福田昭のセミコン業界最前線
MicronがDRAM開発の新たなロードマップを示す
~国際メモリワークショップ(IMW)2020レポート
2020年5月27日 11:00
半導体メモリ技術の研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(2020 IEEE 12th International Memory Workshop(IMW 2020))」が、2020年5月17日~20日に開催された。当初はドイツのドレスデンが開催地として予定されていたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によってオンラインによる「バーチャルカンファレンス」として実施された。国際メモリワークショップ(IMW)がバーチャルカンファレンスとなるのは、当然ながらこれがはじめてである。
バーチャルカンファレンスの内容は以下のようなものだ。Webブラウザで、講演のビデオを視聴するとともに、チャット形式で質疑応答ができる。リアルな国際学会では講演を聴講できるのはその場かぎりだが、バーチャルカンファレンスでは期間限定で講演を何回でも視聴できる。また期間内で質疑応答が可能である。IMW 2020の場合は、2020年5月17日~25日が開催期間となっており、この期間内であれば技術講演とチュートリアル講演の視聴、および質疑応答が可能である。
IMW 2020の日程は、5月17日がチュートリアル(技術講座)、18日~20日がメインイベントの技術講演会(テクニカルカンファレンス)である。メインイベント初日である18日の最初は恒例のオープニング・リマーク(開会挨拶)ではじまる。その後は基調講演、3D NANDフラッシュメモリの技術講演セッション、抵抗変化メモリ(RRAM)のセッションが続く。
次の19日は強誘電体不揮発性メモリ(FeRAM)、磁気抵抗メモリ(MRAM)、埋め込みメモリ(Embedded)のセッションを予定する。20日はコンピューティングインメモリ(Computing In-memory)、相変化メモリ(PCM)およびセレクタのセッションがある。20日の最後はこれも恒例のクロージング・リマーク(閉会挨拶)で締めくくられる。これらの講演はいずれも25日まで、オンデマンドで視聴できる。
投稿論文数は67件と高い水準を維持
技術講演会(テクニカルカンファレンス)は18件の一般講演(口頭講演)と9件の招待講演、10件のポスター発表で構成される。といってもバーチャルカンファレンスなので、ポスター発表も一般講演と同様に口頭講演となった。ただしプログラムでは、一般講演と招待講演、ポスター発表のどれであるかがわかるように表示されている。またポスター発表の講演はすべて、該当するセッションの末尾に配置された。
投稿論文の数は67件で、昨年(2019年)の74件からは下がったものの、近年では高い水準を維持した。一般講演(口頭講演)の採択率は27%とかなり低い。ポスター発表を含めた採択率は42%である。
分野別発表件数ではNAND、PCM、ReRAM、FeRAMがトップで並ぶ
発表論文(招待論文を含む)を分野別に見ていくと、今年(2020年)は「インメモリコンピューティング(コンピューティングインメモリ)」の割合が27%ととくに多い。前年(2019年)は類似の分野である「ニューロモルフィック向けメモリおよび新規メモリ」が16%だったので、かなり増えたことがわかる。
続く「強誘電体メモリ(FeRAM)」は16%で比率は前年と変わらない。そのほかは「NANDフラッシュメモリ」と「埋め込みメモリ」がともに14%、「相変化メモリ(PCM)およびセレクタ」と「抵抗変化メモリ(ReRAM)」がともに11%、「磁気抵抗メモリ(MRAM)」が5%、「DRAM」が1%となった。
基調講演では3つの注目技術に関する招待講演を実施
18日はオープニング・リマークの次に、基調講演のセッションが来る。このセッションでは3件の招待講演が実施された。講演の順番に沿ってテーマを説明すると、「最先端DRAM」(Micron Technology)、「高密度3D NANDフラッシュメモリ」(Intel)、「超高速3D NANDフラッシュメモリ」(XL-FLASH)である。ここではMicronによるDRAMの基調講演(論文番号1-1)から、興味深かった部分を簡単にご紹介しよう。
10nm級DRAMの微細化がさらに小刻みに
