大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

想定以上に壊れる教育現場のGIGAスクール端末。修理契約せずに故障機が塩漬けのケースも

レノボ・ジャパンが公開した「パソコンのあつかいかた」

 2020年度に実施されたGIGAスクール構想により、小中学校に1人1台環境の端末が整備されてから、3年目に入っているが、ここにきて、導入された端末の故障が問題になり始めている。これまでPCを使ったことがない子供たちが利用するために、PCメーカーが想定していた以上に、過酷な使い方が行なわれていたり、授業中に机の上から落下することが相次いだりといったことが発生しており、故障の多さに修理体制を強化するPCメーカーもあるほどだ。

 自治体や学校でも、修理期間中は予備機を活用して、授業に支障が出ないようにしているケースがあるものの、中には予備機を用意していなかったり、自治体の予算から捻出される修理費用が確保できず、想定外の故障に修理が追いついていなかったりする学校もある。GIGAスクール構想で整備されたデバイスを取り巻く課題を追ってみた。

10台に1台が故障している現場も

 文部科学省が2021年10月に公表した資料によると、小中学校に整備された945万9,698台のデバイスに対して、破損や紛失したPCは、1万9,228台となり、全体の0.2%となっている。ただ、ここで示された故障したPCの台数は、2021年4月~7月までの4カ月間の数字であり、単純計算すれば、年間ではこの3倍の規模になる。

文部科学省が2021年10月に公表した端末の故障状況

 だが、この数字を見た業界関係者の間からは、「故障するデバイスの数は、この水準を遥かに上回っているのが実態だ」と指摘する声がほとんどだ。

 あるPCメーカーの関係者からは、「ビジネスPCでは、コンマ数%の故障率だが、GIGAスクール端末では、10台に1台が故障しているという自治体があるほどだ。故障率が2桁に達するといったことは、これまでに経験がない」と驚く。また、「教員が生徒に使い方をしっかりと教えている学校では故障率が低いが、そうではない学校では一気に故障率が上がっている」との声もあり、学校によって故障率に大きな差があるようだ。

 GIGAスクール構想によって、最も多くのデバイスを導入したレノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータでは、GIGAスクール端末はすべて、群馬県太田市のNECパーソナルコンピュータ群馬事業場で修理を行なっており、そのための修理エリアを「2nd Map」として拡張。修理能力を当初の1.3倍にまで引き上げている。また、GIGAスクール端末向けの保守に関する専用問い合わせ窓口を用意する特別な措置も行なっている。

NECパーソナルコンピュータ群馬事業場ではGIGAスクール端末の修理エリアを1.3倍に拡張した

 だが、あるPCメーカーからは、「GIGAスクール向け端末の修理台数は、当初想定よりも多く、その水準は、とても1.3倍では収まらない」との声もあがる。

 GIGAスクール構想で導入された端末の多くは、米国防総省が定めたMIL規格に準拠しており、一定水準以上の堅牢性や耐久性を維持しているが、それでも多くの端末が故障している点も驚きだ。極端な言い方になるが、米国防総省以上に厳しい環境で利用しているのがGIGAスクール端末ということになる。

故障の8割が机などからの落下による物損

 中でも多いのが、落下による故障である。修理に持ち込まれる端末の約8割が、落下による故障だとするPCメーカーもあるほどだ。

 この落下の理由のほとんどが、授業中に、机から端末を落としてしまうものだという。「授業でPCを使っていない時間には、手前に教科書やノートを置いて学習をするが、学習に夢中になると、教科書やノートが、奥に置いてあるPCを押してしまい、机から落下するといったケースがよくあると聞く」との声があがる。

 机から落下した結果、基板に衝撃を与えてしまったり、液晶パネルが割れてしまったりといったことが起きている。

 また、学校と自宅と間を持ち運ぶ際に、故障させてしまうケースもあるという。「ビジネスユースにありがちな持ち運び時の微妙な振動が繰り返し加わることでの故障というよりも、ランドセルに入れて放り投げているのではないかと思うような故障が散見されている。空っぽのランドセルに入れていたり、持ち運びの際に保護ケースに入れていなかったりといったことが想定されたり、中には通常の使い方ではない故障や、よほど乱暴に扱わないと壊れないのではといった例もある」と、明かす関係者もいる。

