大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

10周年を迎えた法人向け「MousePro」ブランドの今と次

 マウスコンピューターの法人向けPCブランド「MousePro」シリーズが、2011年2月の発売から10周年の節目を迎えた。マウスコンピューターのPCに共通した国内生産、国内サポートによる高い品質の実現、ニーズにあわせた細かいカスタマイズができる柔軟性を維持しながら、長期間に渡って同一仕様の製品を調達したいという法人ユーザーを対象に設計。ビジネスユースに対応する堅牢性にもこだわった製品だ。

 法人向けPC市場において着実に存在感を高めてきた「MousePro」のこれまでの10年と、これからの10年について、マウスコンピューターの小松永門社長と、マウスコンピューター法人営業本部の金子覚本部長に話を聞いた。

マウスコンピューターの小松永門社長
同法人営業本部の金子覚本部長

特徴あるさまざまな製品を展開してきたMouseProブランド

 最新技術をいち早く採用することで差別化を図るマウスコンピューターの製品群のなかで、MouseProは、長期間に渡って同一仕様の製品を調達したいという法人ユーザーを対象に企画された製品で、国内生産および国内サポートによる高い品質の実現に加えて、ニーズにあわせて細かいカスタマイズができるように設計。ビジネスユースに対応する堅牢性を実現しているのが特徴だ。

 マウスコンピューター法人営業本部の金子覚本部長は、「当社では、月1回のペースで仕様が見直されるような製品が多いなかで、これらのPCでは、法人が調達する際の見積、稟議・決済・発注まで、1カ月かかるというサイクルに対応しにくいという状況があった。そうした課題を解決する製品であること、テーラーメイドのお店のように、法人ユーザーのニーズに、細かく応えることができるラインアップと、BTOによる対応を用意したのがMousePro。これは、10年前から変わらないMouseProのDNAであり、法人ユーザーから評価されている点である」と自信をみせる。

 2011年2月に発売したMouseProの第1号製品は、スリムタイプの「MPro-iS200」、ミニタワーの「MPro-i」、14型ノートPCの「MPro-NR400」の3機種。とくに、スリムタイプの「MPro-iS200」は、MouseProの方向性を示した象徴的なPCだったといえよう。

 故障の要因になりやすい稼働部品をシンプル化し、光学式ドライブベイを持たない一方、Quadroへの対応や、グラフィックカードをはじめとする各種拡張カードを搭載できるように設計。それでいて、筐体のコンパクト化を実現し、SSD+HDDのデュアルストレージ構成も、いち早く採用した製品だった。法人の利用で求められる省スペース化、拡張性、速い起動といった要素を持ち合わせた製品であり、こうした考え方は、その後のMouseProシリーズにも受け継がれている。

 2012年に発売した「MousePro SV100SBX-RAIS」は、SOHOおよび中小企業を対象にしたコンパクトサーバーであり、スペースが限られるオフィス内に設置して、複数のPCを一元管理するといった用途にも最適化。顧客課題の解決のために、ソリューション提案を行なうという新たな体制づくりにもつながった製品だ。

MouseProのラインナップ(写真は2018年に撮影)

 さらに、MouseProでは、CAD/CGクリエイター向けPCやワークステーション、手のひらサイズのPC、2in1、タブレットなどにもラインアップを拡張。2018年には、教育分野向け11.6型タブレットパソコン「MousePro-P116シリーズ」を発売。「大学や専門学校には、グラフィックスやCADなどの用途で、高性能なモデルの導入が進む一方で、小中学校向けには、堅牢性に配慮したMousePro-P116シリーズなどが人気となった。この成果は、タフネスさを実現したモノづくりにもつながり、2020年8月に発売したGIGAスクール構想向けのMousePro P101が生まれている」(金子本部長)とする。

 一方で、2014年3月からは、導入前の評価用サンプル機材の貸出サービスを開始。2019年11月からは、MouseProを購入したいという個人ユーザーのニーズに対応し、個人購入ができるようにするなど、販売体制も強化している。

 2020年1月に発売した14.0型ノートPCの「MousePro NB4」も、MouseProの10年の歴史のなかで、エポックメイキングな製品に位置づけられるものだ。厚さ16.9mm、重さ1.1kgの薄型軽量化を達成する一方、MIL規格に準拠した堅牢性と約25時間のバッテリー駆動時間を実現。モバイルワークを支援する法人向けモダンPCだ。

