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わが社はこうやってテレワークしています【日本IBM編】

~じつは33年前からテレワークを実践

日本IBMでは数々のツールを活用しながらテレワークを行なっている

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業がテレワークを余儀なくされている。しかも、原則在宅勤務という環境での働き方が、少なくともゴールデンウイークまでは続くことになりそうであり、テレワークの長期化は避けられない。今回の「わが社はこうやってテレワークしている」では、「テレワーク」という言葉がない時代から、テレワークに取り組んできた経験を持つ日本IBMを紹介する。

33年前からテレワーク実施

 日本IBMが、いわゆる「テレワーク」を開始したのは、いまから33年前にまで遡る。

 1987年に、ビジネスリーダーを対象に、自宅に、「ホーム・ターミナル」と呼ぶ専用端末を整備したことからはじまっている。これは、緊急時において、休日や夜間でも、家から連絡を取り合えるように導入したIBM独自の仕組みだ。

 その後、在宅勤務の試行を何度か繰り返し、1999年には、育児や介護で出社できない社員を支援するための在宅勤務制度である「育児介護ホームオフィス制度」を正式にスタート。さらに、2000年には、「e-ワーク制度」として全社員に展開。モバイル端末やサテライトオフィスを整備し、社員が事業所以外でも働ける環境を整えた。これにより、多くの社員がこの仕組みを利用。日本IBMでは、2000年代前半から、オフィス以外の場所で勤務しながら、電話会議やWeb会議を日常的に活用していた。

 たとえば、午後に顧客先を訪問する予定があった場合、それに備えて、午前中にはプレゼンテーション資料の最終校正を自宅で行ない、午後は最寄駅でチームメンバーと合流して、そのまま顧客を訪問したり、夕方の帰社途中で子供を保育園に迎えに行き、帰宅してからメールをチェックしたり、資料作成を再開したりといった働き方のほか、毎週火曜日を「e-ワーク」の日と決めて、朝は米国との電話会議に自宅から参加し、午後は資料作成を行なったり、部門定例ミーティングにWeb会議に参加したりといった働き方も可能で、これにより、家族の介護が必要な社員でも、家族のそばにいながら仕事ができるようになっていた。

 いまでは、テレワークの仕組みとして定着していることではあるが、それを20年前に実行していたのだ。

 じつは、PS/55やThinkPadといった日本IBMのPC事業を指揮した事業部長が、秋葉原電気街の有力PCショップの地下1階に、サテライトオフィスを設置したことがあった。1990年前後のことで、量販店においてIBMブランドのPCが浸透していなかったころの話だ。その当時、オフィスに出社せずに、秋葉原のPC専門店に出社するという姿を見てびっくりしたものだ。だが、当時から、そうした柔軟な働き方の取り組み姿勢が日本IBMにはあった。

 一方で、「e-ワーク制度」の定着に向けて、それにあわせた仕組みも積極的に導入していた点も見逃せない。

 たとえば、1999年以前から、交通費の精算や休暇申請などの書類をなくして電子申請としたり、資料を電子化して情報を共有したりするなど、ペーパーレス化を強力に推進。どこにいてもオフィスと同じように働ける環境を整えてきた。

 「テレワークを開始したころは、お客様との対面時間を増やすなど、生産性向上をおもな目的としており、その点では、着実に成果を上げてきた。だが、テレワークを活用する上で、社員同士のコミュニケーションが希薄にならないよう、チャットを活用するなど、部門ごとに工夫してきたことも、制度の定着に貢献している」という。

 2000年代前半からは、メールはLotus Notes、チャットはLotus Sametime、Web会議や資料共有ではLotus Connectionsを活用していたが、現在では、メールはLotus NotesとIBM Verse、チャットはSlack、Web会議はWebEx、資料の共有には、おもにBoxを使っているという。

WebExを活用してWeb会議を実施。情報共有も行なっている

 会社からはPCおよびiPhoneを支給。PCはMacかThinkPadを選択できる。現在、多くの社員がMacを使っている。自宅での使用のさい、インターネットに接続する費用は社員持ちだが、会社から貸与されたiPhoneをテザリングして利用することができる。テレワークはすでに日常化していたため、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務において、追加でそろえたものはないという。

