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わが社はこうやってテレワークしています【日本マイクロソフト編】
~Teamsを駆使してどこでも意思疎通。家族などテレワークならではの課題にも取り組む
2020年4月18日 11:00
在宅勤務の長期化によって、テレワークによる働き方が広がる一方で、テレワークならではの課題も生まれはじめている。仕事と生活の切り替えの難しさや、いつでもオンラインであるためにオーバーワークになりやすいといった課題のほか、在宅で働く上では、家族の理解を得ることも新たな課題となっている。
短期集中連載の3回目は、「働き方改革推進企業」を標榜し、テレワークを活用した働き方改革で多くの実績を持つ日本マイクロソフトを取り上げる。日本マイクロソフトの数々の経験は、テレワークにおける課題解決においても一日の長がある。
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2011年からテレワークの本格的活用が広まる
日本マイクロソフトは、2007年から、育児や介護といった特別な事情がある社員を対象に在宅勤務制度を開始していた経緯があるが、多くの社員がテレワークを実践しはじめたのは、2011年2月になってからだ。当時、都内5カ所に分かれていたオフィスを、現在の東京・品川の本社に統合移転。これが同社においてテレワークが広がる大きなきっかけになっている。
同社では、品川本社への移転時に、固定電話を廃止し、Microsoft Lync(2015年4月からSkype for Businessに名称変更、2017年3月からMicrosoft Teamsに順次統合)を導入。これにより、社員のコミュニケーションを、チャットや電話、Web会議で行なえる仕組みを整え、いつでもどこでも働くことができる環境を実現したからだ。
さらに、移転から約1カ月後には東日本大震災が発生。社長命令により、全社員の出社を停止し、原則テレワークでの勤務とした。このとき、多くの社員が、自宅から仕事をしたり、遠隔地から業務を継続したりできることを体験。その後は、日常業務にテレワークを取り入れる社員が増加したという。
その後、同社では、オフィス全体をクローズして全社員がリモートワークを実践する「テレワークの日」や、顧客やパートナー企業と連携しながら実施した「テレワーク週間」、「働き方改革週間」などを通じてテレワークを定着させ、2016年5月には「テレワーク勤務制度」を新たに導入。コアタイムを廃止するとともに、申請の簡素化などによって、多くの社員が週に複数回のテレワークを実践するようになってきたという。
一方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う措置としては、2020年2月上旬から在宅勤務を推奨し、3月下旬からは、データセンターの運用部門、お客様サポート部門、サービス支援部門などの一部を除いて、原則在宅勤務となっている。
日本マイクロソフトの全社員には、1人1台のWindows PCが貸与されている。その多くはSurfaceシリーズだ。選択する機種には制限がないというが、もっとも多いのはSurface Proシリーズのようだ。なかには、Surface LaptopやSurface Bookを使っている社員もいるという。
なお、10型ディスプレイのSurface Goは、性能的にもメインマシンとしては使いにくいため、貸与されるPCの選択肢には入らない。一方で、PCメーカーを担当する社員は、Surfaceを使わずに、担当メーカーのPCを選択することが可能だ。
また、社員が購入したPCやスマートフォン、タブレットも、同社が定めたITポリシーに準拠すれば、業務で利用できるようになっている。
新型コロナウイルスの感染拡大にあわせて、追加で準備したツールは基本的にはないというが、「自宅から、より快適にTeams会議に参加できるように、ヘッドセットやヘッドフォン、会議用小型スピーカーやマイク、マウスや液晶ディスプレイを新たに購入したという声も聞いている」という。さらに、健康維持のため、在宅勤務用の椅子やバランスボールなどを購入したという声も出ているそうだ。
ちなみに、ヘッドセットを除くと、これらの道具は会社からの購入補助はなく、社員が自費で購入することが前提となっているが、2020年3月からは、オフィスにいるのと近い生産性を維持することを目的とした「Work From Home Buying Program」がグローバルでスタート。在宅勤務で、マウスやキーボード、液晶ディスプレイなどの各種周辺機器を利用したい場合、社内アプリを通じて申請し、上長の承認が得られれば、会社負担で購入でき、自宅に届けてくれる仕組みが用意されたという。