 NECパーソナルコンピュータ群馬事業場では、大量の砂がPC本体内に入っていた例があったという。それは、屋外授業で校庭などで使用し、端子の隙間から少し砂が入ったというレベルではなく、想定できないほどの砂が堆積されていたという。このように、ビジネスPCや家庭向けPCの故障の水準を上回るような故障内容の報告が相次いでいる。

 そのほかにも、こんな例がある。机の上に鉛筆やシャープペンシルを置くと、芯の高さと、同じ高さにUSB端子が重なる場合があり、端子口に、鉛筆の芯が偶然入ってしまったことでショートし、発煙してしまったというケースだ。また、USB端子部に、ゴミが入ってしまったため、それを取り除こうとしてシャープペンなどを使ってしまい、同じ状況になった例も報告されている。中には、端子の中に無理やり消しゴムを入れてしまうというケースもあったという。

 さらに、コロナ禍では、除菌用のアルコール消毒液を大量にかけてしまい、その結果、USB端子から液体が流れ込み、ショートさせてしまうという故障のほか、ケーブルを引き抜くときに、コネクタ部ではなく、線を引っ張ってしまうため、本体の端子にも余計な負荷がかかり、故障の原因になることがあるという。

 また、クラムシェル型よりも、デタッチャブル型が、圧倒的に故障が多い。デタッチャブ型では、タブレットとキーボード部分の脱着を行なう構造となっているため、その部分の故障が目立つ。教育現場では、タブレットとしても利用できるデタッチャブル型の方が、使い勝手の面からも人気が高いが、故障が多くなるという点では、PCメーカーや学校現場にとって気になる課題となっている。

 いずれにしろ、「自然故障よりも、物損による故障が圧倒的に多いのが、GIGAスクール端末の特徴である」というのは、PCメーカー各社に共通した声だ。

PCは「たたかない」、「投げない」

 GIGAスクール端末の導入で、最も台数が多いレノボ・ジャパンでは、この状況を重く捉えて、2021年5月から、「パソコンのあつかいかた」という小中学生向けの動画をYouTubeで公開した経緯がある。

 ここでは、「パソコンはたたかない」、「パソコンはふまない」、「パソコンは投げない」、「パソコンを落とさない」、「水をこぼさない」、「コネクタにものを入れない」などの基本的な扱い方について説明。PCを持って移動する際には、「赤ちゃんだっこ」がいいことも示している。

 そのほか、「パソコンのもちかえりかた」や、「パソコンのきほんそうさ」、「パソコンのかくぶのなまえ」といったコンテンツも用意し、これらを授業でPCを使う前に、生徒に見せてもらうなど、教育現場でのPCの故障率の低減につなげる努力を行なっている。

延長保証に加入する自治体が少ない実態も

 故障したPCは、PCメーカーの標準保証や延長保証を利用して修理を行なうという手もあるが、メーカー保証のほとんどは、落下や液体こぼれなど、取り扱いが適正でなかった場合に生じた故障や損傷は、有償修理になっている。つまり、メーカー保証の範囲では、GIGAスクール端末を、無償で修理するできるケースが少ないとも言える。

 一部のPCメーカーや販売店では、物損による故障でも無償修理が行なえる延長保証を、GIGAスクール端末向けに用意した例もあるほどだ。

 ある業界関係者は次のように指摘する。

 「修理費用は自治体の負担となるため、その費用が捻出できず、故障したデバイスをそのままに塩漬けにしている自治体もある。予備機を使ってカバーしている例のほか、中には、前年度に比べて生徒数が減少したことで、なんとかカバーできているといったケースもある」。

 また、予備機を用意していなかったり、PCメーカーの延長保証を契約していなかったり、保険に入っていなかったりといった自治体が多いのも実態だ。予備機の台数などについては、文部科学省が明確なガイドラインを示さなかったため、導入の検討をしなかった自治体も多く、さらに、保守のための予算まで確保できなかったという自治体も少なくない。

 GIGAスクール構想では、1台あたり4万5,000円の端末の整備予算は補助金として確保されたが、予備機の費用や、端末の保守および運用に関わる費用は補助金ではカバーされていない。PCメーカーの基本保証は、無償で1年間はカバーされるが、それ以降もサポートを受けられる延長保証を契約する場合や、故障した場合の修理費用を補償することができる保険に別途加入する際には、自治体が費用を負担することになるため、多くの自治体が契約を見送ったという経緯がある。

