特集
わが社はこうやってテレワークしています【三井不動産編】
~シェアオフィス「WORK STYLING」を活用。各種ツールで社内外連絡を円滑化
2020年7月13日 09:50
三井不動産は、カメラ搭載のノートPCを全社員が所有する一方、基幹システムのフルクラウド化による伝票や社内稟議書の印鑑レスなどを推進していたこともあって、テレワークを行なえる環境が数年前から整備されていた。2020年4月7日に発令された緊急事態宣言後は、90%以上の社員が在宅勤務に移行。スムーズに業務を継続したという。
また、法人向け多拠点型シェアオフィスである「WORK STYLING(ワークスタイリング)」を展開しており、これらのオフィスを自らも活用。これから迎えるアフターコロナ時代に向けた新たな働き方の準備にも余念がない。
短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の12回目として、三井不動産の取り組みを紹介する。今回の連載のなかで、IT業界以外の企業を取り上げるのははじめてとなる。
わが社はこうやってテレワークしています 記事一覧
2016年からICT環境の整備を開始
1673年に創業した三井越後屋呉服店が、三井グループのルーツとなっており、その後、三井合名会社が設立され、1914年に、三井家の所有する土地、建物を管理する不動産課を設置。1941年には不動産課が独立し、三井不動産が誕生した。
三井不動産では、1950年代に行なった京葉臨海地区の埋立事業や、日本初の超高層ビルディングである霞ヶ関ビルディングの竣工などの大規模事業を展開。
1990年代後半から、日本橋を舞台とする日本橋再生計画をスタートし、2004年には、第1号物件である「COREDO日本橋」が開業。さらには、東京ミッドタウンや柏の葉スマートシティといった街づくりでも多くの実績を持つ。
2017年4月からは、法人向け多拠点型シェアオフィスである「WORK STYLING」のサービスを開始。パートナー企業との共創によって、単なる場の提供にとどまらない高付加価値型シェアオフィスサービスを提供しているのが特徴で、全国50カ所以上の拠点を10分単位で利用可能な法人向け多拠点型シェアオフィス「ワークスタイリングSHARE」、多様化する企業のニーズやさまざまなビジネスシーンに合わせて利用できる法人向けフレキシブルサービスオフィス「ワークスタイリングFLEX」を展開。現在、会員企業数は500社、登録会員数11万人以上となっている。
同社が現在取り組んでいる長期経営方針「VISION 2025」では、「テクノロジを活用し、不動産業そのものをイノベーション」することを全社の重要施策に掲げ、ビルディング事業においては、「その先の、オフィスへ」を理念に、既成のオフィスビルの概念を超えた新たな付加価値を提案。社会的に働き方の多様化が求められているなか、誰もが自分のカラーを活かして働けるように、「COLORFUL WORK PROJECT」をスローガンとした取り組みも開始している。
こうした方針のもと、自らも新たな働き方に積極的に取り組んでいるのが三井不動産の特徴だ。
三井不動産では、2016年度から、「場所に捉われずに働くことができるICT環境の整備」を開始。社員は、Microsoft Surface Pro、Lenovo ThinkPad、Dell Latitude 5590の3機種のなかから、自身の働き方に合わせて、PCを選択することができるようにしたほか、社外からでもインターネットに接続可能なSIMカードの配布や、iPhoneによるテザリング利用環境の整備、VPNによるセキュアな接続といったネットワーク環境も整えていた。
一方で、三井不動産が展開する「WORK STYLING」も、同社社員が利用できるようにしており、設備の観点でも、本社などに出社せずに働くことができる環境も整えていた。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い在宅勤務が広がるなか、三井不動産では、3月下旬から全社員を対象に原則在宅勤務を実施したが、こうしたインフラが整っていたことでスムーズに業務環境を移行することができ、緊急事態宣言の発令後は全社員の90%以上が在宅勤務を行なっていた。
