクタ×1、SDXCカードリーダ×1、ヘッドフォン×1
カメラ前面:500万画素、背面:800万画素
OSWindows Home(Sモード)
価格(税別)549ドル399ドル

 今回筆者が購入したのは米国で販売されいる上位モデルになる。なお、米国で販売されているモデルには、日本で無線関連の機能を利用する場合に必要になる技適マーク(技術基準適合証明等のマーク)はない。このため、旅行者が海外から持ち込んだときに90日間だけ利用できるという例外規定を除いて、日本国内では無線関連を利用できない。

 今回は米国の出張時にセットアップしたモノを日本に持ち帰り、日本の法律に準拠して利用するために日本ではフライトモードにして無線関連をオフにして、ネットワークにつなげるときはUSBポートに接続したEthernetアダプタを利用してするなどして撮影に利用しているので、その点はお断わりしておきたい。

米国で販売されているモデルは技適マーク(技術基準適合証明等のマーク)はない

 CPUはIntelのPentium Gold 4415Yになる、これに関しては後述するのでそれを参照して欲しい。メインメモリとローカルストレージの違いで2つのモデルが用意されており、上位モデルがメモリ8GB+128GB SSD、下位モデルがメモリ4GB+64GB eMMCになっている。メモリの違いに関しては容量の違いなのでわかりやすいと思うが、ストレージに関しては注意が必要だ。

 というのも、容量の違いはともかくとして、前者はSSD、後者はeMMCとなっているのだ。SSDもeMMCもフラッシュメモリを利用している点では同じなのだが、インターフェイスの速度には違いがあり、前者の方が圧倒的に速いからだ。

 米国で販売されるモデルの場合、前者のSSDは東芝の「KBG30ZPZ128G」、後者のeMMCは「Hynix hC8aP」が採用されていた(前者は筆者が購入した個体、後者は米国でのMicrosoft Storeで展示されていた個体でチェックした仕様)。スペック上の性能でも東芝のKBG30ZPZ128Gは、シーケンシャルリードが最大1,300MB/sであるのに対して、Hynix hC8aPは280MB/sとされており、性能には4.6倍の差がある。Windows OSは仮想メモリをストレージに展開したりする場合があり、その時にストレージの性能があまり高くない場合には操作を待たされる場合がある。

 とくにメモリが4GBと少ない場合には、それがよく発生する場合があると考えられるので、予算に余裕があるなら上位モデルを買った方が結果的には快適に利用できることは覚えておこう。

 なお、OSはどちらのモデルもWindows 10 Homeになっているが、Sモードと呼ばれる、Win32アプリケーションなどWindows Storeアプリ(UWPアプリ)以外はインストールできないという“制約モード”に設定されている。ただし、これは、Windows Storeから解除することが可能になっているので、Microsoftが公開している手順に従って解除すると普通のWindows 10 Homeとして利用することができる。

Pentium Gold 4415YとCoreシリーズとの差はキャッシュサイズとTurbo Boost

 CPUとなるPentium Gold 4415Yに関してだが、このCPUの持つ性能を理解するには、いくつかの技術的なことを理解しておく必要があるので、以下解説していきたい。

【表2】Intelのプロセッサのスペック
ブランド-プロセッサナンバーPentium Gold 4415YCore m3-6Y30Core i7-7600UCore i7-8550U
CPUコードネームKaby Lake-YSkylake-YKaby Lake-UKaby Lake Refresh
プロセッサの種類YプロセッサYプロセッサUプロセッサUプロセッサ
TDP6W4.5W15W15W
CPUコア数2コア2コア2コア4コア
L3キャッシュ2MB4MB4MB8MB
GPUGT2GT2GT2GT2
ベースクロック1.6GHz0.9GHz2.8GHz1.8GHz
ブースト時クロック-2.2GHz3.9GHz4GHz
Intel Turbo Boost対応-

 表2は後述のベンチマークテストで利用したシステムに採用されていたCPUのスペックを横並びで示したものだ。これだけを見るとどこがポイントであるかなかなか解らないので1つ1つ解説していこう。