「MousePro NB4」

 「MouseProの特徴は、お客様の声を聞き、お客様のニーズに対応するかたちで進化を遂げてきた点。当初は、法人向けPCといえば、一括導入の際には、なるべく導入予算を抑えたいというケースが多く、Celeronなどの下位CPUを搭載したり、メモリの容量を最低限に抑えたりといった要望が多かった。だが、社員の生産性を高めたいといったニーズが広がり、Corei5やi7を搭載したPCなどの需要が増加。BTOによって、構成を変更できるMouseProの特徴を生かせるようになってきた」とする。

コロナ禍でのテレワーク需要にも柔軟に対応

 2020年春以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークが一気に浸透したが、ここでもMouseProは、その特徴を発揮した。

 「業務のオンライン化が進み、経理部門や総務部門の担当者も、オンライン会議を行なったり、Web上での処理が増えたりしたことで、社員のPCはCore i5以上にしたいというニーズも増えてきた。さらに、大学や専門学校でもリモート授業を行ないたいというニーズが増え、大学生のキャンパスPCとして、14.0型ノートPCの採用が進むといった動きも顕在化した。こうしたニーズの変化に対しても、BTOの強さが発揮できている」とする。

 リモートワークのためにPCを購入したいという場合に多いのが、Webカメラの搭載についての問い合わせだという。MouseProでは、従来から、すべてのノートPCにWebカメラを標準搭載しており、追加費用が発生せずに購入することが可能だ。

 金子本部長は、「お客様のニーズをもとに開発してきたMouseProでは、Webカメラの搭載が前提となっていたため、これまで訴求をしてこなかった。だが、リモートワークの浸透に伴い、Webカメラ搭載の有無に関する問い合わせが増加したことで、サイト上では、Webカメラを搭載していることを改めて訴求することにした」と笑う。

 また、リモートワークの増加とともに、ビデオ出力や、有線LANの搭載に関する問い合わせも増えたという。

 「ノートPCの場合には、サブディスプレイに接続して使いたいというニーズが広がっている。また、Wi-Fiよりも通信環境が安定する有線LANを使用したいという人も増えている。こうしたニーズにも対応できる、MouseProならではのラインアップが生かされた」と胸を張る。

 その一方で、在宅勤務が増えたことで、これまで上位にあがっていたバッテリ駆動時間の長さは、それほど重要な条件ではなくなったという変化も見られているという。

 ちなみに、MouseProは、デスクトップPCが7割、ノートPCが3割という販売傾向があったが、リモートワークの浸透に伴い、2020年度はノートPCが7割に急増。こうした急激な需要変化にも対応できる体制を整えている点も見逃せない。

国内生産、国内サポート、国内修理体制

マウスコンピューター飯山工場(2019年撮影)

 MouseProの特徴として見逃せないのが、国内生産、国内サポート、国内修理体制を敷いている点だ。これは、MouseProだけでなく、同社が展開する主力のmouse、ゲーミングPCのG-Tune、クリエイターPCのDAIVのすべてのPCブランドにおいて共通する強みでもある。

 生産については、2008年に長野県飯山市のiiyamaの生産拠点を自社化。PCの生産拠点をここに集約したことで、これまで国内生産による高い品質を追求してきている。現在は、最短で翌日、平均で3~4営業日での出荷体制を構築。さらに、2010年1月には、沖縄コールセンターを自社化して、社員が直接対応する体制へと移行し、24時間365日の受付体制を敷いている。現在は鳥取県米子市のコールセンターも稼働させ、法人顧客のPC購入サポートにも対応し体制をさらに強化している。

 また、埼玉県春日部市の埼玉サービスセンターでは、72時間で修理を完了する体制を敷いており、万が一、業務で使用しているPCが故障した場合にも、迅速に修理対応できるという。

 さらに、MouseProをスタートして以降、法人営業部門では、対面型の提案営業や、ソリューション提案などを推進。こうした地道な取り組みが、MouseProの製品品質や、迅速なサポート、修理の実現、最適な利用提案などにつながっており、法人向けPC市場において、評価を高める要因になっている。

