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わが社はこうやってテレワークしています【Amazon編】

~独自コミュニケーションツールや仮想デスクトップを提供。Alexaも一役買う

Amazonの物流拠点

 2000年11月に、日本において、Amazon.co.jpのサービスを開始したAmazonは、いまや日本最大のEC事業者である。国内に10カ所以上の物流拠点を持ち、全国に約7,000人の「アマゾニアン」と呼ばれる社員が在籍している。

 また、クラウドサービスを提供するアマゾン ウェブ サービス ジャパンは、2010年に日本で事業を開始。国内だけで、10万社を超えるユーザーが活用。政府や大手企業、スタートアップ企業まで幅広い顧客を持つ。

 そのAmazonは、最新テクノロジーによるテレワークの積極活用を推進。それによって、高い生産性を維持したまま、事業を成長させている。その一方、外出自粛の影響によって取扱量が増加しているAmazonの物流拠点などでは、リアルの現場での新たな働き方を模索し、それを実行に移しているところだ。

 短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の10回目として、Amazonの取り組みを紹介する。

カスタマーサポートはすでに完全テレワーク

 Amazonでは、オフィス業務に就く社員の多くが、コアタイムの設定がないフレックス勤務を実施している。

 この制度を採用している背景には、社員1人1人がリーダーであり、自分の仕事を、オーナーシップを持って遂行するという考え方を根本に持っていること、さらに、海外拠点とのやり取りが多く、時差の関係から、早朝や深夜に自宅からオンライン会議に出席したり、メールでやり取りをしたりといったことが、日常的に行なわれている点が見逃せない。そのため、Amazonではテレワークを行なう環境がすでに構築されており、新型コロナウイルスの感染拡大前から、在宅勤務が行なえるようになっていた。

 ユニークなのは、完全テレワークの職種も存在しているという点だ。その1つが、バーチャルカスタマーサービス(VCS)である。カスタマーサポートの仕事を、全国どこからでも、在宅勤務で行なえるようにしているのだ。

 ある社員の場合、介護の関係で、青森県の実家に戻らなくてならない事情があったが、AmazonのVCSに勤務。すでに3年近くに渡って、自宅から週5日間、カスタマーサポートの仕事を行なっているという。有効求人倍率が全国平均を大きく下回り、降雪量が多い青森でも、Amazonの社員として採用され、通勤時間なしで働ける環境が実現されているという。

 新型コロナウイルスの感染拡大にあわせて、Amazonでは、3月6日の時点で、全世界の拠点を対象に、在宅勤務が可能なすべての社員は、4月10日まで在宅勤務することを推奨。オフィスでの作業を必要とする社員については、通常の有給および無給の休暇などを利用できるようにした。ここでは、オフィスの運営をサポートしている食品サービス会社や警備会社、清掃会社などに雇用されている時間給のスタッフへの支払いも継続した。

 また、4月1日には、4月24日までの期間、在宅勤務を継続することを推奨するように延長。4月30日には、在宅勤務での対応が可能な社員は、10月2日までは在宅勤務を継続できるようにした。この時点で、今年秋までの約5カ月間という長期的な在宅勤務制度を認めたのは、テレワーク環境が整い、それによって成果を出しているAmazonだからこその判断だといえるだろう。

 ここでは、オフィスに出社する必要がある社員に対しては、物理的距離の確保、徹底した清掃、検温の実施、マスクや手指消毒薬の提供などにより、社員の安全を維持しているという。

テレワークが利用できない職種も多いAmazon。その対策とは?

 一方、Amazonでは、物流拠点や配送ドライバーなど、テレワークを活用できない職種も多い。そして、これらの現場は、これまで以上に多忙な状況となっている。

 外出自粛や在宅勤務によって、必要なものをAmazonのECサイトで購入したという読者も多いのではないだろうか。

 同社では、「物流拠点の社員や、配送を行なうドライバーたちの健康と安全の確保は、Amazonの最優先事項の1つであり、業務開始前の体温測定やマスクの着用、消毒や手洗い、物理的距離の確保の徹底といった対策を実施して、安全を確保すると同時に、お客様に安全に商品を届けられるように取り組んでいる」とする。

物流拠点では細かいところまで消毒を行なっている
作業現場では物理的距離を確保して安全を確保
物流拠点では体温測定を行なってから入る
安全を確保するため消毒作業を行なっている様子

 なお、Amazonはサスティナビリティにも積極的に取り組んでおり、配送する商品のパッケージに、よりエコな素材を採用したり、再配達を減らしてCO2を削減したり、再生可能エネルギーに移行するなどの取り組みを行なっている。

 また、テレワークの浸透によって、Amazonのオフィスの稼働率を減らし、消費電力の削減も実現したという。「サスティナビリティの観点からも、テレワークの成果があがっている」とする。

仮想デスクトップや独自コミュニケーションツールを活用

 テレワークを行なう社員の多くは、PCを活用しているが、PCが貸与されていなかった社員や、自分のPCを使って仕事をしたいという社員は、Amazon WorkSpacesなどの仮想デスクトップ環境を利用している。

 Amazon WorkSpacesは、ストリームデータの暗号化や多要素認証、クライアントに機密データを残さないセキュアな環境で利用できるのが特徴だ。わずか数分という短時間で展開が可能なシンプルなデプロイと、柔軟な管理環境を実現していること、一貫したパフォーマンスを提供することも特徴といえる。

