大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Chromebook、GIGAスクールでシェア43%の衝撃!

GIGAスクール構想のOS別シェア

 国内の教育市場において、GoogleのChrome OSが圧倒的なシェアを獲得していることがわかった。MM総研が、2021年2月18日に発表した「GIGAスクール構想実現に向けたICT 環境整備調査」によると、Google Chrome OSが43.8%と首位になり、2位のiPadOSの28.2%、Microsoft Windowsの28.1%を大きく上回った。

 教育分野に限定した調査結果とはいえ、これまでの国内PC市場では例がない市場構成比となった。だが、これを限定市場での出来事であるとか、瞬間風速の事象として見過ごすのは誤りだ。

 MM総研が集計対象とした台数は約750万台。特需に沸き、過去最大となった2019年の国内全出荷台数1,570万台の約半分の規模に匹敵し、しかもこれらのPCは、児童生徒1人1台ずつの整備を進めたGIGAスクール構想によって、すべて2020年に入ってから導入されたものなのだ。国内のPC市場全体の勢力図に大きな影響を及ぼすことになるのは必至といえる。

Windowsが最下位に沈む

 まずは、MM総研の調査結果を見てみよう。

 今回の調査は、2020年11月24日~2021年1月27日に、全国1741のすべての自治体を対象に実施したもので、電話ヒアリングなどを通じて、その87%にあたる1,512自治体からの有効回答を得るという大規模なものとなっている。

 そのうち、GIGAスクール構想で調達あるいは調達中のデバイスの台数を回答した1478自治体の数値を合計すると、新たに導入したデバイスは748万7,402台となった。

 これをOS別にみると、Google Chrome OSが327万8,110台で、シェアは43.8%となった。2位はiPadOSの210万7,935台で28.2%、そして3位は僅差で2位に追いつかず、Microsoft Windowsの210万1,357台となり、シェアは28.1%となった(四捨五入の関係で構成比の割合は100%にならない)。

レノボ・ジャパンのGIGAスクール向けChromebookであるLenovo 500e

 GIGAスクール構想では、Windows PC、Chromebook、iPadのなかから、それぞれに定められた仕様のデバイスが導入の対象となっており、それに準拠したデバイスであれば1台あたり4万5,000円の補助が受けられる。

 Windows PCであれば、OSはWindows 10 Proを搭載、CPUはCeleronおよび同等以上のものであり、2016年8月以降に製品化されたものに限定している。また、ストレージは64GB以上、メモリは4GB以上、画面はタッチパネル対応の9~14型であること(11~13型が望ましい)、無線LANおよびLTE通信に対応すること(本体内蔵または外付けドングルを使用)。形状は着脱型、またはコンバーティブル型の2in1とし、前面カメラおよび背面カメラを搭載。バッテリ駆動時間は8時間以上、重量は1.5kg未満としている。

 Chrome OS搭載デバイスでも、CPUやメモリ、バッテリ駆動時間、重量などの仕様はWindows搭載PCと同じだが、ストレージは32GB以上とハードルが低い。

 また、iPadの場合は、ストレージ32GB以上、画面は10.2~12.9型。利用時に端末を自立させるためのスタンドを端末台数分用意すること(キーボードがスタンドになる場合は別途準備する必要はない)という要件が加わっている。

GIGAスクール構想向けの標準仕様

 各自治体は、この仕様に則っていれば、OSや機種を自由に選択できる。PCメーカー各社もGIGAスクール構想に準拠したPCをラインアップ。4万5,000円以下で調達できるようにしていた。

Chromeはセキュリティや運用管理に高い評価

 調査によると、Google Chrome OSを搭載したChromebookは、人口密度の高い都市部での採用が多い傾向があったという。これに対して、Microsoft Windowsは地方部での採用が多い傾向があり、広く普及しているOSを活用したいという意向が強かったようだ。また、iPadOSは、小学校低学年や特別支援学級、特別支援学校など、キーボードレスでの活用を想定するケースで、採用が多い傾向にある。それぞれの特徴が出たともいえそうだ。

 多くの自治体でChromebookが採用された理由は、MM総研が、2020年10月に実施した調査結果から浮き彫りになる。

GIGAスクール構想における3つのOSに対する評価結果

 小中学生の児童生徒数が1万人以上の全国自治体を対象に、126自治体から得た回答をまとめたこの調査では、21の評価項目のうち、約7割にあたる14項目で、Google Chrome OSがもっとも高い評価を獲得。「Chrome OSは、クラウドを活用した運用管理の負担軽減への貢献などが自治体から高い評価を得た」という結果が出ている。

 具体的には、「セキュリティアップデート」、「運用コストへの配慮」、「データ漏えいリスク対策」、「端末初期設定」、「アカウント管理」などのセキュリティ、運用管理にかかわる項目で、最高の評価を得ている。

