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わが社はこうやってテレワークしています【NEC編】

~1984年からテレワークの本格導入に取り組んだNECの今

モバイルノートPC「VersaProシリーズ」などを社員に貸与(NEC本社のBASEにて)

 NECがテレワークを開始したのは、いまから36年前だ。東京・吉祥寺にサテライトオフィスを設け、研究職を対象にスタート。国内におけるテレワーク導入の草分け的存在とも言える。新型コロナウイルス感染拡大においても、定期的に全社一斉でテレワークを実践してきた成果を活かし、緊急事態宣言が発令されたタイミングでは8割以上の社員が日常的にテレワークを実践していたという。

 また、2020年4月に入社した500人の新入社員を対象にした約1カ月間の研修をオンラインで実施。新たな時代における新入社員教育にも取り組んでいる。短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の13回目として、NECの取り組みを紹介する。

NECがテレワークの先駆け

 総務省が2010年にまとめた「テレワークの動向と生産性に関する調査研究報告書」では、NECが、テレワークに取り組んだ事例が紹介されている。

 この報告書で、1984年からスタートしたとされる日本のテレワーク黎明期において、「もっとも本格的にテレワークの導入に取り組んだ企業」と位置づけられているのがNECだ。1984年~1990年にかけて、東京・吉祥寺にサテライトオフィスを設置。当時としてはかなりめずらしかった、社員1人1台のPC環境を実現。その点でも、先進的なオフィスであったと言える。

 また、このサテライトオフィスは、当時の電電公社(現NTT)が、三鷹市周辺で展開していた「INS実験」の1つにも含まれ、のちのISDNの普及につながる新たなデジタル総合通信ネットワークの可能性を探る実験的な役割も果たしていたようだ。

 開発部門に在籍するプログラマーなどの女性社員が、結婚や出産を機に退職してしまうことを考慮。その能力を活かすために、都心への通勤負担を軽減し、比較的通勤しやすい吉祥寺にオフィスを設け、都心部のオフィスと同様の業務環境を実現。「当初は、集中作業によって生産性向上を期待できる研究職のみを対象として実施していた」(同社)という。

 さらに、NECでは、2000年前後に、「フレオ」と呼ぶサテライトオフィスを各地に開設したほか、「ビジネスセンター」の名称で立ち寄り型オフィスも開設。モバイルワークを支援する体制を構築していた時期もあった。社員が自宅に近いサテライトオフィスを利用したり、外勤営業担当者や出張者が立ち寄りオフィスを利用したりすることで、都心のオフィスに出勤しなくても仕事を進めることができるようにしていた。

 NECでは、ネットワークやデバイスの進化にあわせて、在宅勤務やテレワークの手法を継続して検討してきたが、時代の変化もあり、その後は、育児や介護といった、在宅勤務をしなければ業務を継続できない社員を対象に、テレワークを実施してきた。

2017年に見直しで全社一斉にテレワーク

 同社が再び、テレワークの本格導入に大きく舵を切りはじめたのは2017年のことだ。

 国内における働き方改革への関心が高まりはじめたことが後押しとなって、対象者を限定しないテレワーク制度を導入。まずは、事前に申請した3000人の社員によるトライアルを実施し、この結果を受けて、2017年10月にテレワークのガイドラインを策定するとともに、2018年4月には、育児や介護という用途の限定や実施回数の制限を撤廃した。

 さらに、全社員がテレワークでも快適に業務を行なえるように、社内ITインフラの強化や改善を行ない、2017年から3年間にわたって、総務省主導の「テレワーク・デイ」に参加。全社一斉でのテレワークを実践してきた。

 新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の2020年2月に行なったNEC独自の「テレワーク・デイ」では、8割の社員が参加して、テレワークを行なったという。

 NECでは、2020年7月に開催が予定されていた東京オリンピックおよびパラリンピックの期間中、それぞれ1週間連続で全社員がテレワークを実施することを予定しており、それに向けて、万全の準備を整えていたところだった。

 こうした経緯もあり、3月以降は、新型コロナウイルスの感染防止対策としてテレワークを行なう社員が増加。4月7日に緊急事態宣言が発令されたときには、8割以上の社員が日常的にテレワークを実践していたという。

 同社では、重量が1kgを切るモバイルノートPC「VersaProシリーズ」などを社員に貸与。Office 365のほか、ZoomやBoxなどのITツールも整備。顧客側からの希望があればWebExやGoogle Hangout、Google Meetなどを使用しているほか、コミュニケーションツールにSlackを利用する場合もあるという。