製造技術で20nm未満のいわゆる10nm級DRAMはこれまで、5つの世代で微細化が進むというロードマップが一般的だった。具体的には「1X(エックス)nm世代」、「1Y(ワイ)nm世代」、「1Z(ゼット)nm世代」、「1α(アルファ)nm世代(1Anm世代)」、「1β(ベータ)nm世代(1Bnm世代)」と呼ばれていた。
2018年夏の時点では、「1Xnm世代」のDRAMが量産中で、「1Ynm世代」のDRAMは開発が完了して顧客による認証作業が進行中、「1Znm世代」がシリコンダイ水準での開発途上(プロセスの最適化作業中)という状態だった(参考記事:MicronがDRAMと3D NANDの開発状況を一部明らかに)。さらに先の「1αnm世代」は開発の初期であり、プロセス技術の集積化を進めていた。2018年末には「1Ynm世代」が量産の立ち上げに入った(参考記事:微細化に頼らずに大容量化を進める次世代DRAM技術)。
2019年夏には、「1Znm世代」の量産立ち上げがはじまった。16Gbit DDR4 SDRAMと16Gbit LPDDR4 SDRAMの生産に1Znm世代の製造技術を適用した(参考記事:Micron、業界初“1z nm”プロセスのDDR4メモリ量産開始)。
略号で呼ばれているものの、1Xnm世代は19nm~18nm、1Ynm世代は17nm~16nm、1Znm世代は16nm~14nm(この数値だけはMicronが講演した後の質疑応答によるもの)のことだと見られる。世代ごとの微細化はわずか1nm~2nm前後に過ぎない。この緩やかな微細化ペースが続くと、1αnm世代は14nm以下、1β世代は13nm以下になると推定される。
Micronは講演で、さらに先のロードマップを示していた。1βnm世代の次は「1γ(ガンマ)nm世代」、その次は「1δ(デルタ)nm世代」である。微細加工寸法は1γnm世代が12nm、1δnm世代が11nmになると推定される。すなわち、10nm級の世代は7世代を重ねることになる。
各世代の量産立ち上げは今後、約12カ月の間隔で続く。「1αnm世代」の量産立ち上げが2020年末~2021年初頭、「1βnm世代」の量産立ち上げが2021年末~2022年初頭、「1γnm世代」の量産立ち上げが2022年末~2023年初頭、「1δnm世代」の量産立ち上げが2023年末~2024年初頭、というスケジュールである。
EUV露光はまだ来ない、4F2セル導入が先になる可能性
最先端DRAMの技術開発では、EUVリソグラフィ技術(EUV露光技術)と4F2メモリセル技術の導入に関心が集まっている。DRAM最大手のSamsung Electronicsは、今年(2020年)3月25日に、EUVリソグラフィ技術を採用した製造プロセスでDRAMモジュールの量産を開始したと正式に発表した(参考記事:Micron、業界初“1z nm”プロセスのDDR4メモリ量産開始)。またDRAM大手のSK Hynixも近い将来、DRAM製造にEUVリソグラフィ技術を採用すると見られる。
これに対してMicronは、EUVリソグラフィ技術の採用には消極的だ。2018年6月の時点で、「1βnm世代」まではEUVリソグラフィ技術は選択しないと表明していた。今回の講演でも質疑応答で、「1βnm世代」まではEUV技術選択しないこと、選択するとしても「1γnm世代」以降であり、また「1γnm世代」で採用するとは決まっていない、と回答していた。EUVリソグラフィの要素技術ではレジスト技術とレチクル(マスク)技術の開発状況を見ているとのコメントを付け加えていた。
一方、4F2メモリセル技術(参考図)の採用については、曖昧ながらも、かなり含みをもたせていた。ちなみに現在のDRAMセル技術は6F2メモリセル技術が主流である。4F2メモリセル技術を導入するとメモリセル面積が原理的には6F2メモリセルの3分の2近くに小さくなる。4F2メモリセルでキーとなる要素技術は、新材料(new material)だと講演ではコメントしていた。
質疑応答からは、EUVリソグラフィ技術よりも4F2メモリセル技術の導入時期が早いように感じた。しかし4F2メモリセル技術では微細加工技術が大きな課題として残る。
Micronの講演スライドでは「1βnm」世代からはArF液浸露光のマルチパターニング技術が大きく変化することを示していた。「1αnm」世代まではダブルパターニングのステップが多く、クォドルプルパターニングのステップはごく少ない。ところが「1βnm」世代以降はクォドルプルパターニングのステップが増え、ダブルパターニングよりも多くなる。4F2メモリセル技術はリソグラフィ技術の負担がさらに大きくなる。エッチング技術と成膜技術への要求も厳しい。何らかの工夫で対処することが必須となりそうだ。