 これに対して、Microsoft Windowsは「既存データ資産との連携」、大型ディスプレイやプリンタなどとの「物理的な接続環境への対応」など、4項目で最高の評価を獲得。iPadOSは、「教育アプリケーションとの連携」、「授業中の利用における利便性」、「ユーザービリティとアクセシビリティ」の3項目で最も高い評価を得ている。

 実際、関係者に取材をしてみると、「Chromebookは、クラウドバイデフォルトの管理ツールを採用しており、先生たちの働き方と、児童生徒のセキュリティ、ユーザビテリィの両方を担保でき、教材アプリは、プラットフォームアプリのものが利用できる」といった声や、「シンプルさが特徴であり、情報端末の維持や管理に関する教員の負担を少なくし、教育そのものに専念できる環境を実現しているほか、G Suite for Educationの採用によって、教員が教育アプリを簡単に利用し、それにより、授業づくりに集中できたるといった効果が生まれている」といった声があがる。

 教育現場からは、「Windowsは、急に更新がはじまってしまい、授業中に使えなくなったり、Windowsは起動が遅く、あらかじめ電源を入れておかないと授業がすぐにはじめられないといった不安がある」といった声も聞かれる。

 日本マイクロソフトの吉田仁志社長は、「教育現場では、アップデートやマネージビリティに課題があるとの声があるが、Windows PCの管理性は大幅に改善しており、アップデートのタイミングは制御できるようになっており、起動時間も短くなっている」と反論しながらも、「これまでの悪いイメージが払拭しきれていないという点では、改善の余地がある」とも語る。

Windows陣営による「GIGAスクールパッケージ」の会見の様子

 これに対して、Googleでは、「Chromebookは、セキュリティ、スピード、シンプル、スマート、シェアビリティ(共有)の5つの『S』を備えている」という点を積極的に訴求。Windowsに対する不安をカバーできるデバイスであることを強調したことが功を奏した。

 そして、国内の教育分野に強いNECのほか、国内最大シェアを持つレノボ、世界の教育向けPC市場で多くの実績を持つデルなどが、地元ディーラーを巻き込みながら、全国の教育委員会に対して、Chromebookを積極的に提案したことが見逃せない。

 大規模な自治体では、10万台以上のChromebookが一気に導入された例もあったほどだ。もちろん、Windows陣営も製品ラインアップは揃っていた。むしろ、GIGAスクール構想向け製品の数では、Windows PCの方が多かったともいえる。実際、GIGAスクール構想の予算が2020年1月30日に成立した直後では、GIGAスクール構想対応のChromebookは6社14機種であったのに対して、GIGAスクール構想対応のWindows PCは8社17機種。ラインアップの上では、Windows陣営が優勢だった。

 だが、ラインアップの広さは武器にはならなかった。むしろ、武器になったのは価格戦略だ。

 1台あたり4万5,000円以下という価格設定に対して、Chromebookは競争力を発揮。なかには3万円台で納品するといった例も見られていたほどだ。同じChromebookを提案するメーカー同士が、熾烈な価格競争を繰り広げるという場面も見られたが、これも結果としては、Chromebookの導入を促進することにつながったといえる。

 さらに、GoogleおよびMicrosoftは、GIGAスクール構想向けパッケージとして、それぞれクラウドサービスを無償で提供しているが、ここでもGoogleの躍進が特筆される。

 調査によると、ここでは、Googleの「G Suite for Education」が54.4%と過半数を突破。「Microsoft365」が38.4%となり、「どちらも利用しない」は14.8%となった。

 これは、Windows PC環境であっても、G Suite for Educationを選択している学校が多いことの裏付けでもある。デバイス以上に、Googleの存在感が高いことがわかる。

 Google for Education アジア太平洋地域 マーケティング統括本部長のスチュアート・ミラー氏は、「GIGAスクール構想で受け入れられた理由は4点。安全で、安心であること、管理がしやすいこと、コストが安いこと、多くのツールが最初から提供されている点である。700以上の教育委員会にChromebookが導入された」としたほか、「G Suite for Educationは、クラウド型学習プラットフォームであり、共同作業、協調学習、遠隔授業、校務支援が可能である点が高い評価された」とする。

 振り返れば、GIGAスクール構想がはじまるまでは、Windows PCが、教育市場において、約8割のシェアを獲得していた。だが、その市場規模は、累計で216万9,850台(2019年3月1日時点)であり、児童生徒5.4人に1台という水準にとどまっていた。

