特集

わが社はこうやってテレワークしています【デル・テクノロジーズ編】

~カスタマーサポートセンターも完全テレワーク化。VPNは3倍以上に増強

宮崎カスタマーセンターも在宅勤務に移行し、センター内は人がいない

 8月1日づけで、デル・テクノロジーズの新社名で法人を統合するデルとEMCジャパン(以下、デル・テクノロジーズ)は、新型コロナウイルスの感染拡大前から、テレワークに積極的に取り組んできた。ノートPCを65%の社員に配布済みであったこと、日常的に国内の複数拠点や海外拠点と結んだコミュニケーションが行なわれていたことから、3月上旬に一斉に在宅勤務がはじまっても、生産性を落とすことになく、テレワークへの移行が進んだという。

 短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の11回目として、デル・テクノロジーズの取り組みを紹介する。

5年前からテレワーク体制を構築。新規にノートPCを4千台配布

 デル・テクノロジーズは、約5年前から、グローバル規模で働き方改革に向けた取り組みを本格化しており、それに伴い、今回、90%の社員にノートPCを配布。多くの社員がテレワークを行なえる環境が整っていた。

 Dell Technologiesインド バイスプレジデント エンタープライズデータモビリティ&エンジニアリングCIOリーダーのSheenam Ohrie氏は、「開発者や営業担当者、コンタクトセンター、工場、エグゼクティブといったように、社員の役割やポジションにあわせて、最適なITツールを提供していた。新型コロナウイルス感染症の拡大時に、ノートPCが行きわたっていなかった社員に対しては、2週間以内に、4,000台のノートPCを配布して、テレワークを行なえる環境を整えた」という。

 日本でも、非常事態宣言の前から、社員や家族の健康を第一に考え、3月上旬から、原則在宅勤務へと移行した。

 デル・テクノロジーズは、統合後の2021年下期には、東京・大手町に建設中の「Otemachi Oneタワー」に本社を移転する予定だが、現時点では、デルとEMCジャパンがべつべつに本社オフィスを持ち、宮崎にはデルがカスタマーセンターを設置しているなど、国内でも拠点が複数に点在。さらに、海外拠点とのコミュニケーションも多いことから、日常的にテレワークが行なわれてきた背景がある。そうした実績があったことから、多くの社員が、スムーズに在宅勤務に移行することができた。

ツールはSkype、Zoom、Teams、WebExなどを柔軟に利用

 社員は、XPS13シリーズをはじめとしたデルのノートPCを持ち、社内コミュニケーションには、SkypeやZoom、Teamsを利用。さらに、Dell Technologies グループの1社であるVMware のWorkspace ONEによって、どんなデバイスからでも、あらゆるアプリケーションに、シングルサインオンで安全なアクセスを可能にするとともに、マルチデバイスの効率的な管理を実現。Workspace ONEでホスティングしているアプリケーションは30種類以上、全世界で16万台のWindowsデバイス、87,000台のスマートフォンが登録されている。

 なお、主力のツールの1つであるZoomの利用に関しては、セキュリティに問題があるとの報道を受けて、必ずパスワードを設定した上で会議を開催することを徹底。その一方で、営業部門などでは、顧客の要望に応じてツールが選べるようにしており、WebExなども利用できるように必要な分のライセンスを購入している。

 また、ネットワーク環境の整備にも力を注いでおり、個人用Wi-Fi環境を提供したり、ノートPC環境から、Avayaのソフトフォンを利用できるようにしている。

 日常的にテレワークを利用していたことから、社員が新たなツールを追加するということは、ほとんどなかったようだが、オフィスにディスプレイが2台あったり、ドッキングステーションがあったりといった環境を、在宅勤務でも維持できるように、必要なものを自宅に持ち込むことができるようにした。また、おもにモバイル環境でPCを使っていた場合でも、これを機に在宅勤務の環境を充実させるため、外付けディスプレイやキーボード、カメラ、スピーカーのほか、新たに椅子やテーブルを購入した社員もいる。

課題だったVPN

 ただ、VPNについては、多くの企業がその整備に苦労したように、デル・テクノロジーズでも課題の1つとなったようだ。

 もともとグローバルでは、65%の社員がテレワークを行なう水準までは想定したが、新型コロナウイルスの影響によって、全世界13万人にのぼる90%の社員が、一斉にテレワークを行なうことまでは想定していなかったという。

 同社では、旧デルと旧EMCで利用していたVPNを、パロアルトネットワークスのGlobalProtectに一本化したタイミングであり、さらに、中国での感染拡大の動きを捉えて、VPNの拡張を決断。容量を3倍に引き上げるとともに、ネットワーク環境を増強。あわせてファイヤーウォールの拡充も行なった。これにより、安定化したネットワーク環境を整備でき、社員の生産性が落ちることはなかったという。

 同社の就業時間は、基本的には午前9時から午後5時30分だが、在宅勤務がスタートして以降、社員によっては、午前8時から業務をスタートするなど、柔軟な働き方を推進。海外とのやりとりのため、夜遅くからはじまる会議もあるため、そうしたことも考慮した働き方も認めている。

 「タイムゾーンが異なる社員同士が仕事をしていることから、それぞれの就業時間を重視。ビジネスタイムから外れていた場合には、服装などを気にしないように、ビデオをオフにしてミーティングに参加できるといったルールも採用している。共働きの家族が同じ時間に在宅勤務をしたり、子供がオンライン授業を受ける場合などは家庭内のネットワークが逼迫するため、ビデオをオフにしてもいいようにした。さらに、家族の食事を作ったり、子供に勉強を教えたりといったこともあるため、この時間帯はミーティングができないことを事前に示してもらう仕組みも導入している」(Dell Technologiesインド バイスプレジデント エンタープライズデータモビリティ&エンジニアリングCIOリーダーのSheenam Ohrie氏)という。