在宅勤務が毎日続くと、自分が使いやすかったり、快適なガジェット、あるいはお気に入りのガジェットを使ったりすることが、生産性やモチベーションに影響することを、日本マイクロソフトの社員は熟知しており、本体周りの機器を充実させることにもこだわっているようだ。
なお、自宅の通信回線は、基本的には各自が負担することになっているが、自宅のネットがつながりにくく業務に支障があるといった特別な事情の場合は、上長の承認が得られれば会社が一部負担するケースもあるという。
一方、在宅勤務においては、家族との連携は不可欠となっているが、ここにも社員の工夫がある。
「子どもや家族と同居している社員の場合は、1日の予定を家族と共有しあったり、家事を分担したりするなど、おたがいの生活、仕事をスムーズに進めやすい環境やルールを作って、在宅勤務を行なっているという社員の声がある」という。
快適なツールだけでは、生産性が高く、質の高い在宅勤務は難しい。家族の協力があって在宅勤務が成り立つことを日本マイクソロフトでは強調する。このあたりも、テレワークに率先して取り組んできた日本マイクロソフトならでは手法だと言えるだろう。
社内外のさまざまなやりとりをTeamsを通じて実行
現在、日本マイクロソフトでは、社内外のコミュニケーションやコラボレーションに、Microsoft Teamsを「フル活用」しているという。
たとえば、広報業務を担当するコーポレートコミュニケーション本部では、広報部門だけでなく、各プロジェクトの「チーム」にも参加し、チャットやWeb会議、資料共有、共同作業などを行なっている。また、アンケート作業などにはMicrosoft Forms、タスクの割り当てなどにはMicrosoft Plannerといったように、Teamsとの連携アプリも利用している。
一方で、社内への広い情報発信に加えて、Q&Aなどの双方向性が求められる場合には、Yammerを活用。メールや予定管理などではOutlookも利用しているという。
だが、「Outlookの多くの機能がTeamsでも使えるようになってきたのに加えて、社外のお客様ともTeamsで『チーム』を作り、チャットなどでやりとりすることが増えており、Outlookの使用時間は相対的に減少してきた。ただ、Outlookは、外部の人と最初にやりとりをする場合、あるいは問い合わせ対応など使っている」とのこと。
同社コーポレートコミュニケーション本部の仕事は、報道機関を通じた社外へのコミュニケーションと、日本マイクロソフトの従業員向けの社内コミュニケーションとなる。プレスリリースやブログの発信、プレスイベント、インタビューなどの準備、実施のほか、発信後のフォローアップ、問い合わせ対応や取材対応、そして社内への情報発信なども行なっている。
基本的には、品川本社オフィスでの業務が多いが、米国本社や社外とのやりとり、企画書やレポートの作成、プレスリリースの作成といった業務を集中的に行なうために、これまでにも週数回はテレワークを実践していた。そのため、同部門のチームメンバー全員が一堂に出社し、顔を合わせるのは週に一度くらいだったという。
「社内で使用しているアプリは、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットでも同じ操作性で利用できることから、外出中や移動中は、スマートフォンでTeams会議に参加して、画面で資料を見たり、音声を聞いたりするほか、質問のやりとりはチャットで行ない、オフィスや自宅に着いたらPCで同じ会議にそのまま参加することもある」そうだ。
しかも、こんな会議の仕方もしていたという。
「移動しながらTeams会議に参加していた社員が、オフィスに到着し、そのままオフィスでの会議室に入って議論をしたり、その逆のかたちで、オフィスで会議に参加していたが、外出する時間になったため、途中で会議室から退出し、続きは移動しながら、スマートフォンでTeams会議に参加し続けたりといったこともあった」。
会議への参加の仕方にも柔軟性があると言える。
見えてきたテレワークでの課題
日本マイクロソフトでは、テレワークの環境が整っていたことで、新型コロナウイルスの感染が拡大するのにあわせて、会社側が在宅勤務を推奨する前から、多くの社員が自ら在宅勤務を行なってきた。
