特集

わが社はこうやってテレワークしています【セールスフォース・ドットコム編】

~250ドルまで機材購入を補助。社内メールのやりとりも激減

 緊急事態宣言が5月31日まで延長され、特定警戒都道府県においては、引き続き、「出勤者数の7割削減」という高い目標が掲げられている。企業にとって、テレワークの長期化は避けられない状況になってきたと言えよう。

 短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の第7回目として、セールスフォース・ドットコムの取り組みを紹介する。同社は、2019年、2020年と2年連続で「日本における働きがいのある会社」ランキングの大企業部門で第1位を獲得した企業。

 同社の小出伸一会長兼社長は、「社員がいきいきと働くことができる会社として、日本における働き方改革の模範になりたい」と語る。同社の企業文化のベースにある考え方は、ハワイ語で「家族」を意味する「オハナ」。オハナの社内文化が、長期化するテレワークにおいても活かされている。

2016年よりテレワーク導入

 セールスフォース・ドットコムは、世界ナンバーワンのCRMベンダーである。

 15万社以上の企業が、同社製品を利用。クラウドをベースとしたテクノロジを活用して、企業の営業活動やマーケティング活動を支援し、見込み客の開拓や新規顧客の獲得のほか、スピーディな商談成約やスマートなカスタマーサービスまでをサポート。さまざまな側面から顧客の成功を下支えする役割を担っている。

 1999年の創業以来、一貫してクラウド製品を提供してきたのも特徴で、顧客との継続的な関係を維持するために、「カスタマーサクセス」を重視した経営姿勢を持ち続けている。

 一方、創業者であるマーク・ベニオフ会長兼CEOは、親日家としても知られ、日本法人の設立は創業2年目の2000年4月。ちょうど20周年を迎えたところだ。

 セールスフォース・ドットコムが、日本において、テレワークを開始したのは、2016年のことだ。週2日間を上限にテレワーク制度を導入。ここでは、自宅以外での就業も認めたという。「テクノロジの活用により、社員それぞれのライフスタイルに合わせて柔軟に仕事ができることを狙った」という。

 さらに、政府主導で行なわれた2019年のテレワーク・デイズ期間中には、週2日間の上限をなくしたテレワークを実施。削減した通勤時間を活用して、家族と過ごす時間を増やしたり、ボランティア活動に費やしたりするといったように、社員1人1人のQoL(Quality of Life)向上につなげる成果も狙った。

 ちなみに、セールスフォースでは、社会貢献のための活動として1:1:1モデルを推進している。これは、製品の1%、株式の1%、就業時間の1%を活用してコミュニティに貢献するもので、同社が創業以来取り組んできたものだ。この活動にも、テレワークが有効に活用されているというわけだ。

 また、2015年からは、テレワーク拠点として、和歌山県南紀白浜町において、白浜サテライトオフィスを稼働。2019年には、島根県松江市および山口県萩市と共同でテレワークを実施するといったように、地方でのテレワークへの取り組みを推進。あわせて、各自治体と共同で、働き方改革や生産性向上を目的にしたデジタル変革に関する各種ワークショップを開催。

 「白浜サテライトオフィスで培った4年間のテレワーク実績から得られたノウハウや具体的な取り組み方の情報共有、各自治体の職員、教員、ビジネスマン、学生などを対象にしたデジタル人材の育成支援を実施してきた」という。

 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大にあわせて、2月26日からは、在宅勤務を推奨とする一方、顧客やパートナー企業を対象としたイベントについては、規模や人数に関係なく、オンラインでの開催に切り替えるか、中止もしくは延期とすることを決定。他社主催のイベントへの社員の参加については、オンライン参加に限定した。

 そして、採用候補者向け説明会や面談などは、オンラインを推奨。対応が難しい場合は、参加者へのマスク着用や消毒などを徹底した。かなり早いタイミングから業務のオンライン化を推奨していた。