在宅勤務への移行で生産性は上がった

 こうしたルールの導入も功を奏し、原則在宅勤務に移行してから、「生産性はむしろ上がった」という声が、社員の間から出ている。

 デル・テクノロジーズの社員からは、「通勤や移動の時間がなくなるなど、時間を有効に活用できるようになり、生産性も上げることができた。オンラインで行なうほうが、集中できる作業も多い。また、外部イベントへの参加も障壁が少なくなり、情報収集のために積極的に参加するようになった」という声もあがる。

 ちなみに、同社広報部門では、やりとりの基本はメールとしているほか、会議にはZoom、チームコラボレーションにはTeamsやSkypeを使用している。

 発表案件に関わるステークホルダーとの打ち合わせや製品トレーニングへの参加、APJメンバーとの定例会議、上長との1対1のミーティング、プレスリリースの執筆、プレスやアナリストとのインタビューのアレンジ、記者会見およびラウンドテーブルなどのセッティング、代理店との打ち合わせなどの業務があるが、これらは、在宅でも十分対応できているという。

 一方、デル・テクノロジーズ社内では、2週間に1度のオンライン全社会議をZoomで開催し、そこで、社長からのメッセージを発信。各部門のリーダーからも情報を発信したり、先進事例などをシェアすることで、情報をタイムリーに共有。また、社長メッセージを含めたレターを定期的に全社員に配信。「以前に比べて、社長や役員との距離感が近く感じられるようになった」という声も出ている。「ワンジャパンチーム」としてのつながりをみせているといえるだろう。

2週間に一度のオンライン全社会議をZoomで開催

コンタクトセンターも在宅勤務へ

 じつは、先に触れた「グローバルにおいて、2週間で4,000台のノートPCを社員に貸与した」というものの多くは、コンタクトセンター向けであった。

 Dell Technologiesの全世界のコンタクトセンターは、従来から在宅勤務の対象とはなっておらず、社員がオフィスに出社して、シフト体制により24時間対応を行なう仕組みとなっていた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大とともに、コンタクトセンターも在宅勤務に移行。コンタクトセンター業務に必要となるツールをすべて用意し、ノートPCからもソフトフォンが利用できるようにしたのだ。

 これは、日本のデル宮崎カスタマーセンターも同様だった。

 電話やメールなどを活用して、ユーザーサポートや営業活動を行なう同カスタマーセンターでは、3月下旬から完全在宅勤務体制へと移行。すべてのテクニカルサポート担当者が在宅でサポート。それでもオフィスでの業務と変わらぬ生産性を維持し、待たせすることなく、電話やWebからの問い合わせ対応を実現しているという。

 宮崎カスタマーセンターでは、コールエンジニアのノートPCへの移行を推進したこともあって、今回の在宅勤務への移行のさいには、ハードウェア面での対応はすでに完了。BCPやビルメンテナンス時のバックアップ体制用に用意していたソフトフォンの組み込みや、それらのテスト作業だけで、スムーズに在宅環境に移行できた。

 また、オフィスで利用しているのと同様にセカンドディスプレイを配布したり、バーチャルLABを設置することなどによって、エンジニアの生産性を落とすことなく、サポートを継続することもできた。

 だが、課題がないわけではない。ソフトフォンでは、ネットワークの影響で会話にノイズが入ることがあり、聞き取りにくいという声が一部に出ているという。宮崎カスタマーセンターでは、「できるかぎりわかりやすく説明し、内容をしっかりと納得してもらえるまで説明している」とする。

 また、従来の電話で実施していたサポート終了後の顧客満足度アンケートは、メールで案内し、Webで回答してもらう仕組みへと変更するなどの工夫も行なっている。

 「仕組みを変えても、お客様の直接の声を反映する姿勢は変えずに、より良いサービスの提供、維持につとめていく」としている。

社員同士のコミュニケーションにはZoomを活用

 直接的な仕事だけでなく、社員同士のコミュニケーションにもZoomが利用されているのも、デル・テクノロジーズのツール活用の特徴の1つだ。

 部門メンバー同士が、日々のちょっとした会話ができる場としてもZoomを利用。「ちょっとした雑談や会話から得ていたアイデアや意見が、意外と大事だったということに気づかされた。いまでは、そういった雑談もオンライン上で、できるようになっていることは有効である」との声があがる。

 一方で、ある部門では毎週テーマを決めて、投票制の「お楽しみ会」も実施。ここでは、「子供のころの写真を映し出して、誰かを当てる」、「デル・テクノロジーズ川柳の募集&投票で賞を決定」、「在宅勤務ではじめてやってみたことを募集」などを実施しており、優秀賞には本部長が用意した景品が授与された。

デル・テクノロジーズ川柳の募集
優秀賞には本部長が用意した景品が授与

 また、30人近いチームメンバーが参加する社内オンライン飲み会も開催。少人数に分かれて会話できるブレイクアウトセッション機能を利用することで、時間を区切ってメンバーがシャッフルされ、リアルの場での飲み会よりも多くの人と話ができるというメリットも生まれた。

社内オンライン飲み会も開催

 デル・テクノロジーズでは、新型コロナウイルス感染症の状況を慎重に見定めながら、ステップを踏んで通常モードに移行していく予定だ。

 「以前と同じ状況にそのまま戻るのではなく、今回得た学びを活かして、以前よりもさらに働きやすい環境になるよう、全社的に準備を進めていきたい」としている。

 テレワーク環境の整備に先進的に取り組んできた同社は、次のステップに向けた働き方を模索していく段階に入っている。