特集
わが社はこうやってテレワークしています【富士通クライアントコンピューティング編】
~社員の6割が軽量モバイルノート活用。止められないPC生産ラインは入念な対策
2020年5月22日 06:00
テレワークの広がりに伴い、ノートPCの需要が増大している。富士通クライアントコンピューティング(FCCL)では、世界最軽量の698gを実現したUH-XをはじめとするUHシリーズや、家のなかでマルチに使えるモバイルノートPCとして開発した、360度回転のコンバーチブルPC「MHシリーズ」、リビング利用に適したA4サイズノートPC「AHシリーズ」などの販売が好調である。
また、「在宅勤務で壊れてしまうと仕事ができなくなってしまうため、とにかく壊れないPCが欲しいという声が多く、島根富士通で生産しているFCCLのPCをテレワーク向けに導入したという声も聞かれる」(FCCLの齋藤邦彰社長)というように、同社のPCに対するニーズが高まっていることを示す。FCCLも自らテレワークを積極的に実践しており、その成果を次期製品やサービスなどに反映する姿勢をみせる。
短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の第8回目は、FCCLのテレワークへの取り組みを紹介する。ここで得られた経験が、今後の製品やサービスにどんな形で反映されるのかが楽しみだ。
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オフィス移転後にテレワークを活用。軽量モバイルノートを6割の社員が利用
FCCLが、テレワークを積極的に活用しはじめたのは、2019年2月に、東京・田町に、東京オフィスを移転してからだ。
それまでは、本社機能や開発部門などは富士通グループの敷地内にあったが、2018年5月に、レノボグループが51%、富士通が44%を出資する体制になったこともあり、新たなオフィスへの移転を開始。初めて開設したのが、東京オフィスであり、それにあわせて、FCCL自らの働き方改革が本格化したといえる。
FCCLの齋藤邦彰社長は、「働き方改革の切り口からビジネスを行ない、提案をする立場にあるFCCLが、自ら実践する場として、さまざまな工夫を取り入れたのが東京オフィス。ビジネスの成長につなげることができるオフィスを目指した」と位置づけ、同社初となるフリーアドレス制を採用などとともに、テレワーク制度を本格化させた。
同社では、2019年9月に、R&Dセンターを神奈川県武蔵中原に移転、同年11月には本社を神奈川県新川崎に移転し、いずれも新たなオフィス環境となったが、ここでも東京オフィスと同様の考え方を踏襲。自らが働き方改革を実践する場とし、テレワークを推奨。各部署でのテレワーク体制の整備にも取り組んできた。
新型コロナウイルスの影響によって、2020年2月末からは、時差出勤やテレワークを推奨。3月27日から、首都圏の事業所においては原則在宅勤務を実施している。だが、実験を伴う作業を行なうため、専用設備が必要な開発部門については、どうしてもR&Dセンターへの出社が必要になるため、バイクや自転車での通勤を認めたり、近くのホテルを借りあげて、社員の健康や安全に配慮したかたちで業務を行なえる体制も整えている。「通勤による他者との接触や、感染リスクを極力減らせるように努めている」という。
もともと、外出が多かったり、拠点を結んだ打ち合わせを行なうことが多い社員には、モバイルノートPCやモバイルルーターを貸与していたこと、社内ネットワークにアクセスするためのVPN回線も用意していたことで、一斉に在宅勤務を開始することになっても支障はなかったという。
社員が利用しているPCは、FCCLの軽量モバイルノートPC「U」シリーズが多く、約6割の社員が利用しているという。社内でも外出先でも利用しやすいように、性能とモビリティのバランスが取れたPCとしてこれを推奨。社内セキュリティの観点から法人向けモデルを利用している。世界最軽量の698gを実現したUH-Xは、個人向けモデルであるため、基本的には利用していないが、「顧客への製品訴求などの観点から、一部の役員が利用している」という。
また、開発部門などでは、デスクトップPCを利用している内勤者もいたが、この場合にも、ノートPCを新たに貸与したほか、自宅にインターネット回線を有していない社員向けにはモバイルルーターを準備したという。
電子ペーパー端末も活用
さらに、同社の電子ペーパー「QUADERNO(クアデルノ)」の利用が多いのも同社ならではの特徴だ。
「クアデルノは印刷が不要で、ドキュメントに手書きが行なえるため、家庭にプリンタがないという場合でも、業務に活用でき、情報を共有できる。手書きのスケジュール帳、メモやノート、PDFビューワー機能を有しており、スペースが限られる家庭内のデスク周りでも場所を取らず、すっきりとさせた状態でテレワークに活用できる」という。
在宅では、限られたデスクスペースで作業を行なわなくてはならないという人も多い。片手で持っても負担にならずにメモが取れるクアデルノは、在宅でのテレワークを支える隠れた便利ツールの1つといえそうだ。
業務や日常連絡に利用しているおもなツールは、「Outlook」や「Skype for Business」、「Microsoft Teams」だ。
OutlookのスケジュールやSkypeの在籍表示機能に勤務時間を登録したり、出社する必要がある社員は、出社予定を登録することで、業務の状況を社員同士が相互に把握できるようになっている。
また、Skypeのチャット機能は、新型コロナウイルス感染拡大前から頻繁に利用しており、相手の在席状況がリアルタイムに判別できること、メールよりもスピーディーにコミュニケーションがとれることから、多くの社員が日常的に利用。現在も、在宅勤務での連絡ツールとして有効に機能しているという。
