特集

わが社はこうやってテレワークしています【パナソニック編】

~社内コミュケーションにTeamsや“しごとコンパス”を活用

レットノートがパナソニックのe-Workを支えている

 経団連の調査によると、緊急事態宣言発令後にテレワークや在宅勤務を導入した企業は97.8%に達し、大手企業でのテレワーク導入が進んでいることが浮き彫りになった。一方、東京商工リサーチの調査によると、資本金1億円以上の企業における在宅勤務実施率は48.08%であるのに対して、資本金1億円未満の企業では20.95%に留まっている。中堅中小企業のテレワークの遅れが指摘される一方で、大企業でのテレワーク導入が進んでいるが、大企業にも大企業ならではの苦労がある。

 全世界にグループ全体で約27万人もの従業員数を誇るパナソニックは、多岐にわたる職種と、国内外に拠点が広がるなかで、全従業員を対象としたテレワークに取り組み、厳しい環境下におけるビジネスの継続に取り組んでいる。短期集中連載の第5回目として、パナソニックのテレワークへの取り組みを追った。

2006年からテレワークを試行

 パナソニックは、「e-Work」の名称でテレワークに取り組んできた。e-Workの仕組みを導入したのは、いまから14年前に遡る。

 2006年1月に、全社e-Work推進室を設置。それから1年間の在宅勤務制度の試行運用を経て、2007年春から本格的に運用を開始。一部組織では、在宅勤務にとどまらず、営業職などを対象に、出社を義務づけない「モバイル勤務制度」の導入や、出張先の事業所などで一時的に業務が行なえる「スポットオフィス」の活用などにも取り組んできた。

 従業員は、国内モバイルノートPC市場において、15年連続で国内ナンバーワンシェアを誇るパナソニックのレッツノートを活用。軽量化と堅牢性、長時間バッテリ駆動を実現したデバイスの強みを活かしたe-Workを行なってきた。

 e-Workの導入後、従業員からは、「移動時間が削減できた」、「お客様への対応が早くなった」といった声があがり、同社の新たな働き方の1つとして浸透していった。

 また、離れた拠点を結んだ社内のビデオ会議には、同社のビデオ会議システム「HDコム」を利用することも多く、高画質と高音質を実現した点が重宝されてきた。HDコムは、24地点までの接続を可能とし、インターネット帯域が変動しても映像や音声が乱れないAV-QoS技術を活用することで、安定した接続を可能としているのが特徴だ。

 実際、このシステムは、社長会見や株主総会の中継などにも長年利用されているほど、高い信頼性を持つ。

 多くの拠点を持つパナソニックにとっては、当初は移動を削減する省エネ化や、災害対策などのBCPを目的としたメリットが大きかったが、ここ数年は現場の声を反映したり、場所に限定されない働き方改革といった用途で利用されているという。2019年11月には、Skype for BusinessやMicrosoft Teams、Zoomとの接続も可能にすることを発表している。

 現在、従業員にはノートPCのレッツノートあるいはタブレットのタフブック、そしてiPhoneを貸与している。これらは、持ち出し申請を行なうことで、外出先や自宅などからのe-Workに利用できるようになっている。

 レッツノートの機種は限定されていないが、基本的にはそれぞれの導入時に用意された機種のなかから選択ができる。また、開発やデザイン部門などでは必要に応じて、他社製のデスクトップPCを使うことも可能だ。オンライン会議などが行ないやすいように、ヘッドセットは多くの部門で会社側から支給した経緯がある。

 こうした準備が整っていたため、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う今回の在宅勤務の開始にあわせて、新規に導入したものはないという。

 同社では、新型コロナウイルスの感染拡大にあわせて、3月11日に3月15日までの期間を「在宅勤務を推奨する」としたのに続き、これを3月13日には、3月29日まで延長。さらに、3月27日の時点で、4月12日まで延長した。この段階でかなり多くの社員が在宅勤務を行なっていたという。

 しかし、4月7日の緊急事態宣言を受けて、「原則在宅勤務」へと移行。5月6日まで実施する予定だ。

 「従来から、在宅勤務規定や関連ガイドラインを整備し、制度化していたため、それに則り、新型コロナウイルス対策としても幅広く従業員に活用を促している」という。

Microsoft Teamsでコミュニケーション

 テレワークに使用しているツールは、会議などのコミュニケーションについては、Skype for BusinessとMicrosoft Teamsが中心だ。

Teamsを使用して在宅からコミュニケーションを取っている

 たとえば、広報部門では、在宅勤務を開始して以降、毎朝業務報告の簡単なミーティングをTeamsで行なっているほか、毎週金曜日には、大阪・門真の本社広報部門と、東京・汐留のパナソニック東京汐留ビルに本拠を持つ東京の広報部門の従業員全員が、自宅からTeamsで会議を行ない、業務の進捗確認や情報共有などを行なっている。

 また、パナソニックには、アプライアンス社、ライフソリューションズ社、コネクティッドソリューションズ社、オートモーティブ社、インダストリアルソリューションズ社、中国・北東アジア社、US社の7つのカンパニーがあるが、これらのカンパニーとの会議も、Teamsで行なうことが増えているという。

 「日頃からe-Workを実行していたため、パフォーマンスを落とすことなく仕事ができている。集中したいときに周りの環境を気にせず集中できる点も、e-Workのメリット」だとする。