 さらに、プロジェクト管理には、RedmineやBacklogを活用している。そして、WorkspaceONEによって、強固なセキュリティ環境を実現しながら、スマートデバイスの管理と制御、統合ワークスペースの実現にもつなげているという。

 同社では、「緊急事態宣言発令以降のテレワークにおいて、社員向けに新たに準備したものはなかった」とし、「お客様ごとに、セキュリティ面を重視したり、音質を重視したりといったように、コミュニケーションツールにおいて重要視する機能が異なり、使用するツールも多岐にわたる。NECの社員は、日頃からITツールに対するリテラシーを高め、お客様やプロジェクトに応じて最適なものを選び、使いこなせるように心がけている」という。

 また、同社では、NEC独自の「ThinclST/Mobile」を採用して、外部ネットワークからもイントラネットにセキュアにアクセスできる環境を実現。その上で、テレワークの急増に対応するかたちでネットワーク回線を増強してきたという。

「ThinclST/Mobile」を採用して、外部ネットワークからもイントラネットにセキュアにアクセスできる環境を実現

新人教育もテレワークを活用

 NECのテレワークへの取り組みのなかで特筆されるのが、新入社員に対する教育やコミュニケーションにも、テレワークの仕組みを徹底的に活用した点だ。

 2020年4月に入社した新入社員は約500人。入社後、すぐにモバイルノートPCとスマートフォンを支給し、これらを使って、約1カ月間の研修をすべてオンラインで実施した。自宅でのネットワーク環境については、スマートフォンのテザリング機能も利用できるようにしたという。

 新入社員の1人は、「他社に就職した友人からは、緊急事態宣言下でも毎日出社していたり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で研修が遅れていたりといった話を聞いたが、NECでは、不安のなかで出社しなければならないという状況にはならなかった。オンラインでの研修などは、他社に比べても、対応が早いと感じた」と語ってくれた。

在宅勤務を行なう新入社員の様子

 この新入社員の場合、営業職として配属され、5月中は配属部門でも研修を実施。約2カ月の研修期間となったが、「1日中、動画コンテンツを視聴することもあり、ひどく目が疲れてしまう日があったり、ワークショップでは見えない相手と探り合いながら議論をするため、場を盛り上げるのに苦労したりと、リモートならではの苦労もあった」と語るほか、「また、研修後に雑談をしたり、飲み会をしたりということがないので、以前から交流のある同期以外と関係を作るのは難しく、残念に思うところがある」とも吐露する。

 会社側では、こうした新入社員の状況を捉えた対応にも取り組んだ。

 「長期間のリモート研修になったため、新たな社会人生活に不安を感じる新入社員もいただろう。4月下旬には、先輩社員がオンライン懇談会を開催したり、新入社員同士がリモートで連携して、先輩社員に向けたメッセージ動画を制作したりといったことも行なった」という。

 新入社員からも、「オンライン歓迎会は、不思議な感じではあったが、どのような人たちと一緒に働くことができるのかを知ることができたのは良かった」という声があがる。

 出社できない環境のなかで、オンラインによって、解決する取り組みがさまざまなかたちで進められてきたというわけだ。

今後もオンラインを活用

 一方で、新入社員に対する研修を開始する直前で、オンラインによる新入社員教育が決定したため、会社側では、集合プログラムからの移行や環境の準備のために多くの苦労が伴ったようだ。

 たとえば、在宅での受講に向けたIT機器のセットアップや、機材を使う予定の研修を、どう効果的にオンラインに置き換えるかといった点での工夫が必要だったという。

 「技術系研修では、新入社員が持つPCに、対象となるソフトウェアを事前にインストールする必要があり、その検証にも苦労した。また、配信やインストラクションといった観点から、講師側が、オンライン検証のための技術やスキルを、いかに高めるかといった点でも苦労した」という。

 だが、オンラインを活用した成果も生まれている。

 研修中の新入社員からタイムリーな意見が発信されるようになり、それを共有したり、集約したりといったことを効率的に実施できたことはメリットの1つだ。また、配属先の先輩社員が、新入社員の研修成果発表会にも参加できたのも、オンラインならではの効果の1つ。「配属される職場からの指摘や感想は、新人にとっても有意義であり、先輩、上司も新入社員のことを知る良い機会になった」という。