 その段階では、圧倒的であったWindows陣営は、長年かけて培ってきた地盤を活かすことができずに、僅差とはいえ、iPadにも抜かれ、最下位となった。

 わずか1年で、圧倒的なポジションが覆された格好であり、GIGAスクール構想という普及フェーズでは、完全に後手に回ってしまった。

教室へのネットワーク整備が一気に進む

 MM総研の調査から、OS別シェア以外の調査結果も見てみよう。

 GIGAスクール構想での調達台数を回答した1,478自治体では、小中学校と特別支援学校の児童生徒と教師用に748万7,402台の端末を調達済み、もしくは調達中であると回答している。これらの同自治体の児童生徒数は800万7,893人に対して、90%以上の端末を調達していることがわかる。ただ、1人1台の整備が基本であることを考えると、これらの自治体だけでも、単純計算で約50万台の追加調達が見込まれることになる。

 一方、GIGAスクール構想では、普通教室のネットワーク環境整備にも予算措置が行なわれている。ここでは、2020年度中に、すべての小学校、中学校、高校、特別支援学校に、1Gbpsの高速大容量の通信ネットワークを完備することが盛り込まれ、普通教室からの無線アクセスできる環境の整備が進められている。

 今回の調査によると、2020 年度に入り、校内無線LAN 環境を整備した自治体は91.2%に達したという。校内無線LANの整備が一気に進んだ格好だ。

GIGAスクール構想におけるネットワーク整備状況
GIGAスクール構想における構内無線LANの整備状況

 ネットワークの整備においては、すべての端末にLTE通信機能を搭載し、携帯電話回線から接続する方法もあったが、毎月の通信費用を自治体が負担することになるため、熊本市や調布市などの一部の自治体を除いて、多くの自治体がLTEの採用を見送っている。

 実際、GIGAスクール構想で調達したデバイスを、校外のインターネットに接続するために新たに通信環境を整備した自治体は70.1%となったが、そのうち、「各学校に光回線などを敷設し、インターネットに直接接続する」が68.9%を占め、「LTE接続を主力とする」とした自治体は1割以下に留まっている。

 また、今回の端末配備に合わせてGoogle、Microsoftが無償で提供しているクラウドサービスのいずれかを利用予定であると回答した自治体は、全体の84.7%に達しているという。

国内PC市場全体への影響はどうなるのか?

 今回のMM総研の調査結果からもわかるように、GIGAスクール構想において、Chrome OSが43.8%という高いシェアを取ったことは、今後の国内PC市場の勢力図にも少なからず影響を与えそうだ。

 理由はいくつかある。

 1つは、中長期視点で見て、教育市場におけるリプレース需要が、数年後に発生するが、そのさいにも、Google Chrome OSが存在感は見逃せないという点だ。今回の調査でも、300万台以上のChromebookが教育市場で利用されることになり、それが数年後には、確実にリプレース需要を迎える。引き続き、Chromebookへ買い替えるという動きは確実にあるだろう。

 2つ目は、2021年4月以降に本格化する高校での生徒1人1台の整備においても、小中学校で高い実績を獲得したChromebookが導入される可能性だ。導入台数の規模は小中学校よりも遥かに少ないが、教育に利用でき、管理が容易であるという実績を作ったChromebookには注目が集まることになりそうだ。

Chromebookの国内出荷台数予測

 3つ目には、小中学校に導入されたChromebookと同じものを、家庭でも使いたいというニーズの顕在化だ。これまでは、量販店市場での存在感が低く、店頭でのChromebookの市場シェアは1桁台前半に留まっている。だが、300万台以上のChromebookが小中学校に導入されたことで、これが足掛かりとなって、家庭でも利用される可能性は高い。この需要をChrome OS陣営がしっかりと掴み取ることができるかが今後の鍵である。

 そして、この動きをきっかけに、テレワークにおける2台目PCとしての需要などにつながれば、さらにChromebookの関心が高まることになるといえる。量販店市場において、どんな影響をもたらすのかが、今後、注目される。

 MM総研では、別の調査で、2019年には、わずか15万台だったChromebookの国内出荷台数が、2020年には157万1,000台と10倍以上の伸びをみせると予測しており、2021年は前年比8割増の281万5,000台の出荷を予測している。

 Google for Education グローバル ディレクターのジョン・ヴァンヴァキティス氏は、「Chromebookは、2四半期連続で、教育分野において世界ナンバーワンシェアを獲得した。この成功において、大きな成果をあげたのは日本市場である。4年前から、日本の市場にコミットし、GIGAスクール構想に対して投資をし、日本の教育関係者の信頼できるパートナーとして仕事ができた。今後も、日本のニーズにあったプログラムを提供していく」とする。

 このように、GIGAスクール構想でのPCの整備によって、Chromebookが、国内PC市場勢力図に、強いくさびを打ったのは明らかだ。

 Googleがこれを「突破口」にできるのか、それとも日本マイクロソフトが「傷口」を埋めることができるのか。両陣営の攻防を巡る次の一手が、重要な意味を持ちそうだ。