笠原一輝のユビキタス情報局

Whiskey LakeとAmber Lakeの正体

IntelがIFA開幕前に行なった記者会見で紹介されたWhiskey Lakeのウェハ

 Intelが開発コードネームWhiskey Lake、Amber Lakeで開発してきたUシリーズ・プロセッサとYシリーズ・プロセッサを、第8世代Coreプロセッサの新しいSKUとして発表した(別記事Intel、Gigabit Wi-Fiを統合したモバイルCPU「Whiskey Lake」を正式発表参照)。

 このWhiskey Lake、Amber Lakeは、Intelが報道関係者に対して公開した資料がわかりにくかったこともあって、本当のところがあまり理解されていないようだ。本記事ではWhiskey Lake、Amber Lakeが実体としてどんな製品なのかについて解説していきたい。

Whiskey LakeのCPUは、Kaby Lake Refreshのリビジョンアップ

 通常Intelの新しいプロセッサは、第x世代Coreプロセッサとして発表されることが多い。昨年(2017年)のIFA前には開発コードネームKaby Lake Refreshが第8世代Coreプロセッサの最初の製品として発表された。その後Coffee Lake、Cannon Lakeが第8世代Coreプロセッサの追加SKUとして発表されたが、今回のWhiskey Lake、Amber Lakeもそれと同じ扱いで第8世代Coreプロセッサの追加SKUとして発表されている。

 Whiskey LakeはTDP 5WのUシリーズ・プロセッサとして、Amber LakeはTDP 5WのYシリーズ・プロセッサとして導入された。SKU構成に関しては以下のようになっている

【表1】Whiskey Lake、Amber LakeのSKU構成
Kaby Lake Refresh(参考)Whiskey LakeKaby Lake(参考)Amber Lake
Core i8-8650UCore i7-8565UCore i5-8265UCore i3-8145UCore i7-7Y75Core i7-8500YCore i5-8200YCore m3-8100Y
CPUコア数/スレッド4/82/4
ベースクロック周波数1.8GHz1.6GHz2.1GHz1.3GHz1.5GHz1.3GHz1.1GHz
Turbo Boost時最大4.2GHz4.6GHz3.9GHz3.6GHz4.2GHz3.9GHz3.4GHz
L3キャッシュ8MB6MB4MB
TDP15W4.5W5W

 今回発表されたCPUを理解するには、IntelのノートPC/タブレット向けCPUの構造を理解しておく必要がある。

 Whiskey Lake、Amber LakeのようなIntelのノートPC/タブレット向けCPUは、CPUの基板上でCPUとPCH(Platform Control Hub、従来でいうところのチップセット)が1チップに統合されるかたちとなっている。それぞれ別のチップとして生産したほうが効率が良いからなのだが、近年のIntelの製品はその特性を活かし、CPUだけが強化される世代、逆にPCHだけが強化される世代、あるいは両方同時に強化される世代とさまざまな強化パターンを生み出している。

 今回発表された2つの製品のうち、Whiskey Lakeに関しては、PCHだけが強化されている世代になる。CPUはSkylakeアーキテクチャの改良版(つまりKaby Lake)のクアッドコアで、基本的には前世代になるKaby Lake Refresh(KBL-R)と何も変わっていない。

 ただし、若干新しいリビジョンのダイになっているので、クロック周波数、とくにTurbo Boost時のクロックがKBL-Rに比べて引き上げられている(表1のKaby Lake RefreshのCore i7-8650UとWhiskey LakeのCore i7-8565Uの違いがTurbo Boost時のクロックだけであることからよくわかるだろう)。

USB 3.1 Gen2、Wi-Fi内蔵、オーディオDSPの強化

 では、大きな変更点は何かと言えば、OPI(On Package Interconnect、DMIがパッケージの中に入ったときにこの呼び方になった。基本的にはPCI Express x4でIntel独自プロトコルのインターコネクト)で接続されているPCHだ。

 今回のWhiskey LakeのPCHは、Skylake、Kaby Lake、Kaby Lake Refreshまで使われてきたSkylake世代で導入されたPCHではなく、その後継でCNL-PCHと呼ばれる、Cannon Lake用に開発された新しい14nmプロセスルールで製造されているPCHになる。

Whisky Lakeのブロックダイアグラム、黒い太線で囲んだのは外部IC

 CNL-PCHの特徴は3つある。1つ目はUSB 3.1 Gen2(10Gbps)のコントローラが内蔵されたこと、2つ目は従来は別モジュールとして提供されてきたWi-Fi/Bluetoothのコントローラ(MAC)がPCHに内蔵されたこと、3つ目はオーディオDSPが強化されクアッドコアのDSPになっていることだ。

 従来のSKL-PCHのUSBコントローラはUSB 3.0(ないしはUSB 3.1 Gen1)の5Gbpsにしか対応していないのに対して、CNL-PCHはUSB 3.1 Gen2の10Gbpsでの通信モードに対応している。このため、外付けHDDなどがUSB 3.1 Gen2に対応していると、高速にデータの転送を行なうことができる。