また、首都圏での原則在宅勤務が適用されて以降、オンライン会議の頻度が急速に増加。取引先や社外のメンバーを交えたオンライン会議が手軽にできるツールとして、Microsoft Teamsの利用が広がっているという。
生産ラインを止めずに対策を徹底
一方、FCCLのPCは、島根県出雲市の島根富士通で生産されているが、テレワーク需要を背景に、ノートPCの生産体制を維持することが求められており、現在でも、継続的に稼働している状況だ。だが、生産ラインなどにおいては、新型コロナウイルス感染防止対策が徹底されている。
たとえば、全社員がマスクを着用し、ドアノブなど多くの人が触れる場所には工場内で生成したアルカリイオン電解水を使用して定期的な消毒を実施。生産ラインでは、作業者同士の間は1.8m離れており、ソーシャルディスタンスを確保しているという。
そのほか、本社や開発部門からの出張は原則行なわないことや、工場への見学などの受入れは中止したり、昼食は2シフトだったものを3シフトへ変更して、1シフトあたりの人数を減らして対面着座を禁止。1方向に着席するかたちにしているという。
さらに、島根富士通においても間接部門の約20%の社員を対象に在宅勤務を実施。生産現場と直結している生産技術部門をはじめとしたエンジニアスタッフも、グループ内でローテーションを行ない、在宅勤務を実施。工場内での勤務エリアは、事務所だけでなく、会議室も開放し、定期的な換気を行なうことで、3密を避ける環境を実現しているという。
また、FCCLは、制度面でも新たな支援策を実施した。
緊急事態宣言を受けて、全社員を対象に特別休暇制度を新設。年次休暇や積立休暇とは別に、10日の特別休暇(賃金100%補償)が取得できる。
在宅勤務が増えることに起因した社員の心身の健康面への配慮、学校や保育園の休校、休園、介護施設の閉鎖などに伴う勤務困難者などへのサポートを目的とした制度であり、6月30日まで実施している。
ネットワークの負荷など新たな課題も
テレワークへの移行はスムーズだったという同社だが、それでもいくつかの課題が生まれているという。
1つは、ネットワークの負荷だ。
「月曜日の朝一番など、アクセスが集中する時間帯はネットワークに負荷がかかり、つながりにくくなる状況が発生することもある」という。現在、社員が自主的に、時間をずらしてネッワークにアクセスするなど、快適に業務が行なえるように現場レベルで工夫を行なっているという。
また、原則在宅では、社員同士の直接のコミュニケーションがなくなるため、それを補完する取り組みにも力を注いでいる。
「週次の定例会に加えて、始業時の朝会や、終業時の夕会をリモートで行ない、業務の抜け漏れを減らし、些細な業務の悩みや相談も、チーム間でシェアできる環境づくりを行なっている部門もある」という。
さらに、2019年11月の本社移転時に新設した「TechPit(テックピット)」を活用して、家庭におけるテレワークの実践における悩みや課題の解決に役立てている点も特徴だ。
Tech Pitは、OSC(Office Service Center)と並列のオフィスサービスとして本社内に設置。社員のPCが壊れたり、操作方法がわからないといった場合に、PCを持ち込んで、サポートしてもらうことができる場所だ。こうしたサポート窓口は、事前に予約をして、順番を待って対応してもらう仕組みが一般的だが、Tech Pitでは、背の高いカウンターとカウンタースツールを用意。担当者もつねに立ったまま作業をしている。そのため、社員が気軽に訪れて、気軽に話したり、相談できる環境を実現しているのが特徴だ。
もともとオンラインでもサービスを行なったり、情報提供をしていたが、一斉在宅勤務がはじまっても、その仕組みを応用。気軽に相談できるというイメージが定着していたこともあって、初めてテレワークに取り組む社員の環境構築や各種設定、VPN利用のサポートなどに関して相談できる窓口として、大きな貢献を果たしたという。
「在宅勤務を行なう社員が、システムやネットワークに関して、問い合わせができるよろず相談所があることが、社員の安心につながっている」という。
同社によると、Tech Pit への問い合わせ件数は、3月が約260件、4月および5月は、それぞれ約200件となっており、90%以上がオンラインでの対応になっているという。
「3月は、もしもロックダウンしたときにはどう対応したらいいのかといった質問が多く、4月に入ると、テレワーク環境での接続トラブルやシステム利用についての質問が増えた。5月には、オフィスに行けないことで適用できないセキュリティパッチや、パスワードの有効期限が来たことへの対応といった質問が多い」というように、在宅勤務が長期化することで質問内容も変化しているようだ。
Tech Pitは、担当者が交代制で本社に常駐しており、在宅で利用中のPCが壊れたといった緊急時にも対応してくれる点は、在宅テレワークの実施において、社員の大きな安心につながっているようだ。
緊急事態宣言解除後もインフラ活用へ
では、今後、テレワークの取り組みをどう進化させていくのか。
同社では、「緊急事態宣言が解除されたあとも、新型コロナウイルスの脅威がなくなるわけではなく、企業の時差出勤、教育現場の分散登校などと並行して、新生活様式としてのテレワーク、オンライン教育のニーズは、ますます旺盛になるものと考えている」とし、「PCメーカーとしての使命は、お客様のニーズに応えるPCをタイムリーに届け、テレワークやオンライン教育といった新たなライフスタイルに役立つ、まったく新しいサービスを提供することにあると考えている。PC事業で培った強みと、自ら実践した経験や蓄積したノウハウを活かしながら、お客様に寄り添い、世のなかから求められるPC、サービスをこれからも提供していく」とする。
テレワークによって、業務の効率化を追求し、その取り組みをプラス要素に変えるだけに留まらず、テレワークによって得た自らの経験を、今後のモノづくりに生かしていくというのがFCCLの姿勢だといえる。これからどんなPCやサービスが登場するのかが楽しみになってくる。