法人市場での認知度の向上には腰を据えて取り組む

 加えて、2012年以降は、販売体制の強化にも乗り出し、販売パートナーとの関係を強化。昨年来、MouseProを在庫したり、自営保守を行ったりする販売パートナーが増加している。こうした動きは、販売パートナーが、MouseProブランドのPCに対して、安心して取り扱いができる製品であるという信頼を寄せていることの証でもあり、10年の蓄積によって、培ってきた成果の1つだといえる。

 同社によると、2020年度の法人営業部全体の年間販売台数は、2012年度比で約4倍になってるという。また、MouseProをはじめとした法人向けPCは、2020年実績で、前年比約30%増の成長を遂げているという。さらに、MouseProを中心とした10年間の法人向けPCビジネスの取り組みによって、同社全体の約4割を占める売上げ規模にまで成長。同社の事業の柱のひとつに位置づけられている。

 マウスコンピューターの小松永門社長は、「MouseProでこだわってきたのは、法人ユーザーに求められるPCはなにかといったことを、直接、お客様の声を聞き、それを製品に反映することを繰り返し続けてきた点。腰を据えて法人市場に取り組むことができた。MouseProというブランドがなければ、こうした取り組みはできなかっただろう」と振り返り、「マウスコンピューターにとって、重要なブランドのひとつに育った」とする。

 だが、小松社長は、「法人がPCを導入するさいに、検討候補の1つにいつも入るブランドにはなっていない。使ったことがある人ならば、『MousePro=安心』のイメージがつきはじめたり、テレビCMの効果で、マウスというブランドは聞いたことがあるといったように、認知度はあがっているが、法人ユーザーがMouseProがすぐに想起する段階には至っていない」とする。

 一度導入した企業が追加導入したり、開発部門に同社の高性能PCを導入していた企業が、一般社員が利用するPCとしてMouseProを導入したりといった動きが顕在化。IT業界の企業がMouseProを導入するなど、「コアなユーザーからの評価が高い」とするものの、「マウスのイメージは、個人向けPCのメーカーであったり、オンラインで展開するブランドという印象が強く、いまだに、法人専用ブランドを持っていることや、対面で営業活動を行う組織があることに驚く人が多い」(金子本部長)とも語る。

 だが、こうした課題に対しては、じっくりと取り組んでいく姿勢だ。小松社長は、「安心して使ってもらえるビジネスPCであることを、使ってもらったユーザーの声や、取り扱ってくれているパートナーの声などを通じて発信し、じわりじわりと浸透させていくしかないと考えている。MouseProを使っていて安心である、自信をもって勧められるという実績を積み上げていくことになる。そのためには、私たちが、期待や信頼を裏切らないことが大切である」とし、「テレビCMは、その下地づくりである。聞いたことも、見たこともないブランドではなく、聞いたことがあるという認知を植えつける役割をCMが果たすことなる」と語る。

 そして、「品質と顧客サポートについては、他社には負けないポジションを狙っていく。社員全員で品質を作り上げ、社員全員でお客様のことを理解したサービスを提供することに力を注ぐ」と語る。地道な努力が、MouseProの価値を高め、安心して利用できるビジネスPCとしての認知を高めていくことになるというわけだ。

10年目の次の1手

 10年目の節目を迎えたMouseProにとって、2021年は、さまざまな動きがある1年になりそうだ。

 製品ラインアップの拡充という点では、人気が高い14.0型ノートPC「MousePro NB4シリーズ」の次世代モデルとして、第11世代Coreを搭載したり、4G LTEに対応したモデルが、2021年中にリリースすることが計画されている。

 また、広がりをみせるテレワーク需要に対しては、サービス/サポートでの強化を進める姿勢をみせる。現在、MouseProでは、デスクトップPCの5年間サポートを提供しているが、専用部品が多いノートPCでも5年保証体制へと拡張することを検討しているほか、オンサイト修理の仕組みを強化したり、パソコンの再セットアップ方法に従来のHDDリカバリー方式に加え、DVD-ROM再セットアップのメニューを追加することも検討している。