 さらに、4月6日からは、東京本社のほか、六本木、名古屋、大阪、広島、福岡の各オフィスと、白浜サテライトオフィスを閉鎖している。

テレワーク向け環境は整備済みだが250ドルまでは機材購入OK

 2016年からテレワークを導入していたセールスフォース・ドットコムでは、社員全員にノートPCを貸与しており、社外からアクセスするVPN環境も整備。ビデオ会議ツールには、Google Meet(Hangouts Meet)を採用して、ほぼすべての社員が、日々の業務のなかで使用できる環境が整っていたため、新型コロナウイルスの影響により、一斉に在宅勤務が開始されても障壁はなかったという。なお、VPNについては、より安定した接続環境を実現するために、グローバル規模での拡充が同時に行なわれていった。

ビデオ会議で部門・チームでのミーティングを実施。背景を自由に設定するなどメンバーのモチベーションを高める工夫も

 会社貸与されるPCは、ハイスペックなPCを必要とする一部の部門を除き、グローバルで、メーカーや機種名までが決められており、Appleの「MacBook Air(13インチ)」と、デルの「Latitude(13インチ)」が標準モデルとなっている。グローバル全体で機種を統一することで、PCの管理性を高めている。

 さらに、今回の在宅勤務の開始にあわせて、テレワークの設備が自宅に整っていない社員をサポートするため、必要な機器購入を250ドルまで経費として認める制度を導入。ディスプレイやWi-Fiアクセスポイント、デスク、チェアなどを購入することを可能にした。また、これとは別枠の予算で、ノイズキャンセリングヘッドフォンを購入することもできる。

 「すべての社員がリモートで働ける環境を整えるための支援であり、オフィスと使い勝手は変わらず、より快適にテレワークを実施するために、備品や設備購入の支援金を用意した。また、自宅のインターネット速度をチェックし、それが遅い社員には、モバイルWi-Fiを支給するといったことも行なった」という。

 同社では、すでに電子署名システムの導入により、紙の書類や印鑑の利用による承認、申請業務をなくしており、これも、在宅から業務を遂行する上では重要な要素になっているようだ。さらに、マネジメントチームを対象に、「効果的なリモートワーク」に特化した研修を実施。社員のテレワークがソロワークにならないように配慮しているという。

社内メールはほぼ皆無に

 現場では、テレワークの効果的な利用に向けてさまざまな工夫が行なわれている。

 インサイドセールスを担当する同社セールスデベロップメント本部長の鈴木淳一執行役員は、「全体への指示や、全員に向けて話す場合などには、社内SNSであるChatterを使用しているが、個人的なコミュニケーションの場合にはGoogle Meetのチャット機能を使用している。さらに、会議のアジェンダやウェビナー、プロジェクト管理には共同作業を行ないやすいコンテンツコラボレーションプラットフォームのQuipを活用し、資料作成などを行なっている。一方で、モチベーションを高めたり、感情に語りかけるようなときは、TV会議を使用してコミュニケーションを行なっている」とする。

 Quipにより、会議前の資料共有やリアルタイムな議事録作成、Chatterを使ったノウハウ共有や成功事例の共有なども活発化しているという。

コラボレーションツールQuipを使用してビデオ会議のノウハウを共有。部門として会議前から資料共有するなどツールを有効活用

 その一方で、社内でのメール使用はほぼなくなっており、顧客などとの対外コミュニケーションでのみ使用しているという。

 「テレワークによって、社員やお客様とのコミュニケーションの方法が変化している。お客様へのアプローチも傾聴と状況把握を意識し、端的にわかりやすいコミュニケーションを心掛けている。会議についても、事前にアジェンダを共有し、当日はできるかぎり、双方向のコミュニケーションを行なうことに気をつけ、一方的なプレゼンテーションにならないようにしている。さらに、お客様においては、社内検討の期間が伸びていることから、こまめな状況確認も心掛けている」とする。

 そして、テレワーク導入ならではのメリットも生まれている。「通勤時間が削減されたこともあり、社員の大半が30分~60分ほど、前倒しで業務を開始している。また、無駄のない活動が実践できており、インサイドセールスの活動量は20%向上。始業を早めた分、仕事を早目に切り上げて、多くの社員が家族と夕食をとることができている」と語る。

インサイドセールス部門全体会議をビデオ会議で実施。参加者はリモートで参加(写真はオフィス拠点閉鎖前のもの)