 つまり、すでにテレワークの体制を整えていた日本IBMでは、新たにツールを導入したり、ルールを変更するということなく、これまでの取り組みの延長線上で実行に移したというわけだ。

いまは在宅勤務基本

東京・箱崎の日本IBM本社。現在、出社している社員はほとんどいない

 日本IBMでは、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年1月31日には全社員に対して、「在宅勤務を推奨」するとしたのに続き、政府から方針が示された2月25日には、「在宅勤務を強く推奨」に警戒レベルを引き上げた。これにより、在宅勤務を基本にする体制へと移行した。東京・箱崎の本社事業所は、外部企業や顧客との契約において捺印などの手続きが必要な部門のほか、警備や郵送物の管理などを行なっている職員などが出社している。出社している社員には、手洗いやうがいを徹底するなど、感染防止対策を強化している。

 一方で、顧客先に常駐する社員は、顧客の指示を遵守するかたちで業務を行なっている。現在でも、プロジェクトによっては、顧客先に出勤している社員もいるようだが、顧客先と調整して在宅での勤務に切り替えたり、どうしても出勤しなければならない社員は、シフトを組んだり、出社回数を減らすなどの措置で感染防止につとめている。

 日本IBMでは、営業やコンサルタント、ITエンジニアなど在籍する社員の職種が広い。これらの社員が、顧客との打ち合わせや提案活動、製品およびサービスの説明、そして社内会議といった業務を行なううえで、テレワークを有効な手段として活用している。

 先にも触れたように、日本IBMでは、Web会議にシステコシステムズのWebExを採用しているが、「日常的に会話しているメンバーとの会議には、自分の顔写真を使っているが、はじめての相手と会話するときは、ビデオで顔を映すなど、社員がそれぞれ工夫をしている」という。

 社内の利用では、Slackの利用が増加しつつあるようだ。ダイレクトメッセージの機能を利用して、複数の社員が会話することができるため、短時間で決めてしまいたい内容や、日常の業務のなかでのやりとりには、Slackを活用している。Slackでは、すぐに音声通話やビデオ会議に切り替えることもできるので、必要に応じてそれらの機能を利用することもある。その一方で、時間や参加者があらかじめ決まっている会議や社内セミナーなどには、WebExを利用している。「適材適所でツールを使い分けている」というのが同社の手法だ。

 数多くのツールを併用していることが煩雑のようにも見えるが、「そのときに一番、セキュアで使いやすいものを使うことができる」というメリットもあるとする。

 なお、IBM Verseは、2020年7月16日にサポートを終了する予定だが、移行についてはまだ正式な発表が行なわれていない。

 新型コロナウイルス感染の影響が広がっており、在宅勤務はさらに長期化しそうだ。

健康のためにリモートワークを利用

 日本IBMでは、「事業継続という観点だけでなく、社員の健康という点においても、リモートワークの仕組みを活用することが盛り込まれている。業務上やむを得ず出勤しなければならない社員をどう守り、事業を継続していくかの検討を進め、出社して勤務する場合には、ゾーニングやシフト、閉鎖空間での会議や食事の禁止などを呼びかけている」という。

WebExを活用してWeb会議に参加している様子

 また、「通勤時間の削減によって生じた時間を、家族とのコミュニケーションや自身の学習など有効に活用することを促進し、今後に備え、心と体の健康維持のため休暇取得も奨励していく」とする。

 そしてその一方で、「困難な状況に対して必要以上に委縮することなく、これをイノベーションと新たな成長の機会と捉え、事業継続や今後の経済活動の本格再開に向けたソリューションの提案など、継続してお客様に活用いただけるソリューションの創出につなげたい」とする。

 この状況を単にピンチとして捉えるのではなく、新たなビジネスにつなげたり、これまでとは異なる生活の仕方につなげるチャンスと捉えているのが日本IBMのスタンスだ。それを実現する上で、テレワークは重要な役割を果たすことになる。