笠原一輝のユビキタス情報局
Thunderbolt 10周年。歴史を振り返りつつドッキングステーションの利点を探る
2021年3月19日 09:55
Intelが開発した「Thunderbolt」は、2011年に発表されてから今年(2021年)の2月で10周年を迎えた。初代ThunderboltはAppleがパートナーとして発表され、同社のMacBook Proなどに搭載されて世のなかに登場することになった。
最初のThunderboltと第2世代のThunderbolt 2では、Apple以外のPCメーカーの採用例は少なかったが、第3世代のThunderbolt 3でコネクタがUSB Type-Cになると採用が増えていき、現在ではプレミアムセグメント向けのノートPCでは、非搭載のほうがめずらしいという状況になっている。
Thunderboltの進化について、IntelでUSBやThunderboltのマーケティングを長年手がけているIntel クライアントコネクティビティ部 部長 ジェーソン・ジラー氏に話をうかがう機会を得た。その歴史を振り返り、最新規格であるThunderbolt 4について、対応ドッキングステーション(またはドック)のレビューなどを交えながら紹介していきたい。
Thunderboltは光ファイバー前提のLight Peakとして開発。しかし製品化の段階で銅線メインに軌道修正
そもそもThunderboltは、Intelの研究開発機関であるIntel Labsのプロジェクトとしてはじまったものだった。リリース前の開発コードネームは「Light Peak」で、その名前から類推できるように、光ファイバーを利用して高速なI/OをPCなどのデバイスの外に出すというプロジェクトだった。
Light Peakが発表されたのは、2009年の9月23日(米国太平洋時間)に行なわれたIntelのプライベートイベント「Intel Developer Forum 2009」の2日目の基調講演だった。なお、この基調講演のなかで初代Coreプロセッサも発表されている。
「Light Peak」は、この当時に発表されていたUSB 3.0の倍の速度となる10Gbpsを実現する技術として紹介された。このときのLight Peakは、デバイス間に光ファイバーを利用することで安定した高速通信ができる薄型のコネクタの規格として提案された。
ただ、この後しばらく音沙汰がなくなり、先端技術にありがちな発表はされたが実際の製品が出ないといった典型になるかと思われたが、2011年になって唐突に「Thunderbolt」というブランドで発表されることになった。この技術は、デバイスとデバイスをつなぐデータケーブルに光ファイバーではなく、銅線を利用することが明らかにされた。
「あれ、光ファイバーだから安定して10Gbpsで通信できるって話だったのでは……」と当時思ったのだが、今改めてジラー氏に確認してみると次のように答えてくれた。
「たしかにIntel Labsで開発していたときには光ファイバーを前提としていた。しかし、実際に製品化する段階になったときに、そのコストはとても一般消費者に受け入れられるものではないことが明らかになった。技術としても発展性がないし、製造が難しいという課題もあり、光ファイバーだけでなく銅線でも10Gbpsで通信できるように仕様を変更した」という。
結局光ファイバーはオプション的な扱いに追いやられ、銅線のケーブルがメインストリームになった。
ジラー氏によれば、当時の光ファイバーケーブルは、銅線ケーブルの倍以上のコストが必要だったとのこと。Thunderboltの銅線ケーブル自体、USBケーブルと比べても高価であるため、Intelは合理的な判断をしたと言える。
初代Thunderboltのローンチパートナーに選ばれたのはAppleで、搭載されたのはMacBook Proシリーズだった。
2005年のWWDCでAppleがIntel CPUへのシフトを発表して以降、IntelとAppleは蜜月状態にあり、この頃IntelにとってのAppleはプレミアムセグメント向けの製品を出してくれるPCメーカーという意味で重要なポジションを占めていた。
そのため、ハイエンドユーザー向けの技術であるThunderboltのローンチパートナーにAppleが選ばれたのは当然の流れと言える。
余談だが、じつはLight Peakという開発コードネームで技術発表がされた段階では、真っ先に採用を表明したのは、当時のソニー内の一事業部だったVAIOだった(上記のIDF 2009の記事をご覧いただきたい)。
だがIntel自身が主軸を銅線ベースに移したため、光ファイバーの製品は実際にはほとんど採用例がなくなってしまった。それでも、ソニーは2011年8月に販売されることになる「VAIO Z」(VPCZ22シリーズ、いわゆるVAIO Z2)で、光ファイバーのLight Peakを外付けドッキングステーションとの接続に採用している。
おそらく世界でも数少ない光ファイバーのLight Peakの採用例として歴史に残るマシンと言える。ご興味がある方はぜひ以下の記事をお読みいただきたい。
USB Type-Cの採用でThunderboltが加速
2013年になると、第2世代となるThunderbolt 2が発表され、最大転送速度が20Gbpsに引き上げられた。引き続きAppleのMacBook Proシリーズに搭載されるも、ほかでの採用例は少なく、この時期のThunderboltはまだApple専用のイメージが強かった。
それを大きく変えたのは、2015年6月のCOMPUTEX TAIPEIで発表された第3世代の「Thunderbolt 3」だ。
Thunderbolt 3では、最大転送速度がThunderbolt 2の倍となる40Gbpsに引き上げられ、Thunderbolt 1/2とも後方互換性が確保されているなど、大きな注目を集めた。
Thunderbolt 3が登場して以降、Appleはもちろんのこと、Lenovo、HP、Dellといったメーカーのプレミアムセグメント製品でも搭載されるようになった。また、Intelが販売する小型PCのNUCなどや、自作PC向けマザーボードに標準搭載されるなど、採用例がどんどん増えていったのだ。
Thunderbolt 3が大成功を収めたことについてジラー氏は、「広範囲なOEMメーカーに受け入れられた背景には、コネクタをUSB Type-Cにしたことが大きかった。Thunderbolt 1/2ではMini DisplayPortと同じコネクタを採用していたのだが、これはPCメーカーにはあまり好評ではなかった。
新しいUSB Type-Cコネクタは、USB Power Deliveryに対応させることで100Wまでの電力供給できるようになったり、DisplayPort Alternate Modeで画面出力も可能になったりした。そうしたことがスマートだとPCメーカーは歓迎していた」と成功の要因を述べた。
PCメーカーがThunderbolt 3でUSB Type-Cコネクタを採用したことを喜んだのには、いくつかの理由がある。
1つは、Thunderbolt 3として使わない場合でも、USB Type-Cとして利用できるので、Thunderbolt専用のコネクタを設けなくても済むことだ。とくに筐体のスペースが重要になる薄型ノートPCでは、USB Type-Cとしても使えるThunderbolt 3は採用しやすかった。
もう1つの理由は、当時のCoreプロセッサのUSBコントローラが、USB 3.1 Gen 2(今のUSB 3.2 Gen 2、10Gbpsで通信できるUSB 3.xのこと)に対応しておらず、Thunderbolt 3と同時に発表されたコントローラの「Alpine Ridge」は、USB 3.1 Gen 2に対応したコントローラを内蔵しており、USB 3.1 Gen 2の機能を実装するのにもちょうどよいという事情があった。
そうしたことが相まって、Microsoftを除くほぼすべての大手OEMメーカーがThunderbolt 3を搭載したプレミアムセグメント向けのノートPCを発売するに至り、依然としてAppleもThunderbolt 3を搭載したMacBook ProなどのノートPCをリリース、完全に普及期に入った。
Thunderbolt 3はUSB4に。第10世代Coreへの内蔵で実装コストがさらに低下
Thunderboltは2019年に大きな節目を迎えることになった。その理由の1つは、Thunderbolt 3の技術が、USBの規格を策定するUSB Promoter Groupにより、「USB4」の標準仕様として採用されたからだ。
ジラー氏は、「Thunderbolt 3の標準仕様はそのままUSB4の標準仕様として採用されている。したがって、Thunderbolt 3対応はUSB4対応と言っても基本的に間違いではない」とする。
ただ、正確にはThunderbolt 3の機能をいくつか削ったものがUSB4だ。USBを名乗ってそのロゴをつけるためには、USBの規格を策定しているUSB-IFが定めている基準を満たす必要がある。そのため、Thunderbolt 3だからUSB4とは言えないし、すでにThunderbolt 3対応として発売されてきたシステムはUSB4対応とは言えないのだ。
しかし、技術的な観点では、Thunderbolt 3とUSB4は基本的に同じだと考えてよい。このため、今後OEMメーカーが発売するThunderbolt 3対応PCは、USB4の仕様を満たすことが確認されていれば、USB4対応品として名乗れるようになる。
そしてもう1つ大きな節目となったのは、Thunderbolt 3のコントローラが2019年の半ばに発表された10nmプロセスルールで製造される第10世代Coreプロセッサ(開発コードネーム : Ice Lake)で、CPUのダイに統合されたことだ。
IntelはThunderboltのコントローラをそれまでは外付けのチップとして提供してきた。どの世代のプロセスルールで製造しているのかなどは明らかにされていないが、CPUに比べるとやや古い世代のプロセスルールなのは間違いないだろう。
しかし、CPUへの統合は最先端のプロセスルールで製造されるということになり、必要ないときにそのブロックごとCPUがオフにもできるので、消費電力が減るといったわかりやすいメリットがある。
さらに言うと、OEMメーカーにとっては、Thunderbolt 3のPHY(物理層)のチップだけを追加すれば、Thunderbolt 3の機能を実装できるため、別チップでThunderboltが提供されていたときに比べて、実装コストが圧倒的に低くなった。採用のハードルが消費電力と実装コストの観点から大きく下がったのだ。
第11世代Coreに内蔵されたThunderbolt 4は利便性が向上
そして、昨年(2020年)にはThunderbolt 4が発表。9月に登場した第11世代Coreプロセッサ(開発コードネーム : Tiger Lake)において、Thunderbolt 4対応コントローラがCPUに統合されることになった。
Thunderbolt 4とThunderbolt 3は、データ転送速度はどちらも40Gbpsになっており、大きな違いがないように見える。
しかしジラー氏は、「業界からのフィードバックがあって、性能面に関して2つの点で改善を行なっている。1つはPCI Expressの最小データ転送速度で、Thunderbolt 3の倍に相当する32Gbpsに強化された。それに合わせてディスプレイの表示も、Thunderbolt 3では少なくとも1つの4Kディスプレイにとどまっていたが、Thunderbolt 4では少なくとも2つの4Kディスプレイになっている」という。
つまり、従来のThunderbolt 3において、2つの4Kディスプレイが接続できるかどうかはドッキングステーションの仕様に依存していた。Thunderbolt3のドッキングステーションでも4K×2の出力に対応している製品はあったが、Thunderbolt 4のドッキングステーションでは、最低でも2つの4Kディスプレイを接続することが可能になっている(もちろんPC側が2つの外部ディスプレイ出力に対応している必要はある)。
また、従来のThunderbolt 3世代のドッキングステーションでは、PCとの接続に利用するポート以外には、もう1つのThunderbolt 3ポートしか用意されておらず、いわゆるデイジーチェーン接続のみがサポートされていた。
これに対してThunderbolt 4のドッキングステーションでは、最大で4つまでのポートが許可されており、ドッキングステーション側に複数のThunderbolt 4ポートを実装することで、まるでUSB Hubのような使い方が可能になった。
Thunderbolt 4のもう1つの大きな特徴は、新しいユニバーサルケーブルの導入だ。
Thunderbolt 3までは、ケーブルに銅線と光ファイバーがあり、銅線はUSB 3.2 Gen 2ケーブルとして使えるが、光ファイバーはUSB 2.0でしか使えないなどといったケーブルの種類による制限があった。さらに、外観ではそれが銅線なのか光ファイバーなのか区別ができなかったため、混乱が生じていた。
そこで、Thunderbolt 4ではケーブルの種類による制限を取っ払い、すべてのケーブルで同じ機能が使えるようになった。Thunderbolt 4と書いてあるケーブルであれば、USB 3.2、DisplayPort、USB PDを使うことができる。ただ、Thunderbolt 3では光ファイバーに対応したケーブルを選べば、2mを超えて利用できたが、Thunderbolt 4では2mまでという制限がつくことになった。
Thunderbolt 4対応ドッキングステーションが登場。大きな違いHub機能
Thunderbolt 4はすでに第11世代Coreプロセッサに内蔵されていることもあり、対応PCは昨年の後半から市場に登場した。それに合わせてThunderbolt 4に対応したドッキングステーションが各社から発売されている。
たとえば、OWCの「OWC Thunderbolt Dock」もその1つだ。このドッキングステーションは、IntelがThunderbolt 4の発表時に公開したリファレンスデザインとほぼ同じポート構成で、リファレンスベースで開発された製品なのだろう。
Amazonで販売されていた日本向けのパッケージ(OWCTB4DOCK)を購入したが、価格は4万1,800円だった。同じようなサイズのThunderbolt 3ドッキングステーションが3~4万円程度なので、現状はややThunderbolt 3よりも高いという設定になっている。今後より多くのメーカーからドッキングステーションが発売されれば、Thunderbolt 3のものと同じような価格に近づいていくことだろう。
前面にSDカードスロット、USB 2.0、ヘッドフォン端子、そしてPCへ接続するThunderbolt 4ポートを備えている。裏面には周辺機器を接続するためのThunderbolt 4が3つ、Gigabit Ethernet、USB 3.2 Gen 2(10Gbps)のコネクタが3つという構成になっている。
従来のThunderbolt 3ドッキングステーションと比較してみると、やはり大きな違いはThunderbolt 4コネクタが3つあることだろう。これまではUSB Type-Cのディスプレイを接続すると、それ以外のデバイスはUSB Type-Aを使う必要があったが、USB Type-Cで接続したいデバイスをあと2つも接続できるのは便利だ。
Thunderbolt 3世代のドッキングステーションでは、PCを接続するためのThunderboltポートが裏側にあり、ほかのデバイスに接続するためのUSB Type-C/ダウンストリームポートは前面にあるというものが多かった。
筆者が使っていたレノボの「ThinkPad Thunderbolt 3 ドック Gen 2」もそうで、USB Type-C接続のディスプレイに出力する場合、PCのケーブルを後ろに回して、前面にディスプレイケーブルを出す必要があり、スマートではなかった。
しかし、OWC Thunderbolt Dockでは、前面にPCを接続するポートがあり、3つのThunderbolt 4ポートは裏にあるという設計のため、設置したときのケーブルの取り回しはよりスマートになっている。
付属しているのは、Thunderbolt 4で導入されたユニバーサルケーブルで、ケーブルのコネクタ部分にThunderboltのマークと4という数字が書かれており、Thunderbolt 4のユニバーサルケーブルであることがわかる。Thunderbolt 3のときのように、このケーブルはUSB 3.2 Gen 2対応だったっけとか、USB PDの充電には対応していたっけと悩む必要がないのはうれしいところだ。
現在筆者はThunderbolt 4に対応した第11世代Coreプロセッサを搭載した新しいVAIO Zと、このOWC Thunderbolt Dockを接続し、その先に49型/5Kのディスプイをつなげて使っている。
外出するときには、Thunderbolt 4のケーブルを外すだけで持っていくことができるし、自宅に帰ってきたらThunderbolt 4のケーブルをつなぐだけですべてのデバイスを接続できて、すぐにデスクトップPCのように使える。
また、USB PDにも対応しており、ドッキングステーションからPCへは最大90Wの出力が可能。VAIO側のツールで確認すると90WのACアダプタが接続されていると認識されており、本体に標準添付されている65WのACアダプタよりも高速に充電できる。
ThunderboltやUSB Type-Cのドッキングステーションが筆者にとって便利なのは、たとえば机の上で紙に書き込む仕事などをするときには、机の奥などにノートPCごとドッキングステーションを移動させて、そのまま作業ができることだ。
また、Thunderbolt 4のような高速なドッキングステーションを挟むメリットは、高速なデータ転送ができるということにもある。
たとえば、筆者は2.5GbpsのUSBネットワークアダプタを使っているのだが、PCをディスプレイ側とType-Cで直かに接続し、そのHubにネットワークアダプタをぶら下げると、転送速度は半分以下になってしまう。ディスプレイのUSB HubがUSB 3.0にしか対応していないためだと思われる。
これをThunderbolt 4ドッキングステーション経由に変え、ネットワークアダプタをUSB 3.2 Gen 2のコネクタに接続するときちんとスペックどおりの性能が出るので、マルチギガビットのEthernetや高速なSSDなどを常時使うようなら、Thunderbolt 4ドッキングステーションを挟むことにメリットがある。
テレワークで自宅でノートPCを使う人は少なくないと思うが、ドッキングステーションを使うことでディスプレイやキーボード、高速なストレージを一括で接続/切断できるようになり、モバイルPCとして持ち出す場合の手間も減り、生産性も上がるはずだ。
とくにこれから第11世代Coreプロセッサを搭載したノートPCを購入しようと考えているのであれば、同時にThunderbolt 4のドッキングステーションを検討してみるといいだろう。