 まずは、IntelのノートPC/タブレット向けプロセッサの種類を理解する必要がある。IntelのノートPC向けプロセッサには、Hプロセッサ、Uプロセッサ、Yプロセッサの3種類がある。なお、HプロセッサはゲーミングノートPC向けのプロセッサで、今回の話からは関係ないので、除外して話を進める。

 自分の使っているCPUがどれになっているかを見分けるのは比較的簡単で、CPUのプロセッサ名の最後のアルファベットがそれを示している。Core i7-8550UであればUプロセッサだし、Pentium Gold 4415YであればYプロセッサであることを示している。

【表3】Hプロセッサ、Uプロセッサ、Yプロセッサ
HプロセッサUプロセッサYプロセッサ
TDP45W15/28W4.5/6W
ターゲットの放熱機構ファンファンファンレス
CPU2コア/4コア/6コア2コア/4コア2コア

 簡単に言えば、UプロセッサとYプロセッサは、TDP(Thermal Design Power、熱設計消費電力)が違う。CPUから発生する熱は、CPUが消費する電力に比例して大きくなるので、このTDPで規定されている電力量が増えれば増えるほど、より大規模な放熱機構が必要になる。

 一般的なノートPCに採用されているUプロセッサはTDPが15W(一部モデルは28W)に設定されており、それだけの電力をCPUが消費している時にも対処できるように、CPUファンを利用した熱設計が前提となる。

 これに対してYプロセッサでは、ファンレスにすることをターゲットにしており、TDPが4.5W~6Wと言った比較的低いTDPに設定されているのが大きな特徴となる。このTDPにするため、Uプロセッサは比較的クロック周波数が高めに設定されており、Yプロセッサの方は比較的低めに設定されているというのが特徴だ。

CPU-ZによるPentium Gold 4415Yの表示

 Pentium Gold 4415Yはそのプロセッサー・ナンバーからもわるとおりYプロセッサになる。TDPは6Wに設定されており、ファンレスの設計が可能。実際、Surface Goはファンを利用しないファンレス設計になっている。

 ただし、同じYプロセッサではあるが、Core m3やCore i5/7などのYプロセッサとは大きな違いがある。現在IntelはPentiumをCoreとCeleronの中間ブランドと位置づけており、機能にいくつかの制限を設けている。

 最大の制限はIntel Turbo Boost Technologyに対応していないことだ。Pentium Gold 4415Yは、このTurbo Boostには対応しておらず、1.6GHzというベースクロックまでという中で動作する。後述のベンチマークで比較として用意した同じYプロセッサのCore m3-6Y30の場合にはベースクロックは900MHzとなっているが、Turbo Boost時には最大2.2GHzまで引き上げられて動作する。

 この違いが性能に与える影響は大きそうで、そこをどう評価するかがPentium Gold 4415Yの性能を議論する上で重要になってくる。

Atomよりは速く、Core Yよりやや劣る

 それでは、Yプロセッサ、Uプロセッサを搭載したシステム、そしてSurface Goにとってはご先祖様にあたるAtomプロセッサ搭載のSurface 3を利用して、Surface Goに搭載されているPentium Gold 4415Yの性能を見ていこう。テスト環境は表4のとおりで、ベンチマークには3Dmark V2.5.5、CINEBENCH R15.038を利用した。各システムに搭載されているプロセッサのスペックに関しては表2を参照していただきたい。

【表4】テスト環境
CPUPentium Gold 4415YCore m3-6Y30Core i7-7600UCore i7-8550UAtom X7-Z8700
PCSurface Go(8GB/128GBモデル)HUAWEI MateBook(Core m3/4GB/128GBモデル)ThinkPad X1 Yoga Gen2富士通 LIFEBOOK UH(UH90/B3)Surface 3(4GB/128GBモデル)
メモリ8GB4GB16GB8GB4GB
ストレージ128GB(SSD)128GB(SSD)1TB(SSD)256GB(SSD)128GB(eMMC)