 「リモートワークを導入する企業が増えたことで、自宅でPCが壊れると仕事ができなくなったり、修理をするのに手間がかかったりといった問題が発生している。PCが壊れてしまったために、会社に行くことになったということが起きてしまっては本末転倒である。また、幅広いITリテラシーの人たちが在宅勤務でPCを活用することになったことで、より簡易なサポートメニューを用意する必要も出てきた。こうしたサポートの強化は、ますます重要な要素になる」(小松社長)とする。

 また、デジタル庁の発足が予定されているなど、政府、自治体のデジタル化の推進が加速する1年になることにあわせて、そうしたニーズを捉えた製品やサービスの強化にも取り組むという。

 たとえば、すでに用意しているSSD/HDD返却不要サービスでは、通常のオンサイト修理サービスにおいては、不具合があった部品は、交換後返却することになっているが、情報管理の観点から、不具合があった記憶装置を外部に出せない企業や官公庁は、このサービスを活用することで、重要な企業秘密を、ユーザー自身で確実に管理、制御することができるというわけだ。こうした細かいニーズにあわせたサービスもラインアップすることになる。

 一方、GIGAスクール構想に関しては、2021年度からは高校での導入が本格化するが、教育分野向け専用モデルを用意してい、運用管理にも適したMouseProによる提案だけでなく、グラフィック性能が求められる用途などにおいては、mouseブランドのPCやG-Tune、DAIVなども活用していく考えだ。すでに、教育分野においては、G-Tuneの見積依頼が発生するという例も出ている。

 また、小中学校向けには導入がほぼ一巡したものの、学校に導入されているPCと同じPCを家庭でも使いたいというニーズがあることから、GIGAスクール構想向けの「MousePro P101」をベースにした個人向けPC「mouse E10」を、家庭向けに発売するなど、新たな教育ニーズも獲得する考えだ。

mouse E10

 そして、気になるのは、10周年キャンペーンだ。すでに第1弾として、2021年2月8日から、液晶ディスプレイとデスクトップPCを組み合わせた「届いたらすぐ使える」セットなど、ワークスタイルに合わせて選べるお得なモデルを発売。2月15日からは、第2弾として、作業効率とモバイル性を両立したビジネス向けノートPCや、学習教材としてお勧めの2in1デタッチャブルパソコンなどを用意。今後も年間を通じてキャンペーンが行なう予定だ。

 「10周年キャンペーンでは、2021年の1年間を通じて、さまざまな展開を行なっていくので楽しみにしてほしい」(金子本部長)とする。

 新たに、MousePro 10周年を記念したロゴマークも制作しており、力の入ったキャンペーが行われることが想定される。

MouseProの今後の方向性

 では、今後のMouseProはどう進化していくのだろうか。

 小松社長は、「これからの10年も、MouseProの大きな方向性は変わらない。あがってきたニーズをきちっと製品やサービスに反映し、ビジネススタンダードPCとして、企業のさまざまな人に使ってもらいたい」とする。

 また、金子本部長は、「PCの存在は、大工のカンナやトンカチと同じ。プロフェショナルのための道具としての完成度を高めたい。だが、道具の形は、時代やニーズによって変化する。そうした変化を捉えて、より便利なものを届けたい。そして、モノからコト売りに向けた変化も加速したい。MouseProの特徴は、尖った部分はないが、あらゆる項目でバランスが取れた製品であることである。法人のニーズにマッチしたPCを届け続けたい」とする。

 今後も地道ではあるが、法人のためのPCとして、着実に進化を遂げることになりそうだ。

 なお、マウスコンピューターは、SDGsの目標達成に向けて、国際社会の一員として社会課題の解決に貢献することを表明。2020年度においては、17の目標のうち、9つの目標への取り組みに注力するとともに、重点的に取り組む目標も定めている。こうした社会課題に解決に向けた取り組みも、法人向けPCとして選ばれる要素の1つとなりそうだ。

 最後に、PCWatchの読者に向けたメッセージをもらった。

 小松社長は、「MouseProは、法人向けPCではあるが、ユーザーの要望に応えて、個人ユーザーも購入できるようにしています。テレワークをしているPC Watchの読者の方々にも、最適な1台を選ぶ際に、ぜひ、MouseProを加えてください」と語り、金子本部長は、「PCに詳しく、こだわりを持ったPC Watchの読者にも、仕事をする上でもっともバランスが取れたPCとして、まずは一度、MouseProを使ってほしいと思っています。後悔はさせません」と語る。