 これまでのPCでもUSB 3.1 Gen2に対応したUSBポートを備えている場合があったが、それは外付けのUSBコントローラを搭載して実現されていた。PCHが内蔵したことで、PCメーカーは追加コストなしにUSB 3.1 Gen2を実現することができるようになるため、今後USB 3.1 Gen2の普及が加速するだろう。

 なお、Thunderbolt 3のコントローラはこの世代では内蔵されていないため、Alpine RidgeやTitan Ridgeなどの外付けコントローラが依然として必要になる。

 従来は外付けだったWi-Fi/BTのMACは、CNL-PCHに内蔵された。このため、PCメーカーは基板上にWi-Fi/BluetoothのPHYを実装するだけで、低コストでWi-Fi/Bluetoothを実装することができる。従来はIntelやサードパーティが提供するM.2のモジュールで実装していたのに比べると、実装コストは圧倒的に下がる。かつ、CNL-PCHに内蔵されているMACは、Intel Wireless-AC9650と同じIEEE 802.11ac Wave2(5GHzで160MHz幅を使って通信)対応になっており、1.73Gbpsの帯域幅を実現する。

Intel モバイル製品マーケティング 副社長 兼 本部長 ラン・センデロビツ氏

 そしてCNL-PCHではオーディオDSPが強化さている、Skylake-PCHではデュアルコアだったDSPは、CNL-PCHではクアッドコアになっている。Intel モバイル製品マーケティング 副社長 兼 本部長 ラン・センデロビツ氏は「クアッドコア化により、処理能力が向上した。それによりより多くのストリームを同時に処理したりすることが可能になるし、同じ処理をやらせてもCPUへの負荷が下がるため、消費電力が下がる」と説明する。

 Intelではその具体例として、Amazon AlexaとMicrosoft Cortanaを共存させて、必要に応じて呼び出すような使い方を紹介した。

 このように、Whiskey Lakeの正体は、ややブースト時のクロックが上がったKaby Lake RefreshのCPUと、USB 3.1 Gen2、Gigabit Wi-Fi内蔵、クアッドコアオーディオDSPという3つの特徴をもったCNL-PCHの組み合わせということだ。

TDP枠の拡張によりCPUの性能が引き上げられたAmber Lake、PCHは旧世代のまま

 これに対して、Yシリーズ・プロセッサのAmber Lakeに関しては、じつのところKaby Lakeからハードウェア的には大きく変わっていない。

 CPUはKaby Lakeと基本的には何も変わっていない。Intelのセンデロビツ氏によれば「Whiskey Lakeは14++nmで製造されているのに対して、Amber Lakeは14nmで製造されている」と説明している。Intelは10nmの立ち上がりが進まないこともあって、既存の14nmプロセスルールの最適化を進め、14+nm、14++nmと同じ世代内でも進化させている。Kaby Lake Refreshはこの14++nmで製造されており、Whiskey Lakeも同様なのだが、Amber Lakeに関しては14nmの最初の世代にとどまっているという。

 また、IntelはAmber LakeのPCHは、最新のPCH(つまりCNL-PCH)ではなく、1世代前のPCH(つまりはSKL-PCH)であることをほぼ認めている。直接的にはそうは言っていないが、センデロビツ氏は「Amber LakeのオーディオDSPはデュアルコアでWi-Fiの統合もしていない」と説明しており、大筋でAmber LakeのPCHが古い世代のものであることを認めている。

 つまり、これらの情報を総合すると、Amber Lakeの正体はほぼ以下のとおりで、基本的にSkylake-Y、Kaby Lakeと何も変わっていないと言える。

Amber Lakeのブロックダイアグラム、黒い太線で囲んだのは外部IC

 では、何が違うのか、それはTDPの枠がAmber Lakeでは拡張されていることだ。従来のSkylake-Y、Kaby LakeではTDPは4.5Wに設定されていたが、Amber Lakeではそれが5Wに拡張されており、ベースクロック、Turbo Boost時のクロック両方が引き上げられている。これがAmber Lakeの最大のメリットであり、メーカーによってはシャシーの再設計が必要になるというデメリットはあるが、性能は向上することになる。

 IntelはこのIFAで、PCメーカー各社からWhiskey LakeおよびAmber Lakeを搭載した多数のPCが発表されると説明しており、会期中にそれらは徐々に明らかになっていくとみられている。

 Intelのセンデロビツ氏は「Whiskey Lakeは第7世代(筆者注:Kaby Lake)に比べて50%の性能向上を実現している」と説明している。昨年IntelはKaby Lake Refreshのリリース時に、Kaby Lakeに比べて40%向上だと説明してきた。つまり、Whiskey Lakeでは追加の10%の性能向上があるということになり、順当により速くなったKaby Lake Refresh、そして新PCHにより多くの機能強化、それがWhiskey Lakeの妥当な評価となるのではないだろうか。