「企画、営業、施設管理、施工管理など、それぞれの担当業務において、テレワークを実施することができ、会議や打ち合わせなどの多くをオンラインで行なっている。オフィスへの出社は、一部の重要書類の押印や、配達物の授受などといった必要な場合にかぎられている」という。
三井不動産が、原則在宅勤務の体制になっても、業務に支障がなく、スムーズに移行できた理由には、PCやネットワークの整備だけでなく、さまざまな観点から、テレワークに向けた準備を進めていた点が見逃せない。
そのなかでも大きな要素の1つが、基幹システムのフルクラウド化によって、伝票や社内稟議書の印鑑レスやペーパーレス化、モバイル化を実現していた点だ。
ここでは、2016年に設置した80人体制の部門横断型の改革プロジェクトチームを中心に、決裁および会計の基幹系システムの全面刷新に向けた検討を開始。
現場の声をもとにして、標準化や効率化の観点から、業務の本質を議論し、業務プロセスの見直しを行なうという手法を採用。従来は部門ごとに個別最適化されていた業務プロセスの標準化と、独立していた受発注システムと会計システムを統合。フルクラウドでシステムを再構築し、運用している。
これにより受発注や会計業務の35%を削減。ペーパーレス、印鑑レス、モバイル連携による、働く場所を選ばないモバイルワーク環境を実現することにも成功した。
2019年8月から、本社機能を東京・日本橋の日本橋室町三井タワーに順次移転を開始。フリーアドレス化したのを機に、個人直通番号制とし、代表電話の取次業務の削減とともに、テレワークをしている担当者にも内線で転送することができるように改善。スマートフォンで利用できる電話帳ツール「連絡取れるくん」により、メールアドレスや電話番号の照会を簡素化し、同時にMicrosoft Teamsにもリンクできるようにした。
【お詫びと訂正】初出時に「本社を東京・日本橋の日本橋室町三井タワーに順次移転」としておりましたが、正しくは「本社機能を東京・日本橋の日本橋室町三井タワーに順次移転」となります。お詫びして訂正させていただきます。
コミュニケーションにTeamsやWebExを活用。即VPN環境も構築
同社では、社内でのコミュニケーションツールにTeamsを活用。社外とのオンライン会議には、おもにWebExを利用している。
「Teamsは、チームチャネルでやりとりする場合と、チャットでやりとりする場合の2種類がある。プロジェクト単位の場合にはチームチャネル、それ以外のやりとりはチャットの場合が多い。資料の同時編集や、SharePointとの連動による大容量ファイル共有も便利である。また、オンライン会議ツールを導入して以降、コミュニケーションスピードの向上や、対面会議減少による移動時間の減少、働く場所の制約からの解放などの効果が得られている」という。
さらに同社では、会議時の議事録はOne Noteを利用。予定の共有や会議招集、社外とのコミュニケーションにはOutlookを使用しており、TeamsやWebExと連携させることで、オンライン会議参加用のリンクを簡単に貼りつけることができたり、Outlookの予定表から会議に参加できるようにしている。
「場所に捉われない働き方の推進のため、社員には、どの会議にもオンライン会議リンクを貼ることを推奨している。社員は、自分の打ち合わせや作業予定などをOutlookに登録しておき、Outlookの空き時間を見て、打ち合わせや会議の招集を行なっている」という。また、「プライベートな予定は非公開設定にできるため、スケジュール管理が行ないやすい。社員が紙の手帳を使わなくなっている」という変化も生まれている。
同社では、これらのコミュニケーションツールの利用を浸透させるため、導入前や導入後に全社員に研修を実施。管理職にもツールを活用するメリットを理解してもらうことで、トップダウンで利用を促進する。さらに、新本社内にサポートデスクを設置して、ICTツール全般の利用方法に関して、気軽に対面で問い合わせできるようにしたことも利用促進につながった。