 ある関係者によると、PCメーカーが用意している延長保守の契約をしている自治体は、導入した自治体の10%弱、販売店などが提案する保険サービスあわせても2割強に留まるとの見方を示した。

 そうした状況が、端末の故障が増加することによって、一部自治体では、問題が表面化してきたというわけだ。

 また別の関係者によると、液晶と基板が重なって修理が必要になると、修理費用だけで、整備補助金の4万5,000円を超えてしまうケースもあり、それも自治体にとっては頭が痛い問題になっているという。

予備機の追加調達の壁になる本体価格の上昇

 さらに、新たに予備機を確保しようとしても、GIGAスクール構想で整備したときとは状況が変わっている点も課題だとする声がある。

 とくにiPadは、整備時点では、32GBの第8世代モデルが3万4,800円(アップルストア価格)であり、導入に必要とされるキーボードなどを加えて、4万5,000円の補助金の中に収まるような形で提案が行なわれていた。だが、現在も流通している第9世代モデルでは、32GB版が廃止され、64GB版となったことと、2022年の値上げにより、4万9,800円からの価格設定となっており、1.4倍も価格が上昇している。

 また、現行モデルの第10世代では液晶サイズを10.9型に拡大したこともあり、6万8,800円からの価格設定となり、これらにキーボードなどを追加すること、かなりの高額になる。これでは、予備機の確保や追加整備が進めにくいのが実態だ。

 Windows PCでも、部品価格や物流コストの上昇によって、本体価格が上昇しているほか、アプリをインストールして利用する際にはメモリが4GBでは動作が重たいとの認識が広がっており、PCメーカーや販売店でも、できれば8GBを提案したいといった声があがっている。これも予備機の価格上昇につながる。

 このように、自治体や学校の現場では、実際に運用を開始してから、想定していなかった費用がかかっていたり、運用が行き詰ってしまったりという事態が起きている。故障の多発や、予備機の確保にも苦労しているのが実態だ。

 実際、この2年間で、運用フェーズで苦労することを理解した自治体が多く、販売店からも、「2025年度から見込まれているNext GIGAによる端末整備では、予備機、延長保証、保険の提案も検討しなければならないだろう。Next GIGAの予算措置がどこまでカバーされるのかに注視しており、政府や自治体には、端末の整備だけではなく、運用フェーズまでを含めた予算確保に乗り出してくれることを期待している」との声があがる。

 たとえば、予備機の台数は、自治体が独自に設定したり、納入する販売店の提案によって決めたりしているが、これまでの運用実績では、1,000台に対して10台という、1%の水準では足りないとの指摘もある。ある業界関係者は、「30~40人のクラスに対して、1台の予備機があるといいのではないか」と提案する。

 現在、1週間で引き取り修理が完了したり、すぐに代替機を提供したり、本体まるごとを交換するという体制も敷かれているため、これを利用することで、授業に支障がない状況を構築することができそうだ。

 とくにChromebookの場合は、修理部品の確保が十分に行なわれていなかったり、低コストで生産するためにヒンジ部が一体成型となり、その部分が壊れた場合には1台まるごと交換する仕組みになっている場合もある。端末によっては、本体まるごと交換を前提とした仕組みづくりも視野に入れる必要がありそうだ。

運用に最適な契約形態はあるのか?

 実は、取材を進めていて分かってきたのは、GIGAスクール端末の運用が3年目に入ったものの、PCメーカーや販売店、自治体および学校現場ともに、予備機、保証、保険の組み合わせに、最適解が得られていないという点だ。

 たとえば、1,000台のPCを導入した自治体の場合、そこで無償修理を行なえる延長保証契約をした場合、1台あたり1万円程度の保守費用が上乗せになるため、約1,000万円の費用が必要になる。これであれば、どんなに端末が壊れても修理が可能であり、運用には支障がないが、費用はかなり高額になってしまう。しかも、盗難や紛失の際にはサポートされない場合が多い。

 それに対して、導入台数の10%にあたる100台規模の予備機を別途購入すれば、端末を5万円と想定しても、500万円の予算規模となり、保守契約に比べて、予算を半減することができる。しかし、予備機の導入の際に必要なセットアップの手間がかかり、教員の手間が増える可能性があること、自治体や学校で予備機を保管しておく必要があること、修理を行なうことを前提としないため、壊れた端末が増えれば、予備機が足りなくなり、その場合には追加の予算措置が必要になるといった課題もある。また、増え続ける壊れた端末の保管や処分をどうするのかといった課題も生まれる。