2月中旬以降は、大手企業が社員に在宅勤務を要請したり、それを実施することが報道されたりしたが、自主的に在宅勤務を開始していた日本マイクロソフトの社員にとってはその報道そのものに違和感があったようだ。そのため、すでに、2カ月以上、在宅勤務を行なっているという社員も少なくない。
だが、これだけの長期化した在宅勤務は、日本マイクロソフトでもはじめての例だ。それに伴い、これまでとは異なるいくつかの課題も生まれているようだ。
たとえば、在宅勤務となったことで、通勤時間や、会議室間の移動時間が削減されたり、自室で集中しやすいなど、効率化できる面があるものの、仕事と生活の切り替えの難しさ、いつでもオンラインであるがためにオーバーワークになりやすいという課題が生まれているという。
また、「自宅の環境が、テレワークをするには、必ずしも最適ではなかったことに気がついた」という社員の声もあった。
さらにこんな指摘もある。
「在宅勤務では孤独感を感じる瞬間もあり、オフィスで無意識に行なっていた気軽な声がけ、会議前後の雑談、廊下での立ち話などのカジュアルなコミュニケーションの大切さを実感している。オフィスにいると自然にできることが、いまは、Teamsのチャットなどで意識的に行なわないとできないため、普段よりもオーバーにリアクションしたり、些細なことも共有したりする必要がある。あえて仕事以外のことも気軽にチャットするようにしており、チームメンバーにもそれを促している」という。
コーポレートコミュニケーション本部を含むマーケティング&オペレーション部門(M&O)では、2020年4月1日に、仕事の話題を禁止し、雑談のみに限定したTeams会議「Coffee Break」を開催した。現在、週1回のペースで開催しており、「おたがいの在宅勤務の状況や日々のちょっとしたことを共有しあうことで、チームのコミュニケーションやコラボレーションの円滑化・活性化を図っている」そうだ。
また、Teams会議では、できるだけビデオをオンにすることで、オフィスで対面したかたちで会議を行なっているのに近い環境を作り、表情から微妙なニュアンスを理解できるようにしているという。
「それにより、健康状態や悩みがないかといったことも読み取れるようになる。会議前に自宅の部屋を片づけなくても済むように、ビデオがオンのときには、背景をぼかしたり、差し替えたりする機能が使えることも、社員からは好評」とのこと。
一方で、家族の理解の大切さを再認識したという声も上がっている。それにあわせて家族に配慮した働き方も重要だとする。
「Teams会議を連続して行ないすぎると、かえって、家族の行動も制限することになる。会議中には部屋に入りにくい、話しかけにくい、掃除機をかけにくいなどの声が家族から寄せられている」という。
日本マイクロソフトでは、その改善策として、会議時間の設定を60分間ではなく、30分間にしたり、できるだけ早く会議を終えたりすることで、会議の合間に家族との時間を作り、仕事と家庭を円滑に両立できるように工夫しているというわけだ。
新型コロナウイルスの感染拡大により、国内における在宅勤務体制も長期化しそうだ。日本マイクロソフトでは、在宅勤務がさらに長期化することを視野に入れた準備もはじめている。
「長期化を想定して、オフィスで働いている環境と近い体験を、デジタルで実現したり、補完したりできる取り組みを増やしたいと考えている。また、いまの働き方を、新型コロナウイルスの感染終息後にも、継続すべきものは『ニューノーマル』として取り入れていきたい」とする。
たとえば、コーポレートコミュニケーション本部であれば、個別取材にもWeb会議を活用したり、セミナーやプレスイベントのオンライン開催などは、平常時でも実施したり、オンサイトイベントと併用したりといったことができると考えている。
「2月下旬から、ほぼすべての個別取材をTeams会議で実施しているが、Teamsの録画機能を使うことで、取材のすべてのやりとりを、終了後すぐにデータとして共有できる点は、メディア関係者からも喜ばれている」という。
そして、同社では、「平常時に戻ったあとも、このチャレンジで得た学びを活かして、これまでの『当たり前』から脱却することが、『今後の新しい働き方』につながると考えている」とし、「これからも、日本マイクロソフトが実践してきた結果を、多くの人に役立つ情報として発信していきたい」とする。
最先端技術を活用したテレワークにより、成功と失敗を含めて、さまざまな知見を蓄積している日本マイクロソフトは、その経験を継続的に発信していく姿勢を見せている。