営業管理や案件進捗管理ツールにはSalesforceを使用。「事業領域が、オフィスビル、商業施設、ホテル、物流施設などと多岐にわたるが、営業ツールはSalesforceで統一している。一部部署では、社内での案件管理の上長報告ツールとしてもSalesforceを利用しており、上長はダッシュボード機能で各案件の進捗を一覧で閲覧できるようになっている」という。
その一方で、同社では、原則在宅勤務を開始してからも、ネットワーク環境やIT環境に積極的な投資を行なっている。
たとえば、全社員が一斉に在宅勤務をすることになったことで、VPNのキャパシティ不足が発生。これに対応するため、VPNのキャパシティ拡張に加えて、既存VPNの冗長構成を解除して、シングル構成で解放。新規のVPNも導入することで、3つのVPNシステムを割り振り、キャパシティ不足を解消した。
「新規のVPNは、2日間で環境を用意。同時に既存のVPNも拡張した。さらに万全を期すべく、2週間後には冗長構成を解除し、シングルで利用するかたちにした。スピード感を持ってVPNを強化したことで、社員が安定したネットワーク環境で業務を継続することができた」という。
さらに、PCを使ったオンライン会議の品質に問題が生じている社員が多く存在していることがわかったことから、この原因を追求。VPNを経由させることが一番のボトルネックになっていることが判明したため、スプリットトンネリング方式により、オンライン会議のトラフィックの多くを占めているUDP通信(音声および画像)をインターネット経由に変更。
これにより、オンライン会議時の音声や画像の品質を向上させることができた。「現在では、PCによるオンライン会議が問題なく利用できている」という。
そのほか、700台のWi-Fiルーターを調達。自宅のインターネット環境が整備されていない社員に郵送したり、決算業務用には社員の自宅に新たにプリンタ配備したり、経理部専用の回線敷設といった特別対応も行なった。
「オンライン会議の開催補助を中心としたサポートチームを編成し、支援を行なったことで、決算説明会や経営会議なども、スムーズにリモートが開催できた。経営陣にもリモートでの会議の開催や各種ツールの利用が浸透している」という。
withコロナにおいてテレワークでの業務効率改善や生産性向上を図る
だが、在宅勤務の課題も見えてきた。
「3月下旬に緊急措置として在宅勤務に移行しても、大きな混乱はなく、在宅でも業務ができている社員が多かった」としながらも、「急激にテレワークに移行したことで、仕事をするための自宅内の什器や設備が追いついていなかったり、子育てとの両立により、自分のペースで仕事ができていなかったりという社員もいた」とする。
家庭内での仕事を行なう環境の支援も重要な要素になっている。
また、「社員ひとりひとりにあったマネジメントやケアの方法、コミュニケーションの方法を今後確立していく必要がある」との声も上がる。
始業時や終業時などに、社員と上長とのコミュニケーションの機会を設けており、こうした場を通じて社員をサポートするといったことも考えているようだ。
三井不動産では、DX本部を中心に、引き続き、働き方改革や事業変革に取り組む姿勢を見せる。
「withコロナの状況下において、働き方改革や事業変革への取り組みは、これまで以上に加速すると考えている。働き方改革では、当初は、場所に捉われない働き方の実現のために導入したITインフラが、在宅期間での利用を通じて、一気に習熟が進んだという成果が生まれている。今後は、さらなる業務効率化や生産性の向上に向けて、ツールを前倒しで導入するといったことにも取り組みたい」とする。
また、事業変革という観点では、アフターコロナの新たな社会におけるサービスのあり方を、中長期的に模索する考えだという。「個人のお客様や、テナント企業など、さまざまなステークホルダーの価値観の変容、多様化に対応すべく、商品企画や顧客体験の再設計し、当社が標榜している『リアルエステート・アズ・ア・サービス』をスピード感もって提供していきたい」とする。
自ら積極的にテレワークを実践して、事業変革や働き方改革に挑み、その成果を事業に反映させることが、同社の成長につながる。その好循環とも言えるサイクルが現実のものになっている。