山田祥平のRe:config.sys

ハードウェアのソフトウェア化と永く使えるデバイス

 ハードウェアとしてのデバイスがソフトウェアのアップデートで進化することが新しい当たり前として受け入れられるようになって久しい。新しいファームウェアやOSのソフトウェアでハードウェアが生まれ変わり、その結果、愛用デバイスを以前よりも永く使えるようになってきた。そのことで所有しないサブスク的な選択肢も受け入れられつつある。

長かった2度の6年間

 ガラクタを整理するためにわりと頻繁に実家に帰省しているが、そのたびに掘り出されるたくさんのデバイス類は、多くが1960~70年代のものだ。家具調のラジオ、トランジスタラジオ、アンプ内蔵のビニールレコードプレーヤー、アマチュア無線のトランシーバーなどなど。新しいものではiPhoneの30ピンDockコネクタでデバイスを装着するアンプ内蔵スピーカーなども見つけた。これは親にねだられたものだったような気がする。

 これらの古いハードウェアは品質が過剰によく、今電源を入れてもほとんどの場合、当時と同じように稼働する。にも関わらず、もう使われることはなく、押し入れなどの片隅でほこりをかぶって処分されるのを待っている。50年近く電源を入れられていないものばかりだ。

 今さらながら、小学校に通っていた6年間というのは、ものすごく長い体験だった。そして中学に入り3年間で卒業して次は高校に入学。その中高合わせて6年間も小学校の6年間に匹敵するほど長く感じた。

 今、6年間はアッという間だ。たぶん齢を重ねたからなのだろう。コロナ禍が人類を襲ったのが2020年で今年で5年が経過したわけだが来年はもう6年目である。小学校の6年間はランドセルを背負って通学したが、そのランドセルは6年間同じものを使った。途中で買い替えるなどといったことはしなかった。誰もがそうだった。

 今、日常的に使っているデバイスは、どのくらいの頻度で買い替えているだろうか。そもそも必需品として肌身離さず持ち歩いて高頻度で使っているデバイスを6年間も買い替えずにいられるものだろうか。

 ちょっと前までは進化が激しすぎるデバイスばかりで、極端な場合、毎年買い替えないと不満が募ることも珍しくなかった。6年間などといった長い期間、デバイスを使い続けるなんてありえなかった。人類にとって真新しいスマホのような道具は秒進分歩で進化するからなおさらだ。

 そんなスマホも、2010年頃から一般に浸透するようになって、今では誰もが肌身離さず持ち歩くデバイスとなった。一部の新しもの好きだけが手にする飛び道具ではない。Googleなどは、同社のスマホ、Pixelシリーズで7年間のソフトウェアアップデートサポートを保証している。小学校の6年間より長い。

 スマホよりも一足先に成熟したPCはちょっと前からそうだったが、スマホもそれに近づいたということだ。

長寿命化するハードウェア

 成熟したハードウェアとしてのデバイスは、ソフトウェアのアップデートで何度も生まれ変わるので、故意にせよ過失にせよ物理的な破壊が発生するまで使い続けることはできる。

 ただ、消耗品的要素としてのパーツは別だ。その典型がバッテリで、昨今のノートPCなどでは内蔵バッテリを交換できるようにするトレンドもある。ガラケー時代やスマホ黎明期はバッテリが交換できたのに、薄型軽量化のためにスマホがバッテリ内蔵の方向に向かったのと真逆だとも言える。

 パナソニックのモバイルノートPC「レッツノート」は頑固にバッテリ脱着可能な機構を維持し続けている。バッテリを新品に交換するだけで、購入直後のような駆動時間が復活し、新品時の使い勝手が蘇る。そのおかげか、レッツノートはリセールバリューが高いともいう。

 PCはコモディティであるとされ、どのメーカーのどの製品もさして違いがないように見えるが、実際にはコモディティであるはずもなく、各社の製品の使い勝手はまったく異なる。ところが、スマホはまだまだ嗜好品のムードを保ち、個人の所有感をあおり続けることに成功している。

 PCの場合、2016年に発売された第7世代Coreよりも前のプロセッサ搭載機はWindows 11非対応だ。前世代のWindows 10は2015年の発売で、この秋にサポートが終了する。実用になるかどうかは別として、大体10年は使い続けることができる計算になる。

 サステナビリティということを考えれば、モノとしてのハードウェアをできるだけ長い期間使い続けられるようにする企業努力はイメージもいい。

 ちなみにGoogleは古いPixelのOSアップデート期間を延長し、Pixel 6シリーズなどは3年から5年へと2年間延命した。Pixel 6の発売は2021年だったので2026年まで使えることになる。現行のPixel 9は7年間のアップデートが保証され2031年まで使える。

 毎年、出てくる魅力的な製品を目にして、果たしてそんなに長く使い続けられるかどうかだが、最近は、とにかく壊れるまで使うという方針のユーザーも少なくないようだ。

ソフトウェアはハードウェアを延命する

 デバイスの所有は、かつてほど魅力的なものではなくなったようにも感じる。スマホにしても残価設定ローンでの購入はサブスクリプションそのものであり、壊れるまで使うどころか、たった2年で返却して最新機種に乗り換える。

 こうしたスタイルが成立するようになったのは、デバイスそのもののライフサイクルが長くなって、たった2年で陳腐化するようなことはなくなってきたからだろう。2年酷使したくらいでは、デバイスの魅力はなくならないというわけだ。デバイスは元のユーザーの知らないところで第2のライフサイクルに入り、そのユーザーは次の最新デバイスの主となる。

 こうしたことが繰り返されながら、デバイスは生きながらえていく。かたちあるハードウェアがかたちなきソフトウェアによって新たに生まれ変わる。農業の工業化により、いったんはコモディティとなった工業生産物が、付加価値を得るためにもう一度農業生産物に戻るような輪廻がここにある。

 21世紀の新たなハードウェアが、こうした世界観を狙えるところに到達する日もそう遠くなさそうだ。もっともその一方で、デバイスの長寿命化が技術革新のスピードを鈍らせる可能性も議論しなければなるまい。

 さて、あなたは次のPC、そしてスマホをいつ買い替える?