 実際の業務においては、「Amazon Chime(チャイム)」という、同社が開発した独自のコミュニケーションツールをテレワークに使用している。

Amazon Chimeを利用して会議を行なう様子

 Amazon Chimeは、エンタープライズでの利用を想定して開発されたツールで、最大250人までが同時に参加できるオンライン会議やビジネスチャットが可能だ。AES 256bitによる通信の暗号化、監査ログを取るAWS CloudTrail、パスワードを使った会議室への入場ロック、ユーザー権限の柔軟な設定変更などのセキュリティ機能を備えているのが特徴。同社では、「Webブラウザからの参加も可能であり、スマホやタブレットからも利用できる。

 さらに、電話回線に切り替えて会議に参加することもできる。高音質で会議を行なえることにこだわっており、ネットワーク切断時には自動的に再接続するといった機能も持っている。SIPとH.323に対応したビデオ会議システムとの互換性もあり、使いやすい管理コンソールも特徴の1つである」と説明する。

 複数の人が同じファイルを共有して資料の編集作業を共同で行なったり、ビデオ会議の録画が可能であることから、時間が合わず参加できなかったメンバーも、あとから会議の内容を把握することが可能になっている。

 「先日、Slackの提携を発表しており、テレワークを行なう上で、便利なツールが1つ加わることになる」とする。今後、社内でのSlackの活用も増えることになりそうだ。

 なお、テレワークのさいに必要となる液晶ディスプレイやヘッドセットは、希望者を対象に提供。快適なテレワークの実現を支援しているという。また、使用しているPCのトラブルがあれば、ITサポートが受けられるようになっている。「どんな小さなことも、ITスタッフが遠隔操作で対応してくれるため、スタッフ部門などの機械が苦手な社員も、安心してテレワークが行なえる」という。

テレワークで生産性が向上。子育て世代はやはり苦労も

 Amazonでは、テレワークによって、いくつかの成果があがっているという。

 社員からは、「生産性が上がったように思う」、「邪魔が入らず仕事に集中できる」といった声のほか、「通勤時間短縮により、家族との時間が増えた」、「勉強や趣味に時間が使えるようになった」、「自宅で毎日筋トレするようになった」といったように、生活を充実させている様子もうかがえる。

 だが、その一方で、住環境や家庭環境によっては苦労している社員もいるようだ。

 とくに、子育て世代や共働き世帯などでは、在宅勤務と家事や育児との両立の難しさに直面している。これは、テレワークを導入している企業の多くで見られていることでもある。

 Amazonでは、快適なテレワークが行なえるように、PCの周辺機器を提供する一方、介護やベビーシッターの補助などの福利厚生制度も用意。さらに、全社員へ毎日送付する意識調査「Connect」などを通じて、定期的に意見をヒアリングすることで、社員はいまどんなサポートが必要かを知ったり、社内の声を反映したりといった工夫を行っている。

 そのほか、仕事を離れても、チームメンバーや仲の良い社員同士がオンライン上に集まり、Happy Hourやオンライン飲み会など、仕事以外の場面で、コラボレーションツールを活用する事例も出ている。

 「対面でのコミュニケーションに代わるツールとして、Amazon Chimeを利用する社員が多い。直接、顔を合わせて挨拶したり、ちょっとした会話をしたりといったことが少なくなった分、こうした交流の場をオンライン上に設けて、近況報告や仕事以外の話をすることも、円滑なコミュニケーションを図る上で大切な時間だといえる」としている。

在宅勤務でもAlexaを活用

 Amazonでは、スマートスピーカーの「Amazon Echo」シリーズを製品化しているが、在宅勤務を有効にするために、これを活用している社員も多い。

Amazon Echoも在宅勤務を豊かにするツールだ

 「Alexa」と呼びかけるだけでさまざまな機能を利用できるため、集中しやすい音楽や環境音を流し、集中力を持続させたり、一人で作業をする孤独感や閉塞感を解消しながら、リラックスした環境で仕事を行い、自宅での生産性をあげるといった使い方が目立つ。また、ディスプレイ搭載のEchoシリーズや、Alexa搭載のFireタブレットを使えば、Alexaスキルを使って、身体を動かして心身のストレスを発散したり、軽い運動やストレッチで疲れた身体をほぐしたりといった使い方もできる。

 「リゾート気分を少しでも味わおうと、ハワイの波の音などのスキルを使っている社員もいる。また、自宅でのデスクワークで長時間同じ姿勢を続けていると、筋肉が落ちやすくなるため、Alexaスキルを使って適度な筋トレを行なうこともできる。オフィスと違って、自宅でのテレワークは、単調に感じられ、気がつくと座りっぱなしになっているなど、気分転換が難しい。そんなときには、話しかけるだけで答えてくれるAlexaのスキルを利用して、仕事に集中したり、手軽にエクササイズしてリフレッシュしたりといったことが大切」とする。

 「Amazon Echo」シリーズも、在宅勤務をサポートするツールになっている。

 現在、アマゾンジャパンでは、50カ国以上の国と地域の社員が一緒に働いている。

 「テレワークによって、日本はもとより、世界中のどこからでも仕事ができるような環境が整った。これは、外国籍の社員や身体障がいを持つ社員にとっても働きやすい環境が整ったことにもつながる。また、介護や子育て中の社員も、それぞれの働き方を通じて、最高の成果をあげられるようになっている。これは、文化や習慣の違い、多様な考え方やライフスタイルを持った社員が働くことにつながり、より高いイノベーションを生み出し、より便利で優れたサービスをお客様に提供していくことにつながる」とする。

 こうした点からも、テレワークを広く活用することで、成長につなげていくというAmazonの姿勢が感じられる。