 また、保険サービスを利用した場合には、現在では1台あたり6,000円前後で加入できるが、1,000台規模では600万円の費用が必要になること、保険金額の対象が、年々減額して、4年目では50%が上限となること、保険会社とのやり取りなどが発生することで、見積もりが必要など、手続きが煩雑だったり、修理を開始するまでに時間がかかったり、修理費用の支払いスキームが長期化したりといった課題を指摘する声もある。

 「加入している保険を使用して修理する学校や自治体もあるが、保険会社からは、修理する端末の数が想定以上に多すぎて、これまでの保険料では成り立たず、Next GIGAのタイミングでは、保険料を2倍以上に値上げすることを検討しているようだ」との憶測もある。これからは、費用面において、加入のハードルが高くなるといったことが起きそうだ。

PCメーカーが100台以上の予備機を確保して即納

 そうした中で、注目を集めているのが、レノボ・ジャパンが開始している「保守用代替機運用サービス」である。

 最小契約台数は100台からで、レノボ・ジャパンが契約した台数のPCを、群馬事業場などに保管。現場のPCが壊れ、代替機が必要になったら、レノボ・ジャパンが基本設定を行ない、現場に即納する仕組みとなっている。その際に壊れたPCは回収することになる。部品を確保して、修理するのではなく、あらかじめ本体を確保しているため、迅速な提供が可能だ。物損のほか、盗難や紛失した場合にも対応している。

 契約台数は、自治体や学校の導入規模や、これまでの修理率などをもとに提案しており、費用は、Chromebookの場合、1台あたり4万円で、最低台数の100台だと400万円になる。

 だが、昨今のPC価格の上昇に伴い、今後、1台あたりの価格を見直すことを検討する可能性がありそうだ。また、同サービスでは、追加で代替機を増やすことができないため、再度契約する際には100台単位からの新規契約になる。最初の契約段階で故障台数の想定を見誤らないようにする必要があるといえそうだ。

 なお、保守用代替機運用サービスは、2022年夏からスタートしており、これまでに約10自治体と契約しているという。レノボ・ジャパンでは、PC本体を確保する環境を拡張しながら、同サービスの提案を積極化していくことになりそうだ。

Next GIGAは国費で整備する方向へ

 2025年度から本格化するNext GIGAに関しては、2023年6月16日に閣議決定した岸田政権の骨太方針である「経済財政運営と改革の基本方針 2023」において、以下のような文言が盛り込まれた。

 「GIGAスクール構想について、次のフェーズに向けて周辺環境整備を含め、ICTの利活用を日常化させ、人と人の触れ合いの重要性や発達段階、個人情報保護や健康管理等に留意しながら、誰一人取り残されない教育の一層の推進や情報活用能力の育成など学びの変革、校務改善につなげるため、運営支援センターの全国的な設置促進・機能強化等、徹底的な伴走支援の強化により、家庭環境や利活用状況・指導力の格差解消、好事例の創出・展開を本格的に進める」。

 「各地方公共団体による維持・更新に係る持続的な利活用計画の状況を検証しつつ、国策として推進するGIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進める」。

 つまり、自治体などの予算ではなく、国策としての政府予算のもとで、1人1台端末の更新が進められる方向性が示されたともいえる。また、運用フェーズにおける検証も行ない、それを視野に入れた予算措置を検討する可能性も盛り込まれた。

 運用フェーズで多くの苦労を経験した自治体や学校現場の声を、今後、Next GIGAの予算措置にどう反映させるかという点が注目される部分であろう。

 また、2020年度に比べて、端末価格が上昇していることに対して、補助金の上限をどう設定するのか、修理が多いという実態をどう反映するのかといった点も気になる。

 そして、業界側でも、予備機や修理保証、保険の活用において、自治体や学校の状況やニーズにあわせた新たな仕組みづくりや提案が必要だともいえる。

 これまでの経験をもとに、GIGAスクール端末ならではの動きを捉え、官民が連携して、Next GIGAを成功につなげる新たな仕組みづくりを再考すべき時期に入ってきたといえる。