 なお、本来CPUやGPUの性能の違いを見るためには、メモリ容量やストレージをそろえてやるべきものだが、対象としているのがノートPCに搭載されているCPUであり、メモリやストレージは交換することができないものがほとんどであるので、揃っていないことを前提条件としてやることにした。従って、純粋にCPUの性能というよりは、システム全体の性能を比較することになっているので、その点はご了承いただきたい。

【表5】ベンチマーク結果
Pentium Gold 4415YCore i7-8550UCore i7-7600UCore m3-6Y30Atom X7-Z8700
Ice Storm UnlimitedScore4168666752738155223425715
Graphics Score5445779180888886909827411
Graphics Test1281.69460.02433.888368.1132.25
Graphics Test2224.42275.05348.4253.78105.51
Physics Score2126243085463232817121078
Physics Test67.5136.78147.0689.4366.91
CineBench1回目152535377196101
2回目15452627518382
3回目158526332167109
4回目157527335207138
5回目157529332211136
平均156529330193113

 CINEBENCH R15.038はCPU(ないしはOpenGL)を利用して画像をレンダリングするタイプのベンチマークで、CPUテストはCPUの性能をダイレクトに示すよい指標になるテストだ。テストの結果には揺らぎが出てくるので、5回計測してその平均値を結果として採用することにした。

CINEBENCH R15.038

 このテストで、もっともも良い結果を出したのが最新の第8世代CoreプロセッサとなるCore i7-8550Uがダントツで1位だった。Core i7-8550Uは、従来世代の第7世代CoreプロセッサのCPUがデュアルコアだったのに対してクアッドコアに強化されており、前世代に比較して40%性能が向上しているとIntelが説明しているほどだ。実際、今回の結果でも第7世代のCore i7-7600Uと比較して60%アップになっており、その高い性能がうかがえる。

 さて、Pentium Gold 4415Yの結果だが、Surface 3に搭載されていたAtom X7-Z8700に比べると高い性能であることはこれからもわかる。しかし、Core m3-6Y30に比較すると、やや低いという数字にとどまっている。

 ベースクロックはCore m3-6Y30が900MHz、Pentium Gold 4415Yは1.6GHzであるのにPentium Gold 4415Yの方が低い結果になっているのは、1つのキャッシュメモリが少ないこと(4415Yは2MB、6Y30は4MB)と、もう1つはTurbo Boostへの対応の違いだ。

 Core m3-6Y30はTurbo Boostに対応しており、負荷がかかった時にはベースクロックよりも高いクロック(例えば1.6GHz~1.8GHz)程度で動作している。もちろんシステムの温度が上がると、だんだんとクロック周波数が下がっていくのだが、ベースクロックの1.6GHzまでしか上がらないPentium Gold 4415Yに比べてよりよい結果が出るのはこのためだと考えることができる。

3DMark Ice Storm Unlimited Physics Score

 同じことは3DMark(Ice Storm Unlimited)でCPU周りの性能を示すPhysics Scoreも同様で、Pentium Gold 4415YはCore m3-6Y30よりは低く、Atom X7-Z8700とあまり変わらない結果となっている。こうしたことから、Pentium Gold 4415Yは、少なくともCherry TrailベースのAtomプロセッサよりは速いが、同じYプロッサでもCore m3などCoreブランド製品よりはやや劣る、そうした性能だと評価するのが正当だろうだと言えるだろう。

 こうした結果から言えるのは、読者がSurface Goを生産性向上のために買おうと思っていて、速いプロセッサが必要と考えるのであれば、Uプロセッサを搭載しているSurface ProやSurface Laptopを選択する方がよいということだ。だが、もし多少生産性が犠牲になったとしても、できるだけ軽量な2in1デバイスが必要というユーザーであればSurface Goは素晴らしい選択肢になると思う。

 軽量も、高性能もという欲張りなデバイスは、筆者の知る限り、この地球上には存在していないのだから、読者が軽さを取るのか、性能を取るのかで決めたい。