 一方、フィールドセールスを担当している同社コマーシャル営業の千葉弘崇専務執行役員は、「お客様とのミーティングは、すべてリモートに切り替わったが、対面とまったく変わらない営業活動を実現している」とする。

 営業活動には、自社プロダクトである「Salesforce Sales Cloud」を使用。顧客とのメールのやり取りや活動内容は「Salesforce Sales Cloud」に記録している。「Salesforceに蓄積された情報はダッシュボードですぐに可視化でき、リアルタイムに状況の把握が可能となっている」という。

 「各種情報をチームで共有することで、社員同士が支援しあいながら営業活動を行なっている。社員とのコラボレーションには、ChatterやQuipを利用したり、社員の学習向けにeLearningのTRAILHEADも活用している」という。そのほかにも、勤怠管理システムや経費申請システム、営業実績管理システム、IT conciergeといったさまざまなクラウドソリューションを利用している。

 これらのツールを活用しながら、運用面においては、いくつかの工夫を凝らしている。

 「日々のアウトプットやコミュニケーションを通じて、社員のメンタルヘルスを高頻度で確認し、安全に業務を行なえているかどうかを把握している。また、お客様に新たな価値を感じていただくための取り組みも開始している。具体的には、Salesforce Careの活用や、各種支援策を新たに策定することで、厳しい環境下において、お客様のビジネスの継続性を支援している」とする。

 さらに、「テレワークにおいても、Salesforceパートナー各社との協業を進め、平常時と同じ水準で、お客様に提案したり、価値を届けるチャレンジを実施している」とする。業務や施策に工夫を凝らすことで、営業活動への影響を最小化したり、新たなメリットを生み出す挑戦にも余念がない。

社員のケアが課題

 だが、課題がないわけではない。

 鈴木執行役員は、「オフィスでは、明るく、元気なキャラクターの社員からも、在宅勤務が長引いたことで、『ちょっと力が出ない』、『パフォーマンスをあげられない』という声が出ている。狭い環境で、1人で業務を続けることで生まれる精神的な負荷をケアする必要がある。1対1でのミーティング時間を半分にする一方で、対話の頻度を高めることにしたり、チーム全体でお礼を言いあうなど、社員同士で気運を盛り上げることにも配慮している。始業前の朝会や、金曜夕方の褒め会など、対面であれば良く使っている『ありがとう』の言葉を意図的に使用するようにしている」という。新たな働き方においては、こうした社員への配慮も重要な要素になると言えるだろう。

 ますます長期化する在宅勤務において、これからは社員のケアは重要な要素になるだろう。

 同社では、「先が読めない今後の不安もある。社員のモチベーション含めて、心身の健康の維持向上を、いかにリモートで対応していくかということを考えている。社員を勇気づけるコミュニケーションを増やすなど、日本の社員に向けた独自の取り組みを推進したい」とする。

 同社の小出会長が参加して実施したオンライン表彰式も、社員を勇気づけるための取り組みの1つとなった。また、グローバル企業である強みを活かして、海外でのベストプラクティスの共有、社員エンゲージメント向上を目的としたプログラムの実施のほか、日々変化する状況にあわせた新型コロナウイルスに関する福利厚生制度の拡充にも取り組んでいるという。

 社員をケアする姿勢は、セールスフォース・ドットコムの企業文化である「オハナ」の姿勢が息づいている。オハナは、ハワイ語で「家族」を意味し、ベニオフ会長兼CEOがよく口にする言葉だ。そして、こうした姿勢が、2019年、2020年と2年連続で「日本における働きがいのある会社」ランキングの大企業部門で第1位を獲得するといった成果にもつながっている。

 「社員が、仕事や仲間、会社に対して抱く誇りを持っていること、経営陣と社員間の尊敬や思いやりが、2年連続で1位という高評価につながっている。困難な状況下においても、お客様、従業員、Salesforceパートナー各社の安全を第一とすること、そして、お客様とともに変化を乗り越えるために、テレワークをより深く研究し、トレーニングを行ない、新しい営業プロセスを迅速に構築し、多様な社員が自分らしく活躍できる環境を整えることで、『働きやすさ』と『働きがい』の両方の実現を目指したい」とする。

 テレワークにおける数々の新たな取り組みは、同社の新たな挑戦に直結している。