 「これまではオンライン研修のメリットを知りながらも、あまり浸透していなかったが、 新人研修で多くの成功実績ができ、今後、仕組みや内容を一気に進化させるための地盤ができた」とする一方、「デジタルネイティブ世代に対しては、対面よりも、意見交換や質問がしやすい雰囲気が生まれたと感じている。オンライン上でグループ研修を行ない、メンバー同士で協力して成果をつくりあげることも行なったが、これは、現在のグローバルな社会状況にあった業務の疑似体験になったとも言える」とも語る。

 NECでは、来年(2021年)度の新入社員研修にも、オンラインを活用する予定だという。

ツールの利用やメンテナンスを徹底

 6月から実際に仕事をする各課に配属されて以降は、会社への出社は原則として週1回としており、それ以外の日はテレワークで業務を行ない、議事録や資料の作成、リモートで会議に同席して、業務や顧客を知るといったことを行なっている。

 また、夕方に30分程度、業務の進捗確認を指導担当の先輩社員と行ない、対面のほうがスムーズに進む内容については、出社日にまとめて指導を受けるかたちにしている。

 新入社員はTeamsを使って、日報をあげ、業務の進捗や翌日の計画を報告する一方で、疑問に思ったことや、「もっとこうしたらいいのに」と思うことなどを、こまめに記入してもらっているという。

Microsoft Teamsを活用して在宅勤務。自宅で作業しやすい環境を整えている

 Outlookの予定表のメンテナンスも徹底している。「社内の日程調整は、予定表を見て、空いている時間をもとに設定するという手法が基本になっている。このやり方を、新入社員の頃から習慣づける狙いがある」という。最近では、Plannerを利用したアクションアイテムの管理を開始し、週1回、チーム全員が集まるミーティングで、アクションアイテムを確認して割り当てを行ない、各アイテムの進捗を管理しているという。

 新入社員を指導する社員からは、「対面であれば、すき間時間を使って聞けるようなことも、なかなか聞くことができない。そこを、日報を利用して、少しでも補うことができればと思っている。また、Plannerによる管理においても、どんなやり方が最適なのかは、まだ手探りのところがあり、改善をしていきたい。新人ならではの視点は、会社生活に慣れてしまっている社員には新鮮なものも多い。リモートであっても、それを活かせるようにしたい」と語る。

オンラインならではの課題も見えてきた

 一方で、新入社員にとっては、6月になって、同じ職場に配属された数名の同期社員と、直接、顔を合わせることができるようになったことがうれしいようだ。

 現在も週1回の出社だが、本社地下1階にある無人店舗「NEC SMART STORE」を見学したりといったように、リアルの現場での研修も開始。何度か顔を合わせることで、先輩社員の顔と名前を覚えたりといった日常的なこともはじまっている。

NEC本社にある「NEC SMART STORE」

 ただ、テレワークから社会人生活がはじまった新入社員には戸惑いもある。

 「テレワークのほうが、オフィスにいるときよりも集中でき、時間にも余裕ができるので良かった」とする意見がある一方で、「先輩社員がどのように働いているかを目にすることができる機会が少ないため、自分がどのくらい上司の期待に応えられているか、不安に思うことがある。また、わからないことがあっても、在宅勤務中に、とつぜん、先輩に電話することを躊躇してしまう。わからないことがあってもすぐに聞くことができないのは悩ましい」とする。

 一方で、「お客様を訪問する機会が少なく、研修で覚えた名刺交換は、なかなか実践する日が来ないままでいる」と、「名刺デビュー」の日を待ちわびる声もあがる。

 先輩社員もその点は苦慮しているようだ。

 「上司と部下という上下関係でのコミュニケーションは定期的にとるようにしているが、課題に思うのは、横や斜めのつながり。対面であれば、移動時間やフロアで顔を合わせたときなどに、自然と発生していた年次の近い先輩や、隣のチームのマネージャーやメンバーとの会話が、リモートではなかなか発生しづらい。すでに人間関係が構築されている状態からテレワークに移行しているメンバー同士ならば、コミュニケーションが取りやすいが、新入社員には関係構築ができていない。そこが心配だ」とする。

 また、こんな声もあがる。「先輩社員1人での指導では、できることや時間がかぎられる。社会人生活のなかでは、周囲のメンバーから学ぶことや教えてもらうことが多い。新入社員が、周囲との接点を増やすためにはどうするかということを考えたい」とする。

 オンラインならではのメリットを活かす一方で、オンラインが生み出す課題をどう解決していくのかということは、NECのみならず、多くの企業において、当面の課題になる。試行錯誤を繰り返しながら、テレワークの効果を最大限に引き出そうとしている。