 Teamsの導入によって、チャットの利用も促進されているようだ。

 「メールでは、冒頭に、『○○様』、『お疲れさまです』、『よろしくお願いします』と記載をする慣習があるが、チャットではそれらが不要であるため、それもSkypeやTeamsの活用が進んでいる理由の1つ」という。

 すでにTeamsを利用している部門では、Teamsが中心となっているようだが、すべての部門には導入されていないため、未導入部門とのコミュニケーションの場合には、全社規模で導入が完了しているSkypeを使うことになるという。

 しかし、パナソニック全体でTeamsの導入が促進されはじめている段階であり、先行して導入した従業員数27,000人を擁するコネクティッドソリューションズ社に続き、約6万人の従業員数を誇るライフソリューションズ社でも今回の新型コロナウイルスへの対策にあわせて、Teamsを一斉導入した。

 「新型コロナウイルス感染症の影響は長期化するなかで、部門内や部門間のコミュニケーションの機会が減少する傾向があるのは確かだ。その対策のために、Teams会議では、常時接続ルームを設定しておくことを検討している部署もある」という。

 このように、Teamsの活用については、部門ごとに工夫を凝らしているようだ。

 一方、VPNにはWARPを利用。自宅などからアクセスのさいには、社員番号とパスワードによる本人認証を行なったのち、通信ソフトによる暗号化が行なわれ、さらに端末のセキュリティチェックによってウイルス対策を実施。イントラネットへの安全なアクセスを確保している。

 なお、勤務の始業、終業の管理は、部署によって異なるが、一般的には、Teamsなどで勤務開始および終了の連絡を上司に入れることが多いという。

 在宅勤務の管理において、一部部署で導入しているのが「しごとコンパス」だ。

 「しごとコンパス」は、パナソニックのコネクティッドソリューションズ社が開発したクラウドサービスで、PCの操作ログから「働き方」を見える化できるのが特徴だ。

しごとコンパスの操作状況の画面。集中度合いなどもわかる

 具体的には、キーボードやマウスの操作状況から、業務時間や業務内容などの働き方を見える化。操作頻度を4種類の濃度に分類して表示することで、在宅勤務中でも、働いていた時間や集中していた時間などを知ることができる。

 「見える化によって、柔軟な勤務体制での適正な時間の把握や、個人の時間の使い方の気づきにつながっている。上司は、部下のPCの使用時間、アプリの使用時間がわかるため、それをもとに、業務が詰まっているメンバーや残業が続いているメンバーには、こまめにTeamsで声がけを行ない、積極的なコミュニケーションを図るといったことが可能になっている」という。管理のために利用するというよりも、緊密なコミュニケーションを行なうためのツールとして活用していると言えよう。

大阪・門真のパナソニック本社

テレワークでの課題

 その一方で、これだけ多くの従業員が一斉にテレワークを開始したことで、いくつかの課題も発生しているようだ。

 たとえば、職種と拠点が多岐にわたるため、すべての従業員のテレワーク対応が難しいというのが現実だ。工場現場などでは、完全に生産ラインを止めることはできないため、どうしても出社しなければがならない状況が発生する。

 「ハードウェアの設計者や工場勤務者のように、家での業務が不可能な従業員は、現場ごとにリスクを最大限下げる努力をしながら通勤や勤務を行なっている」という。

 また、多くの大手企業がVPNの接続数の制限などに苦慮しているように、パナソニックでもその点は課題になっているようだ。一斉に在宅勤務がはじまったことで、リモートでつながりにくい状況が発生しているからだ。同社では、それを解決するために、すでにVPNの帯域拡大に乗り出しているほか、インターネット接続方式も取り入れることで解決を図っている。

 一方で、こんな声もある。「従来は雑談時にアイデアが浮かんでいたこともあり、在宅勤務では、従業員同士の会話が減り、ひらめきの機会が減少しているかもしれない。また、自宅で勤務している今回のような場合、家に子どもが一緒にいるために仕事がしにくいといった、環境面での課題があがっている」という。

 現場では、こうしたことを解決するための取り組みとして、就業時間後にはオンライン飲み会を実施することもあるそうだ。

 ここでは、各家庭の子供が登場したり、趣味のピアノ演奏を披露したりといったこともあり、子供が一緒にいる環境を、むしろ活用することで、これまでとは異なるコミュニケーションを実現。「これが、おたがいをよりよく知る機会ともなっている」という。在宅勤務だからこそ実現する新たな社員間コミュニケーションとも言える。

 今回の経験を経て、パナソニックでは、在宅勤務をより効果的に活用するという考えもあるようだ。

 「時代に先駆けてe-Workを推進してきたパナソニックとしては、当社がトップスポンサーを務める東京オリンピック/パラリンピックの機会でも、e-Workを活用できるように、遠隔で対応できる勤務体制を、より強固にしていきたいと考えている」とする。

 2021年への延期が決定した東京オリンピック/パラリンピック開催時におけるパナソニックのe-Workへの取り組みは、当初想定していたものよりも、より深いものとなりそうだ。今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴って実施したe-Workの経験が、東京オリンピック/パラリンピック開催時のe-Work、そして日常のe-Workにどう活かされるかが楽しみだ。