福田昭のセミコン業界最前線
見えてきた5nm世代以降の次世代配線技術と究極の配線技術
2017年12月15日 12:35
5nm世代以降の次世代配線技術の詳細と、2nm世代以降の究極の配線技術の概要が見えてきた。マイクロプロセッサやグラフィックスプロセッサなどの最先端ロジック半導体が採用する多層配線技術は、現在の主流である銅(Cu)配線から、部分的にコバルト(Co)配線を導入するアーキテクチャへと変わる。
さらに将来は、究極の配線技術とも言える、グラフェンとカーボンナノチューブで構成するオールカーボンの配線アーキテクチャがひかえる。12月4日~6日に米国サンフランシスコで開催された国際学会「IEDM 2017」で、このような配線技術の将来像が浮かび上がってきた。
多層配線技術の基礎知識
最先端ロジックの性能を引き出す多層配線では、電気的特性と熱的特性、そして長期信頼性を実用的な水準に維持しなければならない。電気的特性とはおもに、配線抵抗と配線容量(静電容量)を意味する。いずれも低い、あるいは小さいことが望ましい。
配線抵抗が上昇すると、配線によって信号電圧が低下するほか、信号パルスの立ち上がり時間が伸び、抵抗損によって消費電力が増加するとともに温度が上昇する。配線容量が増加すると、信号パルスの立ち上がり時間が伸びるとともに、隣接配線間のクロストークが増大し、配線による消費電力が増加する。悪いことだらけである。
熱的特性とはおもに、配線の熱コンダクタンス(熱抵抗の逆数)を意味する。配線によって消費する電力と温度上昇の関係を示す特性だ。熱コンダクタンスは高いことが望ましい(言い換えると、熱抵抗は低いことが望ましい)。熱コンダクタンスが低い(熱抵抗が高い)と、同じ消費電力でも温度の上昇幅が大きくなる。するとエレクトロマイグレーション寿命が短くなり、配線不良を引き起こす恐れが出てくる。
長期信頼性とは、配線の寿命のことだ。配線の寿命を決めるのはおもに3つの不良、エレクトロマイグレーション(EM)とストレスマイグレーション(SM)、TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)である。電流密度が高くなる最先端ロジックでは、エレクトロマイグレーション(EM)が配線の寿命を決める要因となりやすい。エレクトロマイグレーションは電流によって配線金属のイオンが動き、配線やビアなどが変形する現象を指す。変形によって抵抗増大や断線、短絡などの不良が発生する。エレクトロマイグレーションは温度が上昇すると活発になる。したがって熱伝導率の低い配線は、あまり好ましくない。
過去に起こったアルミ配線から銅配線への世代交代
最先端ロジックの多層配線技術は過去に、一大変革を経験している。アルミニウム(Al)配線から、銅(Cu)配線への転換である。1990年代後半~2000年代前半のことだ(2000年に“1GHz MPU”を目指す熾烈なレース)。
アルミニウム配線は、アルミニウムが銀(Ag)と銅に次ぐ低い抵抗率を備えること、アルミニウム薄膜の成膜にスパッタリング、配線パターンの加工にエッチングを使うので量産性が高いことなどから、広く普及していた。しかし1990年代には、微細化によってAl配線の配線抵抗値が上昇するとともに、エレクトロマイグレーション寿命が低下するという問題が無視できなくなってきた。
銅(Cu)はアルミニウム(Al)に比べると、材料の抵抗率(比抵抗)が低く、しかも、電流密度の許容値が高い(つまり、エレクトロマイグレーション寿命が長い)。ただし銅(Cu)を半導体チップの多層配線に採用するためには、乗り越えるべき課題がおもに2つあった。1つは、Cuは一般的な成膜技術である化学的気相成長(CVD)やスパッタリングでは配線に十分な厚みの薄膜を作れないこと、もう1つは、Cu薄膜はエッチングによるパターン加工がきわめて難しいことだ。
半導体産業は、この2つの課題をおもに2つの要素技術の開発と組み合わせによって乗り越えた。1つは電気メッキによってCu薄膜を成長させる技術、もう1つはCMP(Chemical Mechanical Polishing)によって余分なCu薄膜を削って平坦化する技術である。IBMが両者を組み合わせた配線プロセス技術「デュアルダマシン(dual damascene)」を1990年代に開発したことで、Cuの多層配線を半導体の量産に導入することができた。
微細化の進行で銅配線にもアルミ配線と同様の危機が訪れる
銅(Cu)配線の採用によって最先端ロジックの多層配線技術が直面する大きな壁はいったん、消え去った。違う。実際には、先送りされた。微細化がさらに進行したことで2010年代前半には、銅(Cu)配線でも、かつてのアルミ配線と同様の問題が無視できなくなってきた。配線抵抗値の上昇と、電流密度の増大(エレクトロマイグレーション寿命の低下)である。
とくに問題となったのが、エレクトロマイグレーション寿命の低下だ。解決策はおもに2通りある。1つは、Cu配線の壁に薄いキャップ層を設けることで、エレクトロマイグレーションに対する耐性を高めるというもの。もう1つは、配線金属そのものを、エレクトロマイグレーション耐性の高い材料に変更するというものである。
前者でキャップ層の候補となる金属元素と、後者で配線の候補となる金属元素は、いずれも同じで、コバルト(Co)とルテニウム(Ru)が有力視されてきた。いずれも銅(Cu)に比べ、電流密度の許容値が高いとされる。
ただし、これらの対策には、トレードオフが存在する。コバルト(Co)とルテニウム(Ru)のいずれも、抵抗率が銅(Cu)よりも高いことだ。じつは、金属元素のなかでもっとも抵抗率が低い材料は銀(Ag)であり、次が銅(Cu)なのだ。なお銀はマイグレーションがきわめて起こりやすいことから、配線材料の候補とはならない。したがってコバルト(Co)とルテニウム(Ru)のいずれかを導入すると、銅配線に比べて配線の抵抗が上昇する恐れが高い。
また熱伝導率でも、銀がもっとも高く、次が銅であるという事実が存在する。コバルトとルテニウムの熱伝導率はあまり高くない。
コバルトのキャップ層とコバルトの配線が当面の解決策
現在のところ、近未来の微細配線ではキャップ層と配線材料のいずれも、コバルト(Co)を採用する可能性が高い。すでに一部の最先端ロジック半導体メーカーは、配線プロセスにコバルトを採用しはじめている。
IBMとGLOBALFOUNDRIES、Samsung Electronicsの共同開発グループは、製造装置大手のApplied Materialsとともに、銅(Cu)配線にコバルト(Co)のキャップ層を組み合わせることで、抵抗上昇を抑制しながらエレクトロマイグレーション寿命を伸ばした多層配線技術を開発している。配線の上層をキャップ層とする構造や、配線の周囲をキャップ層で包んだ構造などで良好な実験結果を得た。2017年のVLSIシンポジウムやIEDMなどで結果を発表済みである。
Intelは、このほど開発した10nm世代の最先端ロジック半導体プロセスで、12層の多層配線技術(バンプ層を除く)のなかで、下層側の第0(ゼロ)層(M0)と第1層(M1)にコバルト(Co)を主材料とする配線を採用した。さらに、第2層(M2)から第5層(M5)の銅(Cu)配線には、コバルト(Co)のキャップ層(Intelは「クラッド層(cladding layer)」と表現)を導入している。2017年12月に開催されたIEDMで公表した(講演番号29.1)。
コバルト配線を採用した第0層の配線ピッチは40nm、第1層の配線ピッチは36nmときわめて狭い。ここまで微細化すると、銅配線でも材料本来の抵抗率ではなく、結晶粒界や界面状態などによる抵抗増大が著しくなる。さらに、窒化チタン(TiN)あるいは窒化タンタル(TaN)といったバリア層(銅イオンの絶縁膜への拡散を防ぐ層)による抵抗増加が厳しい。配線抵抗の増加を抑えるためにはバリア層を薄くしたいが、薄くすると銅イオンの拡散が防げなくなる。
一方、コバルト配線はCVDで成膜できる、エッチングでパターンを加工できる、バリア層を不要にできる(バリア層による抵抗増大がない)といった利点がある。総合的に考えると、同じ寸法のコバルト配線の抵抗値は銅配線に比べ、高いとはかぎらず、むしろ下がっている可能性が少なくない。
多層配線技術の最終兵器、「オールカーボン・インターコネクト」
さらに将来に眼を転じると、いずれはコバルトやルテニウムなどでも限界がくる。来るべき将来に備えて研究が進められているのが多層配線技術の「最終兵器」とも呼べる、オールカーボンのインターコネクト技術である。具体的には、配線を多層グラフェン(MLG)、ビアをカーボンナノチューブ(CNT)で形成する。
グラフェンとカーボンナノチューブはいずれも、カーボン(炭素)の同素体(同じ原子の配列や結合などが違う材料)。グラフェンは、炭素原子が正六角形の格子構造で無限に連なる、モノレイヤー(単層)の平面状物質である。カーボンナノチューブは、グラフェンが円筒状になった立体的な物質で、円筒の直径は1nm未満~数十nmときわめて短い。
グラフェンが半導体の配線材料として注目されるようになったのは、その優れた電気的特性と熱特性に理由がある。理論的には抵抗率がきわめて低く、許容できる電流密度がきわめて高く、熱伝導率が高いからだ。銅(Cu)と比べ、抵抗率(計算値)は3分の2程度、電流密度は100倍~1,000倍、熱伝導率は10倍に達する。きわめて高い品質の配線構造を実現できる可能性があることから、内外で研究開発が活発になっている。
オールカーボンの多層配線構造を試作
そのような状況で、オールカーボンの多層配線構造を初めて試作するという研究成果が登場した。カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)が、オールカーボンの2層配線構造を作製し、その結果を国際学会IEDMで発表した(講演番号14.3)。
2層の配線構造は下から、多層グラフェン(MLG)の第1層配線、カーボンナノチューブ(CNT)のビア、そして第1層配線と平行な方向にMLGの第2層配線、である。
ここで重要なのは、多層グラフェン(MLG)とカーボンナノチューブ(CNT)の接続(コンタクト)部分である。単純に接続しただけでは、コンタクトの抵抗が高くなってしまう。そこでMLGとCNTの間にあらかじめニッケル(Ni)薄膜を挟んでからアニール(電流アニール)することで、ニッケルとカーボンの合金を形成し、コンタクトの抵抗を下げている。
試作したオールカーボンの2層配線構造では、400℃と高温のストレスを与えて電流を流してみた。電流密度は配線部分で25MA/平方cm、コンタクト部分で8.3 MA/平方cm、ビア部分で3.1MA/平方cmとかなり高い。10時間が経過しても、抵抗値の上昇はまったく見られなかった。高い電流密度を許容するという重要な特性は、基本的に確認できている。
ただし抵抗値そのものの特性はまだあまり良くない。とくにビアのCNTの抵抗と、MLGとCNTのコンタクト抵抗が、まだまだ高い。初期の試作であり、改良の余地がある。また時間の余裕も十分にある。「究極の多層配線」が完成するまで